電子限定かきおろし付
ちるちるさんの作家インタビューを拝見して購入。表題作含む3CPのお話が収録されています。
ネタバレ含んでいます。ご注意を。
表題作『旧繁華街袋小路』
主人公は大学生のなずな。
なずな視点でストーリーは展開していきます。
なずなは2年前に姉・せりなを交通事故で亡くしていますが、せりなの恋人だったのが寂れた商店街で小売店を営む松葉。
なずなとせりなは、7つ年が離れているうえ姉と弟という性別も異なる姉弟ですが、顔はびっくりするほど似ている。亡くなったせりなの代わりになずなは松葉と身体の関係を持ち、そしてその代償として金銭を受け取る関係。
と書くと、松葉の事を亡くなった恋人の弟を、恋人の代わりに「買う」クズのような男をイメージしてしまいがちなのだけれど、実際はなずなが行為を迫り、金銭を要求している。
なずながなぜそんなことをしているのか、という所を軸に、せりなが生きていたころの過去の回想も含め、少しずつなずなと松葉の気持ちが見えてくる。
亡くなった兄弟の恋人を好きになってしまう、というストーリーは数多くあれど、このストーリーはなずなが一見蓮っ葉でビッチな風を呈しているので、物語の終着点がどこなのか気になりページを捲る手が止められませんでした。
松葉が、かつてせりなをどれだけ愛していたのか、という所も描き込まれているので、松葉が、いつどうやってなずなを愛するようになったのかという所がキモだと思うのだけれど、そのあたりは詳しく描かれていない。けれど、描かれていないからこそ、松葉の気持ちを読者一人一人が推測する形になっていて、そのストーリー展開の仕方が非常にお上手でした。
松葉にしろ、なずなにしろ、せりなが生きていた時からお互いが特別な存在であったことがうかがえる。たとえそれが恋愛感情ではなかったとしても。
せりなを亡くした二人が、傷をなめ合うように、ぽっかりと空いた穴をふさぐように、寄り添って生きてきたのが読み取れて、とても切ない気持ちになりました。
時に間違いを起こしながら、相手の気持ちを勘違いしながら、それでもともに歩んでいくことを決めた二人にエールを送りたい。
ストーリーとしてはシリアスに分類されると思いますが、その分、最後の描きおろしの二人がとっても甘々で優しい気持ちになれました。
表題作が多くの分量を占めてはいますが、ほかに短編が2つ。
どちらのお話も高校生のお話。
『悪い生徒』
クラスに問題児を一人抱える佐野先生視点のお話。
クラスでタバコを発見した佐野先生が生徒たちを追及したところ、「自分のものだ」と名乗りを上げたのがその問題児・新見くん。
職員室で指導しているところにやってきたのが生徒指導担当の大月先生。
「私に任せてください」という大月先生に任せることにするのだけれど…。
大月先生と、新見くんの関係が、いつ、どうやって始まったのかまったく描かれていない。
なので大月先生に行為を強要されているのか、新見くんが大月先生のことを好きなのかー。
『種田くんと付き合いたい』
校内一カッコよくて、モテモテな種田くん。
そんな種田くんと付き合いたいな、と思っている女子の高木さん視点のお話。
種田くんはイケメンなのに、その種田くんと仲が良いのはさえないビジュアルで常におどおどしている有馬くん。なぜこの二人が仲良しなのか、といぶかしむ女子の皆さんたちですが、ある日具合の悪そうな有馬くんを高木さんが保健室に連れていき…。
さわやかでイケメンな種田くんの内面に秘めたブラックさと、秘密を知ってしまった高木さんの心情が、端的に描かれています。
『悪い生徒』然り『種田くんと付き合いたい』然り、超短編なんです。すごく短い話なのに、そこにぎゅぎゅっと詰め込まれたブラックさと彼らの恋心がめちゃめちゃ読み取れる。
主要CPの、どちらかの視点ではなく、巻き込まれる形で二人の関係を知ってしまう佐野先生や高木さんの存在が素晴らしかった。あくまで彼らは「傍観者」という立場なのですが二人の関係がはっきり描かれていないために、読者も「傍観者」と同じ立場に立ち、二人の関係を推測する形になっていて、なかなか味わい深かった。
甘々で優しいストーリーを読みたいときにはもしかしたら不向きな作品かもしれませんが、個人的にはとってもツボな作品でした。実はためこうさんて、なんとなくシリアスな作風を描かれる作家さんかなと思って手に取ったことがなかったのですが、ためこうさんの違う作品も読んでみたいと思います。
表紙とあらすじに惹かれて購入しました。
個人的には大当たりです。
ためこうさんの作品だと「なつめくんはなんでもしってる」が非常に好きなのですが、他の方のレビューを見て納得。
ためこう作品に関しては軽めのノリが好みなのかもしれません。
今作も、内容こそ重いですがテンポ良く読むことができました。
3話のラスト2ページが一際好きです。
可愛いやら切ないやら……ともあれ意思の強い美少年最高!!
姉のせりなも多く描かれているんですがすごくいい子で……亡くなってしまったのが本当に悔やまれたので、そういった間接的な描写からもなずなたちの寂しさが伝わってきたように思います。
また濡れ場は修正こそがっつりめなものの、アングルや表情が眼福でエロ度高いなと思いました。
ためこう先生の描く大きな煌めく瞳がすごく活かされた作品でした。改めて先生のタッチが好きだなぁと思いましたね。表題作は展開が展開なので、かなり読む人を選ぶかと思います。正直評価は二分される類の作品です。しかし、私にはストーリー性と萌えをしっかり詰め込んだ作品に感じられました。姉せりなが交通事故で亡くなってから、彼女の恋人である松葉に抱かれるようになるなずな。その動機は、亡くなる間際に彼女から「松葉に忘れられたくない」と最後の望みを聞かされ、姉と瓜二つの顔を利用してその望みを叶えようとしたから。というのは建前で、姉の生前に3人で仲良くしていた時から既に好意の芽はなずなの中に生まれていたんじゃないかと思います。姉から奪うつもりなんて微塵もなかったし、ましてや姉の死を喜ぶ気持ちも1ミリもないけれど、大好きな姉が亡くなった寂しさと松葉への好意が合わさって、こんなに切羽詰まった行動に出たのかなと。
対して松葉はせりなのことを心底愛していたけれど、その大事な弟がただごとではない様子で迫ってきて、とてもじゃないけど突き離せなかったというように見えました。なずなは気付いてないでしょうがきっと松葉にとっては、せりなの生前から徐々になずなが「せりなの弟」という認識を超えて、1人の人間として映るようになっていたんじゃないでしょうか。もちろんそこに恋愛的意味の好意はなかったけれど、せりなの死ときちんと向き合ったのちに新たに恋をするには、十分な条件が揃っていたのかなと思います。けっしてせりなの死のおかげで付き合えたというのではなく、展開は早いかもしれませんが、私は彼女の死を受け入れた、あるいは受け入れようとした上での2人の新しい一歩なんだという解釈をしました。クールなようで繊細ななずなと、落ち着いていて男前な性格の松葉、弟のことが大好きなせりな、3人ともとても魅力的なキャラでした。
同時収録作は表題作ほど重々しくありませんが、短編であってもどちらもすごく印象的な作品でした。『悪い生徒』は、目立たない地味な存在だった生徒が財布を盗んだという濡れ衣を着せられ先生に指導された時から、すっかり先生にお仕置きされるのにハマってしまう話です。そこから指導されたいがために非行に走り始め、ついには別の先生にその関係を示唆します。元々控えめだった少年が作り変えられたところに萌えました。『種田くんと付き合いたい』も系統は同じです。優しくて女子の憧れである種田は、裏ではクラスメイトの有馬を性的に虐めるような人物(互いに好意はありそうです)。女子を当て馬に使いながら、2人の関係が明らかになるところが堪りませんでした。
個人的に性癖にぶっ刺さりました。
・綺麗な顔をした生意気な少年
・死んだ人を引きずる
この2点が個人的に癖なのですが、同じ感覚を持っている人なら楽しめると思います。試し読みでなずなくん(受)に「生意気で可愛い〜!」と思ったら買ってください。マジで可愛いから。生意気だけどめちゃくちゃ健気なのも最高に可愛い。一応、死んだ人はちょっと引きずってはいたけど、そこまで暗くはならないです。
死んだ恋人の弟と肉体関係を持ってしまうという背徳感溢れる設定ですが、終始愛に溢れててあったかくなれました。切なさと温かさで超気持ちいい読了感。濡れ場のエロ度はそこそこくらいですが、なずなくんの顔と反応が良くてしっかり楽しめました。
同時収録の短編は、どちらもちょっと薄暗くて良い雰囲気。SMっぽいもの(あくまで「ぽい」)が好きな人は楽しめるのでは。私はめちゃくちゃ好きでした。
姉の死、その後続く姉の交際相手との体の関係、というとかなり重い内容になりそうなものですが、良くも悪くも、さほど暗さ、重さは感じませんでした。
受けが超絶可愛いからか、攻めがしっかり者だからか、姉がサバサバ系良い女だからか、下町人情っぽい空気感あるからかな?
ためこうさんの描く受けの可愛さったらないですね!今回も可愛い…超絶可愛い。ちょっとツンなところが最高。不器用な優しさとか反則。
攻めの性豪スペックは良いスパイス!
既刊でいうと「なつめくんは〜」のようなノリの良さはなく、「泥中の蓮」のような重く病んでるのを欲してる人には物足りないかもしれませんが、絶妙にちょうど良い切なさと温かさがある素敵なお話でした。