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表題作彼は優しい雨

久富周一郎,39歳,雨男の大学講師
峯浦文彦,29歳,若手デザイナー

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

自分の目的のために恋愛を犠牲にしてきた二人の男が、過去を乗り越え再び恋に堕ちる――ロマンティックLOVEストーリー♡

作品情報

作品名
彼は優しい雨
著者
水原とほる 
イラスト
小山田あみ 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
ISBN
9784199009525
3.8

(65)

(26)

萌々

(20)

(9)

中立

(5)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
11
得点
242
評価数
65
平均
3.8 / 5
神率
40%

レビュー投稿数11

2人の仕事関係の描写がしっかりしている

水原とほる先生作品は初読でした。
1冊丸ごと表題作となっていますが、前半は2人が交際に至るまで、後半は受けが過去に付き合っていた男性が出てきて一悶着、と大雑把に分けることができます。

前半部分で受けが過去の恋愛でいろいろあったことを匂わせます(後半で詳細がわかります)。
そのこともあって受けは今回の恋愛はゆっくり進めようと思っているのですが、我慢できずに攻めを誘うような素振りを見せた場面に性急さを感じてしまい、やや拍子抜けしてしまいました。
我慢できないにしても、その我慢できない気持ちに至るまでの描写がちょっと足りないような……?
全編受け視点で進むので攻めの気持ちが分かりにくいところもあり、それに対して攻めも割とあっさり受け入れていたのでその場面に物足りなさを感じてしまいました。

上述の場面にはうーんとなりましたが、後半の受けの元彼に対する攻めの対応は素敵だと思いました。
大学講師×デザイナーのカップリングですが、攻め受けともに仕事の描写がそれなりにある印象で、恋愛要素以外の描かれ方が丁寧だと思います。

0

大人の恋

社会人になって失いたくない恋に出会う事はそう簡単にあることではないと思う
歳を重ねた分恋に失敗したこともあるし、人生に絶望する様な若さも無くなっているけど満たされているわけでもないし、何より恋に生きる情熱で生きていける時代は遠くなっている
仕事は自分を表現する術なんて大袈裟なことではないけど
自分の全てとも言える
生きていく上で拘りすぎてるわけではないけど
拘りもある
若い頃の恋の様に全てをひっくり返すような熱量があるわけじゃないけど
失いたくないと思うしっかりとした想いに出会ったなら…
何か特別なことが起きるわけではありません
でもゆっくりと育つ愛が
二人の間に降る雨がしっとり二人を満たしていく様な
まるで降り注ぐ雨が硬い土の深く眠っていた種に染み渡り
双葉が開く瞬間は劇的な様に発熱することがあっても
樹木の様にゆっくり育っていく様な恋
時に突風が吹き揺れる時はあるけれど根はしっかりと這っている
そんな大人の恋のお話です
時にこんなお話を読むと満たされます

3

恋愛を犠牲にしてきた二人

出たばかりの新刊を冒険するより、
姐さんがたが推す作品を読んだほうが、安心と満足を得られると思った一冊。

イラストも素敵、物語は、初期の水原とほるさんの作品と違って、痛くない。
猫気質の文彦視点で物語は進捗。
登場人物それぞれが必死で、悪人が居ない。あるのはすれ違いだけ。孝也が少し気の毒。

◎峯浦文彦(アヤヒコ): 母似の中性的な容貌。美大卒、商業デザイナー。
ランチを大学の学生食堂で取るついでに講義を聴講。次第に久富に惹かれていく。
久富曰く、ディカプリオに似たベビーフェイス。※小山田あみ先生のイラストも多分意識している。

◎久富周一郎 :東欧文学研究家。大学講師。「ヤーン・タタールク」を講義する。
黒いハイネックセーターにツイードの上着。黒縁眼鏡。祖父の形見の懐中時計。雨男。

◎江田島孝也 :文彦の元彼。真面目な性格のITエンジニア。孝也は、文彦を好きすぎて変わってしまう。嫉妬と独占欲が過ぎて、文彦が離れる。
孝也は未練があり復縁を希望。久富に諭され、文彦を許容できない自分の器量に気付いて身を引く。


▶東欧作家「ヤーン・タタールク」は、・・居そうで居ない、架空の人物。
「明日を待つ鴉たち」←実在するような描写に笑ってしまう。
似た地名はある。「タタールスタン共和国」 首都がカザン 「モンゴル・タタール(Татар)人」は「トルコ系の顔」と「アジア系の顔」美男美女が多い。政治と戦乱に挟まれてきた民族。宗教はイスラム教

▶作流の映画は『太陽と月に背いて』
フランスの詩人「アルチュール・ランボー」とその愛人・詩人の「ポール・ヴェルレーヌ」との、数年間の愛憎を描いた作品。文彦と孝也の関係と似ている。
ランボーを演じたのは、レオナルド・デカプリオ

3

しっとりした大人ならではの恋

全編通してしっとりとした雰囲気が漂っていて、良かったです。
東欧文学をきっかけに知り合った二人が、少しずつ少しずつ距離を縮めていく様子が丁寧に描かれていました。

いいなと思ったのは、まったく知らなかったものに出会って興味を惹かれたことにより、自分の世界がさらに広がるといったものが描かれていたところ。

受けはデザイナーで、雨に降られて時間つぶしのために大学の東欧文学の講義に潜り込むんですね。
そこで耳にしたのはヤーン・タタールクという東欧の作家。
妙に惹かれるものがあり……というところからお話が始まります。

講師である攻めの講義はなかなか興味深いのに、学生たちは攻めのことを「ヤーン・タタールク馬鹿」と冷笑して誰一人まともに聞いていない。
受けはそれを歯痒く思うのだけど、自分だって20歳の頃なら東欧文学なんて興味を持てずに内職に励んだろうなと一方では思っているんです。

この二人は10年前に出会ったとしても、絶対にすれ違いで終わってしまったと思うんですよね。
だけど経験を経て大人になったからこそアンテナが働き、攻めが語る内容に反応できた。
ここに巡り会いの妙を感じました。

東欧文学なんて知りもしなかった受けがひょんなことから知って、どんどんどんどん詳しくなっていくというところも、BLを読んでる自分と重なりました。

10年前の自分に「10年後はBLを読んでる」と吹き込んだとしても信じなかったと思うんですよね。
BLってなに?って感じだったので。
だけど、ひょんなきっかけで手に取ってこんなに読むようになる…

そして攻めは若い時に野心が消え失せて以来、長いあいだ不遇な立場に甘んじていた人なんですね。
それが受けと出会ったことで過去のあれこれが昇華できて、前に進む勇気を得る。
そこが雨男を自認している攻めの「雨」に絡めて、きちんと描かれていたところも良かったです。

3

互いを引き出すベストな着地点としての恋愛関係

アラサー美青年デザイナーと、アラフォー文系大学講師。
人生のターニングポイントを既にいくつか超えてきた、そんな彼らが出会った先。

平均してストーリーは地味かもしれません。切なさや興奮の成分は非常に控えめです。
はっきり言ってしまうと恋愛至上主義ではない。しかしその分登場人物の心の動きをじっくり描いた魅力的な作品でした。

全編受目線で進みます。文体・言い回しはやや硬く一文が長めです。
硬い文章の割には受キャラの実際の行動やセリフがラフなので、読んでいて多少癖を感じます。が、慣れればこの雰囲気も含めて楽しめるかと思います。

話の展開にわくわくする、というよりも読み進める程に彼ら自身のことを知っていく面白さがあります。
「若手デザイナー」と「大学講師」。あらすじや表紙だけからはさっぱり人となりがわかりません。
それがページをめくるほどに、彼らがどんな嗜好を持ち、過去にどういった経験をして、今どう生きて何を目指しているのか、生き様が徐々にクリアになってくる。
30年、40年近く生きてきた男性としてキチンと描かれ、薄っぺらさはありません。
アラサー、アラフォーの伊達に人生経験積んでません感と、それでも人生や恋愛はままならないという部分がいいバランスで描かれていると思います。
立体感を持った彼らがドキドキ、わくわくする瞬間が語られるところにいつの間にかぐぐっと引き込まれます。

人生経験を積んで、ある程度固定してしまった価値観がある。
だけど出会いによってそれぞれの世界が交わり広がっていく瞬間が確かにある。
お互いがお互いを引き出していく関係性が生まれ、育っていく過程がこの本の見所です。

そこに至るには実際には色々な関係性があるけれど、男性同士の恋愛関係を二人のベストな着地点として描いてくれているところがやはりBL小説であり、読んでいて心地良いですね。
急がず焦らず一定のペースで読んでほしい。

彼らを中心に広がる、デザイン、東欧文学と社会主義、大学や図書館の雰囲気、お気に入りのコーヒーショップなど些細なことも「そうなんだ」と好奇心を刺激され楽しめます。
特にヤーン・タタールクは実在してもしなくても印象が強すぎて頭から離れなくなりますので要注意。もはや3人目の主役です。

二人が付き合うまでの前半と付き合ってからの後半は物語の雰囲気が若干変わります。
前半は攻の情報が少ない分謎が多く、静かに心躍らせる誘い受けの姿の可愛かったり、いじらしかったり、ちょっとカッコつけているところが楽しい雰囲気です。
受が一生懸命アプローチして進んでいくのですが、目的のためにはあまり躊躇しないところが男らしくて素敵です。やがて攻が男同士の葛藤無くすんなり恋に落ちる過程は、即物的な感じもしましたが、それはそれで良いかなと。
それが後半からは攻と受の過去・現在・未来を考える人生観が詰まったエピソード中心に展開して行きます。さらに色っぽさや艶やかさ、切なさ成分は少なくなりますが、受も攻も雰囲気が柔らかく変わっていくので不思議と明るく穏やかです。

堅実で地味な世界観ですが、そこにひとさじ加わるファンタジーが雨。
お決まりのように振り出す雨はいかにも感がありながら、とてもロマンティックです。

出会いで動かされる心、そして行動、過去を持つ二人の心が通って一緒に見る未来。
地味だけどすっごいロマンティックじゃないですかね。
全体的な雰囲気も雨と相まってお洒落風です。
雨の季節にもおすすめなしっとり穏やかな1冊です。

5

出会う時期って大事だよね

大人の恋の物語は大好物です。
久富に惹かれて行く文彦の気持ちが良く分かりました。
最初に他の方のレビューを読んでしまったので、地雷だったらどうしようと思いましたが、そんな事はありませんでした。
文彦を好きになれない方もいるようですが、人を好きになるきっかけなんてそんなものだと思います。
久富も最初から何か文彦に惹かれるところがあったと思います。思わせぶりな台詞が多かったです。
久富の家を初めて訪れて文彦から誘うシーンはドキドキしました。
また文彦の元彼を理路整然と言い負かす久富は素敵です。
人前で仮にも好きな相手を貶める人なんかを好きになるわけないです。
心配されてる方もいるようですが、何年経っても変わらずに2人は付き合っていると思います。

8

誘い受けより攻めのポテンシャルの方が恐ろしいかも笑

作家様とイラストレーター様の両ファンにしてこの美しい表紙。発売当初すぐに予約いたしました。

大学講師と商業デザイナーの、アダルトなラブストーリー。

職場近くにある大学の学食でランチをとっていたデザイナーの文彦。雨宿りがわりに潜り込んだ教室で、講師の久富が語る東欧の作家に興味を持った文彦は、何度か潜りで聴講していくうちに久富と顔見知りになります。

バイセクシュアルの文彦は、思春期の頃から誰も気に留めないような地味で野暮ったいタイプに惹かれやすい。久富も例外ではなかったようで、彼の研究対象をダシに?それとなくグイグイと距離を詰めていきます。

久富の方も文彦に対し、君は映画でランボーを演じた役者に似ているね、ランボーも好きなんだよ…と思わせぶりな素振りで惑わせる始末。(ちなみに俳優がすぐにわかった方、お仲間です〜♡)

やがて文彦の思いは恋に転じ、久富が専門とするヤーン・タタールクについて二人が語り合っていくうちに、互いの仕事に深く影響を与えるまでの関係になっていきます。

終盤は文彦の元恋人に恋路を邪魔されながらも、久富から文彦に揺るぎのない愛の言葉を贈られて、二人は幸せに結ばれていくというお話。

じっくりと読み終えた後は、お話のその後が妙に気になりました。久富はこのまま文彦を大事にし続けるだろうけど、文彦は怪しいよなぁ…とか。

思いがけず萌えたのは、久富が文彦に求められて自らも欲情した時、同性同士ということを全く意識していないように見えたことです。文彦が可愛くて、そそられて、抱き合うことになんのためらいも抵抗もない。あまりにも自然な衝動なのに、好奇心を煽られている。その反応は久富が大人だから?それとも作者の意図的な演出?いずれにしても、久富は文彦とのセックスが本能的な行為であることを暗に認めている証拠に変わりはありません。男の欲望は意外にも直情的でした。

雨男設定がもたらす効果の他はドラマティックさに欠けるかもしれませんが、偶然の出会いが織りなす「大人の好奇心に潜むエロス」をしっかりと堪能させてもらいました。今度はどんなお話を読ませてもらえるのかな?と楽しみにしています。もちろん、突然変なスイッチが入っちゃっても、話があらぬ方向に転がっても、美味しくいただく予定です!

5

大学講師×若手デザイナー

絶妙な距離の縮め方が本当に好み。身体から始まる関係、とか今は珍しくないけれど…こうして接点のなかった2人があるきっかけで徐々に距離を縮めていくのを丁寧に描写してくれて恋をしていくところを読むのが好きなので買って良かったと心から思った瞬間。
雨男というのを情緒的に盛り込んであったのと大好きな大学の先生が、攻めなのも私の中で萌えポイントだった。

気紛れによるひょんな出会いから会うようになり、個人的にもっと話してみたい欲からお昼を一緒に食べる仲に。それから休日で会って一緒に過ごしてご飯をするようになり自宅にも行く関係に…
このもどかしいくらいの2人の逢瀬が、恋じゃなかった心がソレに気付くまでゆっくり過程が進められていて読んでいる私の心が弾むのが分かった。

『いつだって人の注目が集まっていないところで自分の琴線に触れるものを見つけるのが好きなのだ。〜恋をするときも同じだ。〜自分から好きになる時はいつだって他の人が気がついていないその人の魅力を見つけて溺れていく。』という文に心をわしづかまれた!!
そう!そうなのだ!誰も気付いていない良いところを見つけて自分しかそれを知らないってたまらない気持ちになるし、自分だけの宝物を見つけた気になるの!!
それをこの物語では受けが攻めに感じる魅力として細かに書いてくれていて擽ったい気持ちになると共に共感してしまった。
そして某アメリカの俳優に似ているという受けの手練手管というか、魔性なまでの誘い方に脱帽してしまう…
私もそのテクニック使いたい(笑)
攻めもベッドでは情熱的に愛してくれるし、男性体に触れる躊躇いもないのが嬉しい。

一見受けに押されて付き合っているのか?と思う攻めが受けの元彼に会った時に理路整然と言い返す姿がかっこいい。受けを守るという強い気持ちと愛情も伝わり受けとともに惚れ直してしまった。
彼らが夏休みを利用して東欧に旅行に行く幸せな姿をどこかで見れたらいいのに…これからの幸せを想像することができる恋人たちに大満足。

不遇を全てさらっていくようなラストの一文も良かった。

大好きな小山田あみ先生の絵も作品に華を添えていて素敵。私が本作を手に取った理由の大部分を占めいる表紙はタイトルに相応しくしっとりしていて綺麗。

8

雨のち晴れ

そういえば、水原先生の本ってあんまり読んでないなあと思いつつ、カバーイラストの優しい雰囲気に惹かれて購入。
雨の中でずっと佇んでいた人を、外へ連れ出すお話。かな?
デザイナーの文彦は、雨宿りのつもりでふと紛れ込んだ大学の教室で、東欧文学の講義と、その講師に興味を持ちます。
文彦はデザイナーという職業柄もあって、何か心惹かれる物に対して常にアンテナを高くてていようしていて、そんなアンテナにて引っかかったのが、マイナーな東欧文学と、その研究を続けている講師の久富の隠れた魅力で、はじめは偶然、次には意図して、久富と言葉を交わすうちに、久富自身に徐々に惹かれていくのですが、、、。

文彦の前向きさとか、久富の公平さとか、あと、お仕事物としてはいいんですが、
文彦が久富との関係を大事にしようと思う所も、久富が案外抵抗なく初めての同性同士の恋愛やセックスを受け入れるところも好ましいのですが、
どうも、この二人、セックスシーンになるとなんだか微妙に萌えられなくて、
大人な二人が、ゆっくり育む甘い恋で、ハッピーエンドなのは間違いないので、とりあえず萌で。

7

萌えよりも叙情

ここのところ増えている水原さんの穏やかバージョン。
今回は、攻め・久富が東欧文学を専門とする大学講師という事で、”東欧近代史の社会主義を伺えるプロパガンダとかイデオロギー”云々…(-_-;)…
やらの薀蓄が見え隠れしているが、それらに詳しくなくとも読める。

水原さんの作品は作中で攻め受けの半生を振り返るって経緯が織り込まれているのが多いのだが、ここまで叙情的?ってのになってくると何だか”コレじゃない”感が強い。
BLのシチュエーション萌えとかときめきってのには程遠い。

文彦は主に商業デザインを手掛けているデザイナーだ。
デザイン事務所の近くにある大学構内へランチを食べた帰りに、にわか雨が降ってきた時間潰しで久富の講義を覗いたのがきっかけから東欧文学や彼自身に興味を持つようになる。
久富は他の嗜好や流行に関心の薄い男だが、文彦がやや積極的に動く形で二人の距離は縮まっていく。

文彦はいざラブシーンとなると案外初心な男だったが、それよりもノンケなはずの久富が文彦にのめり込んでいく感覚ってのを感じ辛かった。
もしかして久富は恋愛によって変わろうとする気はないのだろうか?と危惧した程だ。

でもまぁ、彼の元に舞い込んだ転機に前向きになったのは良かった、のだろうね…
文彦の元彼まで登場したのは正直蛇足に感じたが、逆に久富がやり込めるシーンが小気味よかったので、まぁ結果オーライかな。

しかし、肝心の『久富が何か変わった行動を取ると雨が降ってくる』ってジンクスについては印象が薄くなってしまった。
久富が雨に祟られる=行動に変化がある、雨に降られなくなる=その変化がいつしか馴染んでいく、ってエピソードが上手く活きていなかった気がする。

9

男を破滅させてく悪女系ですかね(´・ω・`)

通り雨をキッカケに知り合った大人の二人が、静かにゆっくりと恋を育んで行くと言う、しっとり優しいお話でした。

こういうお話はとてもツボなのです。
ただ、完全に個人的な好みの問題なんですけど、なんか受けが理解不能と言うか、「無垢な悪女」を連想させてイラッと来ると言うか。
えーと、自分と関わる男を無意識に惑わして、破滅させる系と言うんでしょうか。
読んでいて、いまいち彼の思考が理解出来ないと言うか、共感しづらいと言うか。
でも、攻めのキャラやストーリー自体はとても好みなんですよね。
評価が難しすぎる・・・。


内容ですが、穏やかな大学講師・久富×若手デザイナー・文彦による、しっとり読ませる大人の恋愛です。

若手デザイナーの文彦。
通り雨に降られて、雨宿りの暇潰しで受けた東欧文学の講義。
淡々としているのに、東欧文学への静かな情熱を感じさせる講師・久富に好奇心を抱きます。
何度も大学に足を運ぶうち、熱心な文彦の存在を久富も認識し、少しずつ距離を縮めて行く二人ー。
しかし、文彦の元彼があらわれて・・・と言うものです。

久富ですが、自称雨男になります。
彼が何か新しい事を始めようとすると、いつも雨が降ってしまうと言う設定なんですね。
この設定が巧みに使われていて、二人が図書館で偶然出会うシーンや、一緒に食事をするシーン、そして初めて身体を重ねた日ー。
いつも雨が降るのですが、それが文彦の心情と絶妙にリンクされていて、とても印象的に仕上がっています。
えーと、しとしと降る優しい雨に、激しく心を震わせる雨。
そして、冷たく切ない雨ー。
と言った具合で。

あと、こちら、39才×29才の恋愛になります。
今は穏やかで野心とは無縁に思える久富。
そんな彼の、若さ故にコントロールが利かなかった手痛い過去。
辛い経験や挫折を味わい、静かに現状を受け入れると共に、どこか諦めているんですよね。
そんな今の久富だからこそ、ゆっくりと穏やかに進んで行く恋。
これ、二人が出会ったのが10年前なら、結果は全然違うだろうなぁと思わせる所が上手いなぁと。
丁寧に綴られる、心に傷を抱える二人の穏やかな心の交流が素敵だなぁと。

と、攻めのキャラだったり、しっとり穏やかな恋愛模様は素敵なのです。
これ、まさに優しくてほろ苦い大人の恋愛だなぁと。

が、個人的にですね、受けのキャラが合わないんですよ。
う~ん・・・。
上手く言えないんですけど、無意識で男を破滅させてく悪女系と言うか。
文彦ですが、華やかな容姿で、周囲に人を引き寄せる魅力的な存在なんですよ。
でも、彼が惹かれるのは、いつも皆が見向きもしないような、地味な存在ー。
で、そんな存在(男)に純粋な想い寄せる。
すると、相手はどんどん文彦に依存して、歪んで行くー。
で、耐えられなくなった文彦は、別れを切り出す。

えーと、過去にこんな事を繰り返し、特に最後に付き合った相手と手痛い別れを経験してるんですよ。
が、また今回も同じ事をやってるんですよね。
そもそも、文彦が久富に好奇心を掻き立てられたのも、彼が地味で誰からも見向きもされてなかったからですし。
いや、こういう悪気が無く相手を追い詰めてくタイプって、どうなんだろうと。
相手が自分に依存してゆく事に、無意識で悦びを感じちゃうタイプなんだろうなぁと。
で、被害者ぶってるのにイラッと来ちゃうんですよ。

えーと、久富がすごく包容力があるので、そんな文彦でも大きな器で受け止め、二人はハッピーエンドです。
まぁ、久富なら、文彦の手綱をしっかり握ってくれるであろうと。

う~ん・・・。
でもやっぱり受けに共感出来ないと言うか、ハッキリ言うと嫌悪感を持ってしまう。
そんなワケで「中立」とさせてもらいます。
ただ、こういう魔性系がお好きな方には、とても楽しく読めるんじゃないでしょうか

19

この作品が収納されている本棚

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