イラスト付き
庶民派包容力攻め×天然おぼっちゃま受けによる、偽装駆け落ちものになります。
激甘な二人の新婚生活に萌え転がり、おぼっちゃまの全力節約生活に笑い、一途で切ない恋心にキュンキュンする。
て感じのホームドラマ系ラブコメでしょうか。
個人的に海野先生の作品が大好きなんですけど、実はこの手の「ハートフルラブコメ」が、一番好きだったりします。
ザックリした内容です。
華道の家元の次男・晴臣。
初恋相手が忘れられない彼は、兄から持ちかけられた縁談を「恋人がいる」と嘘をついて断ろうとするんですね。
で、恋人を連れてくるように言われて困っている所を助けてくれたのは、その初恋相手で同級生の大我。
晴臣から事情を聞いた彼は、自分が恋人役をしてやると言い出してー・・・と言うものです。
まずこちら、主人公の晴臣ですが、おっとりおぼっちゃま。
ちょい天然なんですけど、妙な所で我の強さも見せると言う、こう、(本人は真面目だけど)面白いキャラでしょうか。
で、そんな晴臣と偽装駆け落ちを決行するのが、町工場の倅で庶民派包容力攻め・大我。
えーと、面倒見が良く包容力があるタイプになります。
こちら、キモとなるのが、晴臣の兄・清雅になるんですね。
実は清雅と大我は犬猿の仲で、恋人が大我だと聞いた清雅は猛反対。
そこで、二人は手に手をとって、(偽装)駆け落ち。
で、大我のアパートで(偽装)新婚生活を始め・・・と言った流れになるんですけど。
これ、個人的に萌えまくった所ですが。
ズバリ、二人の新婚生活になります。
えーと、何だろう。
コミカルでありつつ、激甘。
繰り返しになりますが、晴臣は超おぼっちゃまなのです。
超世間知らずです。
バリバリの箱入りです。
駆け落ちで家を出る為の支度をしようとすれば、慌てて持ち出すのが防災リュック。
で、防災リュックに入ってた三万円が全財産になるのですが、節約の為に自炊しようと買い物するのが高級スーパー。
いや、金銭感覚が完全にズレてて、彼が出費を抑えようと行う事自体が、まさに無駄な出費って感じなのです。
で、笑わせてくれるのがここから。
実は大我ですが、終盤で明かされる諸事情により、生活が厳しかったりします。
自分の存在やこれまで通りに生活した事が、大我の負担になってたと気付く晴臣。
すると、節約大作戦を決行する。
いや、最初こそ世間知らずすぎて「おい、おい!」って感じだったのが、図書館で節約方法を片っ端から調べ、スーパーでは底値をチェックし、「見切り品」を購入する。
世間知らずのおぼっちゃまだった晴臣が、捨てられるキャベツの葉を貰ってきて「タダだ」と喜んでるのが、なんか微笑ましいし可愛いのです。
これな~。
彼がここまで必死なのって、全て大我の為だと思うと、いじらしくてキュンともなっちゃうんですよ。
電気代を節約しようと寒いのを我慢し、大我が帰ってくる前になるとエアコンを入れるに至っては、いじらしすぎて切なくなってくる。
あと、そんな感じの貧乏生活ながら、「二人なら幸せ」って所にもキュンキュンさせられちゃって。
これ、偽装ながら、二人の生活がまさに「新婚さん」って感じで激甘なのです。
節約の為に二人でお風呂に入り、「恋人」らしく見える練習と言う事でハグ。
えーと、こちら終始晴臣視点で進むんですけど、明らかに大我は晴臣を狙ってるよね?と分かる仕様でして。
もっともらしい理由をつけては、いってらっしゃいのチューをねだったり、ペアのリングをつけたり、やたらとスキンシップをかまそうとしてるのにニヤニヤしちゃうんですよ。
負担を心配してバイトを増やそうかと尋ねる晴臣に、前より生活は潤ってると言い、「お前がいるだけでいいよ」と本音をこぼす・・・。
ぐはっ!
甘すぎるじゃんかよーーー!!
で、ここから、波乱の展開。
二人のアパートにお兄ちゃんが襲来し、大我の実家への融資を口利きする事を条件に、帰って来るように迫るんですね。
更に、晴臣ですが、駆け落ちに際して初恋の思い出の「ある物」を持ってきています。
それを見た大我の反応により、晴臣はアパートを出て帰る事を決意し・・・と続きます。
実はこちら、この「ある物」がですね、実に上手くキーアイテムとして使われてまして。
二人ともそれぞれに好きな相手がいると勘違いしてるのですが、この「ある物」が誤解を招くと共に、気持ちが通じあう重要な役割も果たすのです。
ついでに、大我には好きな相手がいるからと、自身の気持ちをひた隠しにする晴臣。
彼の切なく健気な片思いに、胸がキュッとなっちゃうんですよ。
片思い、なんて切ない・・・。
ところで、キモとなるのがお兄ちゃんだと書きましたが。
実はお兄ちゃんと晴臣ですが、幼い頃は仲が良かったのに、今は会話もあまり無くぎこちない関係です。
これ、終盤で誤解が解けると、お兄ちゃんの不器用っぷりにもニヤニヤしちゃいましたよ。
お兄ちゃん、弟が大好きじゃん!と、微笑ましい気持ちにさせてくれましたよ。
いや、冷静に考えると、彼が諸悪の根元なんだけど。
ただでさえ誤解がある二人を、更にこんがらがらせてくれちゃってるんですけど。
お兄ちゃん、何してくれてんだ・・・。
とりあえず、二人の気持ちが通じあうシーンがですね、あまりにロマンチックでうっとりしちゃいました。
ちなみに、昨年の海野先生ですが。
「桃色シーンを頑張る」が抱負だったそうです。
だからか、エロは最後に一回だけながら、かなり萌える甘々エロでした。
や、晴臣がおっとりおぼっちゃまなのに、意外とエロいと言うか艶っぽいと言うか。
天然煽り系と言うか。
男らしい(?)のにやたら艶っぽい誘い文句に、悶絶しましたよ。
あっけなく理性を崩壊させてる大我にも笑いましたよ。
てか、着物を脱がせて下着も脱がせて肌襦袢だけにして興奮してるって、分かりやすい男ですよ。
最後に、おぼっちゃんで世間知らずだった受けの成長にも、あたたかい気持ちにさせてもらえました。
華道のお家に生まれた深窓の令息が、後を継ぐ予定の兄から見合いをごり押しされそうになって、長い間片思いしていた幼馴染の町工場の倅と偽装駆け落ちをしましたが……というお話。
海野さんのお話ですから、読者の楽しませ方がとてもお上手。
徹底的な経済観念の薄さであるとか、明らかな倅(大我)の『好き好きモード』に気づかない鈍感ぶりであるとか、令息(晴臣)の現実離れした『深窓ぶり』で笑わせてくれます。
また、晴臣の兄や2人の共通の幼馴染の立花という女子のエピソードも2人の関係を混乱させて、なかなか気を抜けない感じを最終版まで引っ張ります。
でもそれだけだったら、こんなに「いやー、良い本ですよ」とお勧めしたくはならない思うんですね。
だって、こういう言い方もなんですが、似たような筋のお話は何度も読んだことがありますもの。
「じゃあ何がそんなに良かったのか?」と言われれば、大我から晴臣への告白シーンです。
これは私が知っている告白シーンの中でも一二を争う!
何と言ってもここの部分の描写が素晴らしく、そして美しい。
絵が頭に浮かぶ。
そして文章が香るのです。芳香な花の香り。
それらが相まって、恋をしたことのある人なら思い浮かぶ『時が止まる』あの感じが生まれるんです。非常に胸に迫るんですよ、ここが。
恋愛小説におけるロマンティックってこういうことなんじゃないかと!
海野さん、以前から『手練れの方』というイメージがとても強かったのですけれど、今作でもその見事さを見せつけられました。
大我はものづくりに誇りを持っている『町工場の倅』です。晴臣が、爪の間に油が染み込んでいる大河の手を「ものを作っている人の手」と言いますが(このセリフも素敵だったのよね)海野さんの小説を読んで「恋ということをよく分かっていらっしゃる方の文章だよね」と思ってしまいました。
いや、私なんかがこんなことを言うのは僭越なんですけれども。
見合いを逃れるために偽装駆け落ち&同棲というお話なんだけど、印象的なシーンがいくつかあって楽しめました。
まず二人の偽装新婚生活描写に萌え転がりました。
超おぼっちゃまゆえ世間一般の金銭感覚を持ち合わせていないんですね、受けは。
だから所持金があっという間に底をついてしまい、ようやく自分がいかに世間知らずで一般的な経済観念を持ち合わせていないか気づくんです。
だけど攻めは、その疎さを決して責めずに「甲斐性のない旦那で悪いな‥…」と言ってくれるんですよ。
優しい〜♡
そこから節約生活を心がけてどんどん逞しくなっていく受けにも好感が持てるし、そこがまた「お金はなくとも愛がある」みたいな貧乏若夫婦みたいでいいんですよ。
ちなみに読者には両片思いなのが見え見えなんだけど、あくまで犬猿の仲である受け兄に一泡吹かせてやりたい一心で、攻めは駆け落ち&同居をしてくれてるにすぎないと受けは思ってるんですね。
だから攻めに本心を悟られないようにクールに装いつつも、密かに幸せを噛み締めている様子がこれまたいじらしいんです。
夫婦茶碗に惹かれるもあくまでごっこだから……と自制して、それでも箸だけでもお揃いにしたいと密かに思う受け。
それを「夫婦箸みたいだな」と攻めに言われて、「まあ、一応、夫婦だからな」と動揺を悟られないように返したりしてるんだけど、端から見ると新婚カップルそのものみたいなやり取りをしているところが萌える。
(そして、後日このときの茶碗を何も言わなくても買ってきてくれる攻めが、これまた優しい。)
私がこの本の中で一番好き&泣いてしまったシーンは、疲労から高熱を出してしまった受けが、何度も何度も攻めの名前を呼ぶシーン。
攻めの本心を勘違いした受けが、この偽装同棲もついに潮時だと思いながらも、傍で心配してくれてる攻めの手を求めるんですね。
握り返してくれる攻めの手の感触を確かめながら、「好きだ」と言えないかわりに何度も何度も攻めの名前を呼ぶんです。
その都度、おう、なんだ、うん、いるよと飽きもせず返してくれる攻め。
伝えられない気持ちを名前に込めて伝える。
相手を心の底から求める愛しさと切なさに満ち満ちてて、何度読んでも泣けます。
そして全編通じて「花」が重要なアイテムとしてあちこち散りばめられているところがとても良かったです。
電子には特別版としてコミコミ特典小冊子の【花の名前】が収録されてて、これがまたとてもいいんですね。
二人にとっての花がいかに特別だったかという過去、そしてこの先も花と共に過ごしていくんだろうな……と未来に思いを馳せることができる点で、全読者に読んでほしいと思える内容でした。
こんな美しい告白シーン、初めてかもしれない。
素晴らしかった。映像で見たい。いや、脳内には鮮やかに映像が流れました。
海野さんの伏線の張り方がやっぱりすごい好きなんです。
それで勘違いや すれ違いの嵌め方も惚れ惚れしちゃうんですが、何が良いって、読者にはきちんと「ほのめかし」ながら進んで行くところです。
でも途中で「え?あれ?もしかして読み違ってる?」なんてハラハラさせる部分もちりばめつつ、最終的には期待値の場所にきっちり落としてくる。
もちろん、そーだったのか!なんて種明かしもある。
うーん、上手いな!と唸ってしまいます。
もうね、華道家のおぼっちゃまの小学生の頃のエピソードがたまんないです。
で、そのまま成長してるんです。
そして攻めだけが好きなままです。
で、攻めは一時期は遊んでた様ですけど受けに対する想いは特別なままです。
2人ともキャラが良くて、お互いが特別で、その気持ちが上手く描かれていてたまらなくなります。
健気な2人のピュアな恋が長い時間を経ていきなり駆け落ちから動き始めて、そしてまた過去のエピソードをやり直すところが青臭くて上手いです。
ちゃんと両思いで良かった〜