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表題作夜夜の月

澤雅宏 画商 パトロン
神原亮 画家 愛人

あらすじ

家庭の事情で美大を中退した神原亮は、生活のために仕事探しながらも、絵への未練を捨てきれないでいた。そんな時、業界でも有名な画商の澤と出会う。澤は亮が描きたいものを描き、画家として稼げるようになるまで生活費も含めて面倒を見てやると言う。その代わりに出された条件は、澤が望むときにいつでも身体を差し出す「愛人」になることだった。悩みながらも、どうしても絵を諦められない亮は澤と「愛人契約」を交わしてしまう。しかし、澤は画商として誰よりも優秀な目を持ちながら、絵をまったく愛さない男だった。そんな澤の中に、過去の暗い影を見た亮は…。絵を愛せない画商と、絵しか愛せない画家。それでも惹かれあう二人の狂おしい恋物語。

作品情報

作品名
夜夜の月
著者
水原とほる 
イラスト
町田九里 
媒体
小説
出版社
竹書房
レーベル
ラヴァーズ文庫
発売日
ISBN
9784812425107
3.7

(33)

(9)

萌々

(12)

(7)

中立

(4)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
13
得点
118
評価数
33
平均
3.7 / 5
神率
27.3%

レビュー投稿数13

2つの孤独な魂

水原とほる先生の初期の王道作品でした。
設定は「夏陰-cain」にかなり近いです。
強引な攻め、支配するために受けを責め、暴力を振るう。
無理矢理に体を重ねていくうちに、受けは心寂しい攻めを見透かし、愛しい感情が生じ、最後に、2人が依存のような愛が生まれました。

亮:絵を愛して、絵と向き合うためと、澤との関係、葛藤でいっぱいになった孤独な魂。
澤:絵を憎んで、復讐以外に自分は何もなっていないとういう迷妄を打破できない孤独な魂。
「亮が絵と向き合うとき、それはたった一人の孤独な闘いだ。そんな孤独を澤もまた知っている。絵と対峙するときの彼の葛藤と、誰にも理解できないだろう孤独。孤独な魂が同じ孤独を持つ魂を呼び寄せた。」(本文より)
2つの魂を呼び寄せ、受け支え、解放され、最後に1つになったと思います。

絵について描写が多いです。
美術に関する知識を一切持っていませんが、絵の壮麗な世界を感じさせました。
最後に抒情的な作風に通じて、2人の関係を表現したのは素晴らしいです。
「澤は亮の絵の中に浮かんでいる月のようだ。柔らかな光で照らして、暗闇の中であっても亮が孤独に迷うことのないよう包み込んでくれる。」(本文より)

少し痛いシーンがあったけど、ハッピーエンドで、読後、ほのぼのとした気持ちになりました。

気になる点は、挿絵が綺麗だが、亮は染めていない黒髪なのに??挿絵の中の亮は明らかに明るい髪色でした。

1

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとは限らない

 竹書房の日セールに合わせて作家買いしました。表紙や愛人契約という言葉に胸を踊らせながら読みました。

 絵を愛している亮と絵を愛せない澤との物語でしたが、絵を題材にしているだけあって絵画や画材の名前がいろいろ出てきます。
 本作で美術の知識が全然ないことが発覚した私は、日本画には岩絵の具が使われることやイーゼルという名称すら分かってなかったので、知らない用語が出てくるたびにネットで検索する始末でした。

 亮は小さい頃から日本画家の祖父に絵を教わったり中退とはいえ美大にも通っていたので、澤に才能を買われるだけの実力があったのでしょう。あと、澤に拾われてからいくつもの作品と向き合いながら複製画を描いてきた経験が亮のさらなる技術向上に繋がったのだと思います。
 正直、作中で二十歳の亮が早くも祖父を超えたと自覚しているところで何ともいえない気持ちになりましたが、努力や経験だけではどうにもできないほど素質が必要な世界だし、才能に年齢は関係ないのでこれが世の現実なのでしょう。
 本作はとにかく絵と向き合う場面が多く、生みの苦しみというものをこれでもかというほど感じさせられ、また、自分が全く絵を描かないからなのか、絵描きが苦悩する姿にかっこよさや色気を感じたので、支えてあげたくなるパトロンの気持ちも共感できました。

 全体的に芸術面は丁寧に描写されていたと思います。ただ、個人的にくどく感じながら読んでいたのもあって見落としたのかもしれませんが、肝心の恋愛面というか亮の心情があまり理解できませんでした。
 愛人契約で澤と肉体関係を持ったあたりは楽しんで読んでいたんです。さすがは吉原とほる先生、澤みたいな乱暴な男を書くのはお手のものだなと改めて感じたりしていました。
 絵を好きじゃないと言うわりには絵に対する的確なアドバイスをくれるので、亮が澤の過去に興味を持つのは分かります。でも同性愛者ではない上に、痛いのは嫌だとあれほど抱かれるのが苦痛だったはずの亮は、いつの間に澤に恋愛感情を抱いたのでしょう。
 ただ単に私がその過程を見落としたのかもしれませんが、気づけば亮は澤を好きになっていて、澤の過去を知ってから澤のために絵を描いていたので、あまり共感できないまま絵を描く苦しみの場面が連続していく展開に読むのが少しつらかったです。
 体を重ねるたびに情が移ったと考えるのが一番なんでしょうけど、金や絵を続けるために抱かれるしかない絶望的な状況を正当化するために好きになったのでは……とも考えてしまいます。ストックホルム症候群のようなものと言えばいいんでしょうか。まあ澤はあくまで契約を持ちかけただけなので決して犯罪者ではないんですけどね。
 そもそも祖父が亡くなった後に土地や家屋を売ろうとする祖母に強く反対し、そのわりに絵を捨てることもせずに不況の中で生活が困窮していく亮の考えの甘さもどうかと思います。これを言ったら物語は始まらないのは分かっていますが、澤が現れなかったら亮と祖母はどうなっていたのでしょう。
 小橋も脅迫まがいな発言で亮に関係を迫るような外道のわりには、拒絶されたのに展覧会で金賞に亮の作品を推薦したりとややご都合主義な感じを見受けられました。

 澤の過去も、亮を埠頭へ連れていった場面で何となく察しがついていましたが、父のせいで絵を憎まずにはいられなくなる心情は理解できました。
 それでも生まれ育った環境によって皮肉にも絵を見る目は磨かれていき、商売道具でしかないはずの絵を憎みきれずにいる澤の葛藤は良かったです。
 個人的には澤視点の方が物語を楽しめたかもしれません。

 終盤で澤の「おまえは、おまえの絵を描けばいい。俺は、おまえの絵が好きだ」で不覚にもキュンとしたので萌評価にしたかったのですが、モヤモヤする部分があったのと、絵を描きあげるまでの生みの苦しみの描写を読むのが結構つらかったので中立評価にさせてもらいます。
 私は絵を描かないのでこういう評価になりましたが、絵が好きな方は楽しめる作品かもしれません。

1

芸術を愛でる水原作品、入門編

2006年刊。
電子書籍にて購入、挿絵あり。
水原さんの作品を読んでいると、絵画の心得でも有るのだろうか?と思う位、よく画家とかアート関係者が登場する。
ちょうどこの辺りから芸術を愛でる水原作品を楽しめる、といったところかな。

但し、水原さん初期作品で避けて通れないのが攻めキャラのDV気質で、今回の画廊オーナー・澤にもその傾向が引き継がれてしまっている。
最初のベッドシーンでサディスティックな一面が有ると自身が告白している通り、愛人契約に同意したとはいえ嫌がる亮を無理矢理抱く描写がある。
この時期は、他の作家、作品でも攻めが受けを無理矢理に陵辱するって流れの展開が王道の一つだったからね。

両親は既におらず、日本画を教えてもらった祖父も亡くなった為に生活に困り、美大も中退せざるを得なくなった亮。
澤はそんな亮を見い出して有名絵画の模写の仕事を与えるが、それは彼の画家としての才能を高める為に仕掛けた布石のようだった。

やがて亮にアトリエを提供して創作活動と生活費を支援する交換条件に、愛人契約も結んで云々…となっていくが、亮が単なる不憫受けに沈まずに健気受けらしい頑張りもあったのでほっとできた。
読むうちに彼の芯の強さも出てくる。
話の本筋とは外れるが、自分は亮みたいなじーちゃんばーちゃん孝行な子に弱いので、ホロリとくる場面もあった。

あらすじから連想させられるパトロンと芸術家のドロドロした生憎劇としては物足りなかったけれど、受けキャラの精神が病んでしまわずに済んだのは幸いかもね。
個人的な印象では、澤の助言も有るとはいえ、亮自身が己の才能に磨きをかけていく感じだ。

作中で複製画、日本画作成の工程も伺えて痛さに特化した内容ではなかった。
ただ、パトロンとしての澤のドライな性格は悪くないと思ったけれど、彼が絵画を憎む過去と亮に絆されていく過程に関しての折り合いがあっさりしていたかな、とは感じた。

余談だが、作中に名前だけ出てくる花鳥画の画家・水口藤水は『窓』に収録されている『黄色い花』に出てくる人物だね。
他作品で既読の登場人物の名前を発見した時にはおっ!となったのだった。

1

憎んでも反発しても。でも求めずにはいられない

傲慢な若きやり手の画商と、経済的に困っている画家志望の青年。
画商は、道端で絵を売る青年の美しい顔と磨けば光る才能を見出し、パトロンになる代わりに俺の愛人になれ、と。
も〜うベタすぎる設定ではある。
青年は嫌悪や恐怖や色んな事を考えるんだけれど、結局はどうしても絵を描きたい、と画商に抱かれるわけだ。
画商は少しサディスティックだけど、約束通りにカネも時間もくれる。
そのうち青年も画商の心の寂しさや絵への複雑な感情を知り……
…みたいな。
BL界隈ではよくある世界観で、展開や結末などはある程度想像がついてしまう。
ならばつまらない話なのか?
そこは決してそんな事はなくて、こういうありがちな筋立てでそれでもきちんと読ませる。それはやはり作者様の力だと思うのです。
また、絵画/画家の物語なので、何が描きたいのか、なぜ描きたいのか、描かずにはいられないのか。
自分の心の中にあるテーマ・風景・色合い、それらをキャンバス/布の上にどうやったら再現し描き切れるのか。
それは技法的な事であったり自分の持つ技術、何よりも対象を見る眼の問題でもある。
その難しさ、苦しさ。
描き出して時間を忘れて描き続けると思えば、急に行き詰って何も描けなくなったり。そうやって自分の描きたいテーマを見つけ、合う技法を選び、何のために描くのか。
それを見つけた青年の獲得した強さ。
それらが読み応えの核になる。

物語のラストは画家として一歩を踏み出す事と、画商とのこれからがはじまる、というところで終わります。
一応ハピエンだと思うけど、絵はあなたのために描く、なんてとってもロマンチックだけどビジネスとの兼ね合いはこれからどうなんの〜?なんて思っちゃいました。

3

絵描きの人生

苦学生で、街頭で自分の絵を売っていた亮と、画商の澤。
社会的な立場は違うけど、画家をめざす青年と、商才はありながら絵に屈折した想いを抱く画商。
トラウマに対してひたむきで芯のある青年が澤を救うように、金銭的な支援をしながら同時に自分を愛してくれる澤によって大成する亮、という成長物語になっていました。

澤にはからの関係込みでパトロンになっていたイラストレーターがいて、新たに愛人関係をもちかけられた亮はとまどうが、絵のためならと受け入れる。このあたりはBL展開。

しかし、澤によるインスピレーションや、実際にどう絵を描くかという試行錯誤が画材をふくめて丁寧に描かれて、読み応えがありました。

4

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