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何もかも奪って俺のものにしたい
ベタベタ甘々の、よくある官能重点BLじゃなくて、前半はBL臭が殆どしない描写。
眞幸が置かれた環境の中で、誰も傷つけまいと生きる様子を堪能できた。
心理描写重点。
眞幸は、貿易会社社長の長男だけど、5才で生母と死別。
母没後に、愛人が異母弟を連れて後妻に入ってきた。
後妻は、自分の子を前妻の子から隔離したくて、主人公を何かと避ける。
異母弟は、自分が不倫の子だと知り、前妻が病死してすぐ家に入れた図々しい両親を赦せない。
兄の眞幸を慕って、母親に内緒で遊びに来る、優しい子。
扱いの格差を世間が話題にするし、異母弟も気にしている。
後妻は、全寮制の学園に長男を通わせて、4才年下の異母弟は、他の学校に通わせる。
異母弟は、大卒後に本社勤務になる予定。
眞幸は長男なのに子会社勤務、しかも功績は全て本社に吸い取られて評価されない。
後妻に遠慮して実家に帰れない眞幸を、構ってアチコチ連れて外に出してくれたのは、OBの牧野だった。
人を避けて、時計塔の窓辺でいつも読書をするラプンツェル=華奢な眞幸の孤独が気になっていたという。
プラトニックなお付き合いの前半、
後半は先輩後輩ではなく、恋人同士に変化すると、表現も変わっていく。
異母弟の一君が、凄く良い子。
官能小説ではないBL。
心の繋がりを重点にした物語は、読後感が凄く良い。
幸薄系の美人さんが、9歳上のOBである攻めに長年に渡って何かと面倒見てもらって、可愛がってもらって……というお話なんだけど、攻めが素敵。
懐深くて、大人で、これぞいい男!!って感じなの。
受けは大企業の御曹司かつ長男なのに、実父と後妻から冷遇されているんですね。
初読時は、この実父と後妻にかなりムカついてしまったので、こいつらが最後にちゃんと成敗されるのかが心配になり、途中でレビューで「やつらに制裁が下るかどうか」を確認しちゃったほど。
きっちりと社会的制裁が据えられているし、二回目に読んだ時は、そこまで奴らにムカつきは感じられなかった。
受けは、同級生やOB間では「時計台のラプンツェル」と呼ばれていたお姫様的存在なんだけど、か弱いどころか芯がしっかりしている人。
どんな場所でもけっして腐らずに、自分のやるべきことをしっかりと見極めてまっすぐ進む。
そんな姿に好感が持てます。
そんな受けを8年にも渡って何かと面倒を見てきた攻め。
最初見たときから受けを手に入れる!と決意して、あれこれ全力で頑張ってきたのだけど、自分はみんなと同じ可愛い後輩枠くらいにしか思っていないんです、受け自身は。
でも、気づかない受けの気持ちもわかるというか……
受けへの扱いは周囲から見れば「特別」なんだけど、下心とか嫌らしさがまったく透けてこないんだもん!!(忍耐力もすごいので。)
つまりパーフェクトすぎるの、攻めが。
すんごーく素敵でお値段も素晴らしく素敵なレストランでご馳走になったとしても、攻めが社会的にも認められている大人の男なもんだから、攻めにとってはこんな高級レストランも日常の一コマに過ぎないのかな……と思わせてしまうものがあるというか。
受けにはもっと甘えてほしいのだけど、受けは自立心のある男なので、あまり頼ろうとしないんですね。
そんな受けに対して「お姫様は意外と頑固だからな」と苦笑しつつも、自分のできる最大限で大事に大事にする姿に萌えます。
自分のすべてをもらってくれる王子様成彰と恋知らずの不遇なラプンツェルのお話でした。
良いお話だったのですが、つい気になるところが多くて。素敵なお話なのにそんな自分が申し訳なくて。
主人公眞幸視点なのですが、どうにも彼の本当のところがわかりにくい。きちんとその時々に何を感じたり思ったか書いてあるのですが。真面目で良い子なのにつかみどころがないというか。
そして男子校ならではなのか、いつまでも眞幸が姫扱いで。それを本人も嫌がらず。25歳なのに。
OBも同期も眞幸をラプンツェルだの姫だの特別扱いで、知らぬは本人ばかりなりで。
眞幸は成彰を特別だと言って体も許しましたが、好きなの?その自覚はあったの?特別だから許してそこからだんだん本当に好きになったの?流されて居心地良いからそのまま来たの?
眞幸の両親からの酷い扱いに成彰がまるごと引き受けて守ってくれて。それはとても良かったのですが、滝川家公認の嫁扱いでいいの?男なのに。
成彰も8年かかって眞幸を自分を頼るようにして。仲間も成彰の姫と公認な感じで。
8年も待たなくても…。いやこのタイミングだからこそなんだけど。ゴールがわからなかったのもあるのかな。
嫁ぐとか嫁入りとか専業主婦とか。働き盛りなお年頃なのに。資格もたくさん持ってて。本人は全然働けるし優秀だし働く気満々なのに。
成彰の激しいエッチがすごいですね。最後に印象的でした。
2020年刊。
松幸さんの作品は今回で2冊目になるが、この人の話って何だか分かり易いね。
攻め受けの背景にある家庭環境が過不足なく盛り込まれているので、すんなり頭に入り易い。
ただ、タイトルみたいなプリンセスストーリーになぞらえるには、王子さまもお姫さまも堅実な印象だった。
受け・眞幸をラプンツェルに例えるのにはちょっとピンとこない。
時計台から覗く麗しき人を見初めて…ってシチュエーションはロマンチックだけどね。
話のほうは、きちんと眞幸が幸せを掴める(に違いない)展開だ。
でも、夢見がちとか浮き足だった雰囲気はないし、おとぎ話度は低い気がする。
御曹司として敬われる事なく子会社へ配属させられた末に、リストラの采配を押し付けられるといった世知辛い、不憫な目に遇う状況も現代的だったりする。
意地悪な継母+不実な父親ってのは健在だが、眞幸の異母弟・一史が全く両親に似ず、まさに"鳶が鷹を産んだ"級のいい子だった。
聡い分、慕っている義兄の複雑な環境を憂いていたのだろうね。
この位のブラコンだったら充分許せる範疇だよ。
あと、成彰と眞幸は年の差が開いているが二人とも同じ全寮制高校の出身で、どの年度のOBも多方面に活躍しているらしい。
特に成彰の同期はSG28(←社名の由来には笑った)の代表・川崎を筆頭に一目置かれる顔ぶれ揃いで華やかだ。
いっその事、栖芳学院のOB達をメインにした展開のほうが賑やかでこっちのほうがより好みに合ったかも、とは思った。
ラプンチェルに赤ずきんにシンデレラに眠り姫といろんなおとぎ話のプリンセスに例えられる受け
御曹司と呼ばれる出自ながら実母が早逝し、父親が再婚したため継母により疎まれ、早々に実家を出された桐原眞幸(受け)。
今は実家の子会社で一般社員をしています。
そんな眞幸を気にかけてくれるのは9歳年上の高校の先輩で実業家の
牧野成彰(攻め)。
眞幸が通っていたのは全寮制の高校で学閥意識が高く、OBが進路相談などで頻繁に後輩の世話を焼く校風で眞幸も在学中から、不遇な生い立ちもあってかずっと気にかけてもらっています。
そろそろ成彰に出会ったのと同じ年になろうというのに、あの時の成彰のようになれていないことに少し焦りを感じる今日この頃です。
そんな時、知り合いのOBの開店記念パーティーで成彰に告白されてしまいます。
全く意識していなかった眞幸はとても驚き、今まで以上に意識してしまうのです。
眞幸は儚げな見た目と違い芯が強く頑固で、自身の生い立ちを嘆くのではなく、今できることを責任をもってするという姿勢はとても好感が持てます。自分で決めたことは決して曲げない強さも持っています。
容姿もさることなから、きっとこういうところが成彰はじめ他のOBたちや同級生後輩たちみんなにかわいがられる結果になったのではないかと思います。
ただ、両親に愛情を受けなかったことから人を頼るということができないのが成彰にはとても歯がゆかったのではないかと思いました。
眞幸的には甘えているという自覚のあるものでも、成彰からすればぜんぜんで、もっともっと甘えてほしい頼ってほしいと思っている(下心満載で)のになかなか頼ってもらえないから8年もかかってしまったのかと思うと、成彰の予想をはるかに超える強さを持っていたのでしょう。
会社のリストラを任されることになったことにより、周りから距離を置かれるわ、攻撃対象になるわ、全く御曹司としての扱いをしていないのにこういうときだけ使おうとする両親には本当に腹が立ちました。
ただ、このことが成彰が眞幸に頼られるきっかけとなり成彰の望む関係が築けたことは結果オーライだった気もします。
異母弟の一史が本当にいい子でした。
あんなクソな両親に育てられたのに、まっすぐ素直に、また俯瞰で物事を見ることができるとても優秀な弟。
両親と同じように眞幸を貶めてもおかしくないのに、ブラコンで両親のことをクズといって憚らない強い姿は言いたくても言えない周りの気持ちを代弁をしてくれて気持ちよかったです。(眞幸は汚い言葉を喜んではいなかったけど)
両親に関してはもっとザマアな展開になってもよかったのに思ってしまいました。
きっと、将来的には一史が両親に引導を渡してくれると信じています。
タイトルにあるラプンチェルとは時計塔の窓から本を読んでいる姿のたとえと共に実家という檻の中から出られない眞幸の姿を表したものでした。
結局悪い魔法使いは両親から成彰に移っただけという話もあるけど、二人が相思相愛なのでめでたしめでたしですね。