• 紙書籍【PR】

表題作牛泥棒

佐竹亮一郎,大学の植物学助手,25歳
田中徳馬,口のきけない使用人,27歳

その他の収録作品

  • 古山茶(つばき)
  • 笹魚

あらすじ

大学で助手をしている亮一郎は年上の口のきけない使用人・徳馬に密かに心を寄せていたが、想いを告げられずにいた。幼い頃から傍にいてくれた徳馬は、短気で我が儘な亮一郎にとってかけがえのない存在だったのだ。関係を壊すより、侍従関係のままでも徳馬を傍に置きたいと亮一郎が思い始めていた矢先、徳馬が突然暇を願い出た。許せない亮一郎は徳馬に冷たくあたるが…。(カバーより転記)

作品情報

作品名
牛泥棒
著者
木原音瀬 
イラスト
依田沙江美 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
発売日
ISBN
9784883863242
4

(106)

(40)

萌々

(39)

(22)

中立

(3)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
22
得点
425
評価数
106
平均
4 / 5
神率
37.7%

レビュー投稿数22

各が違うな~

前情報も得ていたので、内容に驚くこともなく、イラストも大好きな依田さんだし、冒頭から気になるストーリー展開で掴みはOKだったのですが、なんかこう、この世界観にすっと入りきれず。
主従関係、妖怪、明治時代、この辺とても好物なのです。
んじゃ、なにが?と、自分でもよくわからず。
亮一郎の天然ぶり我侭お坊ちゃまなところが、なかなか好きになれなかったからかなあ・・・。
ところが、牛事件が起きてからは、すっかり入り込んでしまい、そこから最後まで今度はやめることができないまま、一気読み。
2話目の「古山茶(つばき)」なんてもう面白くて面白くて、結局窓の外は白々と明るんできたりして。

木原音瀬さんという方は、実際はユニットで個人ではないんじゃ?なんて思うほど、お話がどれもまったくの別ジャンルで、幅の広さ底の深さに驚きを隠せません。
淡々とした独特な文章が一貫しているので、その特徴で木原さんだな~と感じますが、ここまで様々な背景のお話を書かれるって、すごい。
読めば読むほど、格の違う作家さんだと感嘆するばかりです。

12

BLは腐女子のメルヘン (〃⌒ー⌒〃)

明治時代を舞台にした、植物学者の癇癪持ちで我が儘だけど優しい亮一郎(攻)と、妖怪や物の怪が見えるだけでなく身の内に鬼を飼っている使用人・徳馬(受)の、甘くほんわかとした恋のお話です。

目次
・牛泥棒(プロローグは受け視点、本文は攻め視点)
・古山茶 つばき(受け視点)
・笹魚(受け視点)

「牛泥棒」のあらすじ
大学で助手をしている亮一郎(攻)は、ちょっと年上の口の利けない使用人・徳馬(受)に想いを寄せています。それは中学の頃、青白い顔で眠る徳馬(受)を綺麗だと思い、初めて性衝動に駆られた時からずっと。亮一郎(攻)は想いを告げぬまま、徳馬(受)を傍に置き片時も離しません。ところがある事件をきっかけに距離を置くことに。そこで徳馬(受)は里に帰りたいと申し出ますが、亮一郎(攻)は許さない構え。無言の攻防が続いた4日後、実家が火事に。急きょ二人は帰省。亮一郎(攻)は家も家族もなくし、借金返済のため女との結婚を決断。そこに徳馬(受)が御神体の牛を盗んだ罪で逮捕との報が…。

本作は、明治時代が舞台。そのためか作品全体に漂う雰囲気がどこか風流で、趣があります。それに、夜伽や接吻、褌(ふんどし)や娼妓、交接(SEX)や大八車などのワードが、その時代を醸し出し、芳醇な香りに包まれます(*'‐'*)

鬼や、物の怪や、妖怪といった魑魅魍魎が跋扈するレトロでロマンチックなBL。「眠る兎」のレビュー時も同じことを申しましたが、「木原作品は痛いから嫌」と敬遠されている方にも本作はお勧めです。

時代物が苦手という方も明治時代は近代ですし、比較的入り易いかと。でも妖怪物は嫌という方には無理にお勧めいたしません。私自身も、夏の風物詩の怪談話は怖くて苦手です。でもゲゲゲの鬼太郎などのような妖怪物は案外好きです。

人間にも良い人もいれば悪い人もいるのと一緒で、妖怪もそんな風に捉えています。作中の、徳馬(受)の手の中に飼われている鬼の桑葉もそんな感じで、実に可愛い。 「面倒だのう・・・」という口癖がその性格を表していて、つい親しみを感じてしまいます。大人しく控えめな徳馬(受)とはまるで違う性格なのに、なかなか良いコンピで微笑ましい限りです。

不憫だったのは亮一郎(攻)の母親。沼神様に愛する息子の命乞いをし、自分の命と引き替えに亡くなりました。そこにあるのは、母から息子への無償の愛。それなのに後々まで、「病気の子供を置いて逃げたけしからん女だ」と人々に思われていたため、切なかったです (j o j) ウルル

終盤、真実を知って驚いたのは徳馬(受)の声。証文代わりだったとは!てっきりこれこそが、亮一郎(攻)の母の形見と引き替えに差し出されたものと思い込んでいただけに、目がテン (^◇^;)ホエー

そう言えば、亮一郎(攻)に形見を差し出すシーンが一つもなく、「おかしいなあ」と思いつつ形見のことを忘れ、読み進めてしまいました。沼神さまが求めたものは「20年間、毎年1頭ずつ、牛を贄として沼に沈めろ」ということ。20年も声を奪われ、罪悪感を抱きながら牛を盗み、なのにやっと形見として返してくれたのは、たったの爪1枚…(T^T)

沼神様、ホントは爪の一枚すら返すつもりはなく、無理難題を押し付けることにより、徳馬(受)が諦めるよう仕向けただけだったのかもしれません。真に受けた真面目な少年・徳馬の受難が始まったのは7歳の頃のこと。

元の木阿弥。とはいえ結局牛は全頭戻って来たし、徳馬(受)は投獄されずに済んだし、口も利けるようになりました。BL的にも文句なしの展開で、素晴らしいメルヘンの世界を堪能させて頂きました (〃^∇^)o_彡☆


続く「古山茶」は「ふるつばき」と読むそうな。
多くの花は花びらが散って枯れていきますが、椿はまるごと「ぼとっ」と落ちるため、人が亡くなる様を連想させ、お見舞いなどには不向きとされる花。また、物でも植物でも何でも、長い年月を経ると、霊が宿り、妖怪化するらしいです。
「古山茶」は「牛泥棒」と比べると、いささか怖い。怖いながらも面白い。それに現実にはあり得ないと思うせいか、さほど恐怖を感じず、次はどうなるんだろう、次は…といった具合に、めちゃくちゃ楽しく読ませて頂きました (*^-^*)
「牛泥棒」でも登場の原が、淫乱の椿の妖怪に精も気力も吸い取られ、まるで蜻蛉のように痩せ細り、もう少しで「やり殺される」ところを、徳馬(受)や鬼の桑葉、それに亮一郎(攻)の手によって救われるという、そんなストーリーです。


最後の「笹魚」は、「古山茶」で良い味を出していた千枝さんに、原が恋をするというストーリー。そこに亮一郎(攻)と徳馬(受)の甘々な睦みが絡められ、3作中1番ホットな展開でした (〃ー〃)
千枝さんは子を授かることが出来ない身体。ゆえに原との未来はないのだと、実にサバサバとした竹を割ったような性格の優しく強い女性です。同性として憧れを感じました。でも男同士も子供が出来ません。それでも二人一緒にいれば幸せを感じられるのですから、千枝さんも考えを改め、幸せになって欲しいです。

9

話の内容は皆さんが書かれているので自分の読んだ感想だけになりますが、とても面白かったです!男同士なので夫婦ではなく番(つがい)です!亮一郎もそう言ってます。
確かに亮一郎は怒っているシーンも多く怒りっぽいですが、理不尽なことで怒りはしないので、おしとやかな徳馬にはこれぐらい感情が表に出るほうがあってるな、さすが番!と盛り上がっていました。
しかし徳馬もおとなしいわりには嫉妬深い性格です。白粉の匂いで浮気されたと思い亮一郎の靴を抱きしめて泣いたりと可愛い人なのです。亮一郎は徳馬と愛し合ってる自信と一生離れないという自覚があるので、嫉妬深さでいうなら徳馬の方が上かな。というぐらいですごく徳馬が可愛いです。亮一郎のどんと構えている姿も男らしくて本当に素敵な関係です。
また時代が時代なので言葉使いが今とは違い、それがまた色っぽい!亮一郎の言葉使いが特に!もうドキドキしながらやっぱり時代ものはこうじゃなくてはと!

キスされた日は褌をつけずに亮一郎がくるのを待っていたりと大胆であり控えである徳馬は読んでいて本当に可愛くてたまりません!亮一郎といつまでも幸せに!

7

明治の時代香るロマンス

地方の造り酒屋の一人息子でありながら、東京の大学で植物学の助手をしている佐竹亮一郎。彼は年上の口のきけない使用人・徳馬に密かに想いを寄せていました。幼い頃に母親が行方知らずになって以来、亮一郎の傍にいてくれる優しい徳馬を失いたくなくて、亮一郎は徳馬に気持ちを告げられずにいました。
徳馬には妖が見える不思議な力があり、手の中に小さな鬼を飼っていました。あるとき、その力をめぐって亮一郎は徳馬に腹を立ててしまいます。そんな折、亮一郎の実家が火事に見舞われ、亮一郎は借金返済のために地元の有力者の娘と縁組をしなければならなくなります。亮一郎は徳馬に今まで通り東京で一緒に暮らすよう言いますが、徳馬は夜中に姿を消し、翌朝、牛を盗んだ罪で逮捕されてしまいます。やっと面会すると、徳馬は声が出せるようになっており、亮一郎は、母が自分の命を助けるために沼神様に命を捧げたこと、その母の形見の爪をもらうために徳馬が沼神様に声を差し出したことを知ります。逃避行のさ中、互いに想いを告げ結ばれる二人。追手が迫り、万事休すと思われた時、亮一郎が腹立ちまぎれに母の形見の爪を沼に投げ入れると、これまで徳馬が沼神様に捧げてきた20頭もの牛たちが沼から上がってきて…。

徳馬は、牛を盗み続けた自分は心を鬼に食われているのだ、と言いました。その鬼の名前は「恋」なのだと思いもよらないのでしょう。そんな徳馬に亮一郎は「誰の心の中にも鬼はおる。俺の心の中にも汚い鬼がおるんだろうさ」と言います。癇癪持ちの亮一郎の中にいる鬼は「短気」でしょうか。私も胸に手を当ててみれば鬼がいるような気がします。鬼とは、心を揺り動かす様々な感情のことなのかもしれません。明治時代はまだまだ夜が暗く、夜の闇が今よりもずっと鬼の存在を身近に感じさせたことでしょう。

初めて体を重ねるとき、亮一郎が徳馬の体を、花芯、紅蓮、果実、蓮の花といった植物に例えるのが、植物学者らしくてエロティックで、素敵だと思いました。
沼神様が牛を返してくれたおかげで、亮一郎と徳馬は無罪放免。東京で幸せに暮らす結末に心が温かくなりました。


同時収録の「古山茶」は、亮一郎の部下・原が椿の妖に取りつかれる話。「笹魚」は、原のその後の片恋の話です。
亮一郎と徳馬は、ますます仲睦まじく、亮一郎が徳馬をからかう描写が微笑ましいです。
子どもを産めないからと原の求婚を断る千枝を、徳馬が自分に重ねる場面がとても切なかったです。

作品中には、蒸気機関車、牛飯、マッチ工場、綿織物工場など、文明開化のキーワードがちりばめられ、とても興味深かったです。どうやら、二人の実家は関西方面のようですね。あとがきに書かれていた亮一郎のモデルになった人物のことを調べるのも楽しかったです。
時代背景も併せて、とても魅力的な作品だと思いました。

3

木原ワールド初心者です

木原先生の作品は前から読んでみたいと思っていましたが、とりあえず最初は初心者でも大丈夫と答姐で教えていただいた今作を手に取りました。主従関係、時代モノは好きな要素なので、楽しめそうだなと期待して読みはじめました。

徳馬がいじらしくて可愛かったです。亮一郎の興をそがないように情事の前に褌をはかずにいたり、亮一郎の靴を抱きしめて泣いていたり・・。かといって女性的でうじうじした、恋愛の進退ですぐ寝込んだりして色々投げ出す感じ(私の地雷です)ではなく、健気すぎるほど亮一郎のために自分の役目をしっかりと果たす強さも持ち合わせている、可愛いだけじゃないところがよかったです。こういう強さもある受けこそ、健気受けとよばれるに相応しいよなと思います。亮一郎の短気ですぐ癇癪を起こす俺様な性格も、徳馬とはバランスがとれているように感じました。というか彼は最初から徳馬ひとすじなので、徳馬に対して辛く当たる場面もなくはないですが、全部愛情の裏返しなんだよなと思えてハラハラしつつもどこかほほえましい気分で読めました。

ファンタジーはあまり好んで読む方ではないのですが、今作は楽しんで読めました。多分私がファンタジーが苦手なのは、複雑な設定を理解するのがめんどくさかったり、矛盾点(設定が複雑なほど多い)が少しでもあると結構モヤモヤしてしまうのと、基本的にキラキラした夢物語より現実的なお話を好む方であることが原因だと思うのですが、今回は複雑な設定ではないですし、妖怪との戦いの場面が程良いスリル感と刺激をもたらし、物語に起伏を与えていたので、要素として良い方に作用していたと思います。また、心情の動きの描写が丁寧だったので、私が苦手なタイプのファンタジーにありがちな突飛な設定に頼りきりで肝心な心理描写はおざなりになり、お話自体もどんどん非現実的な方向へ飛躍していくということもなく、人間関係の面ではリアリティを楽しむこともできました。ファンタジー要素の取り込み具合がちょうど良い作品だったのではないかなと思います。

他に木原先生の作品は、美しいことをCDで聞き、本は薔薇色の人生しか読んだことがなく、こちらでも評価の高そうな箱の中、檻の外、coldシリーズなどは、きっと名作なのだろうなと思いつつ、自分の精神力に自信がなくてまだ手を出せていません。恐らく、木原先生は、人間という生き物の描写が巧すぎて、醜い面も含めてその全てを忠実に描くことができる希有な作家さんであり、だからこそ読む側にもその醜さも許容できるだけの精神力が必要なのだと思います。なので、自分がもっと成長して、木原先生の作品の人間の生き方を許容できるだけの器のある人間になるまでは、とりあえずこれらの作品には手を出さず、今作のような程良いファンタジー要素のある作品を読んでいこうと思い、次は吸血鬼と愉快な仲間たちのシリーズを購入しました。届くのが楽しみです。

3

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(小説)一覧を見る>>

PAGE TOP