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虐待ものの本を読むと、その多くに共通するのが「暴力で支配されてきた人間の多数は、激しい怒りや憎しみを抱え込む」ということです。
例えば、虐待により多重人格障害になった人間の人格の一つに、暴力を振るった張本人(多くは父親)の名を名乗った破壊的な思考を持つ人格がいるというように。
これは極端な症例ですが、そうでなくても大なり小なり憎悪を抱え、明確な殺意を生むことも珍しくないようです。
悲しいことに暴力は連鎖という形をとる確率が非常に高いことは、有名だと思います。
なぜこんなことを書くかというと、この物語はその連鎖を描いたものだからです。
途方もない闇を抱えた人間はどうすれば救われるのでしょうか。
その闇に飲み込まれないためには何が必要なのでしょうか。
ミシェルが「おまえが悪いんじゃない」と命をふり絞るように言いますが、この言葉は真実だと思います。
ですが、闇に負け現実に他人に害を為したとき、その真実は免罪符にはなりえません。
これを不条理と思うか当然だと思うかは、非常に難しい問題だと思います。
クリスにはかつて妻の存在があり、アレックスがいて、ミシェルがいて、執事がいて、そして何より父から確かに受け継いだ天使の歌がありました。
私はこの話がとても好きなんですがその理由として、たった一人の人間の存在が人を救うという運命のようなロマンスではなく、一人の人間を救うには少しづつ色んな助けが必要だということが伝わってくる、というものがあります。
恋愛至上主義のBL世界では珍しいような気がします。
「人が人を救う」という西田さんの想いが詰まっている優しい物語。
…でもあと1冊くらい描けたんじゃない?と言いたい、読みたい。
父親の話とか…救いなさそうだけど。
クリス=キリストを背負った者、キリストを運ぶ者
ミシェル=大天使ミカエル
アレックス=男達を庇護する者。
名前の意味を正確に知ろうと調べながら、涙が止まりませんでした。
くっ、不意打ち……!
(ちなみにそれぞれの妻。クリスの妻テルーザ=テレサ、ミシェルの妻マリー=マリア)
~独り言~
オススメしておいてなんですが、西田さん未体験の方は、個人的には短編集から入門した方がいいかと…で、その後に長編ものにぜひチャレンジを!
ピアニストとしてスタートし、今は売れっ子指揮者として世界に名を馳せているクリス。
お話が進むにつれ父親から虐待を受けて育ってきたという事実を、そして今なお抱える闇を知ります。
息子アレックスへの余りにも冷たいと思われた態度の数々は普通の愛し方を知らない、そして父が自分にしてきた事をしたいという衝動にかられる彼が唯一出来る愛情の示し方だったという事に衝撃を受けました。
愛そうとすれば自分も父親と同類に堕ちてしまう。負の連鎖を断ち切るには愛するアレックスを守るために突き放すしかないというクリスの苦しみや葛藤はいかほどか。
かつては街で売春をしており今尚、自らをあえて痛めつけるかのような俗悪な生活をしていますが、音楽に対しては真摯で、そして音楽は彼を裏切らないという構図が、何よりも自分としては一番心に来た箇所です。
目を輝かせて「見ろよ 先生 ここに一つの奇蹟がある。この第一楽章のスケルツォだ これをどうやったら冒瀆できる?」と語る部分。
音楽に心底取り憑かれた者の純粋な喜び、情熱、彼を生かし続けてきたものが垣間見えた瞬間だと思います。
音楽がなければきっと10代の早いうちに彼の精神は崩壊していただろうなと。
そういうクリスに音楽の手ほどきをし、天使のうたを授けたのは彼の父親です。
虐待をしていた酷い父親だけど、音楽は父親から与えられた愛情であった。
そしてクリスの派手で奇抜な振る舞いに囚われず、クリスの本質を見抜いて愛してくれていた亡き妻。また「どこにいてもずっと愛しているから、クリス」と言う息子。さらに今、傍にいるミシェル。クリスには周りの人々からの愛が確かにあったのだ、そして今もなおあり続けるのだという終わりが何とも胸熱くなりました。
私がトピ立てした「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」
http://www.chil-chil.net/answerList/question_id/4967/#IndexNews
で教えていただいたのがこちらの作品です。
それこそ交響曲のように愛や憎しみ、狂気といったモチーフが登場し、各パートで層を成して謳い上げる壮大さがありました。
一つの物語として文句なしの神です。
教えてくださり本当にありがとうございました。
2巻の後半は、泣けました。
クリスの心の傷が明らかになる一方でクリスはどんどん追い込まれていきます。
36歳というクリスの父が破滅した年齢になり、自分もいつか破滅するのだと思っているクリス。
その破滅の時を確信してしまったかのように、クリスはアレックスの元へ行きました。
そして、まさかの行動。
しかし、あの行動はクリスが今まで戦ってきたものだったんですね。
自分が、自分の血が、どんな血が知っている。
世界が、人間が、どんなものか知っている。
そしてずっとミシェルとは違った形でアレックスを守ってきた。
ミシェルが気付く場面もよかったです。
逃走してしまったクリスはコンサートまでには戻ってくるだろうと思っていたミシェルですが、同じ金髪の男性が凍死したと病院に運び込まれてくるところで、もしや今の凍死体がクリスなのでは?!と思い、確認しに行くところ。
実際は違いました。
しかし、一度最愛の妻子を同時に亡くしその後、自分は死に向かって生きているだけと思っていたミシェル。
悲しみも辛さも、そして絶望も一度味わったミシェルは、この痛みに2度目は耐えられないと気付きます。
そのシーンがよかった。とても好きです。
そしてもうひとつ。
最後のアレックスとクリスの会話もよかったです。
あのクリスの涙に、今までの辛さも詰まっていたように見えたし、何より愛しているという言葉を一番切望していたように見えたクリスだったので、あのアレックスからの一言にクリスが泣いたというのが感動でした。
神評価です。
なんとなくバナナフィッシュ思い出す。。。
破滅の年齢、特に男性は父親が死んだ年齢を越えられるかが、壁になる。
愛し慣れていない父親と、愛され慣れていない息子、そこに関わる人間味溢れる医師。
傷付いた医師が救うべき親子。
知らないものを理解するのは難しく、愛されたから終わりになるような簡単なものではないのです。
しかし、あの涙はホンモノ。
医師に関わったことで向かう幸せが親子に訪れます。
万人に読んで欲しい作品です。
初読は西田さんにしては色々詰め込みすぎて少しごちゃついてたなあと言う感想でした。もう少し簡潔にまとめられたのではと考えつつ風呂に入ってると、何やら気になってきてもう一度読みたくなり、結局翌日再読しました。こう言うのは映画でたまにありますが、小説や漫画では珍しい。再読してガッときました。萌えと言うよりはふらっと入ったミニシアターで当たり映画を観た後の感覚に近いです。(レビューでヨーロッパ映画のようと評されていましたが同感です)
初読の詰め込み感と言うのはたぶん、色んな伏線がコマや台詞にみっちり詰め込まれていて、登場人物の思考が把握しきれず私の頭がとっちらかったせいですね。再読で全てが繋がり、いちいち噛みしめ、ああう~となりながら、読み終わり、今これ書いてます。
この漫画のテーマはなんだろうと考え中です。愛と欲望。聖と邪。傷と癒やし。相反する心象や関係が描かれてますが、それを全て内包して高みに昇る音楽と言う芸術なんじゃないのかなと。西田さんは「彼の肖像」でも女性の漫画家さんには珍しい鬼気迫る画家を描かれてますが、本作からも西田さんの芸術に対する視線がはっきり描かれています。
汚濁の中に咲く聖なる花のような音楽を見事に漫画の中で描かれています。クソみたいな人生と冒涜しようのない音楽。罪を犯し自殺した男が残した音楽が、結局クリスを生かし、テレーゼを惹きつけ、アレックスを生み、家族を失ったミハエルを癒やしたように思えます。「天使のうた」ってすごいタイトルだわ…しみじみ。
BLとして神評価かと問われるとちょっと躊躇します。男同士のラブストーリーと言うには、家族や芸術、人生と言った色んな要素が絡んでくるので、複雑です。ラストシーンですら、私は不穏な感じがしました。ベッドの上でクリスはまた狂気をみせるんじゃないのかって。ミハエルはそれでも変わらずあの時と同じように受け入れるんだろうなとか。そして、そんな関係がとても神聖に感じるし、どーしようもねえな、ごちそうさまとも思います。
単純に泣かせるようなストーリーでもないし、でもとても深いところで感動させられたので、私としては「神」つけるしかないです。
西田さん、またこんなお話書いてくれないかな~。大長編で読みたいなあ。