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DESPERADOシリーズとして出版されたものの2冊目にあたります。
前作を読んでからの方がわかりやすいかと思います。
まだBLなんて言葉が一般的でなかった頃に書かれたのもでしょうが、明らかにここ数年出ている明るさや萌えに満ちたBLとは一線を引いた作品。
なんというか、クラークとアンソニーの愛が重い…。
恋愛は恋愛でこれでもかというほど深く描かれているのに、それとは別でメインとなる事件や推理も本格的。一体どうやったらこんな小説が書けるのか…神評価を2つ付けたいくらいです。
馬鹿馬鹿言われながらも、恋人が撃たれても、それでも事件を解決するため走るクラークは馬鹿だけど格好いい。
アンソニーはクラークが好きで好きで、それしか考えられない事におびえ、いつか終わりがくる事におびえ、そうなった時は人生の終わりだという事におびえ、クラークを怖がっています。
クラークはクラークで自分の永遠の愛を信じてくれないことに苛立ち、はっきり安心させてやれない自分にも苛立ちます。心の底から愛し合っているのに、愛し合っているから故幸せでないという、何ていうパラドックス…。
愛し合っているだけじゃだめなのか。何で愛し合って一緒に住んでいて2人とも幸せそうじゃないんだ…と思ってしまいます。
2人の行き着く先が気になって仕方がない。
短編で事件の後日談が入っています。クラークの恋敵として登場したダニエルの手記ですが、これもまた重い…。
このお話の舞台となるスラム街で生きるゲイの人々。舞台が20年以上前であるからか、彼らがゲイである事の葛藤が綴られる場面が多々あります。
「ゲイは皆自分が嫌いだ」と前回のお話でありましたが、明るくハンサムで口も軽く、ゲイライフを全うしていると思っていたダニエルもまた、ゲイ故に自分を嫌っていて、同じゲイなのに愛し愛されている者を見たときの葛藤や虚しさが書き連ねてあります。
ここまで全体的に重苦しい印象を書いてしまいましたが、決してそれだけでなく、純文学と呼べるほど透き通った文章にもう始終感動しっぱなしでした。
このDESPERADOシリーズが始まったのは20年も前なのですが、
7歳差の恋人達をはじめ、スラム街の日常や関わる人物達の
深みのある描写はとても読み応えがあります。
日常に起こる人間ドラマと善悪では割り切れない事件の顛末は、
渇いた異国の街の空気に溶け、哀しくもやがて消えゆく余韻に惹かれます。
「あんたは、馬鹿だ」
恋人のアンソニーから事あるごとに言われるクラークですが、
この言葉には愛情深い罵詈と自嘲の反する意味が込められています。
真実を求め明らかにし、自分も傷付くのにそれでも事件を追う、馬鹿。
何よりゲイでないのにこんな自分に惚れるなんて、馬鹿。
恋人の枷になっているという自責と、2人の愛情が永遠ではない
事への不信感がアンソニーを追いつめ頑にさせてしまいます。
産みの親に捨てられ育ての親に先立たれ、出生を隠して父に会うも
唯一の肉親に自害されたアンソニー。
片や相棒だった刑事を事件で亡くし、妻と生まれてくるはずだった
子を事故で亡くしたクラーク。
この孤独な2人が出会い、分厚く覆っていた心の鎧を1枚ずつ捨て
ゆっくり歩み寄ってきたのに、まだどこかで相手を自分を
信じきれていなかったのですね。
気遣うことで離れてしまう恋人を、遮二無二求めて傷つけた
クラークを誰が責められましょう。想う気持ちに偽りはないのに。
今回の事件の真相は、愛情深い優しき人達が、大切な者をただ
守りたいがために偽った事実によって起こった事でした。
幾重にも重なった優しい嘘が連鎖した結果、新たな事件を引き起こし
アンソニーが銃弾に倒れてしまいます。
それでも、彼が天性の勘で掴んだ真相のヒントを託されて走る
クラークの姿は愚かで愛おしいのです。
他、恋敵でクラークとアンソニーの仲にちょっかいを出していた、
ハンサムインテリ青年ダニエルの、罪の告解であり心抉るような
愛の告白でもある短編が収録されています。
14歳にして自身の性癖を自覚したダニエルが、初恋の人へ向けて
綴る手紙という形なのですが、厭味なくらい爽やかで飄々としていた
彼の生い立ちと今に至るまでに、葛藤と抑圧がどれ程だったかが胸に迫ります。
「ぼくが愛した誰かに、ぼくは愛してもらいたかった」
彼が起こした事件は善悪で割り切れるものでないと、この告白を
読んで思ったのでした。