こにしそる
vol.1に続き、 柏枝真郷さんのDESPERADOシリーズで未発表だった第2話を同人誌として刊行したもの。
探偵クラークとその助手兼恋人のアンソニーが同居を始めて1年未満の頃のお話です。本編では出会って5年…くらいまで既に進んでいますので何だか新鮮。
こちらは短編2作入っていて、後編のほうが書き下ろしだそうです。
どちらも糖度は低めでやはり事件主体かなぁという感じですが、内容はやはりよく出来ています。短編ながらによくまとまっているし、事件の真相も本格ミステリさながらです。
この作者さん、毎回歌の歌詞をテーマにしてタイトルをつける事が多く、その歌詞も実際その時の時代背景にあった歌をモチーフに作られています。
歌の歌詞や手紙のフレーズが端的に心をうつ言葉を選んで書かれていて、そこがいつも感心する所なのですが、今回被害者となった男の子が恋人に残した手紙のフレーズが何だか凄く心に残りました。
お話としては、これから始まる2人の「2人でどう生きていくか」という長い葛藤に対するさわりの段階だと思います。
これは「DESPERADOシリーズ」の時系列として
第2話にあたり、小説道場に投稿した後
お蔵入りしていたそうです。
vol.1と合わせて21年振りの改稿と同人誌という形で
発行されました。
出来ましたら、vol.1から続けて読む事をお勧めします。
3年暮らした住処を離れ、クラークが住むこの吹き溜まりの
スラム街にアンソニーが来てから数日。
ゴミ溜めになったアパートの掃除を、プリプリしながらも手際よく
こなすアンソニーと、全く役に立たず小さくなっているクラークの
力関係の逆転が面白い。以後、アンソニーは海より深い母性愛で
何くれとなく世話を焼くようになるのですよ。ほんと嫁に欲しい。
今回、同人誌を読んで腑に落ちた点と逆に疑問な点があるのですね。
まず本編では、アンソニーがどうしてこう頻繁に不安と疑念を
口にするのがが疑問でしたが、納得しました。
出会ってたった2日、しかもノンケのクラークに求められ
共に暮らす事になった成り行きは夢のよう。一時の衝動に
過ぎないのではと疑心暗鬼になるのも無理はありません。
元々耐えることと諦めることには慣れていたアンソニーなので、
幸せと不安が比例してしまうのです。
その点、調査の勘は鋭いのに恋愛となると鈍感馬鹿になる
クラークには、まだまだ理解の言葉と時間が必要のようです。
でも、恋人が同性であることを隠さないオープンでフラットな
感覚の持ち主ではあるのです。
これに関しては、むしろアンソニーに抵抗が見られますね。
クラークの義父で高名な弁護士とアンソニーの対面が、
わずかながら書かれていて印象的でした。
最愛の娘を亡くし、自暴自棄になっていたその夫で義理の息子が、
今度は同性の恋人を連れてきた訳ですが、
「娘には娘の役割があった。君には君にしかできない事がある」
とアンソニーを認め背中を押してくれます。
老練な弁護士は、ぐうたらでずぼらなクラークの態度と成りを
会うたびに諌めますが、心から彼と彼の人生を思っているのでしょう。
いい年したクラークが遅い反抗期のようになるのも、
それを軽くやりこめる義父も、言葉にこそしませんが信頼と親愛が
確かに感じられます。
そして、本編では一切描写がなかったので驚いた、
クラークが身につけているある物について。
彼の心情の変化を表す重要なアイテムなので、
きっとこれが外される時にまたドラマがあったのかもしれません。
今回の同人誌でも商業誌でも、言及されていませんので
ちょっとした謎になりました。
このシリーズは何故か5作目から読み始めたのですが、
エピソードとしては巻毎に区切りがありるので
きっとどこからでも読めると思います。
BL作品というより同性のカップルが出てくる文芸書に近いと、
個人的には思っています。人間ドラマあり、推理物あり、
社会や時代を反映しつつも程良い重さのあるシリーズです。