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心に深い闇をもった男の過去とは? 心の救いを描いたヒューマンラブストーリー。
木原作品ということは大前提で、いまさらそこに関しては書きませんが思いっきりネタバレありなので注意してください。
この話は手(特に右手)がキーワードですよね。
作中で河瀬(攻)が柴岡(受)に「俺のこと、好き?」と問いかけるのに対して柴岡が「君の右手が、一番好きだ」と答えるシーンがあるんですが、なぜ右手なんだろうと思いながら先が気になりそのまま読みすすめたんです。
確かにそれまでにも右手の甲にキスをするシーンはありました。
そしてラストシーンにきて柴岡の「いつも君は私の手を引く。だから…助けてもらえるんじゃないかと勘違いする」ではっとしました。
読み終わってから急いで読み返すと、最初にあるじゃないですか!手を引いてもらうシーンが!
それまでも健康的でうらやましい(?)という気持ちはあったようですが、このシーンで柴岡が恋に落ちたとわかって絞り出すように涙が出ました。
その後も探せば出てきます右手が。
最後の最後でも、右手の下の砂をさらうという状況が何かを表しているんでしょう。
それにしても木原先生の作品にしては珍しくずっと河瀬だけの視点だったのが印象に残りました。
この作品は柴岡視点を書いてしまうと成り立たない話なので必然ですよね。
ちなみに河瀬が柴岡を好きになるのも当然な流れだと私は思いました。
ですが河瀬から気持ちが返ってくることなど微塵も期待出来なかった、勘違いすることさえ自分で許せなくなってしまうような柴岡のこれまでの人生がとても辛かったです。
追いかけてくれる河瀬に出会えて本当に良かった。
死ぬほど続きが読みたいけれど、まずはハッピーエンドで良かった。
木原音瀬さん、何を読んでも最後にう〜んんん、と唸ってしまう作品がほとんど。
こちらの作品も重い方に唸りました。
(軽かったり、萌があったりする作品もあるけれど、それでも“やられた!”って唸っちゃうんですよねw)
萌ドコロはオヤジ、でしょうか。でも普通じゃないんですよね、このオジサン。
そして、人間の情ってどういうものなんだろう、って。
河瀬がはまり込んでしまった迷宮というか逃げられない袋小路と言うか。死ぬか、抱えるか、の究極の選択が自分に課されたら?そして抱えることで自分にも拠り所が出来てしまったら?
その関係を断ち切ることが出来るのかな。難しい。わかんないですね。
だから、河瀬の行動を普通じゃないとか、有り得ないとか思えない。
そして、柴岡も少年時代に母との関係や、母を愛してしまっていた(それは単なる情だったかも知れないが)、なのに裏切られたという壮絶な人生を歩いてきただけに、こうなっちゃったのかもな、って。
母親に対してもっと拒否できていたら、違う人生だったのかも知れない。
父親宛の遺書を読まなければ、通り過ぎた愛を糧に次の恋人を見つけられたのかも知れない。
「だから…助けてもらえるんじゃないかと勘違いする」
柴岡も死ぬと決めながらどこかで足掻いてたんですよね。
最後には河瀬が柴岡を好きになったことで救われるお話には成ってはいますが、なんとも言い難い気持ちになりました。久しぶりにガッツリ来た木原音瀬さん作品でした。そして、日高ショーコさんのイラストがハマり過ぎててヤバい。
映像を書き起こしたかのような情景描写と、細やかな心理描写で終始描かれた作品でした。小説というよりも手記のようなスピード感で、自分はいったい何を読んでいるんだろうと途中で我に返ってしまいました。
萌えも特になく、明らかに「しゅみじゃなかった」のですが、評価確定済みだったので「萌」の評価になっています。(多分昔は柴岡に深い人間性を感じたのだと思う)
気になった点を書き留めておきます。
1. 河瀬という都合の良い人物
この作品の主役は受けの柴岡です。攻めの河瀬は、柴岡の説明役です。柴岡は理解不能な人物である、しかしそれには理由がある、ということを説明するために用意された人物が河瀬なのです。
そのため仕方がないのですが、簡単に柴岡に翻弄される河瀬に「おバカすぎない?」となってしまいました。柴岡の挑発にすぐにイラついて、嘘を簡単に信じて、うまくいかない状況に思い悩む河瀬。もう少し学習能力がほしいなと思いました。
それに加えて、もう見限ってもいいだろう場面で思い直すスイッチが入る(サイレンの音で怒りが収まる場面とか)ので、「いやいや都合が良すぎるって」となりました。
また河瀬が柴岡に好意を抱く変化も強引に映ってしまいました。自分の体を再び差し出したあと、柴岡に対してすぐに好感を持っており、素直な性格に変わっています。彼女には尽くすタイプという説明がここでなされていますが、そんな人物にはとても見えなかったので、もろもろお粗末だなと感じました。
2. ラッキーな柴岡
柴岡は本当に面倒くさい人物です。申し訳ないですが、私には臆病で性悪の死にたがりなメンヘラにみえました。「もうそのまま一人で閉じ籠もっていればいいじゃん」と思ってしまいましたが、河瀬は本当に良い人でした。
柴岡のような訳アリの人にとって、河瀬はとても有り難い存在だったと思います。厄介な自分を諦めないでいてくれて、いつまでも気にかけてくれる。重い人生を背負おうとしてくれる。
柴岡のために用意された人物ですが、それでも柴岡は救われただろうなと思うと、良かったなと素直に思えました。
作家さんは過酷な人生を柴岡に歩かせていますが、救いも用意している。そのギャップで希望を描きたいのだろうと解釈しました。
3. 柴岡の強靭なメンタル
柴岡は15歳で母親と関係を持ってしまいました。「普通」でなくなった柴岡は、そこから約30年もの間、「普通」に憧れてきました。大抵どこかで吹っ切れるでしょうに、こだわり続けたそのメンタルは強靭だと思いました。ある意味、子どもの頃から何も成長してこなかったのかもしれません。
また、「普通」に見せようと真面目に取り繕ってきた律儀な柴岡。その点も素晴らしいと思いました。柴岡はもっと自分を認めてあげてもいいと思います。
4. 子どもと親の会話
同棲中の柴岡と河瀬の会話。
自分の世話を焼く河瀬に対して、柴岡は「面倒を見てくれと頼んだことはない」「君が勝手にしていることだ」と言います。
ここのやり取りは、まるで「あんたが勝手に産んだんじゃん!」という反抗期の子どものようでした笑
そう簡単に見限れるわけがないのに挑発してくる。河瀬は柴岡の親でもないのに、親が子の命を背負っているのと同じくらい、柴岡の命を背負ってしまっていて、自業自得なんですけど可哀想でした笑
柴岡はそんな無鉄砲な人に出会えて本当に良かったですね。河瀬とどうなるかわからなくても、もう十分救われたような気がします。まだ48歳ですし経歴も十分ですから、未来は明るいです。
5. ラストシーンが秀逸
二人が初めてむき出しでぶつかり合い、心を通わす場面には心を揺さぶられました。この場面における柴岡のか弱さと、河瀬のまっすぐさが好きでした。早く話し合えば良かったんだよ。。ここまで長かったな。。
この作品で新しい扉を開いてしまった…。
最初のしっかりした印象からのギャップが激しくて、後半は痛々しいのに萌えてしまった。
面倒な男ではあるが、とても魅力的な人物だと思う。
放って置けない危うさがあって、河瀬が気にするのも無理もない。
何回も繰り広げられる○○騒ぎにヒヤッとした。
かなり長い話なのに、続きが気になって一気に読んだ。
柴岡ではなく「男」と表記しているのがとても印象的。
二人の微妙な距離感がよく表れていると思う。
何回も読みたい作品。
「じゃあ、本当の話をしようか」
めっ
っっちゃ面白かった!すごかった…!!
「ラブセメタリー」を読んでからであれば更に怖さが増すと思います。今作は恐怖や人の奥底がよりリアルに緻密。主人公河瀬への問いかけはそのまま読者にゾクゾクと刺さりまくり、読んでいてその臨場感と作品の濃厚さに泣けました。
木原さんの作品はほぼ外れなく面白いのですが、今回はことさら畏敬の念を抱かずにはいられません。
多くの作品で彼女は、社会的に取り残された者、平凡に社会生活を送る者、みすぼらしい中年、エリートやマイノリティや障害者を、BLを保ちつつ立体感をもった生々しさで描きます。
固定観念や一般的なイメージから抜け出したその人達の豊かな風合いが彼女の作品の魅力の一つです。40代アルバイトの谷地さんも、前科3犯の百田も、腕はいいけど性格最悪の谷脇も、神様の新も。
それは小説だけでなく日常での他人を見る目への問いかけでもあります。
柴岡の心中や人生は、多くの人にとって気持ち悪い、理解し難い、可愛そうや悲劇という感情を伴うであろうものなのですが、木原さんはそんな色を付けずに描いていると思いました。作中に出てくるように、彼らにとってはそれが普通であるからなのですが。
彼女の文章にその立場の人達への誠実さと真剣さ、眼鏡の透明さが表れていて、あぁこういう人だからこの人の本はどれも面白いし、クズ中のクズでも愛しくて笑えるんだよなぁ、と思いました。そして書かれるサインも丁寧。
だから「ラブセメタリー」も、あれだけ深刻で闇深く胸糞悪い題材と内容でも、自分の甘さにどれだけ責められているような気持ちになっても、それだけではない空気と後味が残るのです。今作とキーワードが少しリンクしているため、しつこいほど作品名を出し長々偉そうに語ってしまいました。
このお話のキーワードは「普通」「擬態」「本当と嘘」
「心の中に闇なんてないんだよ。自分は自分でしかありえない。」という台詞が素晴らしいです。そして自分とは全く違った生き方考え方をしてきた男が何を言い出すか分からない。
柴岡が本当の事を話そうとする時の緊張感と恐怖、そして飄々と嘘をつかれ混乱して、どんどん河瀬は巻き込まれて悪い方へ向かっていく。
話が進めば進むほど主人公の河瀬の生死に関係なくなっていくのにこのスリルは凄いです。それだけ思考への直撃は恐怖を禁じ得ません。
最初の異動願い取引云々は「そんな会社辞めちゃえよー!」だとか思うしお話の強引さも目立ちました。その“取引”はBLなら通常、『それでも快感が…』とか言いそうな所、今回は気持ち悪さと恐怖に覆われているのが強烈にリアルで、その後延々と続く罪の意識は全く地獄で圧巻でした。
散々おどろおどろしい展開で読み応えが半端なく、「これはBLじゃない!一般だ!」と大海原を感じた途端に、魔性が現れます(笑)
中年の色っぽさと滑稽さを描かせたら木原さんは一等です。
河瀬が聞きたい時だけ話す事を許可するのも、すぐ死のうとするのもシュールなロボット(そしておじさん…)みたいで可笑しい。あんなに有能な上司で支社長だった男なのに。
食欲が死欲に替わった3大欲求のみで生きる柴岡、そこから情がわくのは少々体が良い気もしなくもないですが、それが柴岡の本質の一つなのだとすれば河瀬が認められたのはこのお話の救いですし、こちらも認めないといけません。
自分が触れられたようにしか触れられない不器用さ、諦めとやり切れなさどうしようもなさ、最後まで救いがあるようで気休めかもしれない。本当に人は複雑で容易くて且つなかなか変えられなくて、心の底から愛が欲しい生き物だなぁと思いました。
生きることに対して私もさほど熱望も絶望もないので、柴岡があの後生きる気持ちを持てるのか思いつきませんが、彼も今までの考え方以外を河瀬から得られるといいですよね。そうすれば次第と整理整頓されていくかと。