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ピュアな二人の、じれったいくらいピュアなラブストーリー。
木原作品に往々にして登場する、社会適応できないキャラクター。色々な作品でこれまでに何人も見たけれど、わりと自尊心の強い性格の人が多かったと思います。対して、本作に登場する加賀は、同じ社会適応が難しい難儀なキャラでありつつ、後になって自分の言動を悔やんだり、俺はだめだと思って落ち込んだりするタイプで、木原先生の作中では珍しい部類かもしれないです。
本作は連作短編集になっていて、「place」「liar」「slow」「thought」の4本が収録されています。「thought」はちょっと後日のSSなので、実質3作品。
1作目の「place」では加賀の激しい性格に驚いたものでしたが、2作目「liar」では加賀の良さがすごく良く分かる作りになっています。
彼は本当に不器用で、相手が誰であれオブラートに包むことなく真正直に発言する。大人なんだからもっと上手くできるだろうと思うものの、「Liar」においては加賀の言動にすがすがしさすら感じるのが心憎かったです。周囲と衝突不可避だけど仕事ぶりは真面目だし嘘を吐かない。気付けば加賀を応援している自分がいました。
加賀の恋の相手である横山は、人当たりよく穏やかな性格で仕事のできる人として描かれています。でもその優しさ穏やかさは諦念から来ていることや、背中に生えた天使の羽根という秘密から来ていることを読者は知っています。
神様ではないから心の中を読むことはできないけど、嘘か本心かを見抜くことは出来る。素直な加賀なんてうってつけなわけです。
割れ鍋に綴じ蓋なのに、まあ上手くいかないこと。二人が上手く意思の疎通が出来ていないともどかしいし、お互いに言葉が圧倒的に足りてないということに焦れるわけです。よくできています。
3作目「slow」は本当にじりじりしました。サポート側だったはずのさおりが参戦するわ、加賀は横山に色々なことを黙っているわ、報連相!!と首根っこ掴まえて怒鳴りたくなりました。横山が気の毒でした。
天使の羽根がとても綺麗です。
羽根だけど、羊みたいにモフモフしているイメージです。
猫のしっぽみたいに、頬を撫でたりできるのが良きです。
あとがきで、「天使の羽に夢がありません」と書かれていて、ちょっと吹き出してしまいました。
HollyNovelsです。私はこのレーベルが殊の外大好きです。
このレーベルで木原先生の担当をされていた方は、今どうされているのかが気になります。
まず最初に、コレは本当に木原音瀬さんの作品なのか?!と思うくらい純粋な恋愛のお話です。いやぁ、読みながら、実はどこかでどんでん返しがあるんじゃ無いのか?この人は実はチョー性格悪いやつで…とか、疑りながら読んでしまうという(笑)
木原病を患ってしまってるかも。一応、ややこしいもの担当!で、さおりと今瀬という登場人物は出てきますが…
二段組で、心して読まねばと思ってましたが、読み進めるに従って、これって純愛もの?学生の恋愛?と思うくらい二人共が純粋に「好き」という気持ちに揺さぶられ、相手に対する気遣いとそれでも独占欲にかられた嫉妬とに振り回される。
確かに、横山は羽根持ちというファンタジーかつ作中では奇形として扱われる問題を抱えています。加賀の方は嘘をつけないストレートな物言いで、周囲からは距離を置かれる問題児扱いのゲイ。
この辺がややこしい二人の関係がすんなりとは進まず、イライラしちゃうところではあります。二人の心の動きが深く、また優しすぎたり、卑屈だったり、面倒臭い。ここが木原さんぽいのかも(爆)それが物語をリアルに、感情移入させてるんだろうなぁ。
でも、お互いに好きって気持ちは変わらずなので、何だかんだとあっても、見守る気持ちになれば、ほんわかと第三者目線で楽しめます。
ま、最後の横山の叔父へのカムアウトと加賀の母親へのカムアウトの対比は現実的で、みんなまーるくハッピーエンドにならないってのは、私は却って良いなと思いました。
評価は中立にしましたが、さすが木原作品です。
普通に読み応えあるというか、イライラするのもマイナスな感情ではありますが、心揺さぶらしてくれる作品です。
攻めに羽が生えている!?と思ったら比喩でもなんでもなくマジもんでした。
でもファンタジーさはちっともちらつかず、あくまで現代リーマンもの。
過去にその翼で受けを助けたという偶然は、いつもよりロマンチックすぎる気もしましたが。
どうにもこうにも序盤から受けの加賀にストレスを抱えてしまいました。
仕事はできるが辛辣な物言い。いくら真っ当なことを言っていても敵をつくるタイプ。
おまけに好きな人相手だとその態度は一層激しくなるうえに恋愛に対して臆病だからちっとも進展しない。
ウジウジした加賀を叱る親友さおりがいなければ辛かった…。
木原作品でこんなに苦手な感情を抱いてしまう受けは初めてでした。
好きで好きでしゃーないのに酒の力がないと素直な言葉は出てこないし、奇跡的に付き合うことになっても誘うのは横山からのみ。
誘われないと不安になる、でも自分から誘って断られたら立ち直れない。
横山の昔好きだった女なんて見たくない。
でも自分はゲイだしさおりは親友だから、頼られればそれに答えるのは友として当然。事情が事情だから恋人も二の次になってしまう。
それに対する横山の不安や嫉妬なんて微塵も考えられない。
などなど。
好きすぎるのに子どもな加賀はちっともデレられないため悶々としたものが長く続きお腹いっぱいになってしまいました。
おかしいな、このグルグルさが魅力でもあるのにこの作品だけはだめでした。
横山さんが良い人すぎて幸せになってくれとは思いましたけどね。
「thought」は加賀の母親が登場しますが、これまたストレスたまるお話で、一回転していやもう凄いよ!となりました。
加賀はゲイで好きな人にきつく当たっちゃう。横山は翼を持っている。
言えない事をちゃんと口に出すことについてのお話だと思いました。木原さんの他の作品に比べて毒が少なく清々しさすらありました。
おもちゃを扱う会社でのやり手二人。横山は思考の柔軟性故に加賀を意識し始めるのですが、その思考回路と想像力!仕事できる人は違うね〜という感じでした(笑)
思った事を遠慮なく言う無神経さすらある加賀は、ゲイだということもあり自分の気持ちだけは素直に言えない(飲み会で避けられるのリアルだしちょっと可愛いな…)。横山に恋をして意識すれば更にキツく当たって自己嫌悪。最後の最後まで、恋人になってもうだうだと素直になれず、只の友人のさおりが泊まりに来てることすら言わず、電話してと言われても出来ず。最後の最後残り数ページでやっと、横山が促して気持ちを口にするのです。
書き下ろし「thought」では一番の難関、相手と自分の家族に同性の恋人を紹介するお話ですが、横山の叔父にハッキリと気持ちを伝える(酔ってはいるけれど)加賀の成長にじ〜んと来ました。
横山は背中の羽根さえなければ普通に女性と結婚した普通の男性。読んでいても加賀がとんでもないから、彼は全く普通に生きていけるんじゃ、と思ってしまいます。彼自身父親と同じ羽根を持つ事に関して否定的ではないけれど、虐めや変な目で見られることを知っている(正直この辺り書いて欲しかったです)。だから昔好きだった女性にも言えなかった。自分の羽根のことを言えたのは加賀ひとり、そして叔父だけです。
もしかしたらその女性に打ち明けても大丈夫だったのかもしれません。でも加賀は羽根を見て「すごく綺麗」と言った。その嬉しさに勝てるものは無いと思います。普段自分の気持ちをあんまり言えない加賀が素直に口にした数少ない言葉が、最後の書き下ろしで出てくるのでグッときました。だからちゃんと気持ちを言うのは大事なのだと教えてくれるようでした。
叔父も横山も気にしていた欠点を、慰めるでも気にしないでもなく愛すべき点として受け入れてくれる人と出会えた事は本当に幸せだろうなと思いました。それは加賀にも言える事ですが。
加賀の友人さおりは、ゲイである彼の事を心底好きで諦めきれない。物凄くさっぱりとした性格で加賀を勇気づける姿はカッコいいですし、どうしても気持ちを口に出せない加賀と読者にハッパかける役割です。それでも後で疲れちゃうんだけど…
彼女のこの言葉がこの本の中で一番好きでした。
「良太は…きっと女の人と結婚しない。一人で生きて、一人で死んじゃうのよ。私はこの子を良太だと思って、好きになるの。きっとこの子は私のことを愛してくれるわ。良太はいなくなるけど、良太を好きな私の気持ちはずっと、この子に受け継がれていく。だから良太って存在は、ずっといつまでも残るの」
天使の羽を持ち、嘘と本当を感じ分けることのできる穏やかで優しい横山と、きつい性格で容赦ない口調の隠れゲイ・加賀。二人は玩具メーカーで先輩後輩として出会います。二人の共通点は、これまで誰とも付き合ったことがないこと。秘密と寂しさを抱えながら生きてきた二人が、互いに惹かれ合い、戸惑いながらゆっくり恋愛の過程を歩んでいく描写が、じれったくて切なくて。
これまできつい態度だった加賀が酔った勢いで告白してきて、横山はそれが本心だと天使の力で知ります。加賀の好意を素直に表せない不器用さと、真面目で裏表のない仕事ぶりが相まって、横山は加賀を人として好きになっていきます。そして、加賀の美味しい手料理に心をつかまれてしまい、いっそ自分が加賀を恋愛対象にできたら上手くいくんじゃないか?と考えます。横山の発想の柔軟さと飛躍が、とても面白くて。
恋愛対象として加賀を見始めた途端に、横山は恋心に翻弄され、告白もしないで加賀を抱きしめてしまいます。振り幅の大きさに、ドキドキが止まりませんでした。この後、怯えた加賀に横山は突き飛ばされてしまうのですが (笑)。
加賀は怒りを発散するのは躊躇ないのに、好きとか会いたいとか、相手を欲しがる感情を出すのがものすごく苦手で、恋人同士になってからも、横山を寂しくさせてしまいます。今まで恋愛がうまくいったことがなかったから、経験値不足もあるのですけど、そういう感情を出すのが恥ずかしい気持ち、懐かしく、身につまされてしまいました。
だから、さおりは、恋愛に臆病な加賀にとって、親友という名の逃げ場だったのでしょうね。加賀は横山と二人でいるときに、さおりの呼び出しに応じて、横山を悲しませてしまいます。結局、さおりは加賀の心を手に入れられないと分かっているから、加賀を突き放して去っていくのですが。
逃げを打とうとする加賀を許さず「子どもみたいな言い訳ばかりしたって駄目だ」と叱る横山と、やっと素直になって、「…俺…横山さんが好きだよ」と言う加賀。この場面が、とても好きです。
穏やかな横山が初めて見せた激しい振る舞いは、寂しさと切なさが溢れたせい。年上で仕事ができる横山だって自分と同じだと、やっと分かった加賀は、自分も横山を守っていきたいと思うのです。加賀の成長が嬉しく、心がしっかりと触れ合う二人が、とてもいいなあと思いました。「一緒に、恋愛をしていこう」といった横山の言葉が、これからの二人のお守りになるような気がします。
横山が天使と人間のハーフでなくても、この物語は成立するかもしれません。でも、天使の羽で思わず人助けをしてしまう横山のその羽は、彼の優しさの象徴に思えますし、もしかしたら優しい天使がこの世に紛れて、恋したり悩んだりしながら暮らしているのかも…と考えると、フフッと笑ってしまうような楽しさがこみ上げてきて。私は、横山が天使でよかったと思いました。
加賀の作る料理が美味しそうです。サバのおろし煮、トマトとしらすのあえもの、さわらのごま焼き、海老とみつばのあえもの。生活して、食べて、恋愛して。そういう積み重ねがあって、横山と加賀の関係が深まっていくのだろうと想像すると、二人の恋愛がとても身近に感じられ、幸せな気持ちになりました。タイトルの「Place」は、きっとそんな二人の居場所、心のありかのことなのだろうと思いました。