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途中、円のターンが曖昧なまま進み、どういうこと?何が描かれるの?と思いましたが、タイトルを思い出し、ああ、出会った場所で再会するのね、と思ったんですが。
それが、オレンジを落として偶然居合わせた相手が拾うくだりの再現での再会とは。
ちょっとそれは都合良すぎだし、そこ?!と思ってしまいました。
大人になって再会して振り返ってみたら、高校生の円には重すぎる家庭環境で、ああだったのも致し方ないなと。龍も。
子ども同士無邪気に恋愛するには過酷な状況だった。
そこはしっかり描かれていたなと思います。
暗渠、川、蛇、海のたとえが良かったです。
大人になって、自立してからようやく向き合える……というラストがしっくりきました。
爽やかな表紙の雰囲気、軽いタッチに反して、なかなかハードな人生を歩んできたキャラが描かれていて、読み応えがありました。本来男同士での性行為と切っては切り離せないHIVですが、意外と扱っている商業BLってまだまだ少ないですよね。人にもよるとは思いますが、ガンなどと異なり年月をかけてゆっくり悪化していき、徐々に弱っていく病気。その人の死に向き合う準備期間が長くて良いと捉えるか、いつ死ぬか分からない恐怖と長く付き合わなければならないことを嘆くか、周囲の人の考えもまた、人それぞれだと思います。
叔父と父親の関係性を間近で見ながら、たった1人でそんな問題と向き合ってきたマドの孤独は、一体どれほどのものでしょうか。龍や読者がいくら想像を巡らせたって、彼の苦しみの半分も真に理解できることはないでしょう。何不自由なく暮らしてきた龍を嫌いにもなれないけれど、彼の傍にいると複雑な気分になるマドに共感しました。もちろん龍が何か悪いわけではないのです。どんな家に生まれるかは運ですから。ただ、龍は自分で過去のエゴに気付くことができた。それだけでも十分な進歩だと思います。そんなものに気付かず一生を終える人の方がずっと多いと思うから。他人の気持ちを100%理解することができないからといって、その人と向き合い、付き合っていくことを諦める必要はない、そんなことを感じた作品でした。
懐かしの藤たまき先生
この作品は初めて読みましたが、記憶の中の藤たまき先生そのままでした。腕なんか折れそうで薄幸の…ただ口は悪い美少年と、優しいけれど若さゆえの足りなさがある少年のロマンス。
龍は攻められるほど酷いことをしたわけでもなく。家が持ち崩した割には育ちが良かったからか擦れることもなく。円を包み込むだけの心の大きさはしっかり育まれていて、穏やかな気持ちで最後まで読み切れます。
また今作は終わり方が好きで。結局挿入シーンはないんですよ!物理の「1つ」は今晩そうなったかもしれませんが、これから時間をかけて「1つ」になるんだろうなと思うと、それを見せなかったのもまたいい終わり方です。
先生このあとは小説の表紙や、新装版のお仕事しかされていないのかな。一般漫画や百合作品も描いてらっしゃいますね。
こんなに詩的なストーリーを紡ぐ作品は、滅多に出て来ない。…と思う。
BLとしてある程度「売れる」市場があるとして、ならばこの作品のような「詩的な」作品は「売れる」のかというと非常に微妙なラインと言える。
さて、本作「蛇崩、交差点で」。
タイトルからしてすでに唯一無二。
蛇崩交差点はなんと実在。東京都内目黒にあります。「蛇崩」…なんとも不吉な地名ですよね。
2人の男の子が、恋して、近づいて、すれ違って。
その過程が、川の流れが蛇のような濁流となって周りを崩していくイメージで。
1人の幼い男の子が、ある日可愛らしいコを見て一目惚れする。
ずっとそのコのことばかり考えて、見て、追って。
いざプレゼントを渡したいとなって、相手のコが「男子」と知る。
ショックを受けて、忘れようとするもやはり囚われ。
ある日、こぼれ落ちたオレンジをきっかけとして近づいていく…
10年来のストーキングを自覚する龍は、舞い上がる。
そうして近づく2人。でも円には影がある。
それを見ても若さゆえ自分のことばかりの龍。
何も話してくれない円。円だって自分のことばかり。
…とこんな感じで、「青春」なんですよ。
うまくいかなくて、誤解とすれ違い、ちょっとしたことで舞い上がり、落ち込み。
特にこの2人は、金持ちのお坊ちゃんとワケありの少年。すんなりうまくいくわけもなく。
円の境遇には同情する。のちに明かされる父の病気や叔父との長い不和、そんなものを抱えた円が贅沢な龍とうまくいく訳もないのよね。
ヒリヒリと物語は続き、ついに決別の時がやってくる。好きなのに「お前なんか!」としか言えない円の苦しさと、自分は悪くないのにやはり罪悪感を抱かざるをえない龍の不均衡な立ち位置。
そこから数年の時が過ぎ、偶然の再会。
少年の時は言葉にできなかったあれこれ。今2人で共有する事が出来るようになってからやっと2人は同じ場所に立てた…?
2人のすれ違う心の揺れ。特に円が背負う生きづらさ、人に言えない苦悩。
龍の優しさにすがってしまうひととき。心に蓋をして表面的に楽しい夏の日。
やはり分かり合えてなかった恋人の心。
全てがなんとも詩的で、心が震える。
裕福な家庭で何不自由なく育った龍一となんだか訳あり家庭で育った円
龍一は10年に渡って、交差点で擦れ違う円に片想いをしていたけど、ある出来事がきっかけで急接近します。
初めて言葉を交わした後のとどまる事を知らない高揚感が、体の隅々まで染み渡る水道水やオレンジの芳しさなどを伴ってどこまでも立ち昇っていくように感じられました。
だんだんお互いの距離が縮まっていく過程もその高揚感が続いていて、読んでいるこっちも彼らの心臓の鼓動が伝わってくるようです。
お互いを知っていく過程で、何らか円には抱えているものがあり、それを自分は共有できていない事も判っている。
そういった物を含めて円の事を優しく包み込みたいと思っているのだけど、目の前の恋に夢中になってしまって円の心の奥底までは辿り着けないのは若さのせいか。
そして龍一と円は住む世界が違いすぎるというか・・・
行きつけのビストロやレストランがあり、スーツをあつらえてリストランテへ行く。
オーシャンビューのホテルに泊まって海を眺めながらテラスで食事をとる。(高校生ですよ・・・。)
かたや円は海どころか大きな川も眺めた事がなく、病弱な父と時々訪ねてくる訳ありげな叔父との生活。
龍一は暗渠の上に限りなく広がる美しい世界を見せることでその暗く閉ざされたものの存在を忘れさせようとしたんだと思います。
しかし、忘れるのはいっときに過ぎず、かえってその明るさが自分の抱えるものの暗さを際立たせ、
そして龍一が当然として持っているものと自分が持っていないものの違いに余りにも惨めなものを感じたんじゃないかなと思います。
言葉の選び方、連なり方が詩的でうっとりする箇所がいくつもありました。
それらの言葉の数々と星屑のまたたきが美しい夜空や繊細な絵柄と相まって、ファンタジーの世界を読んでいるような気分になりました。
だから普通なら、二人が初めて言葉を交わすきっかけとなったアクシデントと全くアクシデントが数年後にも起きて偶然にも再会という、まるで昔のトレンディドラマみたいな運命的偶然&再会の手法には萎える方なんですが、この独特の雰囲気のおかげで違和感なく受け入れる事が出来ました。
欲を言えば、二人で何とか打破するみたいな展開が好きなので(二人で支え合う、共依存みたいな構図が好きなので)二人が離れている間に円の悩みは全て解決して、再会した後に事後報告みたいな展開がちょっと拍子抜けしましたが、円の抱えていたものが複雑で、当時の若い二人では手に追えなかったかな。。。。
と考えると、別離の間に問題解決→再会、がストーリー展開としては一番現実的だったのかしら・・・なんて。
あと本当にすっごくくだらないんだけど、円がやってたタンクトップを背中側から掴んで脱ぐというのが目から鱗で試したくなって、わざわざタンクトップに着替えてやってみたらできるもんなんですね!腕がつりそうになったけど・・・
私がトピ立てした「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」
http://www.chil-chil.net/answerList/question_id/4967/#IndexNews
で教えていただいたのがこちらの一冊。
何度も読んで噛み締めたくなるような、まるで詩集のような作品でした。
ちなみに一番気に入った文章は「春の月が妖しく滲んでいる」です。
教えてくださり本当にありがとうございました。