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表題作疾風に恋をする

若松半次郎,29歳,人気役者
美馬英介(本名 馬場栄吉),20歳,東京から大阪に移ってきた新人役者

その他の収録作品

  • 疾風に勁草を知る
  • あとがき

あらすじ

震災後の東京から大阪に移ってきた新人役者の英介(えいすけ)。大阪のやり方も古くさい旧劇も気に入らず、英介は周囲から浮いていた。だが人気役者の若松半次郎(わかまつ・はんじろう)に窘められ、彼の懐の深さと確かな実力に認識を改めていく。折にふれて半次郎に構われ、嬉しさを隠しきれない英介。そんなとき現代劇で半次郎と共演することになる。だがそれを快く思わない人々がいて……? 大正時代の大阪を舞台に、疾風の恋の幕が開く――!!

作品情報

作品名
疾風に恋をする
著者
久我有加 
イラスト
カワイチハル 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
疾風に恋をする
発売日
ISBN
9784403524417
3.9

(30)

(8)

萌々

(13)

(9)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
6
得点
119
評価数
30
平均
3.9 / 5
神率
26.7%

レビュー投稿数6

映画黎明期

英介視点の表題作がp150ほど+半次郎視点の中編「疾風に勁草を知る」がp50ほど

表題作は二人が大阪で出会い、活動写真や映画を撮る中で両想いになるまで。
中編は上京し本格的に映画を撮るようになり、時代の荒波で検閲が厳しくなってくる中、いかに英介が自由に演技できるかと心をくだく半次郎の話


関東大震災直後の大阪。
震災により焼け出されたたくさんの人が大阪に流れ込んできています。
地方巡業の旅一座から映画会社に転職するはずだった俳優の英介(受け)もその一人で、大阪での活動写真への出演を余儀なくされます。
旧いタイプの時代劇ではなく現代劇がしたかった英介は不満な態度を隠しません。
そんな英介を窘めるのは人気役者の半次郎(攻め)でした。東京からきて不自由しているだろうとなにくれとなく英介の世話を焼き、隣家の家事に巻き込まれ行くところのない英介を自分の屋敷に連れていくのでした。

英介は兄弟の多い貧しい家に生まれ、口減らしで働きに出されるところを旅の一座に拾ってもらい役者をしていたので年齢の割にキャリアは長いです。
地方巡業で様々な経験をしているため、端正な見た目とはかけ離れた、豪胆で冷静な判断ができる人物です。

半次郎は上方歌舞伎の名門の御曹司ですが、妾腹のためその後継を巡っての騒動から逃れるためもあり、家を出て役者となりました。歌舞伎役者としての華も才能があるため、正妻及びその息子以外にはとても残念に思われています。
外国から入ってきた映画に興味を持ち、いずれはトーキー映画の時代が来ることを見越す、先を読む力も持っています。

時代としては活動写真からトーキーへと進む過渡期の話でとても面白かったです。
映画界激動の時代のドラマを見ている気分になりました。

はじめは不満たらたらで活動写真に出ていた英介ですが、半次郎に諭されてからは自分の未熟さを反省し真摯に今自分ができることをがんばるようになる潔い姿勢はよかったと思います。また、見た目に反してその生い立ちや経験から、しぶとく苛烈な面もありギャップがすごいです。
ゴタゴタに巻き込まれた時も、状況を冷静に判断し、ヤクザに対してもひるむことなく反撃し放つ啖呵は半次郎も、惚れ直したことでしょう。
ただ、半次郎に対する10代半ばのような子供っぽい態度や不満に思っていることを隠さない態度は、大人に混じって生活していたとは思えず少し違和感を感じました。自分を守り愛してくれる存在だと本能で分かっていたけど、素直になれなかっただけなのかな。

半次郎の生い立ちが絡むごたごたに巻き込まれるのですが、それ以外は、これからを予見し、興味を持った映画の世界へと活動の幅を広げようとする二人の話で、とても興味深い話でした。

表題作は英介視点なので、英介が構われるのが恥ずかしいと思いながらも世話を焼かれ、仕事もこなしながら半次郎に惹かれていく様子がとてもよくわかります。
後半の半次郎視点では、半次郎が英介にべた惚れな様子がよくわかります。英介が思うさま映画の仕事ができるよう、戦争の足音が聞こえる世相を予見し予防策を講じる姿が描かれています。前半はツンデレ気味な英介も両想いになってからは、役者として半次郎と張り合う気持ちを持ちながらも愛情を隠すことはせず、半次郎が英介を守りたいと思っているのと同じように英介も半次郎を守りたいと思っているのがわかります。世情が安定しないせいで決して甘い気持ちだけでは生きていけない時代を一生懸命生きる姿がとてもよかったです。

カワイチハルさんのイラストが本当に素敵で、美丈夫な半次郎ととても豪傑に見えない繊細な顔立ちの英介がとても良かったです。

話も良かったですが、絡みもとても濃厚で普段強気な英介がとろとろにされ、半次郎に毎回後処理されるのニヤニヤしながら読みました。


5

なんたかんだで溺愛ストーリー

 受け様の英介は現代劇(映画)の役者を目指して映画会社に入社したのに、東京大震災で東京の撮影所がつかえなくなり、不本意ながら大阪に移り、旧劇の役者を務めている毎日。

 攻め様の半次郎は大阪の撮影所で旧劇の女形として役者をしている先輩。

 旧劇なんて、とくさっていた英介に、半次郎から自分が見えていなかった事柄を気付かせてもらった時、半次郎に対する見方が変わった英介。
また、この時素直に感謝した英介に対して半次郎も興味を覚えたんじゃないな。

 英介の住んでいた長屋が火事にあった事で半次郎の家で同居する事に。

 この英介、役者になりたくて子沢山の家から単身飛び出し旅の一座に加えてもらっていて、自分の努力と実力だけで頑張って生きてきた青年で、とてもいきいきとしていて魅力的。
半次郎のセリフじゃないけど、次はどんな顔を見せてくれるのかな、と目が離せなくなりました。

 対する半次郎も、歌舞伎の家の妾腹の子として生まれて本妻からは疎まれていて、妬み嫉みといった人間の醜い感情にさらされて生きてきたけど、その分優しくて器の大きい男前。

 英介が半次郎の身内の争い事に巻き込まれてさらわれた事で、お互いに相手が一番大事だと打ち明けて恋人となるわけで。
このさらわれた時の英介の啖呵ががっこいい。男前。
んで、英介がさらわれたと知って心配しまくって駆けつけてきたところで、その啖呵を聞いた半次郎。
もう惚れ直したね。もう手放せなくなっただろうね。

 本編は英介視点で、書下ろしは半次郎視点。
これは、うん…。
半次郎の惚気を聞かされたのかしら?というお話でした。
でも基本、私は溺愛物大好きなので、そうだよねそうだよね、という生暖かい気持ちでにまにましながら読みました。

 またカワイチハルさんのイラストが眼福ー。
着物の半裸っていいですね、うふふ。
口絵の着物姿の2人の抱き合ってちゅーもいいけど、後半にある肩甲骨が見える半裸の英介と抱き合って甘い顔した半次郎のイラストに萌えましたー。

3

(英介が)格好よすぎか・・・!

久我先生の現代ものも好きですが、個人的にはより時代ものの方が好きです。
今回は大正時代の大阪を舞台に、役者二人の活動写真への熱い情熱と、ちょっとしたお家騒動。そして花開く恋と言ったお話です。

内容ですが、震災後、東京から大阪に移ってきた新人役者・英介。現代劇を志していた彼は、大阪の時代遅れの旧劇に不満を抱き孤立するも、人気役者・半次郎の人柄と実力に触れ認識を改めていき-・・・と言うものです。

何故か勝手に芸人シリーズだと思いこんでいましたが、どうも違いました。とは言え、芸人シリーズの時代ものに相通じる所のあるこちらの作品。毎回久我先生の時代ものを読む度に思いますが、かなりしっかり時代考証がされてるんじゃないでしょうか。
確かな舞台設定の上に描かれた、その時代でたくましく生きる人々。否応なく時代の波に飲み込まれていきながらも、強くしなやかに生きていく主人公に、感動とも爽快感ともつかないものを覚えます。
ここに、半次郎の生家である秋本家の、歌舞伎の跡継ぎというお家騒動が絡んでと言った所です。

キャラクターも大変魅力的で、貧乏農家出身の為、その綺麗な見た目に反して負けん気が強く、雑草のようにたくましい英介。そして、面倒見が良く懐の深い半次郎。
最初はその生意気な態度や鼻っ柱の強さに、ややイラッと来る英介ですが、ストーリーが進むにつれ、どんどん魅力が増していきます。予想外の言動が、いい意味で最初の印象を裏切っていくんですね。
また、最初こそ男前で器のデカさを感じさせる半次郎。彼はですね、逆に後半に進むにつれ、恋人にデレデレになっちゃって、脂下がったオッサンと言う残念な感じになっちゃうのですが。明らかに、最初の方が格好良かったよ・・・。

あと、エロがかなり好みで萌えました。普段強気な受けが、エッチの時にトロトロにされちゃうのが好きなのです。攻めの欲望をこれでもかとぶつけられ、もう抵抗する力も残ってなくてすすり泣きしてたりするのが最高に萌える・・・!また、そんな受けに煽られ、なだめすかしながら、強引に事に及んじゃう攻めと言うのも美味しいです。

本編終了後に、攻め視点の短編も収録されてます。こちらは、英介がいかに可愛くて綺麗で色っぽいかと言う事を、延々と語っている内容になってます。いやもう、半次郎がびっくりするぐらい脂下がってデレデレになってます。幸せそうで何よりです。

この後、あとがきでサラッと書かれていますが、出征に戦争の終結等、二人にはなかなかハードな未来が待ってそうです。大変な時代だったんだよねと、今の平和な時代に感謝を覚えたりして。
と、ちょっぴりセンチメンタルになった読後感でした。

5

大阪芸能史の系譜です

大阪芸能史の系譜に連なる作品ですが、今回は落語界やなくて、映画界のお話。
映画が活動写真と呼ばれた無声の時代劇から、トーキーという有声の現代劇への過渡期を舞台に、東京から来た俳優と、関西歌舞伎出身の人気役者との出会いが描かれます。
大正末から昭和初めの時代背景や、東京と関西の撮影所の違いなど、こういう、ちょっと昔のお話がちゃんと描かれているのって、とっても貴重で、とても嬉しい。
それだけに、この現代サラリーマン物にしか見えないカバーイラストはちょっと残念でした。
作家買いしてなければ、こんな面白い本を見逃すところでした。

1

昔の大阪言葉がいい!

受けの英介は、関東大震災で被災したため東京から大阪にやってきた新人役者。
やりたかった現代劇ではなく、旧劇を嫌々やってるのを半次郎(攻め)にあっさり見抜かれて……

というわけだけど、この半次郎が色気したたるいい男でしたねー。

最初は、女形として登場するので、え?どっちが攻め?女形もやってるってことは攻めの身長、そんなに高くないんだろうか?攻めの身長は180cm超えててほしいんだけど……、でも「美丈夫」ともあるしそれなりに背丈あるんだろか?

と最初こそ戸惑いましたが、読んでるうちに、気にならなくなりました。


半次郎は梨園育ちだけど訳あって梨園を飛び出し、役者をしているんですね。
苦労人ということもあって、包容力たっぷり。
なにかと英介に目をかけて、あれやこれやとお世話しまくり。ふふ。

半次郎の昔の大阪言葉が良かったです。
色気が凄まじいことよ……。

東京育ちの英介に「ほれ、半次郎さんが好きや、て言うてみぃ」と大阪言葉を言わせようとするも、「俺に大阪言葉しゃべらせようとするときは大抵、やらしいこと考えるからいや」とプイッとされてしまった時の
「やらしいこと考えてるわしは嫌か?」と囁くシーン。
もう大好きでーす!!!って感じなんだけど、これ現代物だったら、どこのひひじじいの台詞なのよ?とドン引き確定ですよね。
でも時代モノだから、キャー!!って感じ。萌える。

一方の英介は負けん気が強くてきっぱりさっぱりしてて、なかなか面白いキャラでした。

最後「二人でなら、きっとどんな困難も乗り越えていける」と締めくくって、ふむふむ確かにそうかも!と思わせた後のあとがきで「英介は一度出征します」とあり えええ〜!!!っとなりました。

まさかの出征!!!
確かに大戦に向かっていく時代ではありますが。

残された半次郎はどう過ごしていたんだろうか……生きた心地がしなかっただろうなぁ……と、さらりと描かれた彼らのその後に、ちょっ!!そこもっっと詳しくっっ!!!となりました。

あと芸人シリーズだと思い込んでいたせいで積んでましたが(芸人シリーズはまだ電子化されていないものも確かあるため、全部電子化されたら最初から読もうと思ってる)芸人シリーズではなかったですね。
もっと早く読めば良かったわ……。

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