• 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作ラムスプリンガの情景

テオドール・サリヴァン,20歳,アーミッシュの青年
オズワルド・カーター,27歳,ウェイターとして働く夢破れた元ダンサー

同時収録作品ラムスプリンガの情景

エディ,オズの客、モブ客、ブロードウェイ舞台のプロデューサー
オズワルド・カーター,27歳,ウェイターとして働く夢破れた元ダンサー・男娼

その他の収録作品

  • カバー下:イラスト、あとがき

あらすじ

ラムスプリンガ――アーミッシュが、敬虔なキリスト教徒として彼らのコミュニティに残るか、家族を捨て外の世界で生きるかを決めるための、俗世を体験する期間。 ――80年代アメリカ。 ブロードウェイの夢破れ、田舎の街でウエイターと男娼をしているオズは、ある日、バーに来たラムスプリンガ期の青年・テオを“客"と間違え部屋に連れ込んでしまう。行くあても無いテオを放っておけず、つい面倒を見てしまうオズ。アーミッシュであることを馬鹿にされても怒ることも、疑うことも知らない純粋な彼に触れるうちにオズはニューヨークで擦れていた気持ちが絆され、彼を愛するようになるが…。

作品情報

作品名
ラムスプリンガの情景
著者
吾妻香夜 
媒体
漫画(コミック)
出版社
心交社
レーベル
Chocolat comics
シリーズ
ラムスプリンガの情景
発売日
ISBN
9784778124274
4.6

(859)

(662)

萌々

(126)

(39)

中立

(16)

趣味じゃない

(16)

レビュー数
85
得点
3947
評価数
859
平均
4.6 / 5
神率
77.1%

レビュー投稿数85

この作品に出会えて本当によかった

吾妻香夜さんをこれまで知らなかったのですが、自分が20年くらい前にアーミッシュの村を訪れたことを思い出し、興味がわいて本作品を手にとりました。

アーミッシュの村の様子が細かいところまで丁寧に描かれていて、驚きました。私自身、短い滞在時間で一軒のお宅にお邪魔しただけだったのですが、キッチンや家の中の様子が作品中のものとそっくりでした。キッチンはリビングダイニングと一緒になった広い作りで、家具も物も少なかったのがとても印象的でした。納屋を村人総出で建てる場面が描かれていましたが、家も同じように皆で集まって建てるそうです。緩やかな起伏の田園風景も美しく描かれていて、すごいと思いました。

ストーリーの感想を。
BLではあるけれど、人生の岐路に立たされた二人の若者の決断の物語だと思いました。
ラムスプリンガがこんなに厳しいものとは知りませんでした。村のご婦人は、「ほとんどの若者はアーミッシュとして生きることを選ぶ」と淡々と話されていましたが、まさか俗世を選ぶと永久追放になるとは。信仰と伝統に従って生きることを選んだ者たちの心を揺らしてはいけないからなのでしょうね。
後戻りのできない一本道だからこそ、テオの決断に強く胸を打たれました。アーミッシュでは責任をもって自分の人生を選ぶことが大人の始まりなのですね。日本の成人式となんと違うことか。

オズがテオに恋や俗世に生きる手ほどきをし、目覚ましく成長したテオが今度はオズの背中を押す。二人の出会いは必然だったのだなあと思いました。
星空の下、自分はダメなんだと泣くオズをテオが抱きしめ愛を告げるシーン。これまでテオをリードしてきたオズが年下に見えるほど、テオが頼もしく見えます。愛する人に包まれる幸せがひしひしと伝わってくるこのシーンが私は一番好きです。

ラムスプリンガを経験した一人一人の中にそれぞれの情景があるのでしょうね。
テオの従妹・クロエはアーミッシュを選びましたが、その胸の中には自分の可能性を試せたであろう世界への未練が微かにあるように感じました。それでも自分は幸せなのだと言う彼女のたたずまいから、どんな決断をしても後悔するときはあり、それでも前を向いて生きていくという決意が静かに伝わってきます。それがこの作品の大きなメッセージではないかと思いました。
テオも飛んで行った麦わら帽子を拾うために立ち止まったりはしませんでした。彼もまた前だけを見て生きていくことを決めているのでしょう。何度読んでも涙が溢れます。

オズとテオがこれからどんな風に生きて変わっていくのか。先を見たいような見たくないような。今は想像の中にとどめておいたほうがいいような気がします。

最後に作画の感想を。
オズの程よく筋肉のついた肉体(特に肩の筋肉)が本当にきれいで、肌の滑らかさを感じさせる描線に思わず見入ってしまいました。襟足も色っぽくてため息がでます。人物たちのアップの目元(特にまつげ)もハッとするほど美しくて。

この作品に出会えて、本当によかったと思いました。

48

事前情報ゼロで、まずは作品を読んでください!

「ラムスプリンガ」って言葉を知ってる人はわずかだと思います。
その意味、それが何を人にもたらすのかは、作者さんが紡いだ物語から感じてください。
あらすじもレビューも読まずに、まずは作品を読んでください。

作者の振り幅がすごいと話題の本作、それはeBookJapanで『モブ山A治とモブ谷C郎の華麗なる日常への挑戦』の試読みを1クリックするだけでわかります。表紙と口絵の違い、ストーリーもその印象そのままにまったく違います!

でも、作風の振り幅とこの作品の価値は別物です。
興味の入口はなんでもいい、読めばこの作品のすごさがわかるはずだから。
驚きも、感動も、圧倒も、怒りも、悲しみも、喜びも、事前情報からでなく、作品から感じ取ってください。

私はあらすじも知らずに読んだので、作者さんが意図する流れでこの物語を受取ることができました。その読み方、オススメです!





なので、このレビューは私の気持ちの捌け口です。
本作を読んでから「人の幸せってなんだろう?」とボンヤリ考えます。
文明に頼らず、親族と力を合わせて、自然のなかで穏やかに暮らす、そんな暮らしに憧れもあります。
でも文明の便利さと、現代社会のストレスを天秤にかけたうえで、それをしないのは私自身の”選択”であり、その”選択”ができるのは教育と自由を与えてもらえたから。

子供が親の信仰そのままに、他の宗教を批判しているのを見ると、思考の強制と選択の自由を与えないのは暴力に感じます。

そして本作の舞台は自給自足的宗教団体。
怒りと娯楽を否定して、自然のなかで暮らしていく。

村で純粋に育ったテオドールは、戒律を破ってもいい猶予期間「ラムスプリンガ」に入り、男娼のオズワルドと出会う。
テオには外の世界のすべてが新鮮で、まるで子供のようにはしゃいでいて、それに呆れながらもオズは見守り、エッチなことを知って爆発してしまうとことか、途中まではただ楽しく読めてました。
でも、猶予には終わりがあるわけで…
物語が中盤を過ぎると、こんなに違う二人がこのまま一緒にいることができるのか?その先に待ってるだろう何かが怖くてしかたがなかった。
そして予想していた以上の、ALL or NOTHING…

中世ならともかく、現代社会(※作品の舞台は1980年代)で閉鎖を貫くには、外社会との遮断が必要なのはわかります。
でも大人になる前に、戒律を破っても何をしても良い猶予期間「ラムスプリンガ」を与え、その後で、信仰か自由かを選択させる。
自由を選んだら、信仰と家族と故郷それまでの全てを捨てることになる…

テオの幼馴染ダニ―の婚約者・クロエの言葉が印象に残ってます。
「ラムスプリンガ」に入ったクロエは自分にも可能性があると思えたのに、ダニーと一緒の未来を選んで、その可能性を捨てることができた。
それを「素晴らしい呪い」と表現するクロエ…
それは本当に幸せなのかな?なんだか物悲しさも感じます。

閉鎖的な村で何も知らずに生きてきたのに、いきなり酒もドラッグもOKになったらどうなるか…
「ラムスプリンガ」で快楽に溺れて人生をダメにする者も多く、疲弊した者には約束された幸せが魅力的に見えるんだと思う。それを選ばせる、閉鎖的な村で生きていく覚悟を決めさせる。
強制されたのではなく、自分で”選択”した結果だと、物理的にも心理的にも縛ることができる、うまいシステムだなと思いました。
まさに「素晴らしい呪い」…

純粋で家族や友人に愛されていたテオ、テオにとっても故郷の人々はとても大事な存在のはずなのに…
テオは”選択”で犠牲を払うことになってもオズと一緒に生きていくことを決める。
決意の瞳は力強く大人びていて、最初の頃のテオとは別人のようです。
テオは純粋で何も知らなかったけど、短期間のうちに、自分で考えて、選べる強さを身に付けて頼もしく見えます。

でもオズはテオの犠牲を知ると、自分自身が死に別れた両親と二度と会えない辛さを知っているから、テオに自分と一緒に居ることを選ばせることができない…

最終的に二人が選んだ結末は映画のようにドラマティックです。
最後1ページは映画のラストシーンみたいです。
幼馴染のダニーがテオをどんなに大事に思っているかに胸が締めつけられました。

ただAIDS発見が1983年、この後、ゲイはAIDSのような奇病をもたらした元凶としてホモフォビアに迫害され、ゲイにとっては生きにくい時代がやってきます…
二人の未来は困難のほうが多いと思う。
でも、ここまで強くなったテオなら、オズと手を取り合って生きていってくれると信じてます。

モデルにした宗教団体のことは詳しく知らないけれど、大事に思い合ってる家族や友人が二度と会うことを許されないってどうなんだろうね。
宗教は人々に心の平安を与え、幸せを導くものであってほしいと思うのですが…

テオとオズの二人の物語に感動しつつ、いろいろ考えさせられてしまうお話でした。

33

期待以上です\( *´▽`* )/

本当に映画を見ているような世界観に、冒頭から終わりまで引き込まれっぱなしでした。

う~~~ん、桜田先輩シリーズを読んだ時も思いましたが、やっぱり上手いです。
物語とか話の運び方とか、「はぇ~」と口から溜め息が漏れるくらい。
多分マンガを物凄く描き慣れている人だこれ…
マンガを描く為に生まれて来た人だ(!)…
というのがヒシヒシと伝わって来ます。
そして絵がキレイ。どのページを開いてもキレイ。
逆にどうしてこんなにキレイなんだ!?と思えるくらいキレイ。
私こういう絵柄ダイスキです。笑

分厚い単行本でしたが、あっという間だったなぁ~。
終わりに近づくにつれて、あぁ~嫌だ~っっまだ終わらないでくれ~っ!とジタバタしました。でもとても良い終わり方。
二人のその後が気になる所ですが、…うん、脳裏に思い描けます。NYのどこかで慎ましく幸せに暮らしているテオとオズの姿。
きっと何年経ってもカバー裏のイラストの二人なんでしょうね。

はぁ~しかし普段甘えん坊の大型犬のくせにいざと言う時は底無しの包容力で心も体もすっぽり包み込んでくれる攻めって良いなホント、と改めて実感。
テオの見た目からしてゴールデンレトリバーって感じで最高です。笑
オズも擦れて斜に構えてるけど根は優しい男前。テオとエッチしてから他の客と寝なくなったって所もイイ。
オズなりに頑張って生きてきたから、これからテオの愛情に一杯包まれて幸せになってほしいな。
この二人が出逢えて良かったなあぁぁ。

私は基本的にBLは黒髪短髪受けにしか食指が動かない…という少しだけ特殊な読み手なのですが、吾妻先生の作品ならそういうの関係無く読みたいです。
「吾妻先生の創る物語が好きだ」と気付かされる、とても素敵な作品でした。

23

なんだか胸がいっぱい。゚(゚´ω`゚)゚。

心に沁みる感動作でした。ちょっぴりほろ苦さがありますが、それもまた、作品を彩る素敵な要素に感じられます。泣けました。
これは口コミでジワジワくる、地味ながら名作の映画系な作品になりそうな予感がします!

実は前作がですね、ハイテンションギャグあり、ダーク系あり、ほのぼの切ない系ありの短編集で、その作風の広さに驚いたものですが、今回もやってくれました。
(良い意味で)作者さんの頭の中がどうなってるのか気になります。
インタビューにもあった通り、ホント振り幅が大きいな!!


内容です。
舞台は80年代アメリカ-。
ブロードウェイの夢破れ、田舎のバーでウェイター兼男娼として働くオズ。
ラムスプリンガ期のアーミッシュの青年・テオを自分の「客」と勘違いして「仕事」をしようとします。
誤解が解けた後も頼りないテオを放っておけず、ついつい面倒を見てしまうオズ。
次第に二人は惹かれ合いますが、共に生きる為にテオは重大な決断をしなくてはならずー・・・。


まず、物語のキモとなるのが「家族」です。
ダンサー崩れのオズ然り、アーミッシュであるテオ然り。
こちら、偶然出会った二人が互いに惹かれ合い、共に生きる事を決断するという、実にスタンダードなお話なのです。
そこに、テオのアーミッシュである家族の問題や、オズの戦死した父親という家族の問題を絡ませた事で、凄く深い作品に仕上がってると感じます。

これがかなり切なくてですね、ベタなのですが住む世界の違いってやつになるんですね。
自分の家族を捨てて、また相手に家族を捨てさせて、共に行く事が出来るか-・・・。
互いを思うが故の決断が、それぞれ泣かせてくれるのです。

あと、平行して語られるのがオズのニューヨークでの辛い過去。これは痛い!
皆、一人一人、抱えてるものがあるんですよね(´;ω;`)

この後、二人がどんな道を選ぶのかは実際に読んでいただきたいので伏せます。
が、一つ言えることは、めちゃくちゃ感動しました。
作中でオズが言われたように、人生に一度くらいデカいワガママを言ってもいいと私も思うんですよ。たとえ周りを傷付け悲しませても、それでも譲れない気持ちってあってもいい!!
と、心が震えました。

まぁそんな感じで、中盤以降は切なさに身悶えする事になりますが、前半はなんともほのぼのキュンモード。
ちょっぴり世間にスレた感じのオズと、まさに純粋培養で世間知らずなテオ。二人でラムスプリンガ(自由期間)を過ごす過程が、丁寧かつ魅力的に描かれ、互いに惹かれ合って行くのがすごく自然に感じられます。
また、テオのワンコ丸出しの言動と、クールなふりをしながら実は世話焼きなオズという図式にも萌えます。可愛いな、この二人!!

ラストがですね、まるで映画のワンシーンのようで、とても余韻が残るものです。テオのセリフに涙が出そうになる・・・。ハッピーエンドなんですけどね。
また、凄く無邪気だったテオが、こんな表情をするようになったんだなぁと、ちょっぴり心が痛む。うん、でも二人は間違ってないよ。

それと、私はマンガのレビューがすごく下手くそでして!!
いや、小説のだって下手くそですが・・・。
そんなワケで、この作品の良さを全然伝えられてない気がするのですよ。ホント、とても素敵な作品なのです。
気になった方は、ぜひ読んでみて下さい。

18

悪魔の園で見つける愛

ふらりと立ち寄った本屋にて、ビビットでどこかレトロな素敵な表紙を見かけ検索して知ったのが本作。そこから単行本になるまで、今か今かと待ちわびていました。

個人的に身近にキリスト教徒の知り合いがおり、また宗教的な興味もありまして、アーミッシュのラムシュプリンガ期の知識は元々あったのですが、まさかこの題材がBL作品で読めるとは…!と改めてこのジャンルの懐の深さをしみじみと感じました…笑

内容についてですが、宗教的知識がなくともアーミッシュがどのようなものかというのをとてもわかりやすく描いていると思います。閉鎖感を感じさせず、しかしアーミッシュ文化のここ!という所は的確に押さえているので格好の入門書にもなり得るのではないでしょうか?(気になる方は現代のアーミッシュを追ったドキュメンタリーもありますので是非)
さらに80年代の文化も加わり、レトロで美しい絵柄とも相まってとてもまとまった印象があります。舞台が現代でないことも、アーミッシュと少し昔のアメリカの文化とが上手に比較され、他の方も仰っておられるように一本の映画を見終わったような読後感があります。

映画に関連して、以下少々ネタバレ


ラスト、二人が村を去る場面を映画『卒業』に例えるシーンがあります。映画史に残る余りにも有名なシーンです。『卒業』のラストはやっとの思いで逃げ切った花嫁と彼女を奪った男性がバスに乗り込みますが、たくさんの乗客から白い目を向けられるという所で終わります。これからの彼らの未来が明るいものだけではないということの暗示になっています。
『卒業』をここで持ってくることの意味を考えると彼らの前途も多難に満ちているということを吾妻先生は言いたかったのではないかと思います。生きてきた文化がまるで違ううえに、同性愛者としてこれから生きていく二人にはきっとたくさんの試練が待ち受けている筈です。ただただハッピーエンドではない、そうした現実感がこの作品にはあります。

アーミッシュの人々は自分たちが過ごすコミュニティ以外の場所をデビルズプレイグラウンドと呼びます。悪魔が住まう悦楽の園で愛を見つけた二人が、どんな困難が待ち受けていようとも、それらに負けることなく二人で幸せに生きていく姿を願わずにはいられません…!がんばれ…!

内容、絵柄ともに文句なしの神評価です!(長くなってしまった…)

14

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(コミック)一覧を見る>>

PAGE TOP