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いつものことだけど、一穂さんの作品を読んだ後は、どこが良かったとかどんなところが好きだったとかいう感想じゃなく、「好きな作品」としか言いようがないのです。
言い出したらキリがないというのもあります。ひとつひとつだと取るに足らない小さなエピソードの積み重ねで作品が出来上がっている気がします。
二階の雨漏り、日本にはない「ヴ」の発音、緑色のあじさいと左巻きのカタツムリ、のうぜんかずら、「腹へった」。
本当に言い出したらキリがない。けど、どれひとつとして無駄なものがないから、すべてを組み立てて綺麗な形に整えてしまう一穂さんは、やっぱり凄いなぁと思うんですよね。
攻めの知明の印象は、ちょっと感情の起伏が薄い人でした。
バッと感情に左右されるというよりは、喜怒哀楽どれも等しく、じわっと感じてじわっと受け入れる感じ。
だから爆発的なエネルギーが働いてどうにかなっちゃうってことはなくて、自分で決めるまでは冒険もしない、みたいな。
けども臆病ではないところが素敵で、その絶妙なバランスがそのまま知明の魅力に繋がっていました。
逆に、受けの慈雨の方がしれっとしてそうに見えるんだけど、じつはとても弱くて寂しがりやで不安定な人で、ほっとけない感じでした。
けども仕事に対する貪欲さや、昔の恋人との付き合いを受け入れるだけの潔さみたいなものを持っていて、ただの「守ってあげるべき人」じゃないところがとても好きでした。
実華子のことをとても愛していたんだということが物凄く伝わってきて、男女の愛情とは別の部分での繋がりをとても感じました。
慈雨と実華子の元恋人たちも、とても良かったです。
ある意味凄く現実的で、とてもズルくて、狡猾な人たち。
だけど、人って生きていくうえでそうやってズルくならなきゃならない部分があって、それを一概に「汚い」とは言えないんだと、改めて思います。
改めて思うんだけど、慈雨たちに感情移入している分腹は立つ(笑)
作中で、ズルさが間違いではないとちゃんと示した上で、それでも慈雨と実華子がお互いの元恋人に対して激怒してくれたのが、とても救いでした。
「死ね、売女」とまでは私は思わなかったけど(笑)
この作品全体を象徴するように「雨」が使われていたんですが、それがとても効果的で、いろんな場面で言葉よりも雄弁に心情を表現している気がしました。
「雨」って見るときの気持ちで、寂しかったり拒絶だったり、どんな風にも見えるんだなぁと感じます。
私も雨と晴れの境界を見たいと思いました。
それにしても、毎度のことですが、一穂さんのあとがきには物凄く意気を感じます。
「作品の感想に、作家の思い入れや事情、心情を加味しないで下さい」という心意気が伝わってくるのです。
一穂さんのことを知りたいファンとしてはちょっと寂しいけど、作家としての潔さに心底惚れます。
作品ももちろんですが作品やあとがきから漂ってくる人となりが好きなので、私の一穂さんに対する採点がちょっと偏っているのは自覚しているんですが、それでも好きなものは好きなので「神」です。
けど、この作品は大抵の人には「神」ではないだろうとは感じているので、あまり私のレビューは参考にならないだろうと思います。
『雪よ林檎の香のごとく』の次に好きな作品になりました。
すごく、ものすごく、良かったです。
そして良かったと思う作品の場合、すべてが私にとっての最高になるんだなと思いました。
ここ微妙にハナにつくこともあったキラキラな登場人物とか、やけにスタイリッシュな会話とか、個性的な比喩の多用とか、小道具の多用とか、あざとさと紙一重の伏線のひきかたとか、青くさい理屈とか、それとは真逆の世知辛い理屈とか、、、
それら「まるごとイイんだよう!」としか言えない…。
なんだろうこのすがすがしい気分。
やっぱり作家買いやめられねーなと思いました。
個人的にウヘッと思ったのが、慈雨と咲彦の腐れ縁。私と元旦那かよ!と思ってしまいました。てゆか離婚後に友人になってしまった元夫婦って、たいがいこうなるんじゃないかな~。もちろん慈雨と咲彦は離婚した元夫婦じゃないけどさ。「愛情の残がいの馴れ合い」に苦笑。そうか、こんな上手い表現方法があったんだな。今度元旦那に教えてやろう。まぁ詩心とかゼロだから、ハァ?って顔されるだろうけどさw
エピソードの積み重ねで作られる物語はステキだなとつくづく思いました。
食傷してるはずの「過去の恋のトラウマ」「親に愛されなかったことによるトラウマ」も、こうやってきちんきちんと段階を踏んで、ストーリー進行のなかで少しずつ染み出すように提示してくれると、すんなり胸のなかに入ってくるんだな…って。
あとストーリーの核となる部分に二組の“元恋人”が存在してるんですが、これ、書き方を一歩間違えば、ただの綺麗事になってたと思います。でもそうなってなかったのが凄いなって思いました。綺麗事と感じる方もいるかもしれないけど。
なんかあんまりストーリーに触れてないなw
未読だとナンノコッチャな感想だし。
まあいいや。
私この作品は、この先何度も何度も読み返すことになると思います。
あと初エッチの場面、大好きです。
慈雨のアレは照れ隠しだな(ニヤニヤ
この作品の匂いが好きです。
お話の中で「匂い」が重要なモチーフとして、あちこちで出てきますが、
知明の作る料理たちの匂いはもちろん、
慈雨の部屋の古い辞書の匂い
鬱蒼とした洋館の古い家の匂い
熟して落ちるすももの匂い
そして、雨の匂い
雨漏りのする家の中で
パリの街角で
そして、海の上で
一穂さんの作品って、「赤ん坊が日の光でキラキラ踊る埃をつかもうとして手を伸ばしている」ってイメージが、漠然とあったのですが、この作品は、もう少し大きな子が、雨の中に、ただ、立っている、そんなイメージ。
一穂さんで、もうちょっと大人の話が読みたい。
そんな希望が叶ったかなって感じです。
フードスタイリスト見習いの知明の元に、ある日一本の電話がかかってきた。
叔母の夫だと名乗るその人物は、ぶっきらぼうに彼女の死を告げる。
墓参り代わりに訪ねた家で見た夫、慈雨は明るかった叔母とは対照的にどこか陰のある男だった。
同棲中の彼女に手ひどく裏切られたばかりだった知明は、酔った勢いで慈雨の家に置いてもらう約束をするのだが……
フードスタイリストの卵×天の邪鬼な翻訳家で甥×義理の叔父。
どこかさみしい人同士が惹かれあって、幸せになる話っていいよね。
素直じゃない年上の男に振り回される知明くんが意外と大物なのが楽しかったです。
恋愛感情ではなくても慈雨が実華子さんに向けていた気持ちがとにかく優しくて切なくて、作中のエッセイはかなりぐっときた。
実華子さんの過去とか、周りを巻き込んだ真実とかは結構ハードだけれども、だからこそこれからの知明と慈雨の幸せを願わずにはいられない。
非常に一穂さんらしいお話だと思いました。内容は皆さま書いてくださっているので感想を。
一穂さんの書かれるトリビアってジャンル問わずとても幅広くていつも感心しながら拝見するのですが、さらに凄いと思うのはそのトリビアが話に深みを持たせることなんですよね。
タイトル通り、寂しさを抱えた人たちばかりでてきます。
虐待されることはないけれど、無償の愛とは程遠い愛情しか家族から貰えなかった攻めの知明。
ゲイであることから家族から線を引かれ、かつ長年付き合った恋人からは「結婚するから」と捨てられた受けの慈雨。
ビアンであることから家族から疎まれ、慈雨と同じ理由で恋人から捨てられた知明の叔母の実華子。
みんな、それを「仕方がないこと」と受け止めてはいる。でもだからと言って寂しくないわけではなくて。
そこでカタツムリの殻の巻の話と絡んで、より一層話に引き込まれます。たくさんの人と巻があってほしいわけではない。たった一人でいいのに、という思いに思わずウルっときました。
慈雨の元カレの咲彦にせよ、実華子の元恋人にせよ、責めることはできないなあと思います。両親のこと、これからの自分の人生のこと、いろいろ考えてある意味打算的に生きていくのは仕方がないこと。
慈雨も実華子も、そういうところも含めて相手を愛していたのでしょう。その愛情の深さにも思わず涙が出そうでした。
慈雨の可愛さにはKOされました。口は悪く、態度も大きく、それでいて相手への深い想いを抱えていて。素直に口に出せない彼ですが、その裏をくみ取れる知明と出会えて本当に良かった。
北上さんはコミックはほとんど持っていますが、挿絵を描かれているのは今回初めて拝見しました。絵柄が綺麗でうっとり。
そして、この寂しさを抱えたこのお話に、少し硬い絵柄がとても合っていて良かったです。
レシピが「さみしさ」から「こいびと」のレシピになって良かったな、と思いました。あとがきの「たわむれのレシピ」には爆笑!
とにかく文句なく神評価です。