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表題作オメガは運命に誓わない

黒江瞭,アートクリエーター,α
朱羽千里,30歳,大手電子機器メーカー勤務,Ω

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

大手電子機器メーカーで働く朱羽千里は取引先のβに実らない片想いをしていた。諦め切れないでいたある日、造形作家でαの黒江瞭と出会い、誘いをかけられる。甘い顔立ちをした美形だがオメガを下に見るような態度が許せず、すげなく拒んでしまう。もう二度と会わないだろうと思っていた矢先、朱羽はαとΩ専用のクラブで発情期に入ってしまった。抗えない欲望に耐え切れなくなり、偶然居合わせた黒江と身体を重ねてしまって
――!?

作品情報

作品名
オメガは運命に誓わない
著者
安西リカ 
イラスト
ミドリノエバ 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
シリーズ
運命の向こう側
発売日
ISBN
9784778127398
4.3

(116)

(62)

萌々

(38)

(10)

中立

(2)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
18
得点
494
評価数
116
平均
4.3 / 5
神率
53.4%

レビュー投稿数18

本当に大切な事って、気づくのが難しい・・・

「運命の向こう側」の関連作ですが、世界観が同じだけなので単品で問題無く読めます。
ちなみに、春間達もちょこっとだけ登場します。
幸せそうで何より。


で、こちら惹かれ合いながらも、アルファとオメガである事自体が障害となる二人の物語です。
かなり切ないんですよね。
「アルファとオメガで惹かれ合ってるなら、さっさと結ばれればいいじゃん」てなもんですが、そこはそう簡単に割り切れない、性の有り様なんかが丁寧に綴られてまして。

こう、アルファ故、そしてオメガ故の苦悩が切ないんですが、だからこそ、バース性に縛られずにただの二人として結ばれた主人公に、爽やかな気分になるんですね。
それにしても、一番大切な事って、気づくのが難しいね。

内容ですが、造形作家でアルファの黒江×電子機器メーカー勤務でオメガの朱羽による、オメガバースでスレ違いものです。

取引先のベータに片思いしている朱羽。
偶然知り合った造形作家でアルファの黒江と、ヒートを起こして寝てしまうんですね。
最初は気まずい思いをしていたものの、黒江の飾り気のない性格に、自然と友達付き合いを始める朱羽。
そんな中、片思い相手が結婚する事が分かりー・・・と続きます。

今作でのオメガバ設定ですが、アルファやオメガの性と言うのが一般から大きくズレています。
発情期になれば、クラブ(専用施設)で適当なアルファと性処理をするのが一般常識的な正しい方法で、推奨されててみたいな。
で、オメガである朱羽ですが、好きな相手では無く、ただ性処理の為のみのセックスが当たり前の感覚なんですよね。
そのように、教育されてるんですよね。

そんな彼が、初めて恋をした所からお話はスタート。
ベータで仕事の関係者になるんですが、初めての恋に胸をトキめかせているのがとても可愛いんですよ。
もう性処理の為だけのセックスはしたくないと止め、恋をして変わった自分を楽しんでいる。
正に、恋に恋してる状態。

で、朱羽と奇妙な友人関係を築くのがアルファの黒江。
最初こそヒートを起こした朱羽と、煽られて寝てしまった黒江と言う関係ですが、互いにマイノリティであるが故の孤独に共感する形で、気のおけない相手になってゆく。

こう、朱羽が片思い相手の事を思う存分語り、黒江は伴侶が欲しいと愚痴る。
二人の親密さを増して行くやりとりが、面白いんですよね。
う~ん・・・。
言うなれば、男女の友情っぽいイメージなんですけど。
いや、男性同士だけど、アルファとオメガなので、友情は成り立つの?的な。

そんな中、片思い相手の結婚を知ってしまう朱羽。
ひどくショックを受けて憔悴するんですね。
また、心配して側に居てくれた黒江ですが、ヒートを起こした朱羽を抱いてしまいー・・・と続きます。

こちら、バース性故の苦悩が、すごく掘り下げられてるんですよ。
心を裏切り、抱かれれば喜んでしまう自身の身体。
そして、信頼していたのに、他のアルファと同じ捕食者でしかない行動をした黒江。

徹底的にスレ違ってしまった二人は、果たしてどうなるのかー?
と、言った感じでしょうか。

これ、黒江ですが、傍若無人でありながらワンコなんですよね。
いや、朱羽に対してだけ弱いと言いますか。
オドオドと朱羽の顔色を伺い、必死で許しを求める姿が哀れなんですよ。
だって、友情だと思ってるのは朱羽だけで、明らかに黒江は朱羽に惚れてるのが分かるんですよ。
目の前で好きな相手がヒートを起こせば、耐えられなくても仕方ないって!!

また、朱羽の片思いですが、こうアイドルに対する憧れめいたものなんじゃ無いかと思うんですよね。
彼が一緒に居て、本当に安らぎを覚える相手ー。
それでも、適合率が高い黒江がそばに居ると、否応なく発情を起こしてしまい、自分自身で居られなくなる恐怖。

これな!
アルファでもオメガでもない、ただの朱羽千里と黒江瞭なら、共に居られるのにー。
と言う、朱羽のモノローグが切ないんですよ。
朱羽は上手に生きてるように見えて、実はすごく拗らせてるなぁと。
自身の性を、受け入れられてなかったんだなぁと。

とりあえず、ここから超胸アツの展開だったりします。
いや、ここまで辛い思いをしたからこそ、本当に大切な事に気付けたんじゃない?と。
至ってシンプルだけど、だからこそ気づくのに苦労しちゃったねぇと。

そんな感じの、とても深い物語でした。
それにしても安西先生は、同級生と、友情→愛情がお好きですよね。
私も大好きです。
それと、普段は受け主体で読みますが、今回はあまりに黒江が気の毒で。
黒江、哀れよのう!と。
彼が幸せになって、本当に良かったですよ。

23

安西先生のオメガバース

「運命の向こう側」のカプも登場する、安西先生独特のオメガバース。やっぱり先生が書かれるアルファとオメガの関係性が大好きなので神。本編230Pほど+あとがき。オメガだって恋をするのだ。

国内メーカーの紺色スーツにレジメンタルのタイ。モデルかと間違えられる絶賛美形の朱羽(あかばね)ですが、一般人(ベータ)の白根沢に恋をしてからは落ち着いた格好を好み、仕事関係の約束を取り付けては会いに出かけています。ある日、白根沢のところでアルファの匂いをぷんぷんさせた俺様的態度をとる男にでくわし、後日出かけたアルファ、オメガ専用のクラブでも出会って、不運なことに朱羽のヒートに巻き込んでしまい・・と続きます。

攻め受け以外の登場人物は
白根沢(大学の先生、朱羽が恋焦がれている)、碧(女性オメガ、朱羽の仲良し)、北斗(前作カプの兄、アルファ)、前作カプ+その子、白露(モブ扱い)、清明+風花(モブ扱い)、二人の仕事仲間など。

**良かったところ

オメガでヒートがしんどいという設定はやっぱりあるのですが。
そんなのに負けてたまるか!という朱羽の心意気と、アルファの癖に「さみしい、マッチングして結婚できないと無理」と最初っからオメガに全面降伏状態なのが大好きでした。

前作同様、アルファはほんとにオメガがいないと生きていけない状態っていうのが、攻めザマアというように感じられて好きなんです。今回は朱羽は別の人にきゅんきゅんしてて、黒江のことなんか、これっぽちも見てなくて、最高(笑)。そのきゅんきゅんがだんだん黒江の方に移っていくのに、色々あって二度と会わねーーーーーーーと暴れるところもあって、お話的にとても楽しい。

やっぱり安西先生の書かれるオメガバースは等身大というように感じられて大好き。
そうオメガだって、運命の番とか、そんなこと知ったこっちゃねー!恋をするのだ!

ああ面白かった。

11

オメガを否定しながらオメガとしての幸せをつかんでいくストーリー

「運命の向こう側」のスピンオフ作品。
と言っても前作品の登場人物が絡むシーンは少なくこちら単独で読んで問題はありませんが続けて読めば一層世界観を堪能できその後の幸せが見られてほっこりします。

おっとりとした朴訥な美大教授(ベータ)に片思いする会社員(オメガ)の千里は
実らぬ恋と諦めてはいても恋する想いは消せないという健気さで密かに思い続けています。

スタイリッシュな千里が恋するベータに合わせてダサい地味系スーツを着ることで近づいた気持ちになる乙女チックなオメガです。

先生の教え子だったアーティスト黒江と急なヒートで事故のように体を重ねたあと気の置けない友人として会う関係になってもやっぱり先生が大好きのまま。

『向こう側』のメンバーの近況が嬉しかったです。
冬至カップルやふうかなど出産ブームでちびっこわちゃわちゃ…
美形の遺伝子を受け継いでかわいいベイビーだらけなんだろうな。
パーティーのちびっこ部屋で囲まれてみたいです。
イクメン冬至は育休するアルファでした。

生まれついてのことや自分だけでは変えようがない身分や立場など、どうにもならない柵の中で自分の居場所や本当に欲しいものを求めて足掻くアルファとオメガが心から結ばれるまでの遠回りの道のりでした。

前作に引き続いて、傲慢で強引なアルファに美形で気弱な庇護欲誘うオメガといった王道のタイプとは真逆のカップルですが、アルファらしくなさ過ぎて黒江が魅力に乏しいのは残念な点です。
自分の生まれついた性を否定し嫌悪しながら体がそれを裏切る事への悲しみやジレンマに悩む千里がかわいそ過ぎました。

シリーズ第3弾もありそうな予感がします。
その時には千里たちにもベイビーがいそうです。

7

貴重すぎる恋愛小説

面白いBL小説は巷に数多く存在しています。
ただ、その小説の面白さの何%が恋愛であったかを考えてみると、
大半はラブだけでなく、青春や仕事描写、事件などのサスペンス性、もしくは恋愛に留まらない登場人物の成長性や人生観そのものにも軸が置かれていたような気がします。
昨今人気の作家さんはこの恋愛とエンタテインメントの両輪駆動の演出が本当にお上手で、いつの間にかBL小説の面白さは[恋愛+α]の「α」の置き方によるのではないかと考えるようになっていました。

しかし安西リカ先生の本作により、この概念は完全に覆されました。
このお話は恋愛一輪駆動の様式でありながらめちゃめちゃ面白い。
そもそも恋愛がテーマとなるべきBLジャンルではありますが、ここまできちんと「恋愛小説」として完成された作品は数少ないと思います。
前々から恋愛を真面目に描くのが上手な作家さんだな、という印象はありましたが、
BL小説の面白さ=[恋愛]をハイレベルで体現してくれる点で、今一度この業界にとっての貴重性を実感しました。

それくらい恋愛小説って難しいと思います。
主人公の生き様を含めた恋愛観を提示しつつ、相手との出会いから生まれる心理と行動をあくまで恋愛を主軸に起承転結にまとめていく。
この条件として非常によかったのが、オメガバース設定を上滑りさせなかったこと。
「番だから」などと2人をくっつけるためのオメガバース設定ならばそれは「+α」のエンタテインメントにほかなりませんが、この作品の主軸は「性質の一つにオメガバースというものを持って生きてきた個の2人が恋愛をしたら」という所にある。だから最終的に「バース性とは関係ないところで結ばれた」という2人の落としどころにも説得力が出てくる。

もちろん恋愛小説と言ってもディティールはきちんとしていますので安心してください。お洒落で、お互い仕事も頑張っていて、周囲の人との交流も面白い。ただそのどれもがお仕事モノとは違い、朱羽と黒江がお互いの違いや魅力を確認していくための過程として強く印象づけられるところがこの作品の特徴です。

起承転結の転は、信頼関係を築いていたにも関わらず、αの黒江が暴走して発情したΩの朱羽を襲ってしまうところ。失望と怒りに混乱する朱羽と、後悔と切望で焦燥する黒江の対比が見所で、読んでいてめちゃめちゃ盛り上がります。ここまで来ると読者のほとんど…というか、朱羽以外の全員が黒江こそが運命の相手だと確信できるのですが、バース性への葛藤から朱羽は黒江に「もう会わない」という決断を告げに行きます。
ここ、すっごいハラハラします。
で、最後は割と急に収束していくのですが、
もう「あっぶなー!」と声を漏らしそうになりました。
本当に最後の最後まで危うく最高の人とくっつかない所だったので。
もしもあの状況で朱羽が気持ちを消化できずにお別れしていたら、後で彼が運命の相手だったと後悔したのだろうなと。

朱羽と黒江が見つけた結論は「バース性とは関係ない所で結ばれた」でしたが、バース性自体がその人の一部である以上、また、数々の展開がそのバース性ゆえに起きていた以上、いつかはそのバース性を受容していくのが理想だろうとは思います。しかし本作ではそこまでは描き切らず、「いつかは」に留めている所も二人らしく、押しつけがましくないエンドで好感が持てました。

最後に朱羽は「バース性にこだわりすぎていたかも」と述べます。
この物語の主題ですね。
バース性に囚われていた男と、そんな彼に恋をした男が、個の恋愛に至るまでの物語。
極めて真っ当な恋愛小説でした。

5

素敵な恋物語であると同時に知的な冒険も出来る一冊

『運命の向こう側』の感想が「道徳的だ」だったんですが、今作はそれよりも更に凄いこと思いましたよ。「このお話は政治的に正しい!なのにちゃんと切ないラブストーリーになってるっ!」って。
ポリコレって追及するとどんどん無粋になっていく傾向が強いものだとおもうのですが、このシリーズはそうじゃないの。自分のセクシャリティに違和感があっても、ジェンダーが作り出す辛さを抱えていても、恋は訪れるし幸せになれるって高らかに謳っているお話だと思いました。
これがね、何とも言えないほど爽快なんですわ。気持ちいい。

沢山レビューがありますので、感想のみ書きますね。
確かに第二次性徴が来て「自分はオメガだ」と思い知らされることは憂鬱なことだと思うのですよ。
このお話でのヒートは『キツイ月経』を思い出させるんですよ、私には。
『オメガだからアルファと結ばれる』っていう一般的な認識も、自由に人を好きになることの邪魔をしているって思ってしまう。
だから千里が特殊バースではない白根沢先生に想いを寄せ、アルファの黒江を恋愛対象にしないという選択をした気持ちが解るのです。だって『人を好きになるのは属性によってではない』と思いたいから。

そんな考えこそが「頭でっかちなんだよねー」ってことなんですが。
『心と体を切り離して考えたいと思っている』ことですものね。
「好きになったらそんなこともう関係ないの、本当は」と安西さんに言われている様な気がしましたよ。
この2回捻って一般常識と同じ地点に着地する(でも、中身は違うのよ)方法はスゴイと思いましたよ。
自分の中に『女性的なものが嫌い』という感情があることを認識させられ(「ひょっとして、だから私はBL読みなのか」と気づかせられてしまったのよ)おまけに「女嫌いの側面ってそれはそれで間違っていないか?」と思わせられちゃったんですもの。

安西さんって甘々なラブストーリーを書くイメージが強かったのですけれどもキレッキレに理知的なのね。
っていうか、恋愛物語を突き詰めるとこうなるのか……
千里と黒江の恋にちゃんと萌えつつ、その他のことも色々と頭を使って考えさせられる、非常に刺激的な一冊でございました。
脱帽。

4

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