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表紙の「山口珈琲」の文字に食べ物の気配を感じて。
出て来ませんでしたが…。
8つの短編が収録されていました。わりと性格的なSとMの話の割合が多かったような。
どの話も萌えると言うより人間の狂気のようなものが興味深かったです。
中でもSに依存されているようでSの愛情表現でないと実感できなくなってしまった「Mのリビドー」と、尽くし過ぎるダメンズメイカーを描いた「ラブサービスマン」は狂気っぷりが激しくて、「…く、狂ってる!」と口走ってしまうほどでした。
テーマがテーマなので萌える方はあまりいないかもしれませんが、BLという括りではなくストーリーを楽しむならおすすめです。おもしろかった!
おもしろかったけど、「どの話が好き?」と言われると困る。むしろ好きな話はないかなと答えてしまう不思議な作品でした。
【まさかさかさま】
「支配しているようで俺を支配する事に支配されている」関係。結局Sを動かすのはMだなぁ。
【愛のポルターガイスト】
霊感体質の主人公は幼いころから綺麗な青年の幽霊が視えていて、それが初恋の相手だった。祖父が死んでから悪霊化してしまう青年幽霊。
思っていた以上にホラーで切なさと痛みと歪みが混在してます。
幽霊の絶望は計り知れないけど、一途な幽霊でした。
【僕は見た目が99パーセント】
惜しい男と言いつつ実にめんどくさくて厄介な美形君に振り回されている宮崎君は物好きというか、Mですな。
【仔猫もらってください】
バリタチでドSを自認する男が可愛いネコちゃんを手のひらで転がしているようでいて、実はネコちゃんの下僕という。
【エムのリピドー】
嫉妬深くて執着心の強いDV男から、別の善良そのものな男に乗り換えようと思ったけどやっぱり生温い愛じゃ物足りない!と元サヤに収まってしまうM男の話。
DVの供依存関係を面白おかしく描いてはいるものの、これ男女話なら1000%アウト!なんだけどBLだと本人達がそれでいいならいいか…と思ってしまえるのは何故なんだろう。
【ラブサービスマン】
付き合った男をことごとくダメ男にしてしまうダメ男製造機くん。新しくできた彼も「愛の御奉仕」を四六時中受けたいからと仕事をやめてきてしまって…。
ことごとく彼氏がダメ男になってしまうのは俺のせいか!と気付くんだけど、改心しないところがシビトさんらしい。
【法医学者異感情発生事件簿】
人体にしか興味のない法医学者が恋に目覚めてしまうまで。
【愛だとか恋だとか友情だとか】
コレステロールの擬人化!
表紙からも分かりますが、この作家さんの絵柄は独特で、好き嫌いが分かれるとは思うのですが、ストーリーは個性的で面白かったです。
私もどちらかと言うと、絵柄は決して好みではないのですが、登場人物の執着心が強くちょっと怖いところとか、歪んだ愛情表現が描写されるストーリーには合ってると思えてくるんですよね…。
ちょっと怖いと言いましたが、精神的に少し怖いと思わせるお話がいくつか収録されています。
全部で8作品収録されていますが、特に表題作が一番好みでした。
恋人に対する想いが強すぎて成仏出来なかったポルターガイストを巡る少し切ないお話です。
大正時代末~昭和初期の頃の着物姿も素敵でした。
シビトさんの初コミック。
絵柄や展開など、今のシビトさんの作品と比べまだ小慣れていない感がありますが、独特のエキセントリックな作風は当時から健在。
アンビバレンス、共依存といった大小の歪みを抱える人々を肯定するでも否定するでもなく、そのありのままの姿を描く冷めた視点に何とも言えないブラックな魅力を感じます。
表題作は、祖父を見守る美形の幽霊(攻め)に子どもの頃から片想いしている青年(受け)の話。
生前、祖父と愛し合っていた攻めですが、祖父の結婚により二人は破局。
死後も祖父の年老いていく姿を見守り続けていましたが、死した祖父は霊になることなく成仏してしまい…
攻めは最終的に受けと結ばれ、一応はハッピーエンド。しかし受けの人生それでいいのか?と思わずにはいられない最後の一コマが何とも言えないシュールさを醸し出しています。
祖父が最期まで攻めの想いに応えることなく逝ってしまうという展開も切なく(受けが祖父の気持ちを代弁してはいますが)、明るいようで暗い、救いがあるようでない非常に奇妙なお話。
その他、特に印象に残ったのは「ラブサービスマン」という短編。
付き合う男をことごとくダメンズにしてしまう主人公(受け)。
恋人に言われるがまま金を貸し、別の男と寝るよう命令されても拒まず…
ラストで自身の欠点をようやく自覚する主人公ですが、それを改めるでもなく…という結末が非常にシビトさんっぽいお話。
DVカプの共依存関係をコミカルに描いた「エムのリビドー」等もそうですが、登場人物が現状から抜け出すチャンスを一瞬見出すも、結局自身の意志で現状維持を選択してしまうというパターンはシビトさんの作品によく見られる展開で、そこに人間の愚かさや哀しさ、可笑しさが出ていて考えさせられるものが多いです。
シビトさんの原点が感じられる大変興味深い作品集でした。
8編のお話が入った短編集。登場人物の性格がもれなく歪んでます…。
個人的には、表題作の『愛のポルターガイスト』と『エムのリビドー』がお気に入りです。
『愛のポルターガイスト』
幽霊が見える体質の高校生・成の初恋相手は、祖父にとりついていた美少年の幽霊・雅巳でした。そして祖父の死をきっかけに、雅巳は成に「一族に復讐をしてやる」といって悪戯を仕掛けてくるようになります。そんな雅巳の正体は、祖父の昔の恋人でした。
雅巳の病んでる感じがとても良いです。ふと見せる儚げな表情が色っぽい…!
そして最終的に自分の祖父と付き合っていた幽霊を恋人にしてしまう成の歪み具合も相当だと思います…。二人の歪な純愛が楽しめます。
『エムのリビドー』
束縛が激しく、すぐに恋人に暴力をふるう受け。顔面が傷だらけになって流血するまで殴るって…容赦ない…。
だけど、やっぱり二人は離れられないんですよね。こういう関係になってしまったら、もう普通には戻れないんだなぁとしみじみと感じてしまいました。
こういう束縛をするのって攻めの方が多いイメージだったので、完全に主導権を握っている受けに不覚にも萌えてしまいました…!意地悪そうな顔が良かったです。
幽霊、SM、擬人化など、非常に濃い一冊でした。
シビト先生の絵柄は独特で少し不気味な印象がありますが、今作は特にホラーテイストが強かったと思います。
少し歪んだ愛がお好きな方はぜひ!