兄の恋人だった秋を密かに想う広見。足が不自由でも優しく懸命に生きる秋を傍で守っていけたらいい。そう思っていたはずなのに…

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表題作酷いくらいに

瀬名広見,フレンチのシェフ見習い
愁堂秋,兄の元恋人で足の不自由な翻訳家

その他の収録作品

  • ひとの望みのよろこびよ
  • あとがき ※高遠琉加※麻生ミツ晃

あらすじ

料理人見習いの広見は、かつて兄の恋人だった秋が好きだった。事故で家族と足の自由を失いながらも穏やかで優しく、懸命に生きている秋。片思いのままでも彼の笑顔を守っていけたらいい。そう思っていたはずなのに――。せつなくて愛しい年の差ラブ。

作品情報

作品名
酷いくらいに
著者
高遠琉加 
イラスト
麻生ミツ晃 
媒体
小説
出版社
海王社
レーベル
ガッシュ文庫
シリーズ
愛と混乱のレストラン
発売日
ISBN
9784796400992
3.4

(32)

(3)

萌々

(12)

(13)

中立

(3)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
8
得点
105
評価数
32
平均
3.4 / 5
神率
9.4%

レビュー投稿数8

兄の恋人に焦がれる攻め

成績優秀で性格も良くて顔も抜群という出来が良すぎる兄を持つ広見。

そんな優秀すぎる兄に屈折した感情を抱きながらも、周囲からの賞賛や親の期待など兄が得ているものは一度も欲しいと思ったことはなかっのに、生まれて初めて兄のもの(恋人)を欲しいと思ってしまう広見。

兄の恋人をオレのもんにしたいぃぃ〜!!と渇望する広見視点が萌えました。

で、完全無欠マンかと思われたにーちゃん。
彼は彼なりに、長男とは、物分かりの良い兄とは、親の期待に応えるには、優等生とはetc.etc
こうあるべきと皆から望まれる姿を演じてたんだろうなぁとちょい哀れ。
いつでも正しく穏やかと思われた彼が見せた激情シーンはそりゃ自分勝手だし、「一人じゃ生きられないくせに」と言い放った姿には本性見たり!という気持ちになったけど、何故かそこまで嫌いにはなれません。

萌えたのは、そんなにーちゃんが呟いた「でも、性格のいい本当にかわいい子は、広見のことを好きになっちゃうんだ」というところと、「自分がどれだけ世界に愛されてるかわかってない」と言うぼやきに対して「そこが広美のいいところだと思うよ」と秋に広見のフォローをされちゃうシーン。
にーちゃんの胸の内を想うとかわいそすぎて萌えました。ざまぁ。

攻め受けよりも攻め兄への言及が多いので、受けの秋について。

秋の孤独や枷にはなりたくないと思ってしまう気持ちが痛々しかった。
広見を追いかけたくても物理的に出来ない玄関のシーンが印象的。

それにしても、前半のお風呂場のシーンも、後半の事故の電話シーンも、感情決壊が凄まじいですね。
事故が起きて以来、様々な感情を削ぎ落とさなくては生きてこれなかった秋の慟哭が突き刺さります。
それだけに、広見の胸で泣くことを自分に許すシーンや、広見の指先に口付けながら秋から言ったシーンは感動的です。



3

優しい人は嫌いなんだ。その激情…愁藤秋という男

兄の恋人を好きになる弟…これだけでもう萌える!
表題作「酷いくらいに」は、この弟広見の攻め視点で綴られます。
兄の同級生で今は車イスの秋。広見はどうしても秋を汚したくなる衝動に駆られて苦しむ。秋は兄の克至に捨てられた恋人だから…。
広見は理解できない。克史と別れて、それでも優しく微笑んでいる秋が。両親も足の自由も、そして恋人も失った秋が神を慕っていることが。
オレなら神様のことなんて考えさせない。抱き締めてキスをして、どうにでもできる…そうして自分の浅ましさに自分で苦しんでいる。
でも秋は?
いつもやわらかく礼儀正しい秋は、激情のひとでした。
「ガラス細工みたいに大切にされるのはたくさんだ。僕は生身の人間なんだ」ここの挿絵もすごい迫力です。
「でも僕は強欲だから、優しいだけじゃ足りないんだ。だから、だから僕を、酷いくらいにー」
もう我慢をしない広見との初めての行為。秋は何も隠さず、自分でも広見を求める。自分にも性欲があることを、言葉で、その身体で広見に伝えて。

「ひとの望みのよろこびよ」
秋視点。
足に障害を負って、進路を変え生活を変え、その自分を受け入れていく日々。犬のコーデリアと暮らすことで心の拠り所を保っている秋。
広見は優しくて、少し強引で、秋は満たされて。でもなぜか別れを意識してしまう…その時は広見の邪魔になりたくない、と。
こちらの作品はアニマルセラピーのNPO絡みで出会うあゆみちゃんという女の子とのエピソードが中心です。これが後味の悪い話で…。
動物が怪我する展開、私は苦手です。
結局秋は広見の前で声を上げて泣くことができて、すれ違いそうになる心はまた寄り添えたけど、この辺の展開は正直安易に流れたかなぁという印象です…
ラスト、事故の後周りに迷惑かも、と遠出を諦めていた秋が、フランスで修行中の広見とクリスマスを過ごすためにパリに行く予定を立てている場面で物語は終わります。足は動かないけど、心に翼が生えるんだって!

高遠先生の作品には素晴らしい言葉がたくさん散りばめられていて圧巻です。
『僕には愛さないなんて選択は無理だ。この燃え上がるような瞬間の喜びを知らなくて、長い人生をどうして生きていけるだろう?』

9

個性のひとつとして捉える。

これはよかったです。高遠さんではかなり好き。これで続編が受一人称でなかったら、『神』だったかもしれない、と思ったくらいです。もともと受一人称は苦手なんですが(攻一人称はその作品によります)、高遠さんの受一人称はとりわけ合わないんです。

私にとって、高遠さんはかなり当たり外れのある作家さんなんですよ。正直、広見の勤めてるレストランが舞台の、大変評価の高い作品は、私はどうしても攻キャラクターが好きになれなかったんですね(他のキャラクターやストーリーはむしろ好きなんですが。あとスピンオフはまた別です。メインキャラクターが違うので)。

広見(攻)は、本来の私の好みとはちょっと違うかもしれませんが(苦手な年下攻だし)、自分でも不思議なくらい気になりませんでした。逆に、秋(受)より7歳も年下だからこそ、広見の若さゆえの無神経さその他も流せたのかな~と。

秋は結構複雑なキャラクターでしたが、私は好きですね。『障碍者は心が美しい存在』的な祭り上げって、げんなりするんです。そういうのって逆に障碍者を人間以外の存在にしちゃってるんじゃないの?と思えるんですよ。障碍者は、あくまでもまず『人間』であって、それぞれ個性がある(障碍そのものがすでにそのひとつ)という当たり前のことがスルーされてしまうのが気になるんですね。まあこれは、実際に障碍者と接する経験があるかないかでも違ってくると思いますが。

秋は一見したイメージと違って、強いし自立しています(精神的にも)。それに、『ひとりで生きられない』のは、障碍の有無は関係ないですよ。『ひとりで生きられる』と思っちゃってる方が、本当の意味で自立してないんじゃないかと思いますし。

広見の兄は、私は決して好きではありませんが、そこまで嫌なヤツとは思いませんでした。報復を受けたからというのが大きいですが(これで上から目線のままだったら、もちろんまた別です)。
彼が『完璧』というのもある側面からは間違ってはいませんが、実は単に臆病な小心者だったんじゃないのかな、と思いましたね。つまりまわりや自分の決めた『枠』からはみ出ることが、怖くてできなかっただけなんじゃないのか、と。そういう意味では続編の(叩きのめされた後の兄は)良し悪しはともかく人間味ありましたね。

しかし、続編のフリースクールの少女・あゆみが絡むエピソードはなんとも中途半端で、正直蛇足に感じました。いろいろと詰め込み過ぎで、散漫になった印象でもったいなかったです。広見のフランス行きに加え、CP以外のキャラクターならすでに兄の存在もあるし(まして続編でも絡んで来てたんですから)、それで十分だったんじゃないかと思いました。

でも、いろいろ言いましたが、トータルとしては好きなんです。

ただ・・・イラストは、正直残念でした。

3

難しい問題に真っ向から向き合った、真摯なお話でした。

事故にあって両親をなくし、自らも車椅子生活になってしまった秋と、秋の犬を思いっきり散歩させるために毎朝秋の元を訪れる広見の繋がりが、とても丁寧に綴ってありました。

秋との関係の深め方はもちろんだけど、それよりも広見とその兄との秋に対するスタンスの対比がとても分かりやすかったです。

こういう問題って難しいですよね。
身体障害者側からすれば、「同情されたくない」って思いもあるんだけど、それでもやっぱり人の手を借りなければ出来ないことも沢山あります。
健常者側からしても、善意で手を差し伸べているつもりでも、その根底にまったく「同情」が無いかと言えば、それは無いとは言い切れないと思うんです。広見は無いと言いますが。

だから、その「同情」を、どう捉えるかの違い。
可哀相だから手伝ってやるという上から目線なのか、大変そうだから力になってあげたいという同じ目線なのか。
それって言葉でも態度でも絶対伝わらなくて、要は身体障害者側の気持ちだと思うんですよ。
どれだけ善意の手でも、「俺って同情されてて惨め」と本人が思ってしまえば、いくらだって人を疑えるんだもの。

その点、広見はとても上手に、スルリと秋の懐に入ったんだと思います。
兄が決して、「自分をいい人だと思いたい」ってだけで秋に構っていたとは、思わないしあまり思いたくもないんです。

その溝を埋めるのはただ、障害以外の部分でどれだけ繋がれるかなんだと思います。
仕事とか、趣味とか、そういう沢山の話題を持つことで、「障害があろうがなかろうが関係ない」と信じられる関係を築いていけたから、秋と広見は惹かれあったんじゃないでしょうか。

広見にしても、気にしないとは言うけれど、やっぱり最初に秋を意識したのは、階段で兄に抱えられている姿を見たからなわけで、それが普通にすれ違っただけなら意識なんてしなかったのかもしれない。
聴覚障害の子供を持つとある芸能人が「障害は個性」と言ったけれど、それってこう言うことかな、と思いました。
「美人だから思わず振り返った」とか「スポーツが出来てカッコよかったから目で追った」とかってのと同じ感覚で、秋を意識するきっかけだったんだと思いたい。

秋がちゃんと仕事もしていて自分の身の回りのことも出来るだけ自分でやろうとする自立した人だったことが、とてもこの作品の魅力でした。
それでもままならないことは沢山あるだろうから、そう言うときには広見に対して、気負わず卑屈にもならず、気軽に「これやって」と言える関係になれば良いな…と心から願いました。

なんだかBLというよりも、「彼らと向き合うには」という観点で読んでしまいました。

6

7歳差がちょうど良い感じ

帯『優しさだけなら-いらない。』

兄の元同級生で元恋人の秋[受]と、彼に恋した弟、広見[攻]との話。
前半は広見視点、後半は秋視点で語られます。
兄と秋とは同い年で、広見はその7歳下。
この位の年齢差があるので、若さゆえの勢いや怖いもの知らずっぷり、あとエリート一家の次男での立ち位置に説得力があった様に思います。
広見視点なので兄はやや身勝手に描かれますが、そうする事によってむしろ兄をそう見ている広見と、ともすれば否定的に書かれてるのにも関わらず滲み出てくる兄なりの考えや背負ったものが読み取れるのが良い匙加減でした。
これは後半も同じで広見の兄は決して身勝手な人ではなくて、秋がその辺に引きずられるんじゃないかと思ってたんですがそこは留まって線引いてましたね。
あ、秋は本当に心底から広見が好きなんだなーと感じたシーン。
秋のそういう引きずられそうでいて引きずられない所が芯の強さと通じていて、最初読み始めた時はひたすら優しいタイプかなと思ってたんでそれだけじゃないんだなー、と。
車椅子での生活や、料理人見習いの広見の料理が丁寧に書かれている点がいい具合に作品を深めてます。
秋はクリスチャンですがガチガチの信奉者ではないのでその設定が邪魔をしていないのもいいな。
うーん、犬の怪我はもうちょい軽傷にしてくれると嬉しかったかなあ。後遺症が残りそうなのはなんか読んでて辛い……そこはご都合主義でも元気になって欲しかった。
なんか動物の怪我は苦手なんですよ。

そして広見が働いているレストランがあのレストランなのがやっぱ嬉しい。
レストランシリーズを読んでいなくても問題は無いですが、読んでいる人にはたまらないというこういう作品の繋げ方は大好きです。

読めるものならお兄ちゃんのスピンオフが読んでみたいところ。
あとエレシのバター!美味しいけど高いよなーって思いました(自分的にはカルピスバターが美味しくて好きだー)知ってる食材や好きな食べ物が出てくるとそれだけでちょっと嬉しくなりますね。

3

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