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表題作吉原艶情

男花魁 翡翠 20歳
特高警察 桐守青一郎 29歳

その他の収録作品

  • 赤い肌
  • あとがき

あらすじ

吉原を調査する特高警察の桐守は、異国人の男花魁・翡翠と出会う。蔑んでいたはずの彼に惹かれていくが、共に特高に捕らわれ……。

(出版社より)

作品情報

作品名
吉原艶情
著者
沙野風結子 
イラスト
北上れん 
媒体
小説
出版社
プランタン出版
レーベル
プラチナ文庫
発売日
ISBN
9784829625316
3.5

(30)

(6)

萌々

(9)

(10)

中立

(5)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
8
得点
101
評価数
30
平均
3.5 / 5
神率
20%

レビュー投稿数8

拷問シーンに耐えられるかどうかで評価が分かれそう

男花魁の不憫で可哀想な受け、というのはBLでちょくちょく見かけるが、攻めが花魁っていうのは初めてで、これはこれで面白かった。受けの桐守は特高警察。遊郭に集まる思想犯を取り締まるため、吉原にやってきて、鳴葉楼でナンバーワンの翡翠に出会う。
吉原では反政府運動を扇動する手紙が出回っていて、桐守は任務としてその首謀者を突き止めようとするのだけど、捕まった人がきつい鞭打ちの拷問を受けることを知っているため、自分では怪しい人物を挙げることができない。誰も検挙できなければ、罰として、自分が上司から仕置を喰らう羽目になる。それでも罪のない人が拷問されるのを見るくらいなら、自分が痛めつけられるほうがまし、とばかりに桐守は鞭を受け入れる…。

メインのエロが拷問なので、かなり痛い話ではあるものの、チェーンレターをうまく使って仲間を募り、国家権力に反逆するという流れになるので、読後感がいいのが救い。終盤、受けと攻めがまとめて捕らえられ、拷問(鞭打ちと水責め)が延々と続くのは結構読んでいてきついものがあったんだけど、そこは沙野先生、ただ痛いだけで終わらないのがすごい…。
蜂蜜を使った拷問…というかプレイなんだけど、される側の肉体の状態を巧みに利用するといういやらしさ。する側の変態性も表れていて思わずドキドキしちゃった。BLにおける、蜂蜜の正しい使い方を見た感じ。
ギリギリの極限状態の中で愛を確かめ合う翡翠と桐守もよかったし、攻めが外国人でモノがかなりの大きさなので受けは苦労するんだけど、そのあたりの丁寧な描写もよかった。まあ、挿絵のふたりが傷だらけなのでウッ…という感じではあるんだけど。

中盤までは触るだけとか素股のみなので、沙野先生にしては全体的にエロが薄め?と思っていたんだけど、最後まで読んで攻めがどういう気持ちだったのかわかると、逆にそれが萌えに繋がるという素敵仕様。確かにお客にすることと同じことを、好きな人にもするって抵抗あるだろうなあ…。仕事を辞めるまでの期間、受けとはキスしかしなかった、というのは切なくも萌えた。拷問のつらさを乗り越えられれば、スッキリとしたハッピーエンドです。

3

異国人の陰間

ちょっと珍しい設定。でも、ラブストーリーだけでなく物語の進行がしっかりしていて、相変わらずの沙野さんという出来、非常に読み応えがあって私は大変満足しました。

舞台は鎖国時代の吉原。受けは堅物で恋をしたこともない特高。ひょんなことから売れっ子陰間、しかも異国人に助けられ、体の関係に。。
最初は反発しつつも、心の交流をするうちに引かれていく。王道展開ながら、ラブストーリーだけで終わらないのが沙野さん。
今作は、鎖国時代の政策に疑問を感じた人達が立ち上がるまでの物語が背景で進行します。攻めの翡翠はキーパーソンとなります。受けの”青さん”は、翡翠と出会うことで、恋愛でも仕事でも成長してゆきます。

少しのすれ違いはありつつも、お互いをしっかり思い合うカップルとして安心して読めます。
とらえられて陵辱される(2人とも)シーンは、痛いですが純粋にエロを楽しめました :-)

遊廓ものとしてもお勧めしたい一作。

1

閉ざされた時代を照らす火

ちるちるで評価が低いので、興味があったものの購入を迷っていました。しかし読み終わった後は思い切って買って良かったと思える本でした。沙野風結子先生の本を読むのは初めてでしたが、楽しめました。

時は昭和初期。外国を排除する国粋主義の時代。特高警察の桐守青一郎は反国家の思想犯たちが頻繁に出入りする吉原地区の担当になります。友人の政治家・三田村徳重とともに吉原を訪れた日、桐守は大見世〈鳴葉楼〉の売れっ妓男花魁の翡翠と出会います。翡翠は金髪碧眼の異邦人でした。翡翠に反発する桐守ですが、巷間で出回っている「鎖の手紙」なる反鎖国主義を訴える手紙の調査のため翡翠の力を借りることに。情報の交換で何度も顔を合わせるうちに、二人は徐々に惹かれあっていきます。
翡翠との出会いで桐守のスタンスが大きく変わっていきます。疑わしき者なら誰でもいいから連行して拷問にかけ犯人を炙り出そうとする昭島上官への疑問。特高として思想統一する側でありながら、異分子である翡翠に惹かれてしまうという葛藤。桐守は特高の在り方や自身の気持ちに苦悩します。
しかし翡翠は桐守に隠し事をしていました。それを知った桐守は裏切られたと感じ、翡翠を拒否します。

その頃、反鎖国主義を掲げていた政治家・鳳が殺害される事件が発生。桐守の友人・三田村が犯人とされます。立て続けに〈鳴葉楼〉の男花魁・藤乃が客に殺されてしまいます。殺人事件の捜査を通して翡翠の本当の思いを知った桐守。しかし時遅く翡翠は特高に捕らわれてしまいました。翡翠を庇った桐守も捕らわてしまい…。牢獄で二人を待っていたのは特高警察による拷問でした。


昭和初期、吉原、特高、拷問…と魅力的な要素が散りばめられたお話。それらの要素に国や時代への疑問や葛藤が加わり、シリアスで重いお話に仕上がっています。パラレル昭和設定なので時代考証はできていませんが、この時代をエンターテイメントとして描くにはこの程度で充分なのかも。「鎖の手紙」を回していたのは誰なのか、殺人事件の真相は?というミステリな部分も良かったです。とにかく物語に引き込まれます。
また花魁×特高警察官というカップリングの妙。どっちも自分の萌え要素だったのでさらに楽しめました。あえて花魁を攻め、金髪碧眼にしたのも普通の遊郭ものとずれていてオリジナリティがありました。


桐守と翡翠、二人の思いが時代の流れを変えます。
しかし個人の力では時代は簡単には動かせない。相容れない世の中で、人は何を選択しどのように生きるのか。帯文「ただひとりの人のために、火を放った」というフレーズが表す「火」は時代に何を残すのか。物語の続きが気になる終わり方でした。
死と隣り合わせの牢獄で愛を誓い合った二人に幸あれと思わずにはいられません。

3

沙野先生どうしちゃった?

薄いです。
いつもの沙野テイストを期待して読むとびっくりするほどに。
いわゆる“受が花魁”というセオリーどおりの遊郭ものでなく、攻キャラが花魁。
この設定自体はBLでは結構珍しいと思うので、話の展開次第ではもっといろいろやりようもあったのではないかと思うのですが。

とにかく、薄味。
文体も“一行ごとに文頭”という(これは文章力のない人の書き方)BLによくある書き方になぜか変えた(?)ため、余白が多く、一冊全体の文字数がいつもよりも全然少ない。
少ないせいで、人物や設定が深く掘り下げられないまま話が進み、そのままさらっと終わってしまっているという印象です。
特に、攻の翡翠はそもそも何者なのか。
日本に来た理由や花魁をやることになった経緯、またそのことについてどう思っているのかはさらっとしか触れていませんが、その掘り下げは必要不可欠だったんじゃないですかね?
登場人物に感情移入できないと、読者は心情の変化や機微が読み取れません。

全体的にいつもの、どろりと薄暗く、そして救いのない沙野風味の世界観がほとんど感じられません。
執着攻や因習やヤクザといった“濃い要素”が出てこないせいもあるのかな?
そのわりに、物語中盤から後半にかけて出てくる拷問のシーンがだらだらと異様に長く、やたらと陰鬱な気分にだけはさせられるので、たちが悪いとすら思いました。
そして、オチも特にびっくりするような展開も無く…。

これが沙野作品の真髄とは思いたくないです。
また、初めて沙野作品を読もうとしている人にも勧めたくないなぁ…。
おそらく編集方針として意図的にいつもとテイストを変えてきたのだと思いますが、沙野ファンが沙野先生に求めているものは、他の作者でも容易に書けるような、ライトなタッチの読み物ではないと思います。
とりあえず、それだけは声を大にして言いたい。

3

設定はドストライクでしたが……。

表紙と作者さんとあらすじ。
この三つから少々期待しすぎていたために、私はあまり楽しめず勿体ないことをしてしまいました。
というのも、パラレルとはいえ昭和初期の時代もの、しかも吉原と特高なんて設定で作者が沙野風結子さんとくれば、正直かなりヘビーな話を期待してしまっていた訳です。
勝手に自分でハードルを上げてその結果、粗ともいえないような部分が目についてしまいました。

以下、こうだったらなぁ……という無い物ねだり。

物語では、まず整合性の取れなさ。それは無いだろうと眉を顰めてしまい、入り込めなかったところがそれなりにありました。
また、肉体的には十分痛いのですがその分といっていいのか、正直精神面の重さが物足りなかったです。もっとこう、ぐぐぅっと圧迫されるような?感じ――受けの桐守が追い詰められていく様が見たかった(笑) 沙野風結子さんの「斜行線」を再読したばかりだったので、余計にそう思ったのかもしれません。
それともう一つは、脇役の扱いでしょうか。敵役としてはテンプレな上官・昭島やいい味を出していた三田村はともかくとして、藤乃や直澄など目を惹く脇役の扱いの微妙さが残念でした。もっとも直澄は、下僕発言の出た彼とのスピンオフが期待できるかもしれませんが。

そして雰囲気、正直いってこれに一番興が削がれてしまいました……。
といっても、遊里の艶やかな退廃だとか、特高の暗さだとかがあまり感じられなかったのは、大して気にはなりませんでした。
けれどちらほら使われる単語――警視庁やアリバイ・タクシー・光の手紙等の、時代とのそぐわなさがどうにも。実際に当時使われていたのかとか、そういう事は関係なく私は駄目でした。(まぁそもそもこの話、パラレルな訳ですが……)

結局全体として、物理的にも内容的にも少々薄かったなという印象です。
ただしこれらは読み方を失敗した、しかも濫読により刺激に対して鈍化した読者の受けた印象なので、実際そう物足りないということはないと思います。
攻め・翡翠の手慣れているようでいて結構なワンコっぷり&受け受けしさだとか、そのまっさらさ故に(笑)素直に落ちてしまった、桐守のいやらしさだとか。私も十分美味しくいただきました。

過剰な期待を持っていなければ、評価はおそらく萌×2だっただろうとは明記しておきます。

0

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