無償の愛情で救われる人間を描き、「ダ・ヴィンチ」誌上でBL界の芥川賞と評された傑作!

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表題作箱の中(文庫版)

喜多川圭
同房の受刑者
堂野崇文
痴漢冤罪で有罪になった会社員

その他の収録作品

  • 脆弱な詐欺師
  • 檻の外
  • 解説:三浦しをん

あらすじ

痴漢の冤罪で実刑判決を受けた堂野。収監されたくせ者ばかりの雑居房で人間不信極まった堂野は、同部屋の喜多川の無垢な優しさに救われる。それは母親に請われるまま殺人犯として服役する喜多川の、生まれて初めての「愛情」だった。『箱の中』に加え、二人の出所後を描いた『檻の外』表題作を収録した決定版。

●箱の中
●脆弱な詐欺師
●檻の外

※本書は2006年3月に蒼竜社より刊行されたノベルス版『箱の中』と、同年5月に刊行されたノベルス版『檻の外』表題作を、『箱の中』として一冊にまとめたものです。

(出版社より)

作品情報

作品名
箱の中(文庫版)
著者
木原音瀬 
媒体
小説
出版社
講談社
レーベル
講談社文庫【非BL】
シリーズ
箱の中
発売日
ISBN
9784062773256
4.5

(213)

(174)

萌々

(13)

(7)

中立

(8)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
41
得点
951
評価数
213
平均
4.5 / 5
神率
81.7%

レビュー投稿数41

こんなにも愛おしいと思える攻めはなかなかいない

 一般文芸としても出版されているだけあって、BLのお約束的な要素がほぼない、非常に読み応えのある作品でした。と同時に、我々BL愛好者が物足りなさを感じる懸念もなく、男同士の関係性の萌えがこれでもかと詰まっています。改めて木原先生の心情描写の緻密さと、あらゆる面で現実的な部分を注視し、けっして過度に美化したり省いたりして書くことのない創作への真摯な姿勢が素晴らしいなと感じました。

 喜多川は堂野の何にこんなにも取り憑かれてしまったのか。ありがとうという言葉をたくさん言ってほしい、と子供っぽい直截な欲求を口にする彼でしたが、本当に罪を犯した人かどうかというよりも、堂野の心根が、今まで自分に関わってきた大人たちとあまりにも違うことを肌で感じ取り、最初から気にかかっていたのでしょうか。また、親しい間柄でさえ損得を考えて動くことはあるけれど、刑務所という冷たい空間の中で堂野は自分の存在だけで救われ、感謝を示してくれる。無条件の愛に触れたことがない彼は、まず堂野の無条件の自分への好意に途轍もない快感を覚えたのかな、なんて思いました。

 子供の何かを吸収するスピードは速いものですが、堂野の情を根こそぎ自分のものにしようという喜多川の執念は凄まじく、ちょっとやそっとでは頽れません。その周りを一切顧みないひたむきさは、彼が子供のままであることを堂野に強く印象付けます。それはもちろん「いい歳なのに未熟」「社会の常識が分からない」というネガティヴな捉え方もできます。一方で、「ほとんどの人間が成長と共に持つようになる諦念や妥協がない」「大人の世界に染まらない純粋な心のまま世界を見ることができる」というポジティヴな面もあります。堂野は喜多川の後者の部分を徐々に愛おしいと思い始める自分に気付き、刑務所でも再会後も、その感情が愛なのか何なのか悩むことになる。

 出所直前に芝に自分の今後を伝えず、出所後は結婚し子供も持った堂野の選択は、彼がどこまでも普通の人なんだなということをよく表しています。BL作品の登場人物だからって、刑務所で知り合った同性と添い遂げる覚悟なんて持てない、女性に欲情しなくなったわけでもない、妻子を養う生活に不満や疑問もない、ごくごくありふれた男性。安易に雰囲気に流されず、喜多川との関係を一度は断つことを選び、再会後もすぐ絆されたりせずに妻子を裏切ることのなかったその真面目さは、冴えない彼の唯一と言っていいほどの美徳でした。そんな彼が、喜多川との関係においてのみ、太陽や月のように輝く存在となる。そしてまた、彼にとっても喜多川の脇目も振らない一途な感情は、単調で時々絶望に落ち込む人生の中で、一定の光を保って温かな希望を見せてくれる、かけがえのないものなんだろうと思います。この2人の出会いは数ある物語の中でも私にとって忘れがたい、尊いものとなりました。

◆Holley NOVELS版『檻の外』レビュー追記
 講談社文庫の『箱の中』には続編である『脆弱な詐欺師』『檻の外』まで収録されているのですが、旧版『檻の外』に収録されていた書き下ろし『雨の日』『なつやすみ』がなかったので、旧版も買って残り2編を読みました。

 『雨の日』はあとがきでも仰られているように担当編集に甘い話を求められて書かれたということもあり、BL色が強めでした。これは確かに一般レーベルでは出しにくいかもしれませんね。でも、刑務所というしがらみ、麻理子という縛りのない、今度こそ本当に自由を手にした2人の濡れ場や会話は、些細なありふれたものでもとても愛おしく感じられました。

 『なつやすみ』は麻理子と浮気相手の息子である尚視点の話。片親の子のもう1人の親に会いたいという気持ちは痛いほどよく分かります。母と父ではやはり与えられる愛情にニュアンスがあって、子供はどちらも欲しいもの。喜多川や堂野が尚を連れ去ったわけでもなく、穂花との接し方から2人が子供の前でいちゃつくような男ではないと分かっているだろうに、ずっと感情的な麻理子には正直嫌悪感を抱きました。浮気相手との子を図太く認知までさせておいて、いざ堂野と尚が親子らしくなったら凄まじい拒否反応を示す。男に愛想を尽かした女性の現実だとは分かっていても、彼女に共感はできませんでした。だって、彼女の裏切りを知るまでは堂野も喜多川も彼女を裏切っていませんでしたから。

 でも、彼女の言う通り尚は幸せな子供だったと思います。喜多川の大らかな愛情と、堂野の丁寧で優しい愛情に包まれて、毎年夏の数日間だけ積み重ねていった2人の父親との思い出。そして、尚と触れ合うことで喜多川と堂野も穂花を亡くした痛みを和らげることができただろうし、男2人の生活でも子供を持ったような気持ちになって、お互いいろんな辛い経験をしてきたけれど人生そんなに悪くないなと思えるようになっていただろうと思います。麻理子や田口とは別に、尚には確かにもう1つ家族があった。他人に理解されずとも、この3人だけが分かっていればそれでいい。喜多川の隣には最後まで堂野がいてくれて、けっして悲しい終わりではなかったと、一片の疑いもなく信じています。堂野と尚の関係がいつまでも続くように祈りました。

1

箱の中がすごく刺さりました…

しんどい話が好きです。箱の中凄かったです。求めていたのはこれ!BLが好きと気づいてからBLを色々読んでましたがあまりヒットしない私はこの作品を読んで、これだー!!!となりました。本当に素晴らしい作品です。
ただ、檻の外が…箱の中は最高でした。脆弱な詐欺師もすごく面白かった。檻の外…(作中で)子ども死なせてまで二人は結ばれないとダメなのですか???完全一方通行の話が大好きなのでBLを読む時に必ずしも二人が結ばれる必要はないと思ってる、なんなら失恋エンドも大好きな私としてはくっつかずに終わればいいじゃん!!なんで!!!ってなりました。ここだけどうしても受け入れられません……
それでも箱の中だけでもすごく好きなので好きです!!!!!

2

最高です!

BL小説の中でベスト3に入る神作品です!

お恥ずかしいのですが、BLは、
漫画ばかり読んでおりましたが、この本に出会い、
BL小説の奥深さと、面白さを知り
BL小説にはまるきっかけになりました。

実在するのでは?と思うような
リアルな人物描写と、心の描写の数々に
圧倒されました。

不器用な攻めによる
受けへの並々ならない愛情とその表現の仕方が
胸を打ちます。

この不器用さに心打たれるのは、
人との距離の取り方に戸惑う
暗くも甘酸っぱい思春期を
思い出すからかもしれません。

何度読んでも、
余韻の残る素敵な作品でした。

2

神! BLとは

木原音瀬先生、初読みの作品です。

全体的に物語としての完成度が高く、豚箱から始まるストーリーは惹かれるものがあり、読んでいる手が止まらない程面白かったです。
全体的に暗い作品でしたが、そのダークさに垣間見える喜多川の愛や執着心は純粋ながらも怖いものがありました。
自分的、箱の中と詐欺師編の話がしっかりしていて好きです。
檻の外は少し早足だった印象があり、穂花殺害事件は少しこじつけ感があったのでそこだけ苦しかったです。
でも、それらを抜きにしても神作品でした。
特に 人間の人間らしさは群を抜いて素晴らしいです。
この作品に出会えてよかったです。

追記。
不妊治療を10年続けている浮気相手の嫁に自分の子供を殺害されたり、
麻理子の「友達にも、みんなにも『麻理子の旦那さんは優しい人ね』って言われて、嬉しくて」発言には興奮しました。
『優しい夫』に縋っていたり、浮気した事にごめんなさいを言わなかったり、自分ばかりが不幸を被って堂野をずるいと言う所、彼女からは言葉の節々に人間の意地汚さを感じられて個人的に凄く好きです。

3

新書版、最高でした

講談社文庫版を先に読み、どうしても[雨の日][なつやすみ]を読みたくて図書館で借りて読みました。
本編は、箱の中はひたすら読んでてしんどくて何も悪くないのに疑わないやつがバカを見る感じで、信じては騙されてってのがあってしんどい。堂野の場合、自分のせいで家族がお金騙し取られるって相当キツイな。喜多川は、藁にもすがる思いで探偵に堂野探しを依頼してるから騙されてるなんて思いもしない。盲目で闇雲。そんな姿を見て、探偵にお灸を据えてくれた刑務所で一緒だった男のおかげで堂野と再会できた喜多川。
家庭を持ち子どもまでいる堂野と再会して、家族団欒を見ながらどんな気持ちだったんだろう。でも、会うのをやめられない。切ないなー。

あの不幸な事件から一気に喜多川×堂野ルートのストーリーが加速する。母親の不倫の怨恨で犠牲になった穂花ちゃんは、本当にかわいそう。
幸せな家庭を築いていた筈が妻の不倫、娘を殺されてなんてこんな目に遭うんだ、堂野。
穂花ちゃんが懐いて16になってもまだ好きなら嫁に貰ってやるまで言ってた喜多川。
事件の真相がわかってから、どんどん太々しくやな女になっていく妻。
だからこそ喜多川と堂野の結びつきが深くなったんだけど。


本編の終わりよりも[雨の日][なつやすみ]を読んでキチンと2人の話を読み終えた感がありました。

[雨の日]は、喜多川視点のお話
感情が感じられなくて朴訥で一途でちょっと怖いくらいの執着があるので、やべえ奴感があった喜多川。喜多川に押されて流されてるのかな?って思ってたけど、ちゃんと2人が思い合ってるのがわかって、愛情を感じるお話でした。

[なつやすみ]は、元妻の息子「尚」と「堂野」と「喜多川」の尚視点のお話。
めちゃくちゃ泣いてしまった。
喜多川が案外子ども好きで、面倒見が良く子どもに懐かれるのは穂花ちゃんの時もだったけど、尚くんも喜多川の事が大好きで短い交流の中でもとてもいい時間を過ごせててとてもいいエピソードでした。

読者として喜多川の最後まで見届けられたのも良かったです。死に別れがメリバではなく幸せな人生を全うできた1人の男の最後として捉えることが出来ました。
今後、何処かで多くの人がこの[雨の日][なつやすみ]が読めるようになればいいのにと思います。

私自身も所持していつも読める状態になりたい。

2

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