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明治〜大正時代って、どうしてこんなに惹かれるのでしょう。
「大正ロマン」という言葉の通り、合理的なものより情緒に重きが置かれるようになった時代のせいなのか、日本であって日本でないような独特な雰囲気に胸が躍ります。
この作品の舞台は大正初期。第一次大戦の頃。
大学で英語を教える周(あまね)と高級遊民の龍彦は、高校時代からの友人。
暇にあかせて周の研究室に日参する龍彦はその日、ある小説を持参してきて…。
不思議な雰囲気の中、テーマとなっているのが催眠術に幽霊、怪しい薬。
暇潰しの戯れにかけた催眠術が重いもよらないことを暴いたり、未練の残る幽霊に取り憑かれたり、周に目をつけた伯爵に怪しい薬を飲まされたりして、えろすの割合は少なくありません。
ただストーリーもしっかりしているので、中盤からぐいぐい引き込まれます。
カシオさんの絵は個人的に清潔な草食系のイメージなので、催眠術にかかった周乱れっぷりがそぐわなくて、ちょっと引いてしまう。
だけど幽霊に乗り移られたときの表情は、息を呑む妖艶さ。
伯爵の屋敷からの帰り道の馬車では、またちょっと引いてしまうし、結構えろすの度に作品とこころの距離が離れるのですが、中盤からの吸引力の強さよ。
まずは言葉にやられます。
長く友人だったから、素面では言えない気持ちを催眠術にかかったふりで吐き出したものの、その後何事もなかったかのように振る舞う周に、龍彦もあやふやなまま。
そのあやふやさを吹っ切るきっかけになるのが、伯爵の家で周が朗読したシェイクスピアのソネットというところも素敵だけど、その詩が持つ意味を理解した龍彦のモノローグが素晴らしいんです。
畳み掛けるように、自分を奮い立たせるように、重ねられる言葉の力強さが、フォントサイズのせいだけじゃなく、しっかり伝わってくる。
そこから志願兵になるよう親に言い渡される龍彦の「時間」を思うモノローグも良い。
挙げればキリがないほど、良い言葉が溢れています。
前半の軽薄な感じから一転してシリアスになる後半。
切なさで胸を千切られそうになること請け合いです。
カシオさんの時代ものは、いつもBBS制作の『名探偵ポワロ』や『シャーロック・ホームズ』のような雰囲気を感じます。
この作品でも伯爵のパーティはポワロが招かれていてもおかしくない感じだし、龍彦と周の友人関係はシャーロックとワトソンくんのよう。
趣があって、ずっと浸っていたい世界です。
欲を言えば、えろすが…。
個人的には匂わせるくらいで場面転換していただけたら、確実に「神」でした。
〖DMM電子書籍〗
修正 : トーン、白抜き(汁あり)
カバー折り返し : なし
カバー下 : なし
帯 : なし
裏表紙 : なし
カバーデザイン : 橋本清香さん
電子限定特典 : なし
備考 :
ひと言 : 周の刈り上げられた襟足にムラッとします。
〖紙媒体〗
未読
催眠術という面白いテーマで軽快に進んでいくのと同時に、大正という時代ならではのシリアスさも時折混ざっている、このバランスがいいなぁと思いました。もっと薄暗い話かとイメージしていたけれど、最後まで明るい気分で読めました。催眠術って素人がそんなに簡単にかけられるものなの?という疑問はさておいた方が良さそう。実際、周のように暗示にかかりやすい人間というのは存在しますし、催眠術に関わらず、他人の影響を受け入れてしまいやすい彼の無防備な体質を楽しんだもん勝ちの作品だと思います。時代やテーマこそ特殊ではあれど、両片想い(時差はありますが)から気持ちを伝え合ったり、周がモブに襲われたところを龍彦が助けたり、割と王道なストーリーでもありました。
ネットにて表紙を見て、絵がとても好みで購入したのですが内容もとてもよかった。軍服に和服に、色っぽくて本当によかった。受け攻めどちらとも美形なので、眼福とはこういうものか、と思ってしまいました。今私が腐女子の友人に一番勧めたい本です。