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表題作さよならトロイメライ

宗方鉄真,貿易商の嫡男
弓削晶,執事見習い

同時収録作品さよならトロイメライ

宗方朋実,貿易商,鉄真の父
弓削晶,執事見習い

あらすじ

貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削晶は、嫡男・鉄真の「船を港に導く灯台を建てたい」という夢を側で支え、一緒に叶えたいと願う。
二人がささやかで清らかな信頼を静かに育んでいたある日、弓削は宗方家当主である鉄真の父に犯されてしまう。
そして、とうとう鉄真や弟の一誠にまで男の狂妄が及んだとき、弓削は彼らを守るため、当主を斬り殺した――。
罪人であり仇となった弓削に、鉄真は口おしい思いで、一生側で罪を償えと命じるのだった……。


波乱に満ちた二人の純愛の行方を狂おしく艶やかに描いた大正浪漫が今、ここに開幕!

作品情報

作品名
さよならトロイメライ
著者
尾上与一 
イラスト
笠井あゆみ 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
発売日
ISBN
9784883864454
4.2

(105)

(75)

萌々

(9)

(6)

中立

(4)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
14
得点
433
評価数
105
平均
4.2 / 5
神率
71.4%

レビュー投稿数14

愛することの意味を教えられるような作品です。

甘いだけの話でないことはわかっていて、尾上先生の初期作品のシリアスぶりもこちらのサイトのレビューから見知っており、なかなか手が出せずにおりました。
が、ついに、開けてしまいました。
ギリギリ明治かという時代設定で、身分差が厳然とある中での主従の想いが、切々と語られます。
哀しさがどうしても拭えないので、完全なハピエンとは言えないかもしれません。ただ、社会構造の壁や、この時代には不治の病等を乗り越えて相手を求めよう、愛そうとする主人公達の熱、想いの迫力が凄いです。
恋愛本来の姿とは、こんなに哀しく激しいものかと、教えられる気がしました。
甘いだけのお話ではないけれど読めてよかった。そして、こんなに激しく相手を愛する人物像は、最近の尾上先生作品でも息づいているから、花降るシリーズにもあんなに心打たれるんだなあと、源泉をたどれたようにも思います。
それでも、1945年シリーズはまだ手に取れない。。
まずは本作品を繰り返し読むところからです。

1

罪の共有とトロイメライ

変革の時を迎えた明治大正という時代と家に翻弄され、罪を共有して生きるしかすべがなかった少年たちの激動の物語。
激しくも狂おしい2人に寄り添うのは、飴色をした小さな木箱が奏でる素朴なトロイメライ。

愛して、焦がれてやまないけれど絶対に許されない。
朗らかに笑い、同じ夢を見たあの頃には戻れない。
港に押し寄せる荒波のように苛烈な彼らの人生と、儚さと懐かしさを感じさせるトロイメライの曲調の対比が物悲しく、そしてどうしようもなく胸が締め付けられるのです。

ただお側にいさせてほしい。
それだけを望む、弓削の執着をも超え狂気を孕んだ鉄真への深愛に、人はこんなにも人を愛することができるのかと息を呑まれます。
普通の恋をすることが叶わなかった鉄真と弓削の、罪を共有している彼らにしか分からない不器用な愛の伝え方に魅了されてしまいました。

決して綺麗ではない、それぞれ形が異なる様々な人の情が入り乱れた非常に重みのある1冊です。
表現のひとつひとつが素晴らしく、知らないはずの景色が浮かび上がる印象的な情景描写と、美しくも重く苦しい純愛に没頭してページを捲ってはため息が出る。
しばらく忘れられそうにありません。
1本の壮大な大河映画を観たような余韻が残る作品でした。

3

壮大なメロドラマを見ているよう

名作ですね。ただ、わかりやすいハッピーエンドやラブラブ感、エンタメを求める方にはお勧めしません。ストーリー重視で切なさ痛さ耐性高めの方にはめっちゃお勧めします(読んでください!)。評価は”神”or"しゅみじゃない”の2択、と思いました。
ギリギリ死にオチじゃないあたり(これも捉え方による…)、結末は読者の想像にお任せします的な余韻が残される読後感、”しゅみ”なんかじゃ割り切れないない作品そのものの素晴らしさ、これ以上はまるイメージはないくらいの笠井先生のイラストもあって、”神”のほうの評価です。

前半がしんどくて、、うっかり寝る前に読み始めて後悔する重さでした。ただね、私は大好きなんですよ、世界中の男の嗜虐心をあおる無自覚エロスを宿命的にまとう薄幸受。凌辱も嫌いじゃないんですけど、これは、作者様の筆力のなせる技というか、描写に臨場感がありすぎて、読みながらつらくなりました(;;)

情景描写が素晴らしくて、色とりどりの花々でにぎわう庭園が目に浮かぶようでした。攻受の心も景色の一部のように美しい言葉で切々とつづられていて、彼らが目にする光景とともに、状況も感情も洪水のように押し寄せきて、それらに感情を侵食されていくような読書体験でした。怒濤の展開は一気読み必須です。

印象的な場面はたくさんあるのですが、お互いが見えていないところで、どれだけ相手を思って辛いか!という心情描写が素晴らしくて何度も抉られました。特に、弓削が鉄真からもらった桃を食べようとしたときに、その果実についている指のあとに気づいて、鉄真がどんな想いでもってきてくれたのかを察するところ、そこから鉄真に対する気持ちのあまりの強さに怖くなる弓削の心の動きが、死ぬほど切なかったです。

ラスト、見開きの笠井先生のイラストが圧巻でした。二人が幸せな心持で過ごしたであろう、その後の日々を推しはかれるようです。

2

耽美

一気に読みたかったけど、最後少し残しました…。結末が知りたいようで知りたくないような無意識の葛藤があったからかもしれない。

デビュー作で心が折れて、暫くして『彼岸の赤』を読んでみて、やっぱり少し苦手だと感じていました。それから作者の作品に免疫がついて少しずつ読んでいるところで、本作にぶち当たりました。圧倒されました…!!

1945シリーズは未読で、おそらくそのシリーズ群こそが作者の本領なのかと思いますが、本作は『彼岸の赤』系列の耽美系ど真ん中。笠井あゆみ先生のイラストがこれ以上ないってくらいマッチしていて、あああ〜久々に興奮しました〜!!!

まだ少年だった頃に出会った二人。宗方家を背負った嫡子・鉄真は、実父に犯され慰み者にされた初恋の相手をどうにかして家から解放してやりたかった。しかし弓削は命を賭して鉄真に仕えることでしか生きる意味を見出せなかった…

互いに思い合っているにもかかわらず、相手の意に沿わない形でしかその思いを表すことしかできない二人。弓削は過酷な運命を受け入れながら、執事としての矜持に縋ることで愛を手に入れるのです。その道のりはもう、壮絶の極みでした。

優しいお話も癒されるけれど、時にはこういう愛も読みたかったのだと気付かされましたね。ありがたいことに、その欲求を心ゆくまで満たしていただいちゃいました。本作でやっと作家様の魅力がわかったような気がします。素地が耽美だったのかも…と。

尾上先生の作品は様々な花と赤い色が意図的に描写されている印象で、きっと何か思い入れがあるのだろうなと思います。先生の作風って重厚で暗めで、個人的にBLを読み出したのが耽美方面からだったもので…もしかして若かりし自分に寄りすぎているから苦手だったのかもしれないなと思いました。同族嫌悪みたいな笑

久しぶりにそんなちっぽけな自意識を凌駕するような大作に出会えて、しばし余韻に浸っています。BL小説ではあれど、安易なハピエンに持っていかない結末が素晴らしかったです。

3

飢餓感

尾上先生を最近好きになったので、後追いで・・と思ってたら、なんと紙も電子も無い!ホリーノベルズさん、後生ですから、そこを何とかならないものかと強く思った一冊です。物理的に入手困難という飢餓感のみならず、読んだ後の飢餓感が凄い。読むんじゃなかったというものではなく、どっかに救いを求めて彷徨う感じです。入手困難な本、レビューすんなよとのお叱りはあろうかと思いますが、自分の気持ちを吐き出さないとやってられん!と思ったのでお許しください。大正時代のある商人と執事の長いお話。

14歳の時に父が亡くなり、宗方家の家令見習いにとの申し出に従って着の身着のまま引き取られた晶(あきら)。海外貿易も行っている大商人の家で、そこの兄弟、鉄真、一誠と触れ合いながら、少しずつ仕事に馴染んでいったが、ある日、「旦那様の仰る通りにしなさい」と言われて、主人のいる離れに行き・・と続きます。

攻め受け以外の登場人物(結構多い)
一誠(攻めの弟、無敵の人たらしの模様)、黒田(宗方家家令)、久松(家令候補)、三鈴(家令候補)、久保田(西園家番頭)、中根伯爵家の方、チギタ(台湾の通訳)、栄仁(台湾のマフィア)ぐらいかな。一誠が好きでした。黒田についてはなんと同人誌があるとのこと。

**以下 より内容に触れる感想

淡い想いを寄せていた鉄真をかばって、阿片漬けで正気を失った主人を殺してしまった晶。自分たちの思いとさまざまな事情から翻弄される二人の話を読みながら、「何とかならないのか」と考える暇もなく号泣の渦に巻き込まれて読了する感じのお話です。甘く幸せなところが無い!!!!!!!

最後は思いが重なって幸せだったと思うのですが、平穏無事な日常が無いんです。だから読み終わった後の「何か幸せな箇所はないのか?」という飢餓感が凄い。先に購入していた同人誌を読みましたが、それでも満たされることが無かったので、救われないこの想いをどう昇華したものか・・・。
晶と鉄真の狂気とでもいうべき思いにやられたのかな。

普段幸せ満点、にまにま読了タイプの本を読むことが多いので、久しぶりに「やられたー」と思いました。「お前は俺を連れていけ」というこのセリフ、この飢餓感のために何年たっても覚えている一冊になりそうです。にまにま幸せ本でないとイヤ!という方には難しいと思います。ご注意ください。

4

執事

最近あまいBL多すぎるよな。
たまには昔みたいに手ひどいヤツが読みたいとおもっていた昨今。
久ぶのハードコアでした( ノД`)シクシク…甘いのが読みたい
完全に読み手を選びます。

成熟前にオッサンの手籠にされるとか。
薬をもられて手籠めにされるとか。
あれやこれやなプレイとか。
精神的にアイタタタな展開が待っておりますので
ダメな方はご注意くださいませ。

お話しは、貧乏故に貿易商の家へ執事見習いとして働きに行った先。
年も近い兄弟とも仲良くなり、少しずついい方向へ
と思った矢先にヤク中のおやじに・・・という流れでございます。
血しぶき舞い散る時代を経てもまだ穏やかにならず。

正直、青年期のあの執着っぷりというか
追い出そうとうする攻と、意地でもそばにいたい受の攻防は
演出的にはイマヒトツだったかなという印象。
言いたいこともやりたいこともわかるのだけど
あそこまでやるとなんか違う意味で怖い。

ラストはラストで、あれはハッピーエンドでいいんだろうか。
個人的にはわかりやすいハッピーエンドが好きなのでスッキリしなかった。
甘い描写が少なかったので、どこかで幸せなその後の話とか
あっても面白いと思います。よろしくお願いいたしますw

3

悲しくも美しき大正浪漫

貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削は、執事修行に励む中、宗方家の嫡男・鉄真に惹かれていく。鉄真もまた弓削の勤勉さや生真面目さを愛おしく思い、二人は淡い初恋を大切に育てていた。いつか灯台を建てる鉄真を傍で見守る事を心の支えにして精進していた弓削だったが、ある日宗方家の現当主である鉄真の父に身体を暴かれてしまう。

 阿片に毒されていた鉄真の父に諫言は通じず、他の使用人も見て見ぬふりをする中、人形のように身体を好き勝手に弄ばれる日々にただ絶望する弓削。それでも鉄真と語り合った夢を心の拠り所にし、ひたすらに耐えていた。しかし遂に阿片に狂った当主は鉄真に言いがかりをつけ、鉄真を手にかけようとする。鉄真を守るために当主を斬り殺す弓削。宗方家で起こった全ての事の顛末を弓削に被せ殺そうとする宗方家の家人たちだったが、鉄真はそれを制し、弓削に「一生傍で罪を償え」と告げる。

 以来弓削を守るために使用人たちの前で彼を罪人として扱い、辛く当たる鉄真だったが、事件前よりも強い愛情と執着を弓削に寄せるようになっていた。いつか弓削を宗方家から解き放ちたいと願う鉄真と、鉄真の傍にいたいとただただ願う弓削。二人の愛の行きつく果てはいかに。…という感じのお話です。

 文章の構成、表現、ストーリー、どれをとっても洗練されていて、物語の世界観にグイグイ引き込まれていきます。また、情景描写も素晴らしくそして美しく、読後はまるで映画を一本見終わったかのように、1つ1つのシーンが映像として浮かびあがります。漫画を読んだ後に絵が思い出されることはよくあると思うんですが、文ですべてを構成される小説において、場面や登場人物の行動が文でなく映像として思い出される体験というのが私はあまりなくて。尾上先生の稀有な表現力を堪能することが出来る名作です。

 物語のキーパーソンは主人公の弓削だと思うのですが、彼がなかなかに一言では著せない難しいキャラクターです。ちるちるでは不憫・健気受けにカテゴライズされている彼ですが、執着受けもぜひ加えたいところ。弓削は事件以来身体に癒えない爪痕を残され、心が砕けてしまい、鉄真を全ての行動原理として過ごすようになるんですが、同時に異様なまでの執着を見せるようになります。

 鉄真は深い愛情から弓削を宗方家から追い出そうと何度も画策するのですが、弓削はそれらを全て跳ねのけ、ただ鉄真の傍にいようとあらゆる手段を使います。毒を自ら飲み、地図のない山道を夜通し歩き、折檻を甘受する。これが相手のためを思う行為ならばただの健気受けであり、美談だと思うんですが、彼は違うんです。鉄真の傍にいるのは自分のため。たとえ鉄真から疎まれていたとしても、自分が宗方家にとって害をなす者であっても傍にいたいと願うんです。なかなかのエゴイストだなと思わされるのですが、鉄真以外の全てを望まないから彼を取り上げてくれるなという狂気にも似た彼の悲しい愛し方が頑固で潔くて私は物凄く好きです。
 
 弓削は事件前の自分が愛されていた自覚はありながらも、鉄真の父親に身体を汚され殺人を犯した自分は醜いと蔑み、鉄真の愛情を信じ切ることが出来ません。しかし物語を通して十数年もの間、鉄真への歪んだ愛し方をひたすらに貫く弓削は健気で可哀想で…。読めばきっと惹かれるものがあると思います。

 鉄真もなかなかの執着攻めです。弓削を何度も彼のためだと宗方家から追い出しますが、何度も戻ってくる弓削の姿を見て弓削の愛情を試し、安心しているような部分もあるのです。弓削を不幸にさせまいと必死で家業をこなす鉄真。愛の重さや深さは同じでありながらも、弓削を宗方家の呪縛から解き放つことが彼の幸せだと信じて疑わない鉄真と、ただ鉄真の傍にいることを望む弓削のすれ違いがもどかしいんです…。切ない…。

 そして鉄真は建前上、弓削を父の仇として弓削を扱わなければならないため、彼への愛情を日の下で表すことは出来ないのですが、だからこそ他者の目を忍び、互いだけが分かる表現の仕方で弓削を大切に扱ったり、愛情を伝える鉄真がすごく素敵なんです…。桃だけでこんなにも二人の狂おしいほどの愛を表現できるのかと唸りました。本当にぜひ読んでほしい。

 好きなシーンは本当にありすぎて選べない。苦渋の決断で挙げると、弓削が最初に屋敷を追い出されるシーンと、先ほども言った桃の描写、そしてラストシーンが本当に美しくて好きです。耽美…。

 本文は余韻を残して終わるラストなのですが、彼らのその後や本文中で語られなかったシーンが描かれた同人誌が4冊ほど出されています(本文中に登場した人物のスピンオフのような同人誌も一冊)本文が人によって様々な捉え方が出来る本当に美しい締め方なので、購入をためらわれる方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に素敵なのでぜひ読んでほしいです。

 いつか出る電子版を夢見ていたのに久しぶりに来た情報が絶版で本当に本当に悲しいです…。間違いなく名作なので手に入らなくなる前にぜひ本当に読んでくださいお願いします。いつか読もうかな~と思う方はぜひ購入だけでも。

6

読み終えた後も余韻が…壮絶な一商家の物語

尾上与一先生と言えば、1945シリーズの印象が強く、それ以外の本を手に取るのに永らく勇気が入りました。実際に読んで見ると、1945シリーズと同じ熱量で、生半可な気持ちで読める作品でなかったです。尾上作品はじっくり向き合う必要がありますね。

貿易商の宗方家で仕える執事の弓削が主人公の物語ですが、自分の執事に対する認識が甘かったです。映画やアニメ等で分かった気分になっていたんです。この作品を読んで、執事道の奥深さよ…と悶絶しました。一つ一つのエピソードの濃い事、濃い事。
また歪んだ主従関係が異色で鮮烈な印象が残りました。

健気な受けというのは苦手なのですが、弓削の激しさや主人の鉄真に対する狂気じみた執着には降参しました。幼い頃の夢の実現の為、生き急ぐ二人のあやうさや狂気に絶えず不安感を感じて、続きは気になって仕方ないのに、読み進めるのが怖かったです。

タイトルが物哀しく、重要なモチーフがかの有名なシューマンの「子供の情景」という作品集の中の「トロイメライ」(夢想)ですから。。しかも作曲家のシューマンは心の病にかかっていたそうで。色々暗示されているように思えて、全体的に哀愁感が漂っていました。弓削の健気さに何度も泣かされました。

長い経緯があるからこそ、最後の結末が活かされた作品でした。
二人はオルゴールの世界の永遠の夢の住人になったのか、それとも…。

貿易商の宗方家をめぐる代々の当主や支える家人達の想いや歴史。家を紡ぐって大変な事だと実感しました。何かを得る為に犠牲にしたもの、日々積み重ねられて実ったこと、諸々。様々な人達の想いが溢れ、涙無しでは読めませんでした。

しばらくは、トロイメライの曲を聴くと、涙腺が緩みそうです。余韻がなかなか消えない、読み応えのある作品でした。尾上作品は怖い…。クセになりそうです。次の尾上先生の作品を心よりお待ちしています。また笠井先生の表紙や挿絵がふつくしくて満足です。

3

重く絡みつくような執着愛

久しぶりに重苦しいお話を読んでしまいました。
尾上さんは評判の高い1945シリーズを知っていましたが、重くて薄暗く最後が二人の幸せな未来というのではない結末とか、哀しい出来事が多そうなので手が出せませんでしたがいつかは読んでみたいリストに記しています。
ですが、作家さんや内容に関わらず絶対に読んでしまうイラストレーターの笠井さんのカバー絵を見て、尾上作品初体験です。

とても美しい文章と写実的な描写で庭や花の美しさ、屋敷の古色蒼然とした雰囲気が思い浮かぶようで映画のワンシーンのようでした。

一番好きな場面は終盤の桜の舞い散る坂道を足早に歩く弓削の足元で激しく花びらが弾かれる様子を描いたところです。そして目に浮かぶようだなと思ったってページを開いたらなんと見開きでそんな二人のイラストが目に飛び込んでくるのです。
激しく儚く美しいシーンです。

弓削の不遇な年月が長く、使用人達からも蔑まれ時には暴力的ないじめもありながら、彼は決して不幸でも嫌がってもなかった。というか他人の感情などどうでもよかったんじゃないかと思います。
待遇が悪かろうが罵られようが叩かれようが痛くもかゆくもない、鉄真のそばに居られればその他はなんでもよかったから本人はさして不幸ではない、むしろ幸せな生涯だったんだと思えました。
そして最後の最後には二人とも望むものを手に入れて最高な時間を過ごしたと信じます。

明るくキラキラとしたハッピーエンドな作品は、日常を忘れ癒されるので大好きですが、こういった読後感が重く色々考えさせられる作品にどっぷりと浸ってしまうのもたまにはいいなと思いました。
とてもいいお話でした。

7

心に刺さった棘がちくちく痛い

一気読みでした。久しぶりにページを捲る手が止まらない作品に出会えました!
尾上先生の作品は割と読んでるんですが、一番好きかもしれません。笠井あゆみ先生の挿絵もさいっっっこう…!見開きの絵が…もう。

内容もとても重厚で、弓削と鉄真の一生が描かれています。
まだ未熟な二人が交わした約束、結ばれることが叶わなくなってしまった二人には、この約束が一生を懸けた契りで、その為に奔走していた様に思えました。
時代に翻弄される若者たちが見ていて苦しかったです。
読者として、二人を取り巻く大人達が冷たすぎて…でも、それも時代の習慣とゆうか、慣習とゆうか…そう思えば、世知辛いなぁ。と、諦めもつきました…辛いけど!

個人的に弓削はこの終わり方が、らしいと思います。鉄真に尽くし切ったんだと。そして、鉄真もようやく生まれた立場から解放されて、思うがままに弓削を愛することができた。ハッピーエンドじゃないです?メリバっぽいけど。

ただ、そう思っても、〇〇だったら!と、思ってしまうのはしょうがないですよね。゜(´⊃ω⊂`)゜。
はぁ、今も全然泣きそう。ほんと、苦しくて、美しくて、ドラマチックなお話でした。
お花を見たら、弓削のことを思い出します。尾上先生、ありがとうございました。

4

胸が痛い…

結構以前から読み始めてたんだけど、内容が切なくて苦しくて辛くて、中断してはライトな物やすぐ読める漫画に走ってしまってました。

弓削と鉄真の淡い恋心が鉄真の父によって踏みにじられ、あの不幸な事件。
もう、ここから泣けて中断第一弾です。
事件後の弓削の待遇が悲しすぎますが、何度鉄真が弓削を放逐しようとしても当の弓削が辛い境遇から脱そうとしません。
まだ幸せだった時に交わした鉄真と弓削の約束のために、鉄真への想いのためにです。
そして鉄真のために行った台湾から命からがら戻った弓削に…。

側から見たら辛い事ばかりなんですが、2人からしたら決して不幸ではないんだと思います。
あんなふうに愛せる人に出会えたんですから。

笠井先生の表紙の美しさもさることながら、見開きのイラストも圧巻です。
あのイラストだけでも胸がギュッとなります…。

何度も読むのを中断してしまいましたが、懲りずにまた読み直しては泣く事でしょう。
語彙が少ない私には、この作品の良さを半分も伝えられず申し訳ないです…。

4

切ないけれど、それだけじゃない。

尾上さんの新刊という事で楽しみに待っていましたが、挿絵が笠井さんと知ったとき正直びっくりした。笠井さん大好きなんですよ、絵師さん買いするくらい。でもイメージがちょっと合わなかったので。

でもでも、読後は笠井さんの挿絵しかイメージできないほどストーリーにぴったりだった。美しく、儚く、そして切なく。笠井さんの挿絵が萌え度を確実にアップしました。

内容はすでに書いてくださっているので感想を。





尾上さんらしい、というか、自分の意志ではどうにもできない激動の時代の流れに流された二人の恋のお話でした。

父親の死と同時に保護してくれるべき存在を失った弓削。
そしてそんな彼を引き取ってくれた家の子息である鉄真。

彼らが少しずつ、大切に育ててきた淡い初恋を踏みにじることになった事件。
お互いがお互いを大切にしていたからこそ起こった悲劇に思わず泣いた。

何も持たなかった弓削が宗方兄弟と過ごした時間。
そしてあの嵐の夜にかわした約束。
それだけを心の拠り所にして夢想(トロイメライ)する弓削に思わず落涙。

鉄真が弓削に渡したオルゴールが、そしてトロイメライが、実に効果的に使われていて、文章の構成のうまさに圧倒されました。

鉄真と弓削の二人の執着心はすんごいドロドロなのです。ほかにも弓削に嫉妬心を燃やす執事がいたり、貿易商である鉄真と、彼を出し抜き利益をむさぼろうとする特権階級のおっさんたちとの戦いがあったり。なので始終シリアスな雰囲気が流れるのですが、鉄真の弟の一誠が癒しキャラなのでそこはほっこり。彼が弓削に渡した木の実。良かった。すんごい良かった。

鉄真と弓削。
激しく求めあいながらもすれ違う彼らに幸せになってほしくてページを捲る手が止められなかったが、あの最後は…。
バッドエンドだと感じる方もいるかもしれない。
実際メリバなのかな?

けれど、あの終わりが、この二人の最後にふさわしいと思った。
最後の最後に、何もかも捨ててお互いだけを選んだ彼ら。

最後に彼らがどうなったのか読者にゆだねる結末だったけれど、最後に笑顔で穏やかに暮らす彼らを私は想像しました。

ストーリーも、登場人物たちも、そして挿絵も。
全て素晴らしかった。
文句なく、神評価です。

9

遠い昔に閉じ込めた夢の欠片

待ち遠しかった尾上さんの新作。
表紙の美しさにまず打ち抜かれ、口絵の扇情的な様にうひょーっと舞い上がる。
本の厚みに期待いっぱいに読み始めるともうダメでした。
何度も何度もこみ上げてくるものを飲み下しながら一気読み。

時代は大正、貿易商を営む宗方家に執事見習いとして奉公に上がった弓削は、そこの跡取り息子である鉄真と強く惹かれ合います。
少年特有の淡い恋心をお互い胸に秘め、ゆっくりとその想いを育んでいた2人ですが、当主であり鉄真の父の陵辱によってその想いは無残に引き裂かれてしまいました。
日々繰り返された地獄は、鉄真とその弟を守るために当主を斬り殺した弓削の主殺しによって唐突に終わりを迎えます。
醜聞をもみ消すため、そして弓削を側につなぎ止めておくために鉄真は弓削を監視下に置き、長い長い贖罪と淫蕩の月日が流れるという感じなのですが、もう中身が凄い。

重いし苦しいし切ないし痛いしぎりぎり胃を圧迫してくる辛さが半端ないし。

それでも全く読むことをやめられない程ふたりの執着が強烈で、はやくこのふたりを解放してあげて欲しいと何度も願いながら読み切りました。
作中、鉄真から弓削に贈ったオルゴールが作品のキーとして何度もでてくるのですが、これがもう絶妙に効いていて、涙がぼたぼた落ちてきて仕方がなかったです。

不憫健気と執着を絵に描いたような弓削と、そんな健気な弓削をどうしても手放すことが出来なかった鉄真の想いが消化されたラストの余韻は言葉では言い表せないほどに強烈な印象となって放心状態。
読みながらずっとトロイメライを流していたのですが、BGMにするとより一層この世界の彩りが鮮やかに蘇るようでおすすめです。

余談ですが下着が褌なので、褌好きさんは飛びついて欲しい。下帯という文字だけで滾りました。もっと褌描写があれば神評価突き抜けて宇宙のどこかに行ってたと思います。

18

夢のあと

大正時代、貿易商と執事の十数年の歳月を描いた作品。
大正のビジネス界における一商家の一進一退も描かれており、大河小説のような壮大な物語が展開されます。

あらすじ:
文官の父を亡くし、執事見習いとして貿易商の宗方家で働き始めた弓削(受け・14歳〜)。
嫡男の鉄真(攻め・15歳〜)、弟の一誠と打ち解け、将来の夢を語り合う仲に。
しかしある夜、宗方家当主の部屋に呼び出されたことから、弓削の運命は大きく変わることに…

タイトルの「トロイメライ」とはドイツ語で「夢想」の意。
鉄真が弓削に贈ったオルゴールに使われている曲名です。
作中幾度か登場するこのオルゴールは、二人の失われた少年時代の象徴。
そして、当時の夢を糧に厳しい現実を生き抜く二人のひたむきな姿とも連動しています。

当主に犯され、その後も彼に様々な性的拷問を受ける弓削。
当主は阿片に精神を侵されており、息子の鉄真にも暴力を振るっています。
ある日、当主の刃から鉄真と一誠を守ろうとした弓削は、あやまって当主を刺殺。
鉄真は、罪人の弓削を屋敷に匿う代わりに、弓削が他の使用人に妬まれぬよう必要以上に辛くあたるように。
一方で、彼を他家に引き渡し自由の身にしてやろうと画策します。

そんな鉄真の優しさを全力で拒む弓削の異様なまでの頑固さが、本書が普通の純愛モノとやや異なる点。
鉄真にどんなに殴られても彼を愛し続け、何度追い出されても自力で戻ってくる弓削の執念は、やや常軌を逸しています。
先代当主に吸わされた阿片や性的虐待の影響か、どこか精神的に壊れてしまった弓削。
しかし、狂いつつも鉄真への愛だけは失わず、その愛を原動力にタフな大人の男性へと成長していく姿には、ある種の爽快感も感じさせます。

鉄真も、縋ってくる弓削を見ることで彼の愛情を確かめているような節があり、結局非情になりきれず。
かつて彼に語った、岬に灯台を建てるという夢のため、なりふり構わず事業拡大を図ります。

やがて優秀な執事に成長する弓削ですが、先代を殺した罪人という立場は変わらず。
鉄真とは相思相愛で身体の関係もあるものの、互いの立場上、接吻さえ自重するという関係性です。


二人の極端な行動にやや作為を感じる点もありますが、狂気と紙一重の純愛に圧倒され、ページをめくる手が止まらず。
言葉以外の様々な手段で間接的に想いを伝え合う二人の姿にギュッと切ない気持ちになります。

終盤、台湾マフィアが出てきてからの展開はややご都合主義的ですが、ラスト数ページは圧巻。
タイトルの意味合いが効いてくる結末は充足感と虚無感に満ちており、余韻が残ります。

粗筋だけを辿ると陳腐な物語かもしれませんが、伏線使いや心理描写、情景描写が秀逸。
十数年の歳月の一瞬一瞬を全力で生きる二人の姿から目が離せず、読後もふとした瞬間に各シーンが胸に蘇ります。

二人を取り巻く様々な登場人物の描写も印象的。
阿片に溺れた先代当主も、立派な青年に成長する一誠も、宗方家に仕える他の執事たちも、エピソードは短いもののそれぞれにドラマを背負っており、善悪の一言では括れない人間味を感じます。

冒頭にも書いたように、大河小説を思わせるような大変濃密な物語。
ぜひ初回封入ペーパーと一緒に入手されることをお薦めします。

26

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