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表題作夢の卵

ベストセラー作家
秘書

あらすじ

モデルのような容姿のベストセラー作家、太夏志が強引に自分のものにした詩草。優しく綺麗なうえに秘書としても有能な詩草は、申し分のない恋人だ。ただ、常にクールでつかみどころのない性格は、同居を始めてからも変わることはなかった。ところが、伯父の葬儀のため出かけた詩草が、戻ってきた時には13年分の記憶をなくしていた。いつもと違い、無防備に寄りかかってくる少年のような詩草に、太夏志は戸惑いながらも新しい愛情を感じはじめて―。

作品情報

作品名
夢の卵
著者
鷺沼やすな 
イラスト
今市子 
媒体
小説
出版社
オークラ出版
レーベル
アクア文庫
発売日
ISBN
9784775505816
4.1

(21)

(12)

萌々

(4)

(3)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
7
得点
86
評価数
21
平均
4.1 / 5
神率
57.1%

レビュー投稿数7

人の心理の掘り下げ方が深い

教えてねえさんで推薦していただいた中の1冊。
売れっ子作家の恋人はとてもミステリアスな詩草。母の死因の記憶がない。
詩草が、叔父の葬式に行った帰り、何故か11才に退行して帰ってきた。13年分の記憶を失っていた。
でも恋人のタカシのことはおぼろに覚えていて、メモを見つけて℡している。

11才の詩草=母が死ぬ前の年齢の詩草に、怯えさせないよう理解しやすいように接して、記憶を辿って調べていくと、詩草の母が実は精神病院に入院して現存することを突き止める。ただ母には自殺の可能性が今もあるらしい。

11才の詩草に庇護欲を書き立てられるタカシ。
11才の詩草を想う事は、24才の詩草の否定になる?・・云々と葛藤するタカシ、この部分はちょっと面白い。

母と面会して「息子です」「そうね」と母に認めてもらえた詩草。
その面会の後、詩草は頭痛と発熱。熱が下がると、大人の詩草に戻っていた。
タカシの努力で、とにかく詩草は24才の詩草に戻れた。

突然記憶障害を起こした詩草の面倒を見ながら、11才の可愛らしい素直な詩草に惹かれていったタカシは、大人の詩草に戻った時、11才の詩草と最後に交わした言葉を思い出して「11才の詩草にもう会えないのだ」と涙する。泣いているタカシを初めて見る詩草。
皮肉な情景、とても無常。

大人に戻った詩草に退行していた間の事を説明するタカシ。
11才の詩草が「嘘は嫌だ」と言っていたから。
11才の詩草のオネダリで買った薄緑色の雨傘を大人に戻った詩草は覚えていない。
オネダリされた傘をいつか11才の詩草が戻るまでしまっておこうと思う、タカシ。

・・・切ない。
大人の詩草を見つめて「詩草 いるか 泣いていないか」と11才の詩草に呟く場面を読んで、不覚にも涙が出てしまった。
一人称で、心理描写を細かく表現できる文章力はスゴイと思いました。

ところで、「夢の卵」は、なにのこと?と考えたのですが、詩草のトラウマを閉じ込めていた卵。詩草の退行の鍵。深層心理を閉じ込めていた心の容器のことで、詩草がずっと心の中に鍵をかけていた詩草が求めていたもの=「母のこと」「嘘をつかないで」←母と会い、夢の卵の殻を割ることが出来た。
これじゃないかと思いました。

著者のHPに、未商品化の作品が複数掲載されていました。http://splun02.info

3

碧雲

補記:
著者HPは、閉鎖されていました。
twは、今もあります。
ミニ鸛@肉球新gbN

名作だと思います

ちるちるのBLソムリエでおすすめされたことをきっかけに、この作品と出会いました。本当に本当に感謝しています。この作品と出会えて良かった。

1998年に新書版で発売され、2005年に文庫化されたこちら。
最近の出版ではないせいか、あまり知名度の高くない作品に思います。
ですが、間違いなく素晴らしい作品です。個人的にはBLに関係なく名作だと思います。

主人公は小説家をしている太夏志。彼には公私を共にするパートナーに、詩草という青年がいます。
二人が恋人になるきっかけは太夏志の強引な行動によるものでしたが、すぐに二人は良好な恋人関係になり、気付けば付き合って三年。
そんなある日、詩草が親戚の葬儀で高崎の実家へとひとり帰省することに。二、三日で帰ってくると言っていたはずが四日も音信不通になってしまいます。
ようやく太夏志のもとに連絡が入り上野まで迎えにくと、そこにいたのは記憶と精神が11歳に退行した詩草でした。
そうして11歳に戻ってしまった恋人との暮らしがはじまります。

読みはじめてまず、鷺沼やすな先生の言葉選びや穏やかな文章に惹かれました。情景描写もとても美しく、描かれている情景を脳裏に想像しては思わずため息…。
そして、心理描写あるいは人物描写がとても素晴らしいです。
心に傷を負った内気な少年の心の揺れや、主人公をはじめとする周囲の人間の思考と言ったものが、表情の動きや会話の中で繊細に描写されています。
こんなに人の心の繊細さと向き合ったBL作品って、そうあるものではないと私は思います。

やがて少しずつ、なぜ詩草が退行してしまったのか核心に近づくのですが、そこにいたるまでの主人公の一連の動きがまた素敵でした。
詩草に対する深い愛情が、切なくなるほど伝わってくるのです。
はじめ、飄々としいて周囲を煙に巻くような印象を主人公に抱いていたのですが、実はすごく理性的で愛情深く器の大きい人でした。
多少強引だったり振り回されていたりしたとしても、この主人公と出会い恋人になったことは、深いトラウマを抱える詩草にとって一つの救済になったのだろうなと思います。
タイトルの意味もわかり読み終える頃には、温かい気持ちと切ない気持ちとで胸がいっぱいになりました。

この作品は詩草の心をめぐるミステリーではあっても、サスペンスではないのですよね。だから派手な仕掛けはありません。特別すごい悪役とか凄惨な事件とかもない。
だからこそ人間の心そのものが、リアリティを持って浮かび上がってくるようでした。
特別すごい悪役がいなくても、何か胸をえぐるような事件がなくても、人の心は疲弊し時には病んでしまう。その人間の脆さが、悲しいけれど愛しいんだ、そう思わせてくれる作品でした。

私の拙いレビューでは一体何がなんだか?といった感じだと思います。
ですので未読の方はぜひ読んでみてください。

この作品がこの先埋もれてしまうことのないのを、切に願うばかりです。(そしてBLソムリエさんありがとう。)

5

優しいおはなし

同居している恋人関係の太夏志と詩草。
そんなある日、詩草の育ての親である叔父がなくなり葬式に出向いた詩草でしたが、帰ってくると13年分の記憶がなく(後退してしまい)11歳の詩草になっています。

突然、恋人が自分が出会う前の11歳の記憶で現れたことに戸惑いながらもカウンセリングに連れていったり、病気になった原因を探したりと詩草のために力を尽くす太夏志が頼もしかったです。

「11歳の詩草を受け入れがら24歳の詩草に戻ってきて欲しいと願う自分」「11歳の詩草に消えてほしくないと願う自分」それぞれの詩草に対する自責の念で悩む太夏志が切なかったです。
太夏志は年齢に関係なく「詩草」という一人の人間が本当に好きで大切に思っているんだなぁと優しい気持ちになる作品でした。

1

文章がすごい好きです。

作品と作者を混合させてはいけないのだと思いますが、攻めの受けに対する労りを見る限り作者さんは本当に優しい人なんだと思います。根が思いやりの人ではないとああいうのはかけないでしょう。攻めの心情を追っていくだけでも温かい気持ちになれますね。

ただ私が悪いんですが、文章とセットで最初の受けに一目ぼれしてしまったので、あらすじで既に分かっていた事ですが、記憶喪失して人格が変わってしまいちょっと残念でした。記憶を失った理由も特別興味深いものでも、作品の核心というわけでもなかったのであまり気がそそられず。
始終恋人である攻めさまがしっかりしすぎている分、物語の盛り上がりと緊張感に欠けたかなという印象です。

2

みなさんのレビューを読んでいると

とても読みたくなります。まったく知らなかった本ですが、
必ず読んでみようと思います。読んだら、レビュー書きますね!

1

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