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表題作灰の月 下

嘉藤、本橋組若頭
本橋惣一、本橋組組長

その他の収録作品

  • 灰の月 最終章(書き下ろし)

あらすじ

嘉藤が惣一の傍を離れて2年――
組長が倒れ、久し振りに会った惣一は以前のように冷徹でカリスマのある人物になっていた。
嘉藤がこの世界でたった一人と決めたボス。
だが惣一はその座を降りようとする。
引き留めるために惣一の願いを聞き、今夜だけと抱いた嘉藤だったが
惣一の涙に嘉藤の気持ちは変化していく。
しかし組の抗争が激化し、惣一が行方不明になってしまう!
激動な2人の歪な愛の結末は静謐で穏やかな日々に――。
本編大量改稿&その後の幸せな書き下ろしショートを収録。

作品情報

作品名
灰の月 下
著者
木原音瀬 
イラスト
梨とりこ 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
シリーズ
月に笑う
発売日
ISBN
9784799742082
4.2

(131)

(97)

萌々

(6)

(5)

中立

(9)

趣味じゃない

(14)

レビュー数
33
得点
533
評価数
131
平均
4.2 / 5
神率
74%

レビュー投稿数33

愛という言葉しか思いつかない

上巻最後の下巻予告に「静謐で幸せな未来」とあったので、嘉藤か惣一の片方が寝たきりになり片方が支えることになるか、死に別れる前に気持ちが通じ合うとか、そんな結末を予想していました。
下巻を読み終えて、しばし茫然とし、じわじわと湧いてきたのは「これも愛」という思い。愛という言葉しか思いつきませんでした。

組内部の裏切りで死んだ組長の仇討のさ中、嘉藤は、女の体になってまでも嘉藤に抱かれたい惣一の悲痛な想いを知ります。身を挺して嘉藤をかばって怪我をし、隠れ家で「お願いします…(胸を)舐めてください」と懇願する惣一がもう痛々しくて、たまりませんでした。
惣一がどんなに自分を好きでいるか分かってもなお、嘉藤が惣一に求めるのは“強いボス”。惣一を組長にとどまらせるために惣一の想いを利用し、言葉で嬲り、「雌犬」と貶めるように惣一を抱く嘉藤が本当に酷くて。
こんな二人が愛で結ばれる時が来るのだろうか、と胸がムカムカするような絡みの描写に耐えて読み進めるうち、嘉藤の中に惣一への微かな情のようなものが見えてきて、おやっと思いました。苛立ちと穏やかな欲望で揺れ動くようになるのです。

いよいよ嘉藤が変わり始めるのでは?と期待したところで、組の抗争が激化し、惣一が行方不明に。監禁凌辱にクスリ。一年の後にやっと見つけたときには廃人同然で。局部切断の描写ではめまいがしました。
惣一が女の胸のある淫乱でなければ、生き延びることはできなかったでしょう。木原さんの痛い描写が好きな私ですが、正直、これほどの描写が必要だろうかと胸が苦しくなりました。

でも惣一の想いが嘉藤に届くためには、この地獄のような出来事が必要だったのだろうとも思うのです。
記憶も知性もヤクザのカリスマも、そして男の印も。何もかも失った惣一に残されたのは、嘉藤への一途な想いだけでした。
北の漁村でひっそりと暮らしながら、なお惣一の回復を期待する嘉藤に惣一が幸せそうに笑みながら告げた言葉が胸を打ちます。「僕は海を見て、猫と遊んで、お前の帰りを待っている。それがいい。他には何もいらない。」
こんな姿になっても消えない想い。もう愛という言葉しか思い浮かびませんでした。
自分への想いしか残っていない惣一を前にして、やっと嘉藤は“強いボス”への執着を手放し、惣一の愛を受け入れることができたのでしょう。

灰色の空、灰色の海。きっと月までも灰色の世界で二人は生きていくのでしょう。灰色に光る月は二人の愛のことなのかもしれません。
「私の下の名前を知っていますか?」と嘉藤が問えば、惣一が「はるおみ」と答え(優しい名前!)、「あなたが私を忘れても、傍にいますよ」と返す嘉藤の言葉に愛が滲んでいて、交わり合う二人が幸せそうで、目の奥が熱くなりました。ここまでくる道のりのなんと長く険しかったことか。

ただひたすらに想うことも愛なのだと、深く強く私の心に突き刺さりました。

31

強い心をもって読みはじめても、確実に心壊される

放心状態です。
途中まではまさかこんな結末が待っているなんて思いもせず、読了した今、暗い海の底にいるかのようなこの感情に戸惑っています。

私は上巻でこの作品について、
『心が弱っているときには絶対に読めない』と言いましたが、下巻はそんなのの比じゃない。
万全の精神状態で読みはじめても確実に心が破壊されると思います。

上巻で、嘉藤への執着と男狂いの醜態を晒し、父親である本橋組組長により嘉藤と引き離された惣一。
下巻はその2年後、嘉藤が久々に大阪から東京へ出てきたところから始まります。

敵対する組の不穏な動き。組長の殺害。
嘉藤と離れ男遊びをやめていた惣一は、父親の死をきっかけにそのカリスマ性を発揮し始めます。
そしてそんな惣一に対し、再びボスへの憧憬の念や敬愛の気持ちを抱く嘉藤でしたが…

上巻では惣一の性癖とそれに抗う嘉藤について多く語られていましたが、下巻はヤクザものの要素が色濃く、目まぐるしく展開していきます。
そして中盤からは、2人の関係にも変化が現れ始め…
全編エンターテイメント性が高く、非常に読み応えがありました。

まずは暴力。
組長を殺されたことによる組同士の抗争は凄惨を極め、リンチや殺人シーンもしっかりと描かれています。
信頼する身内の裏切り、近しい者の死など、人の汚い面や想像するも苦しい場面が描かれ、救いがない。
希望する方向にはまったく展開してくれません。
読む側に覚悟が必要です。

そして、これも衝撃でしたが…
嘉藤のいない2年の間に、惣一が自分の身体に施したもの。
上巻、大阪に行く前最後に嘉藤が惣一に放った拒絶の言葉、

『胸もなければヴァギナもない。あなたに求められるたびに、見た目も味も不味いものを差し出されて、無理に食えと言われているようでした』

BL的甘さもファンタジーさの欠片もない、嘉藤のこの容赦ない一言にはとても驚いたのだけど、これに対する惣一の答えがこの行動なのかと思うと、想像するだけで胸が張り裂けそうに…
これには賛否両論あるかと思いますが、私は上巻ではちっとも好きになれなかった惣一のことを、たまらなく愛おしく感じたんですよね。

以前のような非力さがなくなり風格が備わり出した惣一ですが、反面嘉藤の前では以前にも増して“女”になります。
身も心も“女”に近くなった惣一をますます嫌悪する嘉藤ですが、本来女しか好きになれない彼は、惣一の持つ女らしいか弱い部分やエロティックな部分に絆され、欲情したりもするのです。
そんな相反する感情に揺れながらのセックスは、身勝手で、激しく、かと思えば優しくて、とても切ない。

仕事面では冷静にカリスマ性を発揮し嘉藤を魅了するも、2人きりになるとか弱い女になり軽んじられる惣一。
惣一を組のトップに立たせて一生仕えて行きたいと願う程に敬愛しながらも、雌のように自分を求める惣一を嫌悪し冷淡に接する嘉藤。
お互いに求めるものがちぐはぐな2人。
狂うほどの愛を向ける惣一にも、そんな姿に辟易しながらも惣一の才能に執着する嘉藤にも、結局同調は出来ないままに、でもそんな2人の物語がとても好きでした。

私は、同調は出来ないけれど、下巻から惣一のことをとても好きになっていたので、終盤からは1ページ1ページが地獄のように感じられました。
あまりに辛すぎる展開。
予想だにしなかったラスト。

でも、惣一にとって、ただ妻のように嘉藤に寄り添い、嘉藤に抱かれる生活を送ることが唯一の幸せだったのだとしたら…彼の願いは成就したのではないでしょうか。
2人にしかわからない愛が、たしかにそこに存在しています。
その一点に救いを求めることしか出来ません。

下巻は本当に凄まじい。
ですが、この容赦ない描写力こそ私が「神」をつける理由であり、この作品に対して求めるものでした。
たまらなく惹きつけられる。
当然、まったく同じ理由で「しゅみじゃない」と感じる方が多くいらっしゃることでしょう。

これはそういう作品だと思います。

18

のたうちまわりました。

本当に生半可な覚悟で読んだことを後悔するくらい壮絶な”純愛”で…、日曜の夜にこれを読み終わり、明日からの仕事大丈夫か??と思うくらい、理性も感性も徹底的に打ちのめされました!!!この深すぎる衝撃からどうやって立ち直ればいいんでせうか??
(誰か助けてーーー爆発するーーー!という気分です。)

エロい描写が多くても、その行為に耽る惣一という人が淫乱だという印象は全くなかったです。むしろ行為がエスカレートすればするほど、嘉藤への気持ちの高まりが感じられました。終始、惣一が嘉藤に望むことよりも、嘉藤が惣一に望むことのほうの大きくて重く、結局はそこにこたえようとしている惣一という人の健気さが切なすぎます。。やはりこれは狂おしいほどの”純愛”なのです。

それぞれが望むかたちではなくても、嘉藤と惣一は相思相愛だったという印象を受けるのですが、それがあまりに違う方向なのでもどかしいのです。そしてそれを、ああいうかたちで昇華させる、これが木原先生流だな、さすが…という気持ちと、もっとなんとかならんのかーい(;;)というどうしてもなんとかしてやりたい!気持ちと、いろいろごっちゃになっています。失踪後は、期待と不安(不安やや上)から頁をめくる手が震えるほどドキドキしまくり、”嘉藤、早くなんとかしてーーー”と(心の中で)叫びながら読みました。こんなに興奮しながら小説を読んだことはありません…。

おそらく木原先生を熟知されている方だったら”まさか!”はないのかもしれないのですが、主だった数作品くらいしか読んでいない初級者レベルの私は、最後の数ページで何回か悶死しました…。ですが、これ以外(以上)にしっくりくる二人の末路はないのでしょう。壊れてしまってもなお残る”すき”という言葉が、物語のすべてを表現しているような気がしました。美しさと哀しさと優しさと、同じくらいの絶望感があります。
他では得難い体験のできる作品でした。しばらく眠れなくなりそうです…。

17

痛いけれど、まさに純愛を描いた作品

『灰の月』の下巻。

木原作品は容赦なく痛い展開のものは多いですが、そんな木原作品の中でも群を抜いて、痛く、そして切ない作品かと思います。

「ヤクザ」という世界がバックボーンになっているために、殺し、暴力、レイプが当たり前のように登場します。女性との絡みを彷彿とさせる描写も少なくありません。

この作品は、読み手を選びます。

が、個人的に心を鷲掴みにされました。
紛れもなく、「純愛」を描いた作品だと。

もともと同人誌として刊行されていた今作品ですが、商業誌で発売した版元に敬意を払いたい。それだけ、衝撃的な内容です。

上巻は嘉藤のことが好きで、でもどうやっても嘉藤に振り向いてもらうことのなかった惣一が空回りしている、というところまでが描かれていました。

下巻は、大阪に行っていた嘉藤が惣一の父親でもある本橋組の組長に呼び出されるシーンからスタート。
そこで嘉藤と惣一が再開し、二人の時間が動き出すが―。

本橋組組長が何者かに襲撃され殺害されるという事件が勃発。実行犯を見つけ出すべく惣一は本橋組の指揮を執るが、男漁りが過ぎたために組員たちから人望がなかった惣一。けれどもともと頭の回転が速く、物事を冷静に判断できる惣一は、徐々に組に受け入れられていく。

そこには、嘉藤が心酔した「惣一」という男の姿があって―。

視点はほぼ嘉藤で進みます。
が、彼の目を通して描かれているのは「惣一」。

頭が良く、お金稼ぎが上手で、組を背負って立つのに相応しい器を持つ男。
けれど、その表の顔の裏に隠したのは嘉藤に愛されたいと願うただの男。

惣一の、嘉藤に愛されたいと一途に想い続ける恋心が切なく、そして哀れでした。

男を抱くなら、どんなに不細工でも女が良い。

かつてそんな言葉で嘉藤に拒絶された惣一。
そのために惣一が取った行動は…?

惣一の行動の全ては、嘉藤のためだったんじゃないかな。

冷静で、親である組長の敵を討つこと。
組のために、お金を稼ぐこと。
そして、アメリカに行くこと。

全て、嘉藤にとっての理想の「惣一」であるために。

今回も惣一は敵対する人物に拉致られます。
この凌辱シーンはかなり凄惨です。
痛いものもどんとこい!の私ですが、正直飛ばし読みしました。

何故、ここまで惣一を追い込むんですか、木原先生…。
と思いつつ読み進めました。

最後の結末は、賛否両論かと思います。

が、あれこそ、惣一が求めていた嘉藤との関係だったんじゃないかなあ…。

組は関係なく。
お金なんかなくても良い。
嘉藤がいてくれれば良い。
嘉藤に、「組のトップ」としてではなく、「惣一」を見てほしい。
女のように、嘉藤に抱かれたい。

じつは、惣一は、意識が戻ってるってことは…、ないですかね。
ってちょっと思ったりしました。

でも、理想の「組長」ではなく、「ああ」なってしまった惣一を捨てられない嘉藤も、惣一を愛しているのでしょう。

完全に好みが分かれる作品だと思います。
優しく、温かなストーリーではありません。

が、「愛すること」とはどんなことなのかを問うた、壮大なストーリーだったと思います。

木原作品の真骨頂といえる、素晴らしい作品でした。

13

スジモノに愛はいらない

もちろん、読み終わった日は夢見が悪かったです。それでいいんです、木原先生なので!!

上巻の帯に「純愛」とありますけど、純愛ってなんだか不幸なものにつけられがちですよね、悲恋とか。木原先生の作品って、この二人はこれで幸せなのか…?っていうような終わり方でも力づくでハッピーエンドだす〜!って言い包められちゃって、さいですか〜って引き下がるしかないというか…笑
だから色んな妄想ができて木原中毒になるポイントなのかなとも思います。

下巻では最後に穏やかな日々が描かれてはいるので、そこが救いなのかもしれないです。二人で一緒に生きている、といった意味で。

さて、嘉藤に抱いてもらってからタガが外れてしまった惣一は、実父である組長からも見放されて、嘉藤と引き離されてしまいました。血を分けた息子ではなく嘉藤に跡目を継がせる組長の心づもりから、二年ばかり大阪の芦谷組の預かりになっていた嘉藤が本橋組に呼ばれ、組長から直々に今後についての相談を受けます。

その直後、手術入院中だった組長が殺害され、報復を巡り不穏な抗争劇が展開していきます。この組内部のゴタゴタが表向きのストーリーを引っ張ってはいますが、やはりお話の核は惣一と嘉藤の関係性だと思います。

組長の死後、惣一も弔い合戦の決着がつくまで組長代理として指揮をとることを公言し、惣一のサポートとして嘉藤が本橋組に戻ることとなり、二人は再会。

ところが嘉藤を銃撃から庇って負傷した惣一の体には、女みたいな胸の膨らみが。彼は既に壊れ始めていました。

一度だけでいいから女のように抱いて欲しいと惣一に懇願され、嘉藤が拒否すると惣一は発狂しかけます。結局、惣一を宥めるために嘉藤は抱いてやるのですが、この時の嘉藤の心中はいかなるものだったのかと想像します。既に惣一にほだされていたのか、組のために自己を犠牲にした諦めのようなものだったのか…。

惣一の秘密に気づいた当初、嘉藤は早急に胸を元に戻させようとしたけれど、なぜかそのままにさせておきました。それが更なる悲劇を呼ぶとは思いもせずに。

嘉藤と離れていた間に、トラウマのせいで一人でいることを恐れていた惣一が、身軽に外に出られるようになっていました。その表面的な惣一の変化を嘉藤はどう受けとったのかも気になります。それは自分が期待する惣一のあるべき姿だったのか、それとも彼を信頼していたがゆえの責任放棄となったのか。

本橋組と同系列の会長の葬儀と別の会長の一周忌が重なり、前者には惣一が、後者には嘉藤が出席した際、惣一が参列した葬儀会場で爆破事故が起こり、行方不明になります。それから約一年後、変わり果てた姿で惣一は発見されることになるのですが…。

最終章では、脳の機能が壊れて記憶も定かでない中、惣一は自分がこうなりたいと思った体になったと無邪気に喜ぶシーンがあって、嘉藤は何を思っていたのだろうと思います。泣けます。

嘉藤の惣一への思いがわたしには謎で、知りたくて仕方がありませんでした。様々なエピソードや描写から推察するしかないところも手強くて面白いし、最後の最後に嘉藤と惣一はどうなったのかも果てしなく妄想が膨らみます。謎だから益々惹きつけられるのかもしれません。

これは壮絶な恋の物語です、惣一にしてみれば。愛としかいえません、嘉藤が最終的に選んだ道は。だけどスジもんに愛はいらないのです。似たようなものがあるとすれば情しか許されない世界でしょうから。

この作品は、徹底的に愛のない世界を描くことで純度の高い愛を表現する、木原先生の真骨頂だと思いました。あとがきで、先生が惣一だけ「さん」付けしているのを目にした時、惣一に対する先生の愛着というか労わりのようなものを感じられて、なんだか嬉しかったです。

13

この作品が収納されている本棚

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