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2006年に発売された、ややダークな方の国枝先生作品が集められた短編集。
どれもこれも短編ならではの味のある作品ばかりで、その後を想像したくなるような余韻がたまらなく良かったです。
余韻といっても爽やかな余韻ではなく、どことなく仄暗さが漂います。
なんともいえない雰囲気があって魅力的な1冊でした。
「いつか雨が降るように」
どう見てもカタギではない男と記憶喪失の少年が、ひょんなことからひとつ屋根の下で暮らすことになるお話。
少しずつ交流を深める彼らのほのぼのとした生活を微笑ましく追っていると…ピリッと重たいスパイスが加えられているではありませんか。
今後がどうなるのかがわからない結びで、短編の良さが1番活きていたように思います。
「不定周期/確率変動」
外見は綺麗でも、掴みどころがなく本質がよく分からない男性キャラクターって特別な魅力があるなあと感じた2作。
作中の彼らは友人でも恋人でもありません。
なのだけれど、節目節目で再会する不思議な関係。
それは偶然なのか?はたまた運命なのか?
存在自体が謎めいた仁見という1人の男に、津田はもう一生囚われて生きてしまいそうですね。
「水鏡」
どの作品が1番救いがあったのか?と考えると、こちらの作品なのではないでしょうか。
美しい同級生に片想いをする大学生・早瀬の一途さと、ちょっとの情けなさ、素朴な包容力が素敵でした。
片想いものでもあり、双子ものでもあり、救済ものでもある…と、非常に具沢山です。
けれど、すっきりとまとまっていてあと味も良かった。
綺麗な夏の夜明けを感じさせる1作でした。
「秘密と嘘」
読み始めからは予想がつかない展開と、結びでしっかりタイトルを回収する構成の上手さに唸ります。
佐々木が抱えている罪の意識がどこからくるものなのかを想像しながらページをめくっていくと、想像以上のものがパンドラの箱から出てきて驚きました。
読む人を選ぶ作品かなと思いつつ、佐々木の内面の複雑さには惹かれるものがあります。
「ひとつのふとん」
良い意味で1番こちらのレーベル色が薄い作品でした。
一人暮らしを始めた兄の部屋を訪れた、兄よりもしっかり者の弟による兄弟のお話。
すごく切なくて、同時にあたたかさも感じる1作です。
なんでも知っていると思っていた相手の、知らなかった一面を知った人間の心理描写が秀逸で苦しい。
ひとつのふとんで眠っていたあの頃を時折思い返しながら、きっと今までよりもより良い関係になるのだろうなと思える希望のある結びでした。
「呪」
国枝先生の初コミックス「夏時間」のその後のお話。
3Pほどの短いお話なので未読でも問題なく読めるかとは思いますが、やはり元作品を読んでいた方が楽しめそうですね。
とある男の呪いを受けて以来、刹那的な触れ合いを繰り返す青年。
何がどうなって彼はこの生き方をしているのか?と、元作品も読んでみたくなりました。
発売から19年が経った今読んでも、刺さる人には刺さりそうな作品が詰め込まれた1冊だと思います。
ものすごくダークとまではいかないけれど、薄暗さを感じるお話が読みたい方におすすめしたい作品集です。
死ネタが多めな短編集。
全体的に時代を感じます。06年の作品ですから当然ですね。
表題作
ラストが怖いです。
こういうことあんまり書かない方がいいかもですが、やさぐれ無愛想、黒髪長髪、肩に刺青の攻め、家出美少年の受け。攻めが受けを拾う。キャラ、設定がず○拾に似ているなと。逆か、ず○拾が似ているのか。たまたまかもですが。
水鏡
多重人格かと思ったら、双子の片方亡くなっていて憑依していた。
秘密と嘘
姉が亡くなっているのかなと思いましたが、あんなことをされていたなんて。
呪
夏時間の少年のその後。すっかりやさぐれ受けちゃんになっていました。
どのお話もBLとしてもまとまっていて、複雑な心理のいろんなパターンが見られておもしろかったです。
◆いつか雨が降るように(表題作)
最初は行き倒れの男を拾って一緒に暮らし始めるという王道の話かなと思いましたが、読み進める内に拾われたシロは実は匡一と知り合いだった?という疑問が生まれ、最後にはあっと驚く展開が用意されていました。匡一のとった行動は果たして偽善やエゴでしかないのか、贖罪と言えるのか。人によって受け取り方も異なると思います。たとえシロが記憶を取り戻して自分を恨むようになろうと、自分はその運命を受け入れようという静かな彼の独白と覚悟に、短編ながら胸を打たれました。
◆水鏡
こちらも同じ人を好きになるとか、好きになった相手に区別してもらえないなどの、よくある双子ならではの葛藤を描いた作品かと思ったのですが。双子の弟がいるという昇が心に抱える爆弾は、そんな可愛いものではなくて。ちょっと怖くて、切なくて、いじらしい。クールな昇の痛々しく生きる姿に、同情を誘われる物語でした。早瀬は彼の双子だったという要素も含めて愛すことができそうですね。
◆ひとつのふとん
兄弟愛を描いた作品。これは終わり方が秀逸でしたね。自分がいなければ何もできないと思っていた兄。けれど、初めて兄が自分の元を離れて暮らし始め、本当に執着していたのは自分の方だったと知る弟。そして、兄も自分に好意を寄せていたことを知った時には、既に兄はその気持ちにけりをつけていて。ここで安易なハピエンにしないことで、より読者の心に引っ掛かりと余韻を残す作品になっていたと思います。
どの話も一時だけ傍にいて離別もしくは長く続かない不安定。物悲しくて、ドロドロした、不思議な縁で出会った恋人たちの話。
「いつか雨が降るように」
匡一xシロ(白井)
記憶喪失の少年に「シロ」と名前を付けて、面倒を見ている主人公の匡一。少年が階段から転落して記憶を失った理由は、主人公の過去にある。
少年が記憶を取り戻すまで続く、今の平穏。だけど、匡一は罪滅ぼしではなく、本当に少年を慈しみ愛して護っている。
感想:因果は巡る。いつ終るか分からない爆弾を抱えているような関係。
「不定周期」
津田x仁美
幼稚園からの幼馴染の津田に、結婚を報告に来た仁美。仁美はいつも別れの前に訪れる。「あの時の続きをする為に来た」という仁美は津田が好きだった。
仁美は1晩泊り、その足で結婚式に向かう。
「確率変動」
津田x仁美
香港の富豪の娘の家に入り婿した仁美と、津田はパチンコ屋で遭遇する。津田は、一度結婚して離婚していた。仁美はプチホームレスだと言う。相変わらずマイペースの仁美に津田は翻弄される。
でも去年の夏、墜落事故の被害者リストに仁美の名前が有った。幽霊?
「水鏡」
双子の深水x早瀬
早瀬は、深水昇に片思い。
深水昇の弟・流は、兄の大事なものを常に奪い取っていた。弟の流が事故で死亡する。その日から、昇の中に宿る流の意識。
早瀬が昇と抱き合った夜、昇を早瀬に託すと語り、流の意識が昇の中から消えていく。昇は、何故かやっと弟の死を受け入れることが出来るようになっていた。
感想:昇はショックで多重人格になっていたんだと思う。早瀬の愛のカウンセリングで回復。
「秘密と嘘」
片桐x佐々木
姉の元恋人と偶然再会した佐々木。佐々木は姉へしてしまった事を悔いている。
感想:この話が一番因縁ドロドロンだった。
「ひとつのふとん」
一緒に寝て育った兄弟。兄は、独り暮らしを始めて、弟より愛せる人もできた。
兄が大好きだった弟が、兄離れする巣立ちの話。
「呪」
「夏時間」のその後
母の恋人が言った言葉の嘘。あの夏の出来事をすぐに忘れるなんてできない少年。
感想:あの少年は、やっぱりそうなってしまったかー。
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いつか雨が降るように
不定周期
確率変動
水鏡
秘密と嘘
ひとつのふとん
呪
読み終わって、「今の気持ちを一言でどうぞ」と聞かれたら、こう答えます。
「つらい」
生きていくのは楽しいだけじゃない。
楽しい以外の感情をぎゅっと詰め込んだような1冊でした。
【いつか雨が降るように】 萌2
893をやめてカタギになった匡一が、雨の日に拾った少年。
名前も何もかも記憶のない少年に「シロ」と名付け、2人の生活が始まって…。
あらすじを読んで身構えていたにも関わらず、鳥肌不可避でした。
「思いがけない結末…衝撃の表題作」って、あらすじに書いちゃうの、すごくないですか、出版社の自信が。
身構えていても思いがけなかったし、十分準備していても衝撃でした。
他の方の衝撃を奪いたくないので、多くは語らないでおきます。
【不定周期】【確率変動】 萌2
幼稚園、中学、大学が一緒だっただけで、特に親しくはなかった津田と仁科。
仁科が結婚式の当日にいきなりやって来て…、という前半と、たまたま入ったパチンコ店で偶然隣り合わせたのが…、という後半。
気持ちがあるわけでもなく、壊れるほどの友情もない。
こちらも衝撃のラストながら、1度のキスと2度のセックスでこころは永遠に囚われたまま…みたいな主人公と一緒にきっと「次」があることを期待してしまうんだなあ。
【水鏡】 萌
早瀬の好きな人は、友人の深水昇。
偶然、深水に双子の弟がいることを知った早瀬は…。
ファンタジー要素というか、双子ならではのトリックが仕掛けられています。
さらに双子ならではの過去があって、同じ遺伝子に同じ顔を持っていても人格は別という双子だからこそ抱く劣等感や嫌悪感が、読んでいてつらかった…。
【秘密と嘘】 萌
怖いなあ…。
少しずつ読者に渡される情報から予想した展開が、大きく外れました。
おそらく正解を予想できた方の方が少ないんじゃないかと思います。
偶然を装って誘いをかけた相手が何者で、主人公に部屋に飾ってある姉と自分の写真。
この情報から、正解を予想できるかどうか、未読の方はぜひトライしてみてください。
【ひとつのふとん】 切ない2
1つ違いの兄が男と寝ているのを見てしまった弟。
いつも失敗ばかりで頼りなくて、自分がいないとだめだと思っていた兄の知らない一面と想いを知った弟の気持ちを思うと胸が苦しい。
「萌」というのではなく、自分のものだと思っていた何かが、実はとっくに自分の手から離れていたことを知った瞬間の喪失感と切なさと寂しさが見事に描かれていました。
【呪】(ジュ) 評価不能
『夏時間』というコミックスのその後を3ページで描いたショートストーリー。
未読なのと、短すぎるので評価はできませんが、これ、絶対本編は心が抉られる作品なんだろうな…。
買おうかな…。怖いな…。でも読みたいな。
作品に気分を引きずられてしまう方は要注意です。
現にわたし、読み終わってから1時間くらい経っていますが、まだ悲しい。
まだ頭の中でこの短編集に出てきた人たちのことを考えてます。
それだけインパクトのある短編ばかりなので、読み応えのある作品を読みたいときにおすすめです。
ただなかなかリセットできない方は明るい作品を用意しておくこともおすすめします。