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わんこを描いたら恋が降ってきた

wanko wo kaitara koi ga huttekita

  • 電子単行本
  • 電子書籍【PR】

表題作わんこを描いたら恋が降ってきた

波間基,33歳,SNSで知り合った創作仲間で作家
水谷千里,25歳,漫画家志望のイラストレーター

あらすじ

漫画家を目指しながらデザイン事務所の契約社員として働く水谷千里。生まれつき重度の難聴のため引きこもりがちな千里だったが、SNSに投稿した犬が主人公の漫画が人気になり書籍化の話が進んでいた。だが出版社の都合でそれが中止に。落ち込む千里を慰め元気づけてくれたのは、SNSを通じて知り合った浪間はじめというプロの小説家だった。会社員と作家という二足の草鞋を履く浪間は、悩みがちな千里をいつも温かく励ましてくれる心の拠り所だ。そんな浪間から『オフ会をしませんか』という誘いのメールが…。耳が聴こえないことを告げていなかったため初めは躊躇したが思い切って会ってみると、浪間は想像以上に魅力的でスーツの似合うオトナな男性だった。何度かオフ会を重ねるうち、気づけば千里は初めての恋に落ちていた。そんなある日、たまたま訪れた横浜の街で千里は浪間の意外な姿を見かけてしまう……。

作品情報

作品名
わんこを描いたら恋が降ってきた
著者
桜部さく 
イラスト
桜之こまこ 
媒体
小説
出版社
シーラボ
レーベル
ラルーナ文庫オリジナル
電子発売日
4.2

(17)

(5)

萌々

(12)

(0)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
3
得点
73
評価数
17
平均
4.2 / 5
神率
29.4%

レビュー投稿数3

じんわりあったかい大人のラブストーリー

受け攻め2人はそれぞれ漫画と小説でプロを目指す創作者で(攻めの方はもうデビューしてる)垣根は違うけどSNSを通じて出会って、互いにアドバイスし合い、励まし合う関係。ある日受けの漫画の書籍化が本人のあずかり知らぬ所でおじゃんになり、それを励ますために初めて実際にオフ会という名目で会って食事をするけど、実は受けは自分が耳が聞こえないことを攻めにまだ打ち明けていなくて…という感じです。

耳が聞こえない主人公ですが、そういうお話にありがちな作られた「かわいそう」感は全くありません。受けは確かに耳は聞こえないけどあくまでそれは受けの全てではなくて一面で。攻めは受けの人間性に惹かれて恋に落ちて、ほんとに愛しくて可愛くて、パートナーとして大切にしたくてしょうがないんだなという感じが随所にちりばめられていてすごく優しい雰囲気でした。見ていて微笑ましいカップル。にやにやします。

攻めの方が8歳歳上なんですよ〜!酸いも甘いも知ってるスパダリ紳士攻めがどうやって初心な受けに警戒されないように歩み寄ろうかな陥落させようかなとすごい考えてアプローチしてるのが伝わってきて可愛かった〜。実は攻めも1つ秘密を持っていてそれを受けに隠しているんですが、それも受けを思う優しさからの秘密で…お話のテーマにも合っていて良かったです。表紙にヒントがあります。

受けも受けで初めて人を好きになって悶々とする姿が可愛かったです。これって自分のこと好きなのかな、でも勘違いかも…と自分の感情がグルグル回って手に負えなくなっていってるのが微笑ましい。初恋に悩む普通の男の子でした。耳が聞こえないことに確かに引け目はあるんですけど、攻めがそれを受け入れて歩み寄ってきてくれたら、「自分なんて」とたたらを踏むんじゃなく、自分も勇気をだして信じてみようとまず1歩踏み出してみる子です。健気で優しい、芯が強い子でした。すごい好きだー。

難聴というテーマを軽く扱っているわけでなく、かと言って必要以上に重くしているんでもない、バランスのとれた素敵なお話でした。 タイトルからライトな可愛らしいコメディテイストなお話かなと勝手に思ってたけど、実際読んでみると落ち着いた雰囲気のじんわり沁みる大人の恋のお話。とってもオススメです!

2

いい!

読んでて心がじんわり温かくなれて、私はこういうお話が大好き。

受けの千里は難聴というハンデがあるんだけど、特別な人の特別なお話って感じではないところが良かった。
「耳が聞こえない人の恋」みたいなところを謳ってないというのかな。
ネタ的なイヤラシサが皆無というか。
耳は聞こえないし、そのせいで引きこもりぎみだけど、でもコンプレックスも心に傷もないまま育った人なんていないという意味では、千里もごくごくふつーの人というのかな。

千里はweb漫画の書籍化がボツになったことがきっかけで、以前からSNSで交流していた兼業作家の波間とリアルで会うことになるんですね。

この波間がすごくいいんですよ。
耳が聞こえない千里に対して、超さりげないサポートができるんです。
決して大仰じゃないの。
でも実にツボを押さえているので、普段から横断歩道をよろよろ歩いてるお年寄りをさりげなくサポートしてたり、困ってる人をさりげなくサポートしてるんだろなぁみたいな想像ができる人。

そんな二人が出会って、オフ会と称して何度か会う。
二人の行動ははっきり言って地味です。

だけどその分、初めて恋に落ちた千里の気持ちが丁寧に描かれているので、すごく千里の気持ちに寄り添えるんですよ。
一緒になって切ない気持ちになったりできる。

だから私は幸せを味わってる千里の姿に完全に感情移入しまくりで、なんかウルっときちゃいました。
そして、波間が心底千里のことが可愛くて仕方ない!!!と思ってる様子も嬉しかった。

読み終わった後に二人が横浜に幸せに暮らしている姿が想像できて、そこも嬉しかったです。


5

ごくごく普通の二人の、ごくごく普通の恋です

とても可愛らしい表紙とタイトルですが、どちらかと言うと穏やかに落ち着いたトーンで読ませてくれるお話だと思います。

重度の難聴を抱えつつ、イラストレーターとして生計を立てる主人公・千里。
彼が漫画を掲載してる創作投稿サイトで知り合ったのが、既にプロとして小説を出している波間。
進んでいた投稿作品の書籍化が中止になった事で落ち込む千里を慰めようと、波間がオフ会を提案して来てー・・・と言ったお話になります。

こちらですね、主人公の難聴と言うハンデはあるものの、偶然出会ったごくごく普通の二人がごくごく普通の恋をすると言った、至って等身大のお話なんですよ。
えーと、派手な設定とかで読ませるワケでは無く、主役二人の交流や関係性のみで読ませる作品と言うか。

現代らしくSNSで交流を重ねてから、初めて実物に出会った千里。
波間と言うのはとても穏やかで優しくスマートな男性でして、オフ会を繰り返すうち、彼に恋愛的な意味で惹かれて行くんですね。

この、千里が波間に恋をして行く描写がとてもお上手でして。

難聴である自分に対して必要以上に構えるのでは無く、自然に心配りをしてくれる波間。
ほんの少し近くて親しみを感じさせる言動に、彼からの好意を感じて嬉しく思う。

こう、帰り際に手を握られただけで、ドキドキしてその日は眠れない・・・みたいな。

いや、恋する気持ちと言うのがとても丁寧に綴られてて、それだけでもう読者を惹き付けてくれる。
こう言う心情描写だけでしっかり読ませてくれる作家さんて、なかなか貴重だと思うんですけど。

また、ただ単に甘くて可愛いだけでは無く、恋をする中での葛藤や不安、苦しさも綴られてるのが読み応えがありまして。

繰り返しになりますが、千里は難聴です。
彼を心から愛してくれる両親ですが、自分は常に彼等に心配を掛けてしまう・・・。
愛する人に心配や負担を掛ける事に対して、彼はすごく臆病になってしまっているんですよね。
相手が大切であれば大切なだけ。
だから、自分の気持ちは封印するしかない。

このね、主人公の心の揺れと言うのが、とても丁寧に描写されてるんですよ。
甘いのに、ほろ苦くて切ないのです。
でもそれが、めちゃくちゃ萌えちゃうのです。

ちなみに、波間は波間でまた悩みや葛藤があります。
千里には黙っていたとある事実があるんですね。
この事実が結構皮肉なもので、巡り合わせが悪いなぁと、最初は心が痛かったんですよ。
ただ、それも引っくるめて、こう持ってきたかと言う落としどころが素敵でした。
や、千里がひどくショックを受けたこの事実ですが、波間にとって、決して埋められないものでは無いのです。
人と人は分かりあえるし、全てじゃ無くても愛する人の世界は理解出来る。
すごく優しくてあたたかいお話でもあると思います。

ところで、終始穏やかでスマートで紳士然とした波間。
終盤で分かる意外なしたたかさと言いますか、彼も男だったんだなぁって部分に笑いました。
まぁ、そう思って読み返してみると、その穏やかな物腰に紛れて分かりにくかったけど、結構グイグイ来てたわと。
大人のこういうズルさと言うのは嫌いじゃないです。
いや、かなり好きです。

最後になっちゃいましたが、主人公の難聴を決してネタじゃなく、真摯に書かれている作者さんにも好印象を持ちました。
知らなかった事がたくさんあって、無知な自分が恥ずかしくなりましたよ。

それにしても桜部先生の現代もの。
こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、なんか地味に好きと言うか、ジワジワ来ると言うか。
毎回フラフラと買っちゃうんだよ。
特に試し読みをしちゃうと、もうダメですわ。

5

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