【SS付】【イラスト付】
小説
作家買い。
小中先生の新刊は異世界トリップもの。Cielさんの描かれた美麗表紙も相まって読む前から期待度も上がりっぱなし、という状態で手に取りました。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
平凡な高校生の陽色は、ある日突然異世界にトリップしてしまう。
人族と、エルフ、獣人たちが共存する世界に。人族の王が世界征服を目論み特別な能力を持っている人物を召喚したらしい。が、陽色は王が望む力を持っていなかった。
そのため彼は王宮から締め出されてしまうことに。
元の世界に戻ることもできない、何も知らない世界で生きていくことに絶望する彼だったが、じつは陽色は特殊な能力の持ち主だったー。
というお話。
「チート」という形容詞は賛否両論で、良い意味で使う人もいますし反対にあまり好意的な意味ではない意図で使う方もいますが、その「チート」という言葉を上手に生かした能力の持ち主なのです。こういう言葉の使い方が小中先生は本当にお上手だな、と思いつつ。
なんやかんやあって、人を、あるいはエルフや獣人も、全員信じられなくなってしまった陽色は、誰も来ることのない森の奥深くでひっそりと一人きりで生きている。食べるものや日々生活で必要なものはどうするか、というと、それはまさに彼の持つ「チート」の能力でカバーできてしまうという、あえてバッサリいうならば、まさにご都合主義的な展開で物語は進みます。
そんな彼はある日街の中で一人の男性と出会う。
貧しそうな身なりをした彼は小さな男の子を抱えて食べるものにも困っているという。陽色はそんな彼を放っておけずに思わず手を貸してしまうが…。
さすが小中先生だな、と思うのは、その男性・エルとエルが連れている小さな男の子(「ビー」と名乗る)の素性や環境を、町の人たちのうわさ話やエルとビーの仕草や会話の中からうっすらと読ませる、その描写の仕方。
彼らが過酷な日々を過ごしてきたことが読み取れて、だからこそ陽色(エルたちからは「ヒーロ」と呼ばれている)が思わず手を貸してしまう、助けてしまう、その過程に無理がない。あとがきで小中先生も書かれていますが、今まさに起きている不幸な世界情勢を彷彿とさせる展開で、読んでいて思わず落涙しそうでした。
エルとビーを助けなくちゃ、という思いから手を貸したヒーロが、そこから一歩進んで「エルとビーと一緒に生きたい」と想うようになるまでの展開がこれまた最高で、Cielさんの挿絵と相まってまるで映画さながらの美しさを孕んだ世界観がきちんと描かれています。
ヒーロの持つ能力がチート過ぎて、彼の能力とエルの軍人としての力があればなんとかなりそう…、と思いつつ、最後の最後までハラハラする展開でページをめくる手が止められませんでした。
エルとヒーロの恋心、という部分はBL作品なのでもちろん抜きにはできませんが、それを差し引いても物語として非常に面白い。できれば、最後にどんでん返しが来てくれたら面白いのになあ、と思っていたのですが、最後はほのぼのハートフルな感じで終わります。まさに大団円。
昔話とか、魔法とか、「リアル」と「ファンタジー」のバランスが絶妙で、なんかとても、すごく、昔話を読み返したくなりました。
序盤こそシリアス展開で話は進みますが、人と人の関わりの大切さとか、仲間を守りたいという思いとか、「家族」という単位は血のつながりだけではないのだと。人と人が助け合う大切さを描いた、心がほっこり温かくなるお話。かと思いきや、序盤、クソほどカッコよくて寡黙だったエルが、終盤はエロおやじになっているのも◎。
キャラ良し、ストーリー良し、挿絵良しの文句なしの神作品。
最高すぎる1冊でした。
面白かった。
とある国に異世界召喚されたけど勘違いから特殊能力なしだと思われて放逐されたチート受け。初めはチート能力を便利に使って調子に乗ったりしていたけれど、様々な悪意と人が怖くなって出会い人里離れた森で暮らしている。そんな寂しい暮らしの中で訳アリの亡国の王子様とその護衛をしている攻めと出会い仲を深めていくお話。
やろうと思えば困っている人を際限なく助けることができるし、国一つを消すこともできる受けの、善良だからこその葛藤が良かった。困っているから、可哀想だからでどこまで手を出すのか、最後まで責任が持てるのかとても考えさせられるテーマでした。
攻めと王子様はたまたま受けと出会って温かな暮らしを手に入れたけど、街へ出ると路上暮らしをしている難民の同胞達がいて…だけど2人にはどうすることも出来ないやるせなさと2人の心情を思うと辛かったです。元貴族で主は王族な攻めが、見ず知らずの子供(受け)に初めて施しをうけるときにちょっと傷付いた表情になったりするのも印象的でした。
受けが自分の家を現代風にして、寂しくないようにカーペットを某電気鼠にしたりキャラもので賑やかにコーディネートしていたのが可愛かった。その可愛い柄やアップリケに対して見事な意匠だ、押絵が凝っていると感心している攻めも面白かった。あと攻めの変態な癖が面白かった。
個人的に付き合いが長くなり互いのペースが合ってきたカップルのセックス描写が好きなのでラストもよかった。おしゃべりを挟んだりして楽しげに致しているのが好き。
先生買い。軽やかなタイトルやからさくっと読めるんかな、と思っていたのですが、あらまあ予想に反してなんと面白い。ごはん描写挟んでいるので楽しい、軽やかな部分もあり、感じ入る部分もあり、でとっても良かったなあと思ったので、神にしました。本編260Pほど+あとがき。
普通の高校生だったのに異世界へ召喚されてしまった陽色(ひいろ)。何の異能も持たないと分かるや、家族も友達もいない世界に放りだされてしまいます。ホームレス状態であれこれ苦労しているうちに、実はある異能があるということに気付き・・・と続きます。
攻め受け以外の登場人物は
ビー(リュコス王国の王子)、スピロ(リュコスの僧侶)ぐらい?スピロがほんまにカッコええんですよう。いやほんま凄い。
++良かったところ(以下盛大にネタバレです、すいません!)
攻め受けの恋心云々は勿論、お話がとにかく良かったんです。
国を滅ぼされた民の流浪の旅の顛末記といえばよいのか?ビーは王位継承権を持つ最後の王族。異父兄であるエルがビーを一人守って(涙)
どこへ行くの。行くあてがあるわけでもないのに。
愛すべき末の王子ビーをなんとか生き延びさせたい、その一心でエルに託して。
もうこのあたりでウルウルしてしまう。
お金も食料も尽き、ビーは弱ってきていて。ああもうシンドイ。ちっこい子が酷い目に遭うのはつらい(涙)容赦ない書きっぷり、ああ小中先生の筆力炸裂。
そこを救うのが異世界からほりこまれた受け。受けも異世界呼ばれた時は、「お前なんか要らん」と無責任に捨てられ、めっちゃ苦労してようやく森のど真ん中に一人暮らす生活を手に入れていたので、エルとビーが気にはなるけど、深入りしちゃダメダメとか思っていて。
そうなんですよね、犬猫拾うのとは訳が違う。このあたりも沁みましたねえ。
後半出てくるスピロって僧侶がですね、人をまとめて国を出て、新たな土地を求めてさすらっているので、それにエルとビーが合流しよう!と決断するのです。それをエルとビー、そしてヒーロも決断。そこがもう沁みて沁みて。静かな書きっぷりなんですけど、じわーと沁みるのです。読み止めることが出来なかったでした。
スピロの苦悩も本当に良くて、最後の最後まで一気に読み、2回目もまたドキドキしながら読める、大好きなお話でした。電子本買って永久保存です。
小中大豆さんの建国もの大好きなんです。しかも異世界トリップでチートでモフモフで。
チートって言葉の意味をようやく知りました。なるほど。
今作は本当にお見事としか言いようがないと思います。どこも面白いし設定もうまい!盛り上がりも予想外で。そもそもゴールがわからずどうなるの?と夢中で読みました。
陽色の突然の異世界召喚が17歳?一人ぼっちで異世界をさまよい大森林に落ち着いてエルとビーに出会ったのが23歳。
現代っ子が異世界でチートだとこんなことできるんだ〜と、今まで読んできた異世界トリップ物の中で一番楽しかったです。
大森林で3人で仲良く暮らす様子もとても愛おしくこのまま進むのか?でも祖国の仲間の問題もあるし、でもページはそんなに残ってないしどうなるの〜?と思ったら!!
エルに守られスピロやテーロスの知恵でうまく折り合いをつけて、伝説の理想郷へ?最後まで納得の大満足な一冊でした。
ビーが成長して伝記にあるような将来を読みたいな。
同じ月に同じような設定の「異世界のおいしい下宿屋さん」が別レーベルで発売されてましたが、あちらがほのぼの路線ならこちらはシリアス寄りでした。本当に引き出しの多い作家さまだと思いました。
受けが料理上手という点は同じでしたが、受けが召喚された時に手に入れた異能力が物凄いのです。このチートな能力でもって未来を切り開いて行くというのが今作の主軸だったと思います。
小中大豆先生がこの作品のプロットを完成させたのが、極東のハゲが軍事侵攻する前だったらしいのですが、書いてるうちに陽色(ひいろ)の性格を変更しなかったのでしょうか?
読みながら私がこの力を持ってたらハゲの国を大陸から切り離してモス◯ワ共和国にしてやるのにとか、半島のデブの上にロケット落としてやるのにとか妄想してしまいました。www
でも陽色は敵の命を奪う事も望まないような善人なんですよね。
異世界ものを読み込んでると大体のお約束ごととか単語は馴染みがあるのですが、こちらのお話は馴染みが薄い方でもちゃんと想像出来るんです。むしろ陽色の使う能力は近未来物のようでした。
ちょっと不満があるとすればエルが陽色を好きになった理由がちょっと弱いと感じた事でした。エル視点があればもっと良かったかもと思いました。
後半のリュコス国の民を率いての逃走劇は神話の世界のようで、後にスピロという人物が伝記のような物を書いていたので、この辺りを小中大豆先生は書きたかったのかと思いました。
昨今起こっている世界情勢の解決を考える時に夢想することがこのお話の中で叶っていて、読後感の良いお話になっていました。