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表題作惑星

(受け攻めなし)三和甘雨(カンさん)
文具店アルバイト,芸術家
(攻め受けなし) ムラ(ジブン)
42歳,土工,ホームレス

同時収録作品惑星

スーツの青年
ムラ
42歳,日雇い労働者,ホームレス

その他の収録作品

  • カバー下(イラスト)

あらすじ

貧困、暴力、搾取、死。
自らを「宇宙人」と呼ぶ男の人生は、はたして“絶望”なのか――。
木原音瀬が挑む新境地。

漫画家・平庫ワカ氏によるカバーイラストにも注目!

「ジブンは地球の人間じゃない。早く宇宙の星に帰りたい」
自称「宇宙人」の男・ムラは、ドヤ街でホームレス生活を送っていた。空腹に耐え、過酷な日雇い労働をし、ある時には金をだまし取られながらも淡々と日々を過ごすなかで、ひとりの芸術家の青年に出会う。そんなある日、「星」にいるはずの父親の遺体が解体現場から発見される――。

作品情報

作品名
惑星
著者
木原音瀬 
媒体
小説
出版社
ホーム社
発売日
電子発売日
ISBN
9784834253870
4.4

(37)

(28)

萌々

(3)

(2)

中立

(1)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
10
得点
159
評価数
37
平均
4.4 / 5
神率
75.7%

レビュー投稿数10

複雑さを削ぎ落としたシンプルな感情が炙り出す世界

 誰が見ても明らかな、分かりやすい恋愛感情を求めて読むとかなり物足りないだろうと思いますが、そこはかとなく形容しがたい情は確かに存在していて、終盤になるにつれてたまらない気持ちになってくる。そんな小説でした。BLレーベルから出ていなくても、木原先生の色はしっかり出ていたと思います。ムラの未熟さの原因が何なのかは最後まではっきりせず、ずっと彼の記憶に強く残っていた両親のことも曖昧なまま終わってしまう。けれど、それだけ過去の両親との思い出だけを頼りに生きてきた彼が、カンさんと出会って、見返りを求めない穏やかな情に触れて、彼の隣が居心地が良い、自分の帰るべき場所だと感じたことは、大きな成長であり、変化だった。流されるまま生きる彼が今後どんな道を辿るのかは読者の想像に委ねられましたが、カンさんと過ごした時間は彼の中に永く濃く残り続け、それによって今までとらなかったような行動を衝動的にとることもあるんじゃないかなと思いました。

0

読み終わって数日経っても、ふと彼らのことを思い出してしまいます

他の方も書いていらっしゃるのであらすじは省略させていただきます。

まず第一に読後感が唯一無二の作品に出会ってしまったなぁという感じでした。(もちろんとてもいい意味で!)自分はハッピーエンドよりも、メリバとか仄暗く今後の展開を考えさせられる系の作品が好きで、今回も主人公が報われないという前情報だけで読み進めたんですが、本当にとことん報われなかったですね…。もちろん作中ずっと暗い訳ではなくて、心温まるシーンとか少しドキドキするシーンとかもあったりもするんです。でもだからこそその幸せな部分と報われない現実とのギャップが大きくて余計苦しくなりました。
おそらく少し知的な障がいをもつムラさんは、周りの人が言っているとこや起こっている事をあまり理解することができずにいて、自分のことを宇宙人だと思っています。そんなムラさんはいつか自分の惑星からの迎えが来るのをずっと待っているのですが、読者からするとムラさんは宇宙人ではないし迎えも来ないとわかっているからこそとても心苦しかったです。
カンさんとムラさんの距離がだんだん近くなるシーンはドキドキしてこれからどうなるんだ?と心を高鳴らせていたのですがさすが木原先生、2人が上手くいって幸せになりましたとはならない。そう終わらせてくるかぁーという結末でだいぶ心がやられました、笑
ムラさんのラストが明らかにその道は幸せや安定とは遠ざかるようなものではないだろうか、その先は破滅ではないだろうかという結末を迎えるので、このページで最後だとわかりつつも次のページに何か書いていないか確認してしまうほどでした。いやー、木原ワールド炸裂っていう感じで、読み終わった後静かに涙を流しました。
結末を見ると、今後おそらくカンさんとムラさんの2人が出会うことはないのかもしれない。ムラさんもおそらく遠い場所で大変な仕事をしていくことになるだろうし、カンさんもムラさんのことで自分を責めるかもしれない。でもそれが人生で、出会いもあれば別れもある。おそらくカンさんもムラさんもお互いのことは一生忘れることができ無いんじゃないかなと思います。本の小冊子の「ジブンの星」は結末を迎えた後のムラさんの心情が描かれていました。内容を読んで、あぁムラさんの中には一生カンさんが生き続けるんだろうなと思ったし、その一途にずっと思い続けるムラさんの純粋さが伝わってきてまた涙が溢れてしまいました。ムラさんの一途に待ち続けることができる愛というのは本当に美しくて、でも残酷ででもやっぱり純粋無垢さがキラキラしてて自分が忘れていたものを思い出させてくれます。何がガツンと強い衝撃とか感情を与える作品ってよりかは、じわじわと心に染み込んでいくような、ふと彼らを思い出してぼーっと外を見てしまうようなそんな作品です。

さいごに、この作品は確かに報われないし辛いシーンも痛いシーンも多いけど、その中にあるわずかな幸せとかささやかな人の温かみも感じさせてくれます。そしてそういう一つ一つの温かさを大切にしていこうと思わせてくれるものでした。
気になった方がもしいらっしゃいましたら、是非読んでみて欲しいです!(だいぶ覚悟が必要ですが笑)
木原音瀬先生素敵な作品をありがとうございました!

0

無垢な魂の行方

 これは色んな意味でつらい、しんどい話です。
 主人公は頭が弱いんだけど心優しく、そしてたぶん顔がいい四十男。こういう人にありがちな小ずるいところが全くなく、子どものようなあやうさが、奇妙な魅力を醸し出しています。

 なにしろ知能が人並み以下なので、言葉の意味もわからなければ左右の違いも怪しく、すぐに道に迷ってしまう。こういう主人公を一人称で書くのはずいぶん難しそうだなあと思います。しかしとても巧みな描き方で、彼の生きづらさと混乱が、息苦しいほどに伝わってきます。

 そんな主人公に心惹かれて世話をする青年がいるのですが、彼もまた屈託を抱えている。はっきりと書かれていないが、ゲイで父との葛藤があり、芽の出ない芸術家です。そんな彼が主人公の無垢さに安らぎを見出し、必要とし、必要とされる。しかし結局は勝手に描いた理想に復讐され、主人公を拒絶してしまう。ラスト直前でこれ……。

 主人公は自分を宇宙人と信じていて、別の星からお迎えが来るのをずっと待っています。しかし最後は、お迎えではなく、カンくんに再び受け入れてもらうことに希望を見出すようになる。お迎え=現実からの離脱だとすれば、まだ希望の見える終わりなのかもしれません。しかし二人がまた出会えるかわからず、さらなる破滅に向かうかもしれない予感……つらいよー。

 終始不憫で残酷な話ですが、それでも主人公の無垢さに救われるところもあり、情緒をメチャクチャにされます。奈落の底のような小説を読む、暗い愉しみを久々に味わわせてもらった気がします。
 それにしたって、少しは救われておくれよ……。

0

揺さぶられる物語

絶望と希望に頭ワンワンする…
自分を宇宙人と思ってるムラさん。
いつか来るお迎えを信じ、お父さんの教えを守り淡々と生きていく姿、
カンさんとの生活の温かさが愛おしく芯の強さに打たれる。
けどもカンさんの言う一方的に癒しを求めても相手は…のエグさ。

ムラさんは圧倒的に理解力と言葉が足りないけど、
カンさんから醸し出される雰囲気に寄り添って懸命に言葉を紡いでるのや
自分が感じた優しい気持ちをストレートに言葉にするところがとても可愛らしい。
カンさんをかわいいって言うとことか、ムラさんが可愛いよ!!ってなりました。

ムラさんはどうにか頑張っていればカンさんに許して貰えるかもって
道標に向けて生きてけそうなの希望が見える。
それはそれで辛いんですが。

ムラさんの思考回路は子どものまま、受けられる支援も受けられず…
というところに延々と唸らされる。
ムラさんの報われなさをしんどく思うのは外野の意見で、
カンさんと同じで見たいように見てることに気付いて
自分もムラさんでもありカンさんでもあること、
どう頑張っても上手くいかないことに苦しくなってしまいました。

ムラさんはコツコツ生きてて光を信じて求め耐える強さがあるのがせめてもの救い。
その強さを作ってるのは…って戻ると!頭ワンワンしちゃうんですが!

何かのきっかけで、もしかしてムラさんは…ってとこカンさんは気づいて、
死ぬほど後悔して永遠に引きずって欲しいし、
いつかどこかで救いも欲しいと願わずにはいられないです。


0

トンデモない名作がまたここに!!

42歳のムラさんが主人公のお話。

今風に言うと生きずらさを抱え、福祉とかそういったものに頼ることも分からず、ギリギリのところで生きている人物。

いい人なのですが、そのせいで、色々と割に合わない思いをしているのもまた、現実。
そんな日常のなかで、ムラにとって父のような存在――芸術家のカンさんが現れるのですが、、、


カンさんとの同居生活。

辛く苦しい生活が、カンさんと出逢ったことで変化していくのですが、大幅にすれ違う違和感がいったいどこでカタチとなって外へ表出されるのだろうもいう不安感が、終始ついてまわった作品でした。


で、衝撃的なラスト。

く、苦しすぎました。

救いようのないエンディングは、おそらくこの先ずっとムラについてまわるもの。
安易にハピエンにさせなかったこと。

かえって、木原先生の凄さ(語彙力皆無ですみません!)をそこに見たような気がしました。


今、こちらの作品を読もうかどうしようか。
悩んでいる方がいらっしゃったら、ぜひここで肩をソッと押したい。
ひとりでも多くの方に読んでいただきたい。
そんな作品でした。

惑星っていうタイトルもまた、読了後に意味を考え始めると深いです。

3

過酷な人生を一瞬照らした光

土工作業で日銭を稼ぐムラは自分のことを宇宙人だと思っていて、いつか父母のいるジブンの星に行くことを夢見ている。易しい言葉で穏やかに話してくれれば少し分かるが、早口だと分からない。大きな声も苦手、怒られる、怖い、と常に怯え、父親が教えてくれたことを守って正しく生きているものの、コミュニケーションが取れないので周囲の理解は得られず、騙されたり搾取されたり、でも人の優しさに触れることもある、そうした日々が描かれるお話です。

夢中になって読みました。まったく先が読めず、着地点はどこなのかと。
BLなら概ねハッピーエンドでしょうが、こちらは文芸。メリバも当然あるし中途半端に投げ出されることもあります。びくびくしながら最後のページを読んだときに、そうなのかー、と。すぐにコミコミ様のSSをすがるように読み、また、そうなのかー、となりました。

ムラさんの人生は非常に困難なものです。はっきり書いていないけれど発達障害? いつまでも親は生きていないからいつかはこのような日が来ますが、庇護なくして一人で生きるのは過酷だと思いながら見守っていました。
家もないし、土工の仕事もその場限りのものなので不安定。
物理的、精神的身体的なたくさんの困難、胸には溢れんばかりの思いを抱え、言葉に出来ずただため込むだけ。
そんな中でのカンさんとの出会いは、彼の人生を一瞬光らせた宝物のようだと思いました。
三和甘雨。なんて素敵な名前なのでしょう。カンさんは勿論ムラさんの来歴や抱えている何物も知りませんが、ムラさんの存在を親以外で丸ごと受け入れた初めての人でした。
たとえお家が裕福だとしても(そうは書かれていませんが)、アルバイト生活をしているカンさんが、2人分の生活をそれほど長い間養えるとも思えないので、ずっと二人のやさしい暮らしが続くわけでもないとは思いながらも、突然の破綻はショックでした。
仕方ないことです。カンさん、20代後半~30歳くらいなのかな。42歳の、一人では出来ることが限られる、謎な部分の多い成人男子を、丸ごと抱えるのは難しい。実親だって丸抱えしかねると思うのに。ましてや二人の間には明確な関係性がありません。成り行きとはいえ家に連れて帰ったことだけでも相当なハードルです。出会って連れて帰った怪我した野良猫を洗って餌をあげて手当して、放り出せなくて一緒に暮らすうちに猫がなついて自分も癒やされて、といった感じなのかなと。猫じゃなくて人間ですが。

いろいろあったけれど結局、ムラさんにとっては、ジブンの星に行くことが一番の幸せなのでしょう。最後の最後、お母さんのいいつけを破り、お父さんの言いつけを破りました。そうなればもう、このあとの転落が見えてきます。
でも頭がお花畑な私は、いつか北の海に写生旅行に行ったカンさんが、偶然ムラさんを見つけるお話を妄想し、自分を慰めるばかりです。

5

嫌な気持ちにしかならないのに読んでしまう

救済とか期待しないでください。
正直読んでてしんどいです。
そうやんな、そうなるわなの連続。
都合よくハッピーな展開なんてならんのよね。
でも、案外上手く生きられてるしムラさんの周りって親切な人多くない?なんて思えた。

この物語はムラさん視点でお話は進んでいく。ひらがなが多いし、口語体で頭の中で考えた事が垂れ流されているような描写に最初戸惑う。
でも、これが知的障害のある人の感覚なのではないだろうかと思えてしまう。日雇い人夫としてその日暮らししています。

ちょっと考えたらわかるやん、普通はそうやん。が通用しない。理解できないし、覚えられない、すぐに忘れてしまう。相手の言う事が理解できないなりに、常に怒られないかこの受け答えであっているかどうかをビクビクしながら暮らしてる。
めちゃくちゃ生きづらいだろうな。

去年ドラマ化された漫画、ざくざくろ先生の【初恋、ざらり】は軽度の知的障害と自閉症の女の子の生き方が描かれていた。そこでは、コンパニオンで派遣された先で悪い男に騙されてお金を掴まされて抱かれていた。そんな生活が嫌で、昼職について恋愛もしててこのお話にはしんどいけどあたたかい部分もあった。

今作のムラさんのお母さんもきっと知的障害者で隣に住む悪い男、きぃちゃんにたぶらかされてAV出演、シャブ中になってしまったんじゃないかな。
ムラさんは、守ってくれる、生き方を教えてくれる存在のお父さんが生きていた頃はよかったけど、お父さんが居なくなってからはしんど過ぎる人生だったろうな。忘れっぽいから生きていけたのかもしれない。

カンさん、よくもムラさんの事を癒し系程度の認識で一緒に暮らせたな。いくら好みのタイプの男でも限度があるでしょ。あっ、これはサポートが必要な人だってわかるはず。カンさんは、ボランティア精神ではなく、本当にムラさんといるのが心地よくて同居してたっぽいよな。
[猫を飼う事は、猫に安心できる場所を提供する代わりに癒しを一方的に求める。だからといって人間は猫を愛しても見返りは求められない]っていうような事を最後の方でカンさんがムラさんに話してるんだよね。
ムラさんは猫みたいな存在で
でも、恋人みたいな関係になりたかったんだろうな、カンさんは。

わからないことばっかりの毎日を最低限の生活で野良猫のように生きていくの本当にしんどそうだよ。

8

わからないことが幸せなのか

これは最初のページから辛い。お願いだからムラに平安をって願いながら読んでいく。
ムラは知能が低い故、自分を「宇宙人」だと思っている。だから「人間」のことがよくわからない。ただいい人と嫌な人がいる。それでも悪いことをしないように、怒られないように過ごしている。
曖昧な過去に理解できないことばかりで、騙されたり傷つけられたりしてきた。
カンと出会って一緒に暮らしていくうちに、やっと安心してすごして、このままふたりでゆったりとした中でやっていくのかと思っていたら、やっぱり木原先生。辛すぎる終わり方だった。

読んだほとんどの人にとってこの物語はバドエンであり、後味の悪いものだと思う。
でも、わからないから幸せなのか、わからないから不幸なのか。結末は想像することしかできない。きっとわかる側にいると思われるわたしには、ムラが物語で向かった先は不幸で死しかない。でもわからない側にいると思われるムラには、わからないままに身体が朽ちていく死はようやっと「ジブンの星」に帰れるから幸せなのかもしれない。


サイン会のお土産として「ジブンの星」という小冊子を頂いた。その中に書いてあるムラの想いは切ないけれどがんばっている。だから不幸じゃないといいなと泣きながら思った。
貧困・暴力・摂取・死。とても重くて辛いテーマでした。
木原先生、すごいな。

8

人生を描く

すべて読み終えて、こちらの作品に惑星というタイトルをつけるセンスの良さにうなってしまう。

読み手を落ち着かなくさせ、感情にざわつきを与えてくれる木原音瀬先生の作品が好きです。
それはBL作でも一般文芸となる今作でも変わらずでした。
主人公となるのは、ホームレス生活と日雇い労働者を行ったり来たりしながら暮らしている42歳の男性・ムラ。
ただひたすらに彼の毎日が淡々と綴られているのだけれど、これがなんとも不思議な感覚にさせられるものなんですね。

わかりやすい作品ではないですし、内容的にも結末的にも好みは分かれるかなと思うのです。
すごく純粋で、時に幸せで、すごくやるせなくて、ちょっぴりあたたかくて、すごく残酷。
少年の心のまま時が止まってしまったようなムラの思考が読み手の頭に直接入り込んでくるものですから、彼が感じている恐怖や混乱、名前がつけられない安心感といった複雑な感情が押し寄せてきて、なんだこの読み心地は?とぐるぐるしてしまう。
彼のどこか幼い口調で語られる日々と過去は、一般的な感覚でいえば決して楽しいとはいえないことばかりでしょう。
ですが、純粋なまま時が止まっている彼の目線を通して見ると幸せにも思えることもあり…
どこからどう見ても孤独なのに孤独じゃない。
噛み合っていないのに噛み合っているようで、絶妙に噛み合っていない。
この激しいギャップとアンバランスさが好みでした。
気が付けば、自身を宇宙人だと信じているムラの惑星の中に私も入り込んでしまっていたのかもしれません。

遠いところで母と一緒に待っていて、いつか星から自分を迎えに来てくれるはずだった父親。
そして、カンさんと呼ばれる若き芸術家青年との出逢いと暮らしが平坦だったムラの心を徐々に波立たせていく。
独特な語り口に慣れるまではとっつきにくさを感じるかもしれませんが、ページをめくればめくるほどな作品だと思います。
あたたかさや安らぎに触れていたら、突然首筋に刃物を当てられるような展開も上手いですし、苦しいだけでも甘いだけでも終わらない不思議な余韻が残る作品です。
噛めば噛むほど味わいが増す、随所に木原節を感じる人生を描いた1冊でした。
淡い恋のようなもののその後を覗き見たい方はぜひコミコミさんで。

14

社会の孤立者の無自覚な絶望が容赦なく刺さる

木原音瀬先生の独特な暗さと痛みが全編を支配し、

最初は主人公・ムラの思考のよって、
現実と非現実の境界が曖昧に感じられて、
読み進めるにつれて無慈悲な現実に引き込まれる展開。

「宇宙人」という設定のファンタジーではなく、
BLや恋愛ものでもないと思う。
(恋愛要素ががはっきりしていれば、間違いなく神作品)

生活が厳しい階級に生きているムラという社会の孤立者、
彼の深淵に潜む無自覚な絶望を容赦なく書き出して、
救いのないメリバのような結末が心臓に鋭く突き刺さる。


自分のことを「宇宙人」だと思い込む
中年のムラ(知的障害?精神年齢は子供のまま)が、
物事の多くを理解できないまま、
「宇宙」に帰った(=いなくなった)お父さんとお母さんを思い続け、
いつか自分も「宇宙」に帰れることを待つ。
ただ食べるためだけに土工の仕事をして、
金も体も騙されて、
物理的な飢えだけでなく、
さまざまな理由から体に痛みをも抱えている。

虚しい日常と無情な現実の中で、
彼が出会ったのは年下の芸術家・カンさん。
優しいカンさんのアパートで暮らすようになって、
カンさんが描いた宇宙の絵だけに惹かれるだけではなく、
次第にカンさんに依存していくムラ。

現実に対抗する術を持たないムラにとって、
カンさんは唯一の逃避先。
カンさんといると安心し、
必死に彼に縋りつく無助な感情の中で、
孤独と無力感が鮮烈で痛々しい。

垣間見えるカンさんの過去の恋が、
カンさんがムラに恋心を抱いているのだろう。
(コミコミスタジオ特典の書き下ろしSSカードは必見)

直面してしまう
大好きなお父さんの遺体の発見、
お母さんの知られざる一面
カンさんに拒否される現実・・・
崩壊しかけるムラの精神の苦しみに震えが止まらない。

社会の底辺で疎外感に苛まれて、
希望が見えても、絶望が絶え間なく、
それを払拭する力を持たないまま、
それでも生き続けるムラ。
辛辣なリアリティが胸をえぐる作品でした。

7

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