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求めてるうちは、指先にもかすらない
このお話は帯に「刺青師ガッドの性と生」と描いてはありますが、ガッドが主人公のようなふりをして、彼らの周りの人々が主人公だと思います。
その人々の通過点になるポイントのガッドがたまたまゲイだったというだけのことかも。
だってbassoさんの作品には、そういった悩みや苦しみが余り表だって深刻に取り上げられないし、それすらも自分の中の一部分であると当たり前に肯定して存在しているからかもしれません。
水漏れを口実にガッドに接近したい上の階の男、臆病すぎて心に黒い染みを残してしまった男はやはり臆病なままで。
ガッドの体と家賃を引き換えている大家の男。
日本に恋人を取られた男。
気持ちをわかっていて知らないふりをされた男。
日本から帰国した男。
血の繋がっていない3人目の父親。
そして一番大事な、いつも何気に側にいる友達。
ガッドはバルコニーで来ない人を待っているのか?
そしてエンドカットのバルコニーは暖かい。
やはりこの本も何度も読み返してしまう、読み返すほどに味のある作品です。
人間描写が魅力的なんだな。
この方の描かれる男ってのは、どうしてこう色気がにじみ出るんですかね~?
前々から絵かきとして不思議だったんですよ。単純な線だし、デッサンが?でも何か間違った感じがしなくて、そしてとにかく目線が、しぐさが、立ち居振る舞いがエロい。
それをあれだけの空間に線引いただけで表せるってのがすごく不思議なんです。
感性、経験値、その他諸々なんでしょうけどね、毎回マンガのストーリーもさることながら、画集を見てるようで本当に楽しいのです。
ストーリーはゲイの彫師・ガッドの周りの日常風景描写って言えば終わってしまいますね。
ホント、毎日淡々と、しかしフツーにエロスも食い込んでる日常。
食って眠ってセックスして暮らしてるのがさらりと描かれている。
でもエロいというより食事とかに近い感覚なんですよね。フツーなんです。
お客、行きつけのバー、アパートの住人、元々の友人知人、またその人が連れてくる人、ありとあらゆる人が入り乱れ、数えないと分からないくらいガッドと寝てるんですよね!
ガッドはフィーリングが合えば結構誰とでも寝てしまう男なんですが、そのフィーリングが合うというのが簡単なようで難しい。
作中の台詞に、しょっちゅう出てくるそういう歯車だったというキーワードは、求めてるうちは手に入らないみたいな感じの事なんですけど、ガッドは誰とでも寝てるようでいて、実は自分にひどく執着するような人とは寝ないんですよね。
これは何を意味するところなのか、作中では特には語られません。
本人にもわかってるのかどうか?何となくでやり過ごしてる?って感じがあるのですが、この作品の世界に入り込むとそんな事は瑣末な事に感じてしまい、良く分からなくなります。
私は実は基本アウトローものや、浮草みたいな不安定な人々の狭い世界でのひっついた離れたってのは本当はあまり好きではないのです。
なのにこの作品はとても好きで入り込んでしまいます。
この差は何なんでしょうね? 自分でもよく分からないんだけど、色んな人がいて、いろんな思惑が絡む所がいいんでしょうかね?
なんだかシムシティの世界にみたいに、色んな性格の人が好き勝手に交錯しながら生きてる感じがするんです。
その人達の軽い接触で起こりうること、ダメになることを淡々と描いてる感じが盗み撮りフィルム見てるような気分にさせてくれるんでしょうかね?
あと、ガッドが節操無い奔放なゲイってわけじゃなく、何やら大きな影を持ってるっぽいところもいいのかもしれません。ミステリアスなんですよ色々と。
ガッドを見る目も色々で本当に面白かった。そこにはガッドという彫師の男がいるだけなのに、周りの男どもはこんなに色々なことを色々な角度で考えてるのかと、それを見るだけでもなかなかおもしろいです。
bassoさんの新刊は、自家薬籠中のイタリア舞台作品です。
刺青師のガッドを巡り様々な男たちが鞘当と人生模様を
繰返す物語ですが、ガッドはどちらかと言えば主役よりは
狂言回しに近い役割なのかも知れません。
立ち位置は充分に主役なのですが彼は自身の事を強く
主張しない。周囲の男たちが彼について語る事で物語が
補完されてゆく。
ガッドの存在は、安葉巻の煙に似ているのやも知れません。
消したくても、何処かにしっかり残ってしまう様な。
主人公の名前がタイトルになった作品。
bassoワールド全開です
ただ、クマテリやアマートとは雰囲気がちょっと違うかも…
工口ティックな空気感の中で話は進みますが、実際にそういうシーンが多いわけではないという^^;
ガッド自体は誰彼構わず寝てしまうような節操のない人物で、『amato amaro』収録「tatuaggio」で見たときよりも中性的なイメージが強まっている気がします。
一緒に住んでいたヒゲでニット帽を被ったぽっちゃりなお兄さんも、だいぶ丸いキャラになってたかな。(体格じゃなくて性格ね…)
ガッドはしなやかで背筋のピンとした、優しくて綺麗で、近付きたいけど「近付いてはいけないような」自己完結したキャラクター。
自分から寄っていくとあしらわれて、他に目を向けてるとこっちを向く。
私的にはガッドは、雲雀恭●を思い出すような……つややかな毛並みの、澄んだ目をした黒猫っぽいイメージでした。
※私は雲雀を高潔な淫乱だと思ってますから。他に強いて例えるなら『不機嫌なピアニスト』の瓜生柊(受)とか、『ショーが跳ねたら逢いましょう』のテオ(受)とか。
前2作に比べて話の流れが複雑で、伏線のある話なのでじっくりと2度、3度と読み返していくうちに味が染み出してくるんじゃないかなと思います。
複雑なのは、キャラの特性上仕方ないことかな。
ガッドは掴みどころないから……^^;
「amato amaro」にも登場する刺青師ガッドの、生と性の8つの物語。
BL漫画ではあるが、特にカップルはない。
表面的な関係を望み、セックスを繰り返すガッド。
暗闇へ飛び立ってしまいそうな、バルコニーに佇む後ろ姿、
彼の諦めににた、でも諦めきれない人生が静かに淡々と描かれている。
自らを傷つけながら生きているような彼の職業が、刺青師だということ、
12の彼に刺青を彫ったのが、彼が求め続け囚われ続けている男だということ…
彼の生に刻み込まれた、どうしようもなく深く、やるせない想い。
読み終えてふと表紙を見て、「S」の文字だけがグレーになっていた意味を知り、
切なさに胸が締め付けられる。
すごい作品…だと思う。