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表題作人でなしの恋

花房拓臣,一高時代からの友人で医師
仁科千尋,人気幻想作家

その他の収録作品

  • 逢い引きの夜
  • こごり繭

あらすじ

青山の同潤会アパートに居を構える仁科千尋は、伝奇小説や幻想小説などを主軸とした恋愛小説を書き、生計を立てていた。独特の色香を持つ仁科は、第一高等学校時代に仲の良かった友人二人に、異なる愛情を抱いている。無垢な黒木には庇護欲と愛おしみ、そして懐深く穏やかな花房にはせつない恋慕と欲情を。しかし仁科は黒木に内緒で、花房とひそやかな逢瀬を重ねていた。そんなある日、花房とじゃれあう現場を彼に見られてしまい・・・!?
(出版社より)

作品情報

作品名
人でなしの恋
著者
かわい有美子 
イラスト
金ひかる 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
リンクスロマンス
シリーズ
金の小鳥の啼く夜は
発売日
ISBN
9784344818965
3.4

(24)

(4)

萌々

(7)

(9)

中立

(4)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
8
得点
79
評価数
24
平均
3.4 / 5
神率
16.7%

レビュー投稿数8

ジェラシー

読後のスッキリしない感じは変わらずなんですが、時間が経って再読してみるとなかなか発見がありました。本作は作者様が描く時代ものの雰囲気が楽しめる作品です。

刊行は2010年。舞台背景は昭和初期で、もうこれ、自分の中では『草◯花』BL版オマージュといいますか…。BLといえども現在のわかりやすい攻めと受けの関係性を描いたものではなく、あらためて読み返すと男性が同性に懸想する生っぽい部分に踏み込んでいる感じがする。かわい作品のまさにそういうところが自分にとってめちゃくちゃエモい。『未成年。』みたいに矢印があっちゃこっちゃ乱れていて、BLとして形式上受け攻めは決められてはいても、メンタルの部分ではどっちが右でどっちが左なのかはっきりさせないところもリアルで好きです。

エログロな幻想小説を書いている仁科、医師の花房、検事の黒木。三人は一高時代からの同級生で、親友同士の仁科と黒木の間に花房が加わるかたちで良好な関係を保っていました。ですが、予感どおり花房と仁科が恋情込みで惹かれ合います。おそらく二人が互いの存在を知った時からすでに…。

仁科は色覚に障がいのある黒木のことを大切に思っていて、黒木も繊細で怖いほどに美しくて男らしい仁科のことをよく理解しています。後になって判明するのですが、花房は心から打ち解け合っている二人の絆に密かに嫉妬していました。この三人のトライアングルが本作のメインです。

仁科は黒木が自分の大事な妹(千枝子)を花房の妻として捧げるほどに、花房に入れ込んでいるのだと思っていました。だから、千枝子に取られてしまう前に花房を奪い、思いを確かめずにはいられなかった。他方、花房は黒木が自覚もなく仁科に思いを寄せているのではないかと察して焦ります。黒木は完全な異性愛者だという共通の認識が、三人の関係性を拗らせてしまうのです。

仁科と花房はその後黒木に隠れて体の関係を持つようになり、結果秘密がバレてしまった時の仁科の取り乱しようたるや……切ないような、胸がすくような、やっぱりこのシーンで複雑な感情に乱されてギュンッときてしまう。

後半はオカルト色が強くなり、嫉妬がらみの殺人事件が発生します。手口が仁科の作品内容を模倣したものだったことから、仁科本人も巻き込まれるはめに。この殺人事件、少々とってつけた感が否めないんですけど、動機が実に耽美なんですよね。オカルト現象が鏡を介して生じるところも暗示的です。事件を掘り下げると本筋から外れるので置いておいて、この一件から仁科や花房が犯人に対して抱いた思いはどんなものだったのかと妄想が煽られました。

黒木からの責めを負うのは仁科だけではないし、花房も共犯者です。作中に出てくるたとえに、男女間で浮気をされた場合、女は浮気相手を責めるが、男は浮気した本人を責めるとあって、…うん。たまに聞くけども笑、先行きはどうあれ花房のことを一切責めない黒木は、彼のことを買っていたのは間違いないんだろうなぁと思います。

仁科みたいな魔性キャラがどういう身の振り方をするのかに興味がある読者としては、正直、結末にモヤります。うーん、悲劇エンドだったらBLじゃなくなってしまうし、受けは攻めに愛されてナンボですし…。つい長々と語ってしまいましたが、色々な方面で深く爪痕を残してくれている作品です。ちなみにトーンは同じでも毛色は全く違う関連作の方も、個人的に神作品です。

3

レトロラブ、初恋。

2中編より構成されています。

「人でなしの恋」
表題作。
設定は昭和初期。関東大震災の後の旧制高校の同級生のお話。
2人の華奢な美少年と、剣道の有段者の3人が織りなす人間関係について。
単純な三角関係じゃないんですね…
主人公は仁科。
親友の黒木とは性格も考え方も全て気が合って、仁科は黒木が大好きでたまらない。
だけど心も体もどうしようもなく惹かれるのは、たくましい花房…
仁科は黒木も花房に惹かれてると思っている。だから、花房が自分を選んだ事が後ろめたくて。
2人の関係がばれて、黒木は仁科と花房と絶縁します。
あの若く楽しく輝いていた若い日々はもう帰らない…そして、それが人でなしの自分への報いなのだ…それでももう自分は花房を離せないんだ…

今時のBLを読んでると、これくらいで「人でなし」じゃないよねーなんて感じる自分がスれてしまったというか。
それに、仁科は黒木をすごく気にかけているけれど黒木視点は全く書かれていない。
花房は初めから仁科を選んでいます。
時代性もあるのか、すぐにどうこうならず非常に抑えています。そこがまたいいのです。

「こごり繭」
この一編はなんとホラーというかゴシック風味。
エログロと批判されつつ人気作家である仁科。
ある日、花房と一緒に入った古美術店で、人ならぬ女の悪霊のようなモノを見てしまう。
その後、自分の書いた小説の通りの殺人事件が起きたり、仁科が疑われて捕まったり、仁科が鏡を怖がったり。
そんな仁科を支える花房。
2人はますます馴染んで。
さてホラーの結末はどうかというと、そちらはどうも……古鏡を割ったら消えました、というオチでこれはいまいち。

2

男三人ならでは

時代は昭和初期
一高~帝大~社会人と共に過ごした主人公達の三角関係ものです。
三人の関係性がすごーくエロチックで萌えました。

男女物の置き換えのように、
単純に一人の受けを狙って攻め二人が対立するのではなく、
友情と恋情が複雑に入り乱れ、
誰が誰をどのような形(攻or受、友情or恋情)で愛してるのか・・・
という男同士ならではの濃密な三角関係に唸らされました。

体の関係という意味では、エロエロしてません。
プラトニックだったり、両想いになっても何年もキス止まりだったり。

相互視点な上に、現在(社会人)の話と、
過去(一高、帝大)の話を混ぜて構成されてるので
話の全体像を知るために
頭の中でパズルピースを組み合わせるようなもどかしさが、
読んでて楽しかったです。

筋立てより、個々の表現や雰囲気を楽しむ作品。

7

雰囲気は好き

雰囲気は好きなんだけど終始バラバラでまとまりがなかった印象でした。
ストーリーに芯が欲しい、と切実に思いながら読んでました。
三角関係ふくむ恋愛要素、ホラーな部分、昭和初期を時代背景にしたことによるノスタルジックな空気感、これらのものをもっと上手くまとめたら名作になったかもしれないのになぁと。

三角関係については、黒木の存在の意味がいまひとつ伝わってこないんですよね。最初から主役カップルががっちり結び付いてるからかな…分かんないや。かわい有美子さんが書きたかった三角関係の形じたいはものすごーく伝わってくるのですが、エピソードからは伝わらないのでもどかしくなってしまう。
学生時代のエピソードで、もう一つ「ナニカ」が欲しかったかも。

ホラーな部分も中途半端な感じ。
主人公の恐怖感がいまいち伝わらない。
真相もつまらない。

昭和初期のノスタルジックな空気感はよく出てたと思います。
当時の男子学生同士の交流は、かなり萌えるものがありました。

2

三角関係、でもいまいち観念的

BLとしてはわたしには、タイトル↑につきます。
友人である3人がいて、花房(攻め)×仁科(受け)+黒木(仁科は黒木は花房が好きだと思っており、花房は黒木は仁科を好きだとおもっている)---という構図です。
花房は友人である黒木を裏切っていると罪悪感に悩むのですが、頭であれやこれや観念的に悩むだけで、黒木が恋を阻むようなエピソ-ドも特になく、うしろめたい気持ちのまま関係を持ち、結ばれます。お話が動いてないやん、と思ってしまいましたが…、
読む人によっては、この「うしろめたさ」が醍醐味なのでしょうか?

収録されている「こごり繭」は幻想ホラーもの(?)とでも名づけたらいいのだろうか?
恋愛はさほど描かれていると感じなかったし、ミステリとしては謎解きがなく、幻想小説としては、例えばなぜ外国の女性が主人公に祟ってくるのかという点について因縁が浅く思え、怖さや凄みが足りない印象を受けました。(BLにこだわらず耽美ホラーに徹したらどうだったろう)。

それでもさすがに筆力のある作家さんのかかれるものだけあって、時代の雰囲気などは良く出ていると思います。表参道に市電の走っていた、同潤会アパートが新築だったその時代の雰囲気にひたれましたv

2

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