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この頃が一番顔が長いので(ホントにまぢで容赦なく長い)、ずっと買うのをためらっていましたが、「猿喰山疑獄事件」があまりにも良かったので本作もポチリ。
①表題作(これだけ短編ではなく、全体の約半分を占めます):
名前がフランス系とドイツ系ごっちゃまぜ(これは父親がドイツ系という意味なのでok)だったり、出てくる料理や菓子名、店名はフランス系(これも全然ok)だったり、通貨はフラン(仏)でなくマルク(独)(ここが一番納得いかない)だったり…。
ロンドンフィル、ルソーなどの固有名詞出してるので、「仏独要素ごちゃまぜの架空の国設定」じゃないんですよね一応。
なのでせめてそこは統一してくれ…と思いました。
「ハスネサイコロジー」でガッカリしたので今回も☆3ぐらいかな、と思ってましたが、まんまと感動させられてしまいましたね。
そうです、こーゆーのが読みたかったんです!
<注意点>攻めが受けにときめいてしまったのを信じたくなくて、自分がノンケであることを確認するために女性を抱く描写(ゆーても事後)があります。
②「何処無市ラブストーリー」:
架空の日本が舞台で、ものを覚えられない(なにかの後遺症か遺伝子系の疾患?)人種だけを「名もなき人々」と呼んで隔離・管理している世界。
好きな作品とは言えないけど、ARUKU節をシャワーのように浴びることができました。
③「ここは、愛の惑星。」:
これは大好き!めちゃくちゃ大好き!最後のコマの衝撃たるや!
④「家に帰るまでが遠足」:
リーマン2人が仕事中に(厳密には午後だけ自宅勤務扱いにして)遠足に行く話。
ほんっとーーーに可愛い。
⑤「地上で最も美しい生き物」:
最後にキタ…きましたよ。心の美しい不憫受けが報われる話。
絵がほんっとーーーにどうしても好きになれなかったし②は好みではなかったけど、それ以外の話はどれも素晴らしかったです。
物悲しいお話がほとんどですが、コミカルな掌編も二つあります。どれも読みごたえがありました。
「地上で最も美しい生き物」が一番好きです。
ごんぎつねを思い起こさせますが、お話の内容は別物です。何度読んでもラストで涙が出ました。
主人公は耳が聞こえないのですが、読唇術の描写が秀逸だと思いました。背景や田舎の町の冷たい描写がとても良かったです。
【画家と音楽家】 怖
若い頃に才能を見出されて持て囃されたものの、才能が枯渇したように曲を生み出せなくなった音楽家のギラン。
描きたいものはいくらでもあるのに絵の具を買うお金どころか、パンを買うことさえままならない生活を送る画家志望のゾゾ。
両極にいる2人が偶然出会って、親交を深めていくストーリーです。
この話、すごく怖いなと思いました。
世の中にはお金に限らず、才能や運も含めて「持つ者」と「持たざる者」がいますね。
「持つ者」には常に人も仕事も集まるし、お金もそこについてくる。
ギランは明らかに「持つ者」で、ゾゾは「持たざる者」です。
壁にぶち当たった「持つ者」が「持たざる者」に出会って、何が起こったのか。
表面上はギランが今まで会ったことのないような純粋なゾゾに惹かれて、心が動いたことでまた音楽を創り出せるようになったという美談です。
だけど本当に好きになった相手に与えたものは、食べ残しのキッシュと画集1冊。
困窮する相手が差し出すジャケットの弁償代を受け取って、椎の実をおやつ用に拾うのを見ても、絵の具を買うお金がなくて、自分の手を切って出た血を使っているのを見ても、ギランはそこからインスピレーションをもらうだけ。
助けられるのに、助けないんですよ。
それが実際の「ゾゾ」という人間を見ているのではなくて、アジアの血を引いた不思議な青年が極限状態の貧困にも負けず夢を追うイメージを見ているだけのように感じられて。
また音楽を作れるようになったギランはゾゾの元を去り、そうして出来た音楽を窓の外でゾゾが聴く。暖かい建物の2階と寒空の下の地面。これが2人の属する場所なんだと。
きっともう2人は会わないだろうし、やっと絵が売れたところできっとゾゾに残された時間は短い。
ゾゾの死後に絵が人気になって、話題がギランの耳に入ったときに、ギランが苦しめばいいと思ってしまうんだなあ。でもきっとちょっと悲しんで、その悲しい気持ちを曲作りに生かして終わるのだろうな。深読みしすぎですかね?
【何処無市ラブストーリー】 萌2
固有名詞を覚えられない、自分の名前もなければ親もいない、年を取ると空を見上げるだけの生き物になる。
そんな「名もなき人」がいる世界を描いたファンタジー。
エリート役人のツバクロと、「名もなき人」の「雨」の切ない話でした。
【ここは、愛の惑星(ほし)】 ?
ぽっちゃりで女子社員に男とカウントされない葉加瀬さんに告白されたイケメン・北くんの話です。
言いたいことは分かるけど、オチ前にもうちょっと何か欲しかった。
【家に帰るまでが遠足】 萌
同じ会社で別部署の鮎沢から「遠足」に誘われた悠木。
恋が始まる直前の話でした。
【地球で最も美しい生き物】 萌
母親がホステスで、耳が聞こえないことで周囲から疎まれているコモ(途中から口がきけないだけで耳は聞こえている様子)にとって、馬の生産牧場を営む黒川は憧れの存在。
黒川との距離が少し近付いたと思ったら…というARUKUさん版人魚姫のような話。
もう少し先を読みたかったなあという終わり方。
同時収録はわりと「そのあと、どうなる!?」という作品が多いので、読後感はモヤっとするかもしれません。
「画家と音楽家」
作曲家のギランと画家のゾゾ。二人の出会いややりとりはほっこりします。
ゾゾはギランと知らずにピアノの音を聴いてたんですね。
ギランとゾゾの苦悩。ギランは希望が見えました。
でもゾゾは。パンもお酒も絵の具も買うお金がなく絵も売れず(最後は売れた)とうとう街を去ります。
ギランに挨拶もせずに。でもギランの音を聴いて涙して。
ハッピーエンドじゃないBLは初めてかも!いやこれがハッピーエンドじゃないとは言えないけど。
やりきれない思いが残りました。
ギランがゾゾを好きなのに始まらなかった。
「何処無市ラブストーリー」
こちらもなんとも切ないお話です。
つばめと雨。内務省の高官と名もなき人。関わってはいけないとされています。
名もなき人は名詞を覚えられない。狭い居住区で暮らしている。
もうここまででも切ないです。
つばめとのことを必死でノートに書く雨。
雨が好きなつばめ。二人で青い電車に乗って何処へ行こうとしたのか。
名もなき人は電車に乗れず結局二人で線路を歩いて。雨の俺のことを置いてっていいからねって寂しいこと言うなよ!と思いました。
手を繋いで二人で歩いていく。
こちらはまだ少し救いがあったかな?
「地上で最も美しい生き物」
コモー!悲しすぎるよっ!
この作者さんはどうしてこういう悲しい生い立ちの酷い目に会う主人公を書くのでしょうか?でも読むのを止められません。
ただ黒川が好きなだけなのに、母親のことや耳が聞こえないことで何でここまで酷い目に。田舎だから?
黒川がキノコの事をみどりと勘違いしてたのが最後に解けたのかな?コモはそれからどうなるの?
お願いそこも書いてー!
何と言ったらいいのか…。
ARUKUさんの作品を読むと、心の持っていきようをどうしたらいいのか判らなくなる時があるのですが、【画家と音楽家】そして【何処無市ラブストーリー】は私にとってまさにそういう作品でした。
【画家と音楽家】
音楽への情熱を失っていた音楽家と、その日のパンにも事欠くような赤貧の画家が街角で出会う。
音楽家は、画家を通じて自分が知らなかった世界の輝きを知り始める事により、音楽への情熱も取り戻します。やがて二人の思いも通じ合うのです。
普通ならここで文句なしのハッピーエンドで終わりのはずですけど、ARUKUさんはそうさせない。
思いが通じあったその後、「だけどもう行かなくきゃならない。」と音楽家は去ってしまうのです。。。。
目の前の愛に溺れたり、画家はあんなに困窮していても音楽家に助けを求めたりしないのは芸術に生きる人間の覚悟・矜持なのだろうか。
その後、街角で画家の耳を捉えたのはピアノの音色。そのピアノは彼が愛した音楽家が弾いているものだとは画家は知るよしもないけれど、そのピアノを聴いて画家は涙を流すのです!
音楽家の血潮の全てを賭けて弾くピアノが、画家の心に届いた瞬間。芸術家同士の魂の交差みたいなものだろうか。
【何処無市ラブストーリー】
もうこれこそ何も言えません。だけど、この作品が一番好きです。
弱者・日陰者みたいな立場の人間と、社会的に成功していて表舞台に立つような人間(だけど何か喪失感を抱えていたりする)が交差して、深いところで繋がるというARUKUさんらしい作品だと思います。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
ARUKUさんらしさが全開の一冊だと思いました。読んだ後、いつも心を持て余してしまうのが判っていながらも読まずにはいられない。
色々考えさせられるからいつまでも心に残ってしまうし、忘れられない。やっぱりARUKUさんはいいなぁと思いました。
教えてくださり本当にありがとうございました。