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表題作告解の死神

死刑囚の兄を持つ刑務官 深沢修二
教誨師の神父 菅谷充

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

両親を殺害した男・吉田に自ら手をくだせるかもしれない!
S拘置所に配属になった深沢は狂喜に震えた。
しかし死刑を宣告され恐怖に怯えているはずの吉田は菅谷という神父を愛し、
穏やかに過ごしていることを知る。
汚らわしいことに教誨師の菅谷は死刑囚たちに体を差し出し、
彼らの欲望や不安を解消させていた。
深沢は菅谷に屈辱を与えて吉田を苦しめようとするが…。

(出版社より)

著者:今井真椎

作品情報

作品名
告解の死神
著者
今井真椎 
イラスト
雨隠ギド 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
発売日
ISBN
9784883864119
3.7

(27)

(14)

萌々

(3)

(1)

中立

(6)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
9
得点
91
評価数
27
平均
3.7 / 5
神率
51.9%

レビュー投稿数9

『萌』の基準で評価できない作品

うーん……重い。
とんでもなく読みごたえはありますが、鬱要素が散りばめられておりますので、調子がすぐれない時にお読みになるのはお勧めしません。
っていうか、これ『LOVEの話』なんだろうか?
今井さんは御自身のことを『SM作家』と仰っておられますが、すくなくともこの本には『SMというプレイを楽しむ人たち』は登場しません。
ひょっとしたら『恋愛をする人たち』も登場していないかもしれない。

主人公の深沢は12歳の頃、義兄に両親を殺害されています。
母が再婚してしばらくの間は幸せな家族関係でしたが、その後義父が家に寄り付かなくなり、母は寂しさからか義兄と無理やり関係を持った結果の悲劇でした。
義兄には死刑判決が下されます。
優しかった義兄に懐いていた深沢は、何度も面会を申し出ますが全て義兄に拒否されます。社会の冷たさが追い打ちをかけ、深沢は次第に義兄を心の底から憎むようになります。死刑執行を自分の手で行うため、名字も顔も変えて刑務官となり、ついに義兄の収監されている刑務所に勤務しますが、そこには死刑囚を赦すために自分の体も投げ出す菅谷という教誨師がおり、義兄と恋愛関係にあることを知ります。義兄に更なる絶望を与えようと、深沢は菅谷と無理やり関係を持ちます。

まずリアル社会から考えると、ちょっと無理な設定もあるのですが、そこは「こういう世界観」と理解して読むことが出来ます。

何が苦しいかって言えば、登場する人物全員の「愛して欲しい」という狂おしいほどの想いに満ちているお話なのに、それが交わらないことなんですよ。
深沢の願いは『幸せだった頃の家族に戻してほしい』ということに尽きるのですが、それは事件が起きてしまった今となっては、叶わぬ願いでしかない。
義兄の罪は深沢たち弟妹を守ろうとした結果という側面もあるのですが、すべてをひとりでしょい込んだ為に、深沢から恨まれる結果となってしまう。
全てが裏目裏目に出て、おまけに長い時間が経ったために修復が効かなくなってしまっているんですね。

そして一番謎なのは菅谷なんです。
彼は愛情深い神父を装っているけれども、彼の行為は『罰されること』を切望した結果から来ている模様なのです。過干渉な母の描写もあり、鬱屈したまま歪んでしまっている様に見えます。

それぞれが、世界を自分の思う様に動かしたいと強く願った結果、自分が思い描いていたのからは最も遠い処に行きついてしまった結果を導き出してしまい、物語は悲劇に向かって真直ぐに走って行きます。
この甘さを一切排除した『迷いのなさ』は実に見事で、物語世界にグイグイ引き込まれます。
ただ、だからこそ、つらいのよね、読むのが。
だってみんな、声にならない大声で「愛して欲しい」と叫び続けているので。

生き残った深沢と菅谷にとっては、究極のメリバなのでしょう。
本当に欲しかったものは違ったとしても、彼らが手に出来るものはそれしかないのですから。
作者渾身の一作だと思います。

2

暗かったけど悪くはなかった、かな。。

刑務所の牧師さんがエロエロで、みたいな設定なのですが、安易なストーリーではなくまあまあ読み応えがありました。

主人公は刑務官。自分をこのような境遇にしたある人物に復讐するために必死の思いで刑務官になった。この辺はややリアリティに欠けます。
勤務先には執念を燃やしてきた人物が収監されており、自分が刑執行人になることを夢見ている。そんなところに、罪人の性のはけ口になっている牧師がいた。
そして、その牧師、菅谷はどうやら、自分が恨んでいる人物と相思相愛のようである。

そんな牧師と、自分も関係をもってしまう主人公。だんだん菅谷に執着し始める。しかし、菅谷は追ってきて抱いてくれと言ったかと思うと一方で拒絶したり、お金に汚かったりと、どうしようもない人物。最後まで愛という形にはならず、なんとなく後味の悪い作品ではありました。
でも決してつまらないわけではなかった。

0

「SMの感動」がありました

どこからどこまでがSMなのかよく分からず、SMものが読みたくて手に取ったわけではないのですが、この作品にはSMの要素が含まれているとは思います。
あとがきを見ますと今井先生は「SM書き」で、「・・・SMの感動とは何ですか?」というメールを担当さんからもらったそうです。このメールは痺れますね。
「告解の死神」の主要登場人物は、刑務官の深沢と教誨師の菅谷、死刑囚の吉田、の三人。深沢の視点で描かれていきます。
歪に病んだ、不器用な男たちの愛の物語。
深沢が刑務官になったのは、実は兄の吉田へ復讐するためであり、そのために薬品で自らの顔も焼いているのです。
念願叶って兄がいる拘置所に配属になったところで出会った教誨師が菅谷。穏やかで端然とした菅谷が死刑囚に与えているのは、言葉での癒しだけではなく、身体まで捧げていることに深沢は衝撃を受けるのでした。
拘置所内での不自由なセックスと、それを見ているうちに説明のつかない欲情に囚われ、強迫して無理矢理に菅谷を抱く深沢。
道具を用いたりのエゲツない行為はありませんが、精神的なSMではあるでしょう。
そして、次第に深沢がまともな男に感じられるんですね。本当に壊れているのはどうやら菅谷らしい、と分かってくるのです。
歪な関係が行き着いた先は、明朗なハッピーエンドではなく、切ないラストではありましたが、何とかなりそうな二人の未来を予感させてくれました。
土砂降りの雨の中に一筋光が差したような、そんなラストです。
シリアスな設定、痛いセックス(シンプルに挿入場面が痛い)、病んだ男たちの物語ですが私は萌えました。
広義でSM小説と考えて、「SMの感動」がありましたよ!

4

チョイスミス

しまった。ヤンデレ苦手なのに読んでしまった。完全なチョイスミス oyz

と言いつつ、魂を感じる作品でなかなか面白かったです。ただ、最後まで菅谷の真意がさっぱり分かりませんでした。深沢と吉田の過去ははっきりと真実が語られましたが、菅谷については伏線や想像ばかりで何も明かされていないんですよね。引っ張りまくった挙句、なんというか…結構フツーの人?みたいな。

こういう展開だと最後に良くも悪くも突き抜ける程のカタルシスを期待してしまったのですが、そういうこともなかったです。むしろ、最後の甘いシーンは必要なかったんじゃないかなぁ。

1

素晴らしいSM作

読んでいて何度も苦しさに打ちのめされて、そこに何らかの救いがあることを求めて最後まで息をつめて読むことしかできませんでした。
深沢の生があまりに苦しく、それを愚かだと断じることはできないが故の苦しさでした。深沢を愚かだと思えないのは、同じ愚かさ(間違っていることをわかっていながらもやめられない、本当は求めているのにそれを認めることができない、一番欲しかったはずのものを自分を欺いているために壊さざるを得ない、望むものに素直に手を伸ばして受け取ることのできない、そんな不器用さ)を自分も持っているからで、まるで自分自身が責められているような息苦しさ。
あとがきでSMと思って書いたとあり、確かにこの苦しさと苦しいのにそこからの解放を待ちわびるがために逃げ出すこともできずに耐えてしまうこの感覚はSMのものなのだろうと思いました。
読んでいる間中ずっと、菅谷が大嫌いでした。このお話は好きなのに、菅谷はどうしても好きになれないのです。殴って痛めつけてボロボロになってほしくてたまらない、これはもう恐怖なのか憎しみなのか。BLなのにカップルの相方をここまで憎々しく思ったことはありませんでした。どんなろくでなしでもハッピーエンドを望むことができたんですが、菅谷だけは幸せになってほしくない。菅谷が幸せになるところを見たくないがあまりに、深沢に死んでほしかった。もう死んで終わりにしてほしかった。
なのに、菅谷は追ってきて、それに深沢は抗えないんだよなぁ。深沢が本気で菅谷を拒んで、逃げて拒否するところが一番すっとした、ってこれBLの読み方としてどうなんでしょう(笑)
深沢を逃がしてくれないのなら、いっそもう甘々にラブラブしてしまえばいいと思ったらそれも許してくれないんですよ・・・。菅谷、憎い!

ただ、このぎりぎりまで読者を追いつめてカタルシスを迎えさせる快感はまるで木原作品のようでした。そこまで同調させてくる筆力にはあっぱれと言わざるを得ません。非常に秀逸な作品だと思います。
それは、最近レビューの筆が進まなかった私が、思わずこんなに書いてしまうほどに。
今井作品は2冊目ですが、いい作家さんに出会えてうれしいです。

3

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