昭和初期、万歳黎明期の大阪に花開く、興行師×藝人の恋。

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表題作頬にしたたる恋の雨

瀬島頼秋
寄席・演芸場主人、30代半ば
妻夫木百舌こと絹谷 文彦
元三流落語家の万歳師

その他の収録作品

  • 恋風
  • 心掟
  • あとがき

あらすじ

寄席を解雇された落語家のもず・こと文彦は、寄席の主・瀬島から万歳(まんざい)への転向を勧められる。
その頃、万歳は落語より格下に見られていた。
抵抗を覚えつつも、台頭し始めたばかりの“新しい万歳"を
理屈抜きで面白いと感じた文彦は、気の合う相方も得て万歳の道を歩み出す。
同時に、時に厳しく時に優しく己を導いてくれる瀬島に恋情を抱くようになり……?

(出版社より)

作品情報

作品名
頬にしたたる恋の雨
著者
久我有加 
イラスト
志水ゆき 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
頬にしたたる恋の雨
発売日
ISBN
9784403523090
4.4

(77)

(44)

萌々

(27)

(3)

中立

(2)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
21
得点
339
評価数
77
平均
4.4 / 5
神率
57.1%

レビュー投稿数21

心に染み込む、再生ストーリー。万歳(漫才)師転向物語

久我有加先生...先日は本当に悲しいニュースに言葉を失いました;
心より、ご冥福をお祈りいたします。

本を開けばそこに先生がいらっしゃる、と信じて、
未読作を少しずつ拝読しています。


こちら、Kindle Unlimitedにて読了。

久我先生の時代もの(昭和初期)で、
落語家として三流(以下)の烙印を押され、クビになり、
万歳(漫才)への転向を余儀なくされる主人公の物語です。

もう、主人公・文彦(受)が転向を示唆された時の困惑、
悔しさ、やるせなさ……そういった感情に完全に感情移入してしまい、
序盤(万歳師に転向するまで)はドキドキハラハラしながら読みました。

今でもやっぱり、漫才といえば大衆のもの、
”落語”と聞くと(あくまでも自分にとっては)少し高尚なもの…
というイメージがありますが...
(落語家の皆さんは着物を着ている、というのも
そんなイメージの理由なのかも)

この作品の時代(昭和初期)には、今よりもっともっと
「落語が上!」という意識が強かったんだな、
万歳は”色物”として蔑まれていたんだな、、ということが
実によく分かります。

そんな”格下”である万歳師へなど、全く転向する気になれなかった文彦。
しかし、頼秋に誘われて渋々共に見に行った舞台で
その面白さに魅了され…

落語を披露する時には感じることのできなかった、高揚感。
新しいもの、知らなかった世界を知った驚き、興奮、喜び。

そんな文彦の心の動きがダイレクトに伝わってきて、
読みながら自分もワクワクする気持ちが抑えられませんでした・:*+

なによりも最高なのが、文彦の”万歳”の才を見出した
年上スパダリ・頼秋の目!そして、藝事には厳しいながら、
自分の惚れた相手、文彦にはとことん甘く、優しいところ...

こんなの、こんなの、好きになっちゃうしかないわ。。
と、自分も文彦と共に陥落です。

甘く、時に激しく文彦を翻弄し泣かせるセックスに、
愛と独占欲が垣間見えるのも最高。
年上攻め界隈の人間としては、萌えて萌えてしかたない二人の関係性でした。。


そしてこの物語を振り返る時、忘れてはならないのが
もう一人の人物、団子さん。

落語は一人で全部背負わなければならないけれど、
万歳は二人。
頼秋が引き合わせてくれた団子(文彦の相方)こそ、
恋愛的な意味ではなく、これぞ運命の相手!!だったんだな、と。。

終盤の書き下ろしかな?20年後の二人のお話が
最高に最高に最高に!!!!胸熱すぎて、泣きました( ; ; )

団子の息子の言う「三人の父」が、
団子・文彦・頼秋のことだったこと。

その団子の息子が、万歳ではなく落語家を目指し、
文彦が落語家だった時代に兄弟子だった遊馬に弟子入りすること。
(文彦が落語家をやめて万歳師になるのを、最後まで受け入れていなかった
遊馬が。。!号泣)

落語家仲間たちからの蔑みややっかみ、襲撃、万歳デビュー当日の大きな野次。
そして万歳師として売れっ子になってからは
痴情のもつれ、逆恨みで芸妓に刺されそうになったり...

文彦の万歳師への転向は本当に山あり谷ありで、
ハラハラしっぱなしでしたが。。

恐れや抵抗心を持ちながらも、頼秋を信じ、
自分の直感を信じて新たな道へと踏み出した文彦のしなやかな強さ、
本っっ当にかっこ良かったです。
まさにその芸名のとおり、”小石”→”柔らかい芽”へと芽吹いた姿が
眩しかった✨

一人の藝人として彼を認め、また情人としてはとんでもなく
どこまでも甘く、文彦を傷つける者には容赦しない姿を見せてくれた頼秋もまた、
究極のスパダリ、私の理想そのものでした。

そしてまた、古い関西弁で語られる言葉一つ一つが、
情感溢れてノスタルジックで(自分は方言話せない人間ですが;)、
とてつもなく魅力的で...

久我先生、こんなに素敵なお話を読ませてくださり、
本当にありがとうございます。
これから何度も何度も、読み返したいと思います。

2

待って………泣く。しっとり柔らかい受けの色気と大人な攻めに惚れた。

落語・漫才を題材にしたBLがあるらしい…ということは以前から耳にしていたのですが、Kindle Unlimitedにてようやく読了!
いや、思いがけず最後に感動が待っていました。心に染みた…。

物語は、昭和初期の漫才(万歳)黎明期。
古い大阪弁が柔らかくて色っぽい。方言BL好きな方は一読の価値ありです。馴染みの薄い時代設定と題材だったのですが、読み進めているといつの間にかすんなり世界観に入っていました。
志水ゆき先生の表紙がしっとりして素敵ですが、イメージ通りで素晴らしく良かったです!黒基調ですが暗い重い世界観ではありませんのでご安心を。

受けの百舌(もず)は真面目で謙虚だけど自信がなく、最初は頑なな態度が目立ちましたが、万歳への転向を決めた辺りから徐々に柔らかくなっていきます。元々持っている品の良さ、はんなりとした柔らかさを持っている愛らしさがある人。

攻めは余裕のある大人で、仕事面では厳しくプロとして接しますが、プライベートでは受けが可愛くて仕方ない。ふたりともオンオフでしっかり線引きしています。そのプロ意識がとても良い。
お仕事面での話しが軸になっており、百舌が万歳師になるまでの葛藤、万歳を始めてからの花開き方が見事です。百舌と団子の万歳コンビは2人の人の良さが伝わって、なんだか憎めなくて可愛くて面白いんだろうなぁ~と想像してしまいます。

恋愛面では段階を追って、しっかりと2人の間の愛情が深まっていくのが感じられました。
行為中、「恥ずかし、恥ずかしい」と受けは無垢なる色気爆発してるし、攻めがちょっぴりイジワルになることに対して「コンジョワル」と柔らかく責める受けが可愛いやら愛らしいやら。そんな受けに、攻めは「かいらしい」連発。そりゃそうだ~~。

脇を固める落語の(元)真寿市師匠、万歳の相方・団子、記者の菱村。みんな粋で芯があって魅力的な方々ばかり。

そして本編も2人が素敵だったのですが、後日談「心掟」では団子の息子目線での語りで泣かされました。
戦中戦後の苦しい時代を彼らはどのように過ごしていたのか、その時代を経て今どのように過ごしているのか…。
正直戦前の設定だと言うことが全く頭から抜けていて、本編の2人だけで終わるのだと思っていたのです。だから最後のお話が、戦争という重く苦しい時代を経た戦後の話しと分かったときヒヤッとしました。
ですが、どうぞご安心ください。重いトーンではなく、終始希望を感じる心温まるお話でした。しっかりとその部分まで書いてくださった先生に感謝です。この時代を精一杯生きた登場人物みんなに出会えて良かった。そんな気持ちになりました。

2012年の作品ですが、私のように未読の方、まだまだ名作BLお探しの方はぜひ!

1

大阪言葉の萌

志水ゆきさんのイラストということで、手に取りました。いや、合うよ〜このお話にぴったりのイラスト。
昭和初期から戦後にかけてのお話ですが、本編は和装も洋装も、文化も混ざって変化しつつある時代のお話です。
文彦は、落語家を目指していたものの、開花せず、万歳に転向することも矜持もあってなかなか踏み切れない。そこへ文彦のことを見込んだ瀬島が支えることによって人気を博すまでの万歳師になっていきます。
もちろん、相方のダンゴちゃんの貢献も大きいんですが。

もう、これは国営放送の朝の連続テレビ小説的な。
ホントに実写化してくれたら、受信料数年分まとめて払っても惜しくない(爆)

大阪言葉の萌も大きいです。関西在住だからかも知れませんが、違和感のない文章になっていて、もしかすると他の地域の方だと読みにくい!ってなるかも知れませんが。古めの言葉遣いなので余計に朝ドラっぽいと思うのかも。

「コンジョワル」萌ぇ…
「かいらしい」うわ、この表現か…
「弄ろて(いろて)」この漢字をこう読ませるか…

エロエロではないのに、エロさマシマシになる。言葉攻め。

しかし、瀬島は今で言うところのバイってことなんでしょうね。文彦もか。
この時代の二人にとっては、団子や菱村という理解者がいることで余計な波風が立たずに過ごせたのかな。

是非ともドラマCDで聴きたい作品でした。
文彦は置鮎さんで!!

2

しっとりもにぎやかな人情も!

昭和初期、特有のノスタルジックさが良い~

落語が主流で、漫才をすることは肩身が狭かった時代。
漫才が力を持ってくまでの過程も面白く、現代とはまた違った旧来の大阪弁のしとやかさがなんもかんとも!!良い!!

落語家としては落ちこぼれだったけど、愛されることで自信と色香が花開いてく様が良い良い!!漫才師として認められているだけなのか…気持が通じ合うまでも切なくてドッキドキしました。紳士な人の雄みの威力よ…

関わる人達との人情味もたっぷりで、応援してくださる方、相方のの温かさがとてもよく、2人の友情、相方の絆には何度も胸を打たれ、心温まりました!!

最後の第三者から見た2人の様子も特別な雰囲気を感じられてほっこり。欲をいうともっとイチャラブ見たかったなぁ~とも思うけど、仕事への取り組み、好きなことへの気持ちとかも読み応えありました。

2

時代の流れを感じました。

昭和初期、漫才が流行り始めた時代の藝人と興行師の恋のお話。


受け様は、落語家の栗梅亭もずこと文彦。

攻め様は寄席の主、瀬島。

舞台にあがると固くなってしまい、ちっとも笑いがとれないもずは、瀬島から落語家としては解雇を言い渡され、漫才への転向を勧められる。

漫才は色物と括られ、格下扱いだった時代。
漫才師なんぞなりまへん、と初めは頑なだったもずだけど、新しい漫才の面白さを知り、この人となら、と思える相方のまで紹介され、新しい藝の世界へ。

瀬島がかっこいいんですよ。
時に優しく、時に厳しく。
大人の男だなぁ、いい男だなぁ、としみじみ(*´∀`)

そしてもずはかわいらしい。
古風なお人が恥ずかしがる姿とか、めっちゃ萌える(///ω///)♪


2人の恋模様はもちろん萌えでしたが、周囲の人達の人情ものもよかった。
きっぷのよさとか、勢いのよさとか、この時代を生きてる人達ってこんな感じだったんだなぁって。
あと、相方の団子ですよ!
ものすごーくいい人で、世慣れていないもずを任せられるのは団子しかいませんわ。

漫才の今までの経緯とか知らなかったので、その時代の流れもとても面白かったです。


イラストは志水ゆき先生。
表紙からしっとり大人の雰囲気。
特に好きなのは、瀬島の口の端についた米粒を取る場面のイラスト。
なんなの〜無自覚に可愛らしい。
まじで無性にあれやわ(///ω///)♪
とにまにました場面なので、イラストを眺めては瀬島の内心を思って、ますますにまにましちゃいます。

さて、他の芸人シリーズを読み返してこよう。

2

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