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前巻の哀切なラストから2年後。
ある事件を機に再会するアドリアンとジェイク。
この巻のテーマはズバリ「選択」だと思います。
積み重ねてきたものを擲っても、自身の正義や愛を貫くことができるか。
愛のため生き方を変えることはできるか。
苦悩する二人の姿に胸が締め付けられます。
社会的には順風満帆だが、自己矛盾を抱えるジェイク。
自身の性癖から目をそらし結婚するも、妻の流産で「家族が欲しい」という夢は叶わず、相変わらず二重生活を続けている。
失ってからアドリアンの大切さに気付くも「普通の人生」を捨てることはできず、友人として付き合いたいなどと保険をかける彼はどこまでも身勝手でドライ。
2年経ってアドリアンにはとても優しくなったけれど、自身の性癖に関しては臆病なままで、そんなダメさ加減が腹立たしくもあり、愛しくもあります。
そんなジェイクを変えるのは、心臓の持病が益々悪化し身体的にはボロボロなのに、度胸だけは異常にある主人公・アドリアンです。
ジェイクを愛しているからこそ、友人としてズルズル関係を続けることは拒否する。
犯人を捕まえるため、自ら囮になり敵地へ乗り込む。
その強さは、生への執着の薄さと紙一重にも思え、とても危なっかしくもあります。
そんなアドリアンの生き方が、保身に走りがちなジェイクを動かし、あの限りなく優しい言葉へと導いたのでしょう。
ジェイクはアドリアンを抱き締め死の恐怖から守り、
アドリアンはジェイクが道を踏み外そうとするとき、身を持ってそれを阻止する。
それぞれに恐れるものが違うからこそ、互いに強く惹かれ合い、支え合うことのできる二人だと思います。
もしポール(ジェイクのセフレ)が二人を引き合わせなかったら。
もしジェイクに子どもがいたら。
もしアドリアンが危険な目に遭うことなしに事件が解決していたら…。
無数の「If」が考えられますが、「偶然とは、充分にさかのぼって見たならば、すべて必然である」という冒頭の言葉が全ての答えなのでしょう。
ラスト直前の、シリーズ史上最高に優しくて濃密で甘い!!!ラブシーンを見ていると、二人が愛し合うのはやはり必然なのだと信じたくなります。
ジェイクの今後も、アドリアンの心臓のことも、まだまだ問題は山積みですが、二人でならきっと乗り越えていける筈。
本書のタイトルは「海賊王の死」という不吉なものですが、内容は新たな航海の始まりにも似た希望の見えるものでした。
最終巻は、年末発売予定。
毎回本編の二人の関係を如実に表している、
草間さかえさんの表紙絵にも期待が高まります。
次回は幸せそうに寄り添う二人を拝めますように!
ラスト1行。
短いアドリアンの返答を読んだ瞬間、ぶわっと涙が。
これまでのアドリアンの苦痛と悲しみ、そしてジェイクの苦悩と葛藤。ラストシーンにはそれらが全て集約されていました。
別離と事件の末の答えに、アドリアン同様涙がこらえきれませんでした。
ジェイクの結婚により決別した前作から2年後、アドリアンの小説の映画のスポンサーが殺されたことで、奇しくも二人が再会する第4作目です。
例によってまたしても事件を調査することとなったアドリアンはやがて、ジェイクの新たな事実を知ることになります。
ジェイクとの別れはアドリアンに大きな傷を残したけれど、ある部分においてアドリアンはジェイクを信じていた。それはジェイクにとってアドリアンが唯一の男の恋人であったということです。
結婚という選択に打ちのめされながらも、一方で、ゲイであることを受け入れられないジェイクの苦悩の深さも知っていたアドリアンは、ジェイクの最大の理解者でもあった。だからこそ二人の関係がジェイクにとって特別なものだったと信じていた。
それは言い換えればジェイクという人間への信頼でもあります。
けれど真犯人に辿り着く過程で、アドリアンはその信頼さえも見失いかけることになる。
ふとしたことでジェイクのことを考えては「もう終わったことを考えて何になる?」と思考停止させ、次の瞬間にはまたジェイクのことを考える。それを何度も何度も繰り返すアドリアンの姿はまるで、傷ついてなどいないと自分自身に必死に言い聞かせているようで、痛ましく、本当にたまらなかった。
ただし救いもあります。
それはアドリアンがジェイクに怒りをぶつけ始めたこと。
辛いとも悲しいとも決して言わず、心の内側に誰も立ち入らせてこなかったアドリアン。ユーモアで混ぜ返すか、皮肉で相手を遮断するか、いずれにしても弱さを見せることを徹底的に避けててきた。例え身内でさえも。
それはアドリアンにとっての自己防衛手段であったけれど、「一番大事な存在になりたい」という彼の本当の願いを遠ざける弱点でもあります。
賑やで温かい新しい家族、そして結婚に前向きな新しい恋人。客観的には申し分ない愛情にあふれた彼らの傍らで、アドリアンはそれでもどこか所在無げです。手術が「怖い」というたった一言さえ彼らに打ち明けられない。
その矛盾は、アドリアンをますます孤独に追いやっているようにも見えます。
そんなアドリアンが、怒りというかたちではあれど、ジェイクに負の感情をぶつけ始めた。これは本当に意味ある一歩。アドリアンの怒りの源にあるのは悲しみだからです。
2年前、アドリアンはジェイクとの別れに向き合わなかった。もっと言えば、ジェイクに本当の意味で向き合ってこなかった。
もちろんそれはジェイクにも当てはまります。
正反対の人生を歩んでいる二人ですが、共通点もあってそれは、その方向性は違えど心を隠して生きてきたということ。
この4作目で作者は、二人に試練を課します。
未だ癒えない傷を見ないフリをしてきたアドリアンは、ジェイクへの不信によってその傷口を更に広げられ、痛みを認めざるをえなくなります。
欺瞞に満ちた人生を送るジェイクは、過去の自身の行動の因果により袋小路に追い詰められます。
作者のその試練は二人にかつてないほどの苦痛を引き起こすけれど、同時に、自分自身の心と向き合う機会ももたらします。
二人が流す血は、比喩的な意味でも彼らの痛みです。船上で、体を寄せ合うアドリアンとジェイクの視界に映っていたのは互いのみ。この瞬間、二人を心理的に縛っていたあらゆるものが排されます。
総ての雑音を排除し、最後の最後に自分の中に残ったもの。それは、この温もりこそが嘘偽りのない自分でいられる唯一の居場所であることの実感だったのではないでしょうか。
皮肉にも、アドリアンは小さな妹のエマにこう語っています。
「何かを怖がることは悪いことじゃない。肝心なのは、どう向き合うかだ」
ようやく自分の心と向き会うことができたアドリアンとジェイク。
ただし、もう一つ大きな課題が残っています。
それは二人が互いに向き合うこと。
完結編を心から待ちわびます。
アドリアン・イングリッシュシリーズ、待望の四作目。
二年ぶりに再会した、アドリアンと、ジェイク・リオーダン。
その再会は、アドリアンにとっては凍り付くような、決して喜ばしくない再会だった。
ジェイクは二年前の"あの"事件のときとは打って変わり、柔軟な態度でアドリアンと向き合おうとします。
けれど、アドリアンの方はそう簡単にジェイクとまた向き合えるわけもなく。
二年前の別れで、深く傷付いたアドリアンの心はまだ癒えないまま、どんどん事件に巻き込まれていきます。
読んでいて、胸が苦しくなる場面が多かったです。
二人が一緒のシーンでは、それが例え相手を拒否しようとしているシーンであっても、
傍から見れば、どうしようもなくお互いを求めているようにしか見えない。
けれどその気持ちに素直になるには、お互いあまりにも柵が多すぎる。
それを分かったうえで、少しでもアドリアンに近付こうとするジェイクの姿はとても切なかったし、
それに気付かない振りをするアドリアンもまた切なかったです。
印象的なシーンは山ほどありましたが、
中でも、最後の最後のシーンに心を締め付けられました。
ジェイクのあの優しい尋ね方は、アドリアンに対する思いが溢れている様でとても素敵だったし、
何より、張り裂けそうなぐらい辛いことがあってもひたすら耐えてきたアドリアンが、あのシーンでは堪え切れずに涙を流してしまうのが……
そして、その涙はきっと自分の為だけのものではないんだろうな、と思うと、思わず同じタイミングで私も泣いてしまいました。
彼はとても聡明で、そして優しい人です。
あのシーンで涙を流すアドリアンが、私は大好きです。
一番最初の冒頭に、
"偶然とは、充分にさかのぼって見たならば、すべて必然である。"
という一文があります。
物語の中で、ガイも同じようなことをアドリアンに言っていました。
終盤の船のシーンで、一瞬でもジェイクが本当に自分を裏切ったのだと信じたほどだから、アドリアンの傷はとても深いのだろうと思う。
でもだからこそ、振り返ってみて、"すべて必然だった"と、アドリアンがそう思えるときがくることを願います。
そのときには勿論、他の誰でもないジェイクが、アドリアンの傍にいて欲しい。
二人はやっぱりお似合いです。アドリアンにはジェイク、ジェイクにはアドリアン。
自分の一番弱い所をお互いに肯定し合える関係なうえ、
二人とも皮肉なユーモアセンスの持ち主だし、今回はアドリアンの毒が多かったけれど(それも当然)、二人の言い合いは読んでいて楽しい。皮肉満載。
今回、ガイやケインの存在感が大きかったせいか、余計にそれを強く感じました。
(ケインは問題外。個人的には、ガイはジェイクより、引っかかるような、理解出来ない部分が多かったです……いい男なんだけど)
次の五作目、完結編は、今年の年末に発売予定だそうです。
完結編が出るのが楽しみでたまりませんが、次で終わりかと思うとそれも寂しいです。
何の柵もなく、ただイチャイチャしてる二人をください!(笑)
年末が楽しみです。
1巻で出会い、2巻で愛してると認め、3巻で別れ、4巻で再開…最初から読むと時間がかかるシリーズかもしれませんが、それをおいても読む価値がある作品だと思います。
3巻が突然と混乱と焦りの中での別れなら、4巻はもう1度相手と向かい合い、今度は時間をかけ相手と自分のどこがダメかを改めて考え、何を望んでそのために必要なものと捨てなければいけないものと捨てられないものをもう1度考え直したというところでしょうか。
この海外作品は相変わらず皮肉に満ちて楽しくて殺人事件の捜査だというのに面白くて頬がゆるむシーンが幾度もあります。
楽しくて読み終わるのが勿体無いと感じる貴重な作品です。
それに加えて日本のBLのような甘くきゅんきゅんするシーンの連続というわけではないのですが、誰かを愛して自分が得られる幸せというものを考えさせられます。
今回の事件そのものは最初から破綻している計画としか思えず、犯人にも非常に苛立ったのですが、確かに始まった1Pというか、3巻のラストから既に全てが必然といえるかと思うと非常に完成度が高くて感服します。
犯人を追い詰める場面は1巻でも思いましたがロマンス小説を超えたものがあって、今回も本当に怖かったです…。
自分は正直ジェイクの行動が矛盾や混乱だらけで理解しにくいのですが、(そう思うとジェイクが保身的でありながら有名人と関係を持っているのも不思議なんですが)アドリアンのようにカミングアウトして自立して生きていくことはジェイクみたいな勇敢な男でも臆するぐらい勇気のいることで、ホントこの主人公は身体が弱くとも度胸があり、そこがとても魅力的に思います。
確かにジェイクは今まで嘘は言わなかったかもしれません。黙ってたことは多いけど、アドリアンが聞かなかっただけで、聞けば嘘は言わなかったと思うんです。
だからといって、それで彼が真摯というわけでなく、私が当事者だったら殴ってやろうかと思うほどずるくて保身的な態度と言葉が1巻からいっぱいなんですが、それをふまえても余りある言葉を今回最後にくれるわけです。
愛していてそれを分かってもらうにはどうしたらいいか、好きな相手と心から向かい会うというのは辛くて苦しくて、でもしなければいけない勇気のいることなんですよね…
手放せないと思った人間のために自分の大事なものをどこまで捨てられるか、もう単に上辺だけで好きだとか言ってられないでむしろ汚い部分や言葉をさらけることの連続になるという例を見た気がします。
いつも心臓に悪い展開の連続で、どこかで閑話的なお話があったらよかったなあと思いますが、最後の1巻が出るのが待ち遠しいです。
ミステリーのネタバレはしないようにレビューします。
シリーズ4作目。3作目が別離だったので、4作目はどういう展開でくるのかと期待しつつ読み始めました。
しかし、最初でやられました。あれほどにつらい気持ちで別れたのに、アドリアンとつきあう前から、あの甘いシリーズ2作目の間も、そしてジェイクが結婚した後も、5年にわたってポールという2枚目俳優と関係を持ち続けていたジェイクに失望です。
当初からこの失望感がつきまとい、終始いやな気持ちのままでした。
ただ、ミステリーとしては今作はなかなかよく出来ています。クライマックスへの盛り上げ方も、読み物として非常におもしろかった。
後半、アドリアンの方が1枚上手で、ポールの意図を見通し、ジェイクにカムアウトを促すあたりから、ようやく溜飲が下がる思いでした。
ジェイクは、自分の信念を貫くためにはカムアウトせざるを得ない状況に追い込まれます。ここは作者の都合でしょう。SMプレイに興じていたというジェイクのキャラ付けは1作目からですが、5年間の不義と偽装結婚のための別れは、事件と、最初からハッピーエンドでは話にならないというストーリー作りの都合によりジェイクに課せられた設定だとしか思えず、何か腹立たしい思いで読みました。
もうちょっとうまくやってほしい。いったん下げておいてあげることによりカタルシスを与えるのでなく。読者にそう思わせないようにして欲しいのですが。
しかし、アメリカでは、特に警察官でゲイというのは社会的に非常に厳しい立場にあるのかもしれません。日本は非常に寛容ですのであまり実感がありませんが。
アメリカのホモフォビアの露出を見るにつけ、人は自分の中にあるものを怖れるのだという印象を強くします。カソリックの影響は大きいですね。
しかしとにかく、3作目からこれだけ下げてきた挙げ句のラストには、ものすごいカタルシスがやってくることは確かで、涙無しには読めませんでした。