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表題作びんぼう草の君

吉野達春,24歳,植物専門の研究を行う優秀な特別研究員・大学院生
河原崎志信,24歳,工務店・工事現場勤務

その他の収録作品

  • においすみれの君
  • あとがき

あらすじ

高校時代、裕福な家に生まれ周囲から一目置かれていた河原崎志信は、いつもこっそりと花をくれる、貧しい家庭で育ちながら明るく大らかな同級生・吉野達春に好意を抱いていた。
だが、ある日ハルジオンを渡されているのを級友達に見られ、とっさに突き返してしまう。
そんな過去を後悔したまま大人になった志信は、父親の死で生活が一変し、病弱な母親と借金を抱えて困窮する日々を送っていたが、工事現場での仕事中に偶然吉野と再会し…。
小説ショコラ新人賞受賞作、文庫化!!

作品情報

作品名
びんぼう草の君
著者
小鳥屋りと子 
イラスト
カゼキショウ 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
発売日
ISBN
9784778119577
3.6

(39)

(8)

萌々

(19)

(6)

中立

(4)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
8
得点
138
評価数
39
平均
3.6 / 5
神率
20.5%

レビュー投稿数8

恋心に草花を添えて

道端にひっそりと咲く野花のような、ピュアで素朴な恋のお話でした。
今作が作家さまのデビュー作だそうです。
表紙のイメージ通りの優しい雰囲気が漂い、派手な華やかさはないのだけれど、作中に登場する草花や花言葉の数々が作品にほのかな彩りを与えていて素敵なのです。
静かに、優しく花を愛でながら進む2人の交流がなんとも穏やか。

裕福な家庭で生まれ育ち、背筋がぴんと伸びたような品のある優等生だった志信。
公立高校のクラスの中で、いわゆるスクールカーストの上位組に分類されているようですが、志信自身が人との間に薄い壁を作っていることもあり、憧れ半分、腫れ物扱い半分のような微妙な立ち位置に居ることが分かります。
どことなく息が詰まりそうな毎日を送る志信。
彼の学校生活での密かな楽しみ。
それは、決して経済的に裕福とは言えない家庭環境に居る、植物を愛する吉野というクラスメイトがこっそりと志信に贈ってくれる、道端に生えている素朴な草花達でした。

花に限らず綺麗なものが好きな志信は、いつも教室の片隅に花を飾り、家庭環境や身なりをクラスメイトに揶揄われても気にせず、あっけらかんとしている吉野のことを好ましく思っています。
自分には真似出来ないマイペースさに眩しさを覚え、憧れたのでしょうかね。
そんな対極とも言える環境に居る2人が、花を介した2人だけの秘密の交流を重ねていく。

その日も2人だけで花のやり取りをしていると、タイミング悪く他のクラスメイトに見つかってしまう。
自らの立場と保身のため、吉野が差し出したハルジオン(びんぼう草)の花を酷い言葉と共に突き返してしまい、彼を傷付けた事を悔み、いつ謝ろうかと思っている内に自身の父親が死去。
一転、多額の借金を背負い、進学を諦め、そのまま学校へは行かず、遂には吉野に会うことも謝ることも出来ないまま卒業することに。

やがて時は流れ、24歳になった志信。
家計と借金返済のために昼夜を問わず懸命に働きながら、あの日の事を思い返しては後悔をしている。
ある日、勤務先の現場で同僚からいびられ、現場に置き去りにされているところに偶然にも通りかかった吉野と数年ぶりに再会し…と続きます。


吉野の事は好ましく思っているけれど、親しくしているところをクラスメイトに知られてしまったら自分や吉野がどんな扱いを受けるのかを考えてしまう。
志信という人間は、ある意味とても人間らしい人なんじゃないかななんて。
特にこの年代ならば仕方がない気がします。
けれど、自身の行いを後悔して、あの日突き返してしまったハルジオンをごみ箱から探し出して、押し花のしおりにして今でも大切にしている心根の優しい人。
父親の死により、受けの志信の境遇が一転してはいますが、自尊心が高く、現実に腐る事なく母親を助けようと懸命に働く姿には悲壮感や卑屈さはあまり感じられません。

一方の吉野は、遠縁の親戚の遺産相続により貧しい生活から一変し、植物系の研究を行う大学院生となり、かつての志信のような裕福な家庭となっていました。
立場や環境は逆転してはいるものの、どちらも人となりに変化がないので嫌な感じは全くしないのです。
再会してからというもの、再び始まった毎日アパートのドアノブに掛けてある吉野からの花の贈りもの。
これをきっかけに、ゆっくり、穏やかに2人の距離が縮まっていく。

本当にゆっくりと進むピュアな恋でした。
志信よりも攻めの吉野が少し不思議というか、ちょっと語るには難しい人で、作中に書かれたマイペースという表現よりも、これは今で言うアスペルガーの一部なのではないかな…と思います。
これというものにはこだわりがあるものの、基本的に花以外には興味がなく、その場の空気が読めず、協調性はあまりない。
思った事をそのまま話してしまい周りからは浮いてしまうし、人の気持ちがいまいちよく分からない。
思い切り研究者向きの人ですね。
正直、いつか志信に会えた時を想像して部屋の調度品を揃えていた…の辺りは執着がすごいな…と思いましたが、きっと志信にとってはそのどれもが吉野らしくて魅力的なのでしょう。
波長が合うというか、お似合いの2人なのではないかと感じます。
ですが、そこまでの2人のエピソードがピュアさ溢れるものだっただけに、想いが通じ合ってすぐのベッドシーンはやや唐突に感じられました。
うーん、ほのぼのとした雰囲気とは合わなかったかもしれない。

後編の「においすみれの君」は吉野視点。
付き合ってから1年後の2人の様子と、前編の裏側、学生時代の吉野視点のお話が描かれています。

学生時代の2人だけのニオイスミレの秘密。
2人だけの花を介した交流。
吉野視点での学生時代のニオイスミレの香りを纏った志信の描写がなんだか良かった。
後編は嫉妬という感情が分からず持て余しぐるぐるとしている吉野の図が見られます。

「ゆっくりしていい?」から始まる、志信の観察とも言えるねっとりとしたえっちがすごい。
40分も撫で回し、匂いを嗅ぎ、モノには触れずに反応を注視し…志信に対する執着がすごいというかやばいです。

前編に出て来た会社の同僚と吉野の研究室のメンバー、志信の母親など、なんだか中途半端な描写も多く、いまいちすっきりとしなかった点、メイン2人にこれ!という突出した魅力が感じられなかったため、中立寄りの萌評価です。
特に大きな事件も問題もなく、淡々と穏やかに進むお話です。
逆を言えば、安心して読めるお話かもしれません。
少々盛り上がりには欠けましたが、草花を絡めた交流は微笑ましく、2人の一途さやピュアさが溢れるものでした。

0

疲れた時に読むと効能がある様な気がします

電子書籍で読了。イラストは小さいサイズでした。
受け攻めとも環境の劇的な変化があってもねじくれもせず真っ直ぐなまま。とてもピュアです。ギラギラした男っぽさは皆無の草食系です。
色々とドラマは起きて、それ自体が平板なわけではないのにも関わらず「せつない」という感じはあまり持ちませんでした。
ストーリーよりも二人が小川のほとりで昼食を食べているという印象風景が強く残っています。
ペリエの様な味というか、喉ごしというか、爽やかです。

0

花言葉に心を乗せて

高評価だったので興味を持ちました。
馴染みのない作家さんだと思ったらデビュー作ということでした。

裕福な育ちで優等生な受けが一転困窮する暮らしに、逆に貧しい家庭の子だった攻めが成金になって再会。
本当は好きなくせに、言えずに子供だった頃の屈辱をし返すかのように受けを隷属させて…ってな展開だったら嫌だなあと思いなかなか手が出せなかったのですが、カバー絵のふんわりしたイメージどおり優しいお話でした。
長い初恋が成就したという感じで、心温まる系の物語に癒されたい時にはお勧めかもしれません。

二人ともとてもいい人だし、再会後にすんなり恋人になってしまうなど物足りない気がしました。
また、志信の職場の先輩とのことや学生時代の人間関係のトラブルなど中途半端な結末で、もっと何かあるのかと気になってしまいました。

設定は面白そうだったのですが薄味すぎて呆気なかったのが残念でした。

1

退屈すぎて何度も寝落ち

※辛口注意※
デビュー作だそうです。
金持ち受と貧困攻なんですが、高校時代に貧乏攻からもらったハルジオンの花を突き返してしまったことでお互いしこりが残り、金持ち受が父親の死により借金を背負ってしまったことで、長いこと音信不通となります。

そこから偶然の再会をした時、金持ち受は借金を負ったことから生活が一変し貧乏受となり、貧困攻は棚からぼた餅で得た他人の遺産により成金攻となってました。
個人的にこの時点でそんなのあり得ない(特に攻の境遇)と若干冷め気味だったのですが、タイトルにある【びんぼう草】を作中のアクセントとして上手に活かしていた点は非常に良かったと思います。
花についても詳しく描写されていて、ネットでどんな花なのか調べてしまうくらいには面白かった。

攻と受、ふたりの性格のせいもありますが、とにかく2人ともお利口さんの優等生で、色々と潔癖です。
特に受なんかは、借金を背負ってからの環境の変化で、少しはねじ曲がってても良さそうなものですが、相変わらず綺麗でお上品。
攻もちょっと色々と心配したくなるような性格なんですが、根が純粋で良い人なので物足りないです。
そんな感じの性格のふたりが【花】を通じて淡々と物語が展開していくため、起伏のなさも相まって読むのに1週間を要しました……正直退屈です。

そして挿絵の影響と攻の口調の効果か、ふたりが百合ップルにしか見えず、いまいち萌えに到達しなかった。
あとがきで作者さんが好きな萌え属性を語っておられましたが、次回作ではぜひともその好きな属性で読んでみたいです。

2

春の野花を摘みに行きたくなるような

裕福だった高校生時代、いつも自分に野の花をくれる貧乏なクラスメートがいた。花が好きだった志信(受け)は、それをもらうのが嬉しく、それをくれる吉野(攻め)にほのかな想いを抱いていたのに、ある時ほかのクラスメートに花をもらっているところを見られ、恥ずかしさにきつい言葉を投げてしまう。
その直後に父が亡くなり、志信は一転困窮した生活に陥る。病弱な母とふたりの、働いては借金を返す日々。卒業から5年あまりが経った頃、あれ以来疎遠になっていた吉野に再会する。吉野は相変わらずマイペースだったが、高校時代とは逆に裕福になっていて…。


高校時代に貧乏だった攻めが金持ちになり、金持ちだった受けが貧乏に、というありがちなストーリーです。でも攻めが不思議ちゃんで、「金が欲しければ愛人に」などの展開にはならず、おっとりとした雰囲気で話は進みます。

受けは5年もの困窮生活で疲れてはいますが、根が上品でこちらもおっとりしているので、卑屈さはほとんどないです。もちろんたかろうともしないし、金持ちになった攻めを羨むわけでもない。おごりや施しは受けない自尊心の高い人です。
攻めは不思議ちゃんで、昔から花と受け以外に何の興味もない人です。人付き合いは下手だし、自分の何が人を怒らせるのかわからない。付き合うのに疲れそうな人です。
受けも攻めも個性の強い人だけど、受けが攻めに惹かれるのも、攻めが受けに惹かれるのもとてもよく理解できました。おっとり穏やかな話だった印象があるのですが、実際に内容を思い返してみると割とアクの強い内容だった気もするし、なんか不思議な読後感です。
野の花の名前がたくさん出てきて、春めいた気分になりました。

途中で警備員のバイトをしていた受けが、同僚に痛い目に遭わされているのですが、そのエピソードのオチがないので少々モヤっとした気にはなりました。悪人が野放しなのはすっきりしないなぁ。

4

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