ぼくとの出会いを運命にしてみますか?

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表題作月夕のヨル

東晴夜,35歳,明とアニパーで知り合った食事処店主
神岡明,21歳~22歳,叶わぬ想いを抱える大学生

その他の収録作品

  • 心に在る春
  • 十五年後のヨル
  • あとがき
  • 6月11日のヨル

あらすじ

大学生の明は初恋の叔父を事故で亡くし、3年ものあいだ叶わぬ想いを抱えて生きてきた。
ある日淋しさから叔父の名前をネットで検索し、食事処のブログに辿り着く。
客の人生や日々を温かな目線で綴る店主の晴夜の人柄に癒され、やがて会いにいく明。
昇華できない想いを吐露するうちに、彼は「ぼくとの出会いを運命にしてみますか?」と提案してきて――
喪失を知る二人がさよならのない愛を得る物語。

作品情報

作品名
月夕のヨル
著者
朝丘戻 
イラスト
yoco 
媒体
小説
出版社
フロンティアワークス
レーベル
ダリア文庫
シリーズ
坂道のソラ
発売日
ISBN
9784866571546
3.8

(84)

(47)

萌々

(9)

(8)

中立

(9)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
11
得点
304
評価数
84
平均
3.8 / 5
神率
56%

レビュー投稿数11

生きること

こちら「アニパーシリーズ」です。
前作の「氷泥のユキ」がとても心に響いたので、今作も購入しました。
「氷泥のユキ」が『命に限りがあるから知られる絶対の幸福』。
で、今作の「月夕のヨル」が『さよならのない愛を得る物語』。

ところが、「さよならのない」でイメージした結末とはあまりにかけ離れていて、強いショックを受けました。
2作とも「生きること」がテーマとなってるんですね。

生きること。
愛すること。
やがて訪れる最期・・・。


主人公であるヨル(明)は、初恋の相手である叔父を亡くしています。
そして、晴夜も過去に痛い喪失を味わっている。
そんな二人が心を通わせる事で、喪失を乗り越え本当の愛を得る・・・。

正直、何故ここで優しいままのラストにしてくれなかったのかと、最初は頭を殴り付けられたかのようなショックを受けました。
この結末を受け入れるには、私のメンタルは弱すぎる。

でも、作者さんが本当に伝えたかった事と言うのは、ここまで書くことでしか完結しないのだろうと言う事も理解出来ます。
二人は本当の意味で、さよならの無い愛を得たんでしょう。
透明感のある優しい文章で綴られるからこそ、より心を打たれる物語でした。

以下、核心的なネタバレです。
↓↓↓








こちら、死ネタです。
攻めである晴夜が亡くなると言うラストです。
死因等は書かれていませんが、おそらく50才そこそこ。
早すぎる死です。
晴夜がオーナーである食事処の、お客に向けたメッセージと言う形で死が告げられます。
苦手な方は避けた方がよいかと思われます。
実は私自身もまだ混乱してるのですが、同じくらい二人の愛の形に心を打たれているのです。
自信を持っておすすめとは言えない反面、この二人の物語を読んでもらいたいとも強く思う。

評価が大変難しいのですが、自身の心に従って「神」を付けさせてもらいます。

18

さよならのない愛の話

朝丘先生のお話は文章がとても綺麗で繊細で、その言い回し好きだな、と思わず読み返してしまいます。
今回も、そんな言葉がたくさん散りばめられた、素敵な作品でした。

このお話は、「さよならのない愛の話」と書かれていますがこの言葉以上にしっくりくる言葉がありません。読み終えて、その表現の秀逸さに感銘を受けました。
ただ、中身を読まずにその言葉を見た方が思い浮かべるラストと、今作のラストは真逆かもしれません、とだけ、伝えておきます。

とくに大きな出来事があるわけでも、ジェットコースターのようにめまぐるしい変化があるわけでもないのですが、朝丘先生の美しい文章で繰り広げられる情景の一つ一つが愛おしい珠玉の作品だと感じました。読後の喪失感と、胸の奥にじんわり広がるあったかみがとても心地よかったです。


!!以下詳細含め重大なネタバレあります!!

主人公(受け)のヨル、こと明はいい意味で現実にはいないまっすぐなド天然と、前に進めない意気地なしな性格、でも何があっても晴夜を信じ続ける芯の強さはアンバランスさが魅力でした。
彼は亡き叔父の存在を常に心のどこかで感じており、それは晴夜と出会ったからと言って綺麗サッパリ忘れるわけではありません。でも人間の喪失ってそういうものなのではないかな、と感じました。
喪失を抱えながら精一杯晴夜との最後の恋を堪能したからこそ、十数年後の晴夜との最期を穏やかに過ごせたのだと思います。

攻めの晴夜ですが、彼も少し浮世離れしている感じはありますが、明よりは現実味を帯びているカッコいいお兄さんです。
彼の綴る言葉は秀逸で優しくて、ユーモアがあって、実際にいたら私もファンになってしまいそうです。
晴夜ターンが最後しかないのでなんとも言えませんが、途中、晴夜の気持ちを考えるとぎゅうううと胸が苦しくなってしまい、しかしそれを明の前であからさまには出さない彼の人間性のよさが魅力でした。忘れられない誰かを胸の奥に持っている恋人を、まるごとぎゅっと愛して甘やかして、とても素敵な人だと思います。

心春ちゃん。彼女はとても重要なキャラクターです。番外編?で幸せになってくれてとても嬉しかった。あまりに危なっかしいふわふわした明を現実的な観点から守ってあげる彼女は、明をヒーローだという。素敵な関係だな、と思いながら読んでいました。

ロボロンとおくさ、この2キャラも明の感情の変化に大きく作用していきます。ここら辺を絡ませるのが上手な朝丘先生、さすがです。

年の差もある分、先立たれる、ということは不可避だと思います。何か事故などがあったわけではなく、ただゆるやかに、同じ時を過ごし、そして亡くなっていく。でも、彼らはさよならではなく「またね」なのです。その言葉の暖かさが読後にじんわりと広がり、涙が出ました。

先立たれるシーンまで書かれているので喪失感は拭えませんが、明が晴夜と出会う前に抱えていた叔父の喪失感と、晴夜が先立ったときの喪失感は全くの別物です。その暖かさをぜひ感じて欲しいなと思いました。

15

切なくも温かい。

「アニパー」シリーズの4作目。前三作を読んでいなくてもこの作品単体で読むことはできますが、でも、「氷泥のユキ」だけは読んでから今作品を読んでほしいなと思います。理由は後程。

とい事でレビューを。







主人公は大学生の明。
途中視点は他の登場人物に切り替わることもありますが、基本的に彼が主役と言って良いと思います。




彼には忘れられない人がいる。
父親の弟の聖也だ。

彼は若くして事故に遭い、そして天に召されてしまった。
自分がゲイだと認識し、そして聖也が初恋の人だったのに、中途半端に突き放されたことで彼の想いは昇華されることなく燻っている。

聖也はもういない。
ということを認識できずにいる彼は、ある日、聖也の名前を検索し、そしてそこで小料理屋「食事処あずま」を知り、その店主・東と「アニパー」を介し連絡を取るようになるのだが―。

初恋の相手である聖也の死。
想いを捨てることができない明。

ということでシリアスな雰囲気で展開していくのかと思いきや、どちらかというとコミカルな雰囲気。

東が、いい意味で大人で、そして恋の駆け引きが上手だから。

あっという間に東に口説かれ、そして「セックス」に興味のある明もそれに乗っかる。
おいおい、展開が早いな!
と思うのだけれど、そこはさすが朝丘さん、聖也への想いと東に惹かれていくその想いに、葛藤し悩む明の姿が読者の心をつかむ。

そして、とにかくお上手だと思ったのが、ゲームのアバター。
「アニパー」と提携している「ライフ」という育成ゲームのキャラクターをアニパー内で育てる、というバックボーンがあるのですが、このキャラクターたちの動かし方が秀逸。

人とは違う個性を持ち、それゆえに誤解されたり、嫌われたり、でも、その個性こそがそのキャラクターの魅力。

というのが、育成ゲーム「ライフ」の設定なのですが、この子たちを育てていくことで、明もまた、心の成長を遂げていく。

この「ライフ」を作ったのが、前作『氷泥のユキ』の氷山さんと結生。
二人が「ライフ」のキャラクターに込めた意味、というのが、前作を読んでいた方が理解しやすく、そしてその意味が分かるからこそ明の心情とリンクして読むことができるのでは?と思います。

このゲームのアバターたちが性的マイノリティである自分自身と重なり、明が一つずつ成長していくさまが個人的にはめっちゃツボでした。

『月夕のヨル』は、すんごく分厚いです。
朝丘さん作品は得てして分量の多い作品を描かれることが多いなと思ってますが、この作品は中でも群を抜いている。

そして、その分量に見合った内容の濃さもあります。

明の幼馴染の心春。
明の父親の不倫疑惑。
聖也への思いと、彼との思い出。
そして、東さんの過去。

盛沢山な内容ですが、それらがうまくリンクし、話がとっ散らかることなく進んでいく。文章の構成力、言葉のチョイスの仕方、魅力ある登場人物たち。

圧倒的な文章力に圧倒されます。

そして、最後のページで涙腺が崩壊しました。
最後の最後まで、二人ともに幸せだったのだと。


生あるものは必ず死を迎えるわけで、だからこそ、恐れることなく、後悔の無いように「今」を目いっぱい生きよう。
そんなメッセージを感じました。

「死」を迎えてなお、「またね」と言うことができる。
「さよなら」ではなく「またね」。
彼らの深いつながりと信頼関係に、涙が止まらなかった。

正直、前半はややこのストーリーに乗り切れなかったんです。
東が、明を求めるのが性急すぎる気がしたので。

でも、東が明を求めた理由も明らかになり、そして、その後の怒涛の展開にぐっと惹きつけられました。

欲を言えば、東のトラウマの原因のナギのお話も読んでみたいな。
彼もまた、何か抱えているのでは?と思える描き方だったので。

あと、「アニパー」シリーズはタイトルがとにかくいい。
内容と、それぞれの登場人物たちの名前と。
センスがいいなあと感心します。

そして、yocoさんの挿絵は今回も神だった…。表紙の優しい雰囲気と、アバターたちの可愛さに悶絶しました。


この作品の「最後」は、もしかしたら賛否分かれるかも。
こういう終わりは苦手、という方も少なからずいらっしゃるのでは、と思います。

けれど、個人的にはこの終わり方が、この作品の真骨頂だと、そう思います。

13

アニパーシリーズ完結巻

読後じんわりきています。

あとがきにあるように「坂道のソラ」と「窓辺のヒナタ」、「氷泥のユキ」と今作が対になってるのでぜひ「氷泥のユキ」も併せて読まれる事をお薦めします。
「氷泥のユキ」で主人公が作り出すゲームが重要な要素なので。

社会人で人生経験豊富な年上の男性と高校生~大学生のまだまだ未熟な男の子達との様々な恋愛模様、私は大好きなシリーズでした。
特にアニマルパークだけではなく「氷泥のユキ」と関わりの深い、“ライフ”という架空のソーシャルゲームと主人公の心情を絡めて進むのでのめり込みました。
アニパーもですが、ライフ、私も遊びたくなりました。
おくさ可愛すぎます。yoco先生のイラストも相まって世界観にどっぷりです。

「またね。」という言葉がとてもとても深いです。

10

最終巻


4作目は最終巻ということで、今までより特別な気持ちで読んだ気がします。



途中、表紙と話の流れ的にもしや死ネタでは、と察してしまい。2人が幸せそうにしてるだけで胸が苦しくなりました....。


“またね“を積み重ねてきたからこそ、最後のシーン、“またね“の言葉が染みますね。アニパーシリーズ最終巻に本当にぴったりの言葉だと思いました。

あいかわらず、朝丘先生の言葉のチョイスは心を掴まれます。先生の作品、あたたかくて大好きです。


前作の登場人物もでてきて、シリーズならではの楽しみ方もできるので前作読んでない方はぜひ読んでもらいたいです。



7

この作品が収納されている本棚

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