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表題作月を食べて恋をする

仲里章介,34歳,恵多の過保護な叔父で会社社長
仲里恵多,21歳,記憶が一部欠損している大学生

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

夢に見る過去の恋人。 それが誰なのか思い出せない…大学生の恵多は十代の頃の記憶が一部欠落している。 だが、現在恵多が恋をしているのは、 一緒に暮らす叔父の章介だ。 合コンにまで口を出す過保護さに辟易しながらも、嬉しくてたまらない。 実らない想いでも、この幸せが続くならそれでいいと思っていた。 ところが、あることから二人の間に性的な雰囲気が漂い始め…。 思い悩んだ恵多は、再会した過去の恋人と付き合うが! ? 過去の傑作が大改稿のうえ新装版で登場!

作品情報

作品名
月を食べて恋をする
著者
沙野風結子 
イラスト
小山田あみ 
媒体
小説
出版社
イースト・プレス
レーベル
Splush文庫
発売日
ISBN
9784781686172
3.9

(86)

(36)

萌々

(28)

(14)

中立

(1)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
15
得点
335
評価数
86
平均
3.9 / 5
神率
41.9%

レビュー投稿数15

全ての出来事は必要な試練である

 近親BLを求めて購入しました。沙野風結子先生の作品を読んだのは久しぶりでしたが、素敵な作家さんだなと本作で改めて感じました。
 あとがきで本作が改稿作品であることを知りましたが、タイトルは今回の「月を食べて恋をする」の方がロマンチックで好きです。
 ネタバレを見てから本編を読むのは本当にもったいないので、未読の方は読まない方がいいと思います。

 本作の感想をひと言で表すなら、とにかく苦しかったです。
 恵多に感情移入しすぎたのか、恵多と同様に章介の一挙一動に心を乱されたり、水面や性が引き金の発作の場面ではこちらまで頭痛や吐き気を催しそうになりました。
 このお話で一番厄介なのは、恵多の記憶が一部欠如していることです。記憶があれば物語が成立しないのは分かっていますが、これのせいで煮え切らない態度の章介と胡散臭い須藤との板ばさみになっていく恵多にかなりハラハラさせられました。
 第二に厄介だったのは章介です。章介は記憶や発作など恵多の不安定な心にしっかり寄り添えているようには見えないのに、そのわりには恵多のことを束縛して恋愛感情があるようにも見えたので、ただ単に恵多のことを好きだけど血縁関係だから叔父と甥としての距離を保っているのだと思っていましたが、恵多と須藤が接近してからは章介の不穏な話が出てくるわ本人がそれを否定しないわで、話が進むほどに章介の人物像が謎めいて混乱しました。
 だからこそ須藤の狡猾さがふんだんに発揮されていたように思います。
 本当は彼が悪者なんだろうなと分かっていながらも、章介と比べたら須藤の方が親身な対応だし恵多の恋人だったかもしれないし……とアパートから恵多を連れ出したあたりから金目当てなのが丸出しになるまで、須藤はヤンデレ気質の当て馬とばかり思っていました。
 恵多早く逃げて! と思った時にはもう手遅れで、恵多が心身ともに弱っていくのが本当につらくて、私も須藤を殺す以外に解決策はないだろうなと思いながら事態を見守りました。

 物語の終盤を迎えてようやく様々な重苦しい真相が明らかになるのですが、蓄積されたモヤモヤが晴れるとともに推理小説の謎が解明された時のような爽快感がありました。
 とはいえ、章介の行動が不可解だった理由が分かると、理性的な行動も衝動的な行動も全て恵多を愛しているからこそだったんだなと合点がいくので切なくなります。次に本作を再読する時は絶対に章介に感情移入すると思うので、さらに苦しくなりそうです。
 恵多と恋人で、兄(恵多の父)に関係が知られ、猛反対され、二人の今後を話しあうために密会している間に兄が事故にあって、そのことで恵多が自責の念にかられて、あげくの果てに階段から転落した恵多は章介のことだけを忘れて……。
 これだけのことがあれば、章介が恵多にあいまいな態度をとってしまうのは当然だと思います。記憶がない方が恵多は罪悪感から解放されるし、叔父と愛しあう以外のまっとうな人生を生きられるかもしれないと思うと言えませんよね。でも、頭では理解しているのに、愛する恵多を手離せない章介が切なくて萌えました。
 恵多は恵多で記憶がない代わりに発作に苦しめられていましたが、水面は父の事故死、性は章介との許されない恋といった形で封印された記憶と結びついた無意識の罪悪感が発作を引き起こしており、章介との性行為で恵多が禁忌に対する罪悪感以上の恐怖を感じていた場面は、章介への想いが父を死に追いやったという潜在意識がそうさせたのだと思うとかなりつらいです。
 須藤に恋人だったと嘘をつかれようと、章介は悪者だとしつこく言われようと、それでも恵多は章介への恋愛感情を捨てられずに章介を守るために自分を犠牲にするところが、読後にふり返るとより感動します。
 記憶を失ってからの恵多は他の男女と恋愛できる機会が何度もあったのに、それでも章介に惹かれていました。章介は自分のことを好きになってもらおうとしたと自虐していましたが、記憶がなくても恵多自身の意思で章介を好きになったということは、章介との恋人時代は決して恵多にとって若さゆえの過ちだったわけではないことの証明になるのではないでしょうか。

 三年前だって、恵多も章介も恵多の父も誰も悪くなかったと思います。恵多の父の怒りは当然のことだし、むしろ章介を警察につき出さなかっただけ優しかったかもしれません。
 強いて言えば、章介が大人として自制するべきだったのかもしれませんが、恵多が須藤とキスした時に見せた絶望していた姿から恵多への本気度がよく伝わったので、公にできない関係とはいえ好きな人から恋愛感情を向けられたら気持ちを抑えられなくなるのは時間の問題だったと思います。
 恵多の父の死に対して恵多も章介も負い目を感じていますが、この三年間で二人は様々な苦しみを味わうという形で罰は充分受けたと思います。そして、それでも二人はこれからもずっと十字架を背負って生きていくのでしょう。
 しかし、お互いにとって苦しみを理解しあえるのも、幸せになれるのも、この二人でしか成り立たないことです。周りから祝福されない関係だと分かっていながらもお互いしか求めあえない二人だからこそ、これから先もずっと支えあいながら幸せになってほしいと思います。

 本作は官能的な場面以外に、性行為はしていなくても淫靡な空気をまとっている場面が多く、さらに小山田あみ先生の素晴らしい挿絵との相乗効果でドキドキしながら読みました。タイトルも表紙も物語の根幹を表現できていて素敵です。
 写真が欠けたアルバムや、ショースケ・ケータ呼びの音引き、恵多の左頬のえくぼなどの伏線回収もお見事で、章介はあの時どんな気持ちだったのかな、とついつい思いを馳せてしまいます。あとがきを読むと、さらに章介の恵多への本気度を知ることができて萌えました。
 苦しかったけれど、読んで損はない作品だと思います。

0

記憶喪失青年と過保護な保護者が…

『君といたい明日もいたい』の新装版です。
上記の方も読んだのですがそれに比べてとても読みやすくなっていました。

真相は知っていたので、恵多の迷走と章介のだんまりにハラハラモヤモヤでした。
章介が恵多のそばを離れられない気持ち。
逃げる恵多を強引に守って。
騙された恵多が章介を守ろうとする気持ち。
なぜ須藤の正体をお互い伝え合わないの? 

もうすれ違いが切なくて辛くて。
恵多!目を覚ませ!しっかりしろ!と言いたくて仕方ありませんでした。
でも許されない決して実らない想いから相手から逃げたかったんだよね。逃げても彼のことで頭がいっぱいなのに…。

解決はあっさりで。
はぁ、どんな気持ちで章介はこの3年間恵多と一緒に暮らしてたのかな。香水やポケットのピアス。これも恵多を守る方法だったのかな。

これで恵多の体調も治るのかな?

0

リメイク

カバーイラスト&タイトルが素敵です。

近親ものでこんなにモラル面を横目に意識させながら萌えに繋げるのって、もはや今どきのBLじゃ珍しいし、主人公の恵多がラブむきだしなのも作者様の作風にしては新鮮。

冒頭から片思いのキュンキュンが止まらないなんて、近年の作者様の作品にしては怪しい…と訝しみながら読み進めていったんですけど、ふと既視感を覚えてリメイク作品だったと知り妙に納得しました、、

高校三年で父を亡くし、父の弟と同居している恵多。同居して3年経つが、恵多は叔父の章介に対して複雑な思いを抱いている。頭を強く打ったために記憶障害を発症し、溜められた水に対する恐怖症、セックスへの拒絶反応などの発作に悩ませられている恵多は、章介の目がないと一人で生活するのに困難を抱えています。恵多が大学生になって就活の時期に入る頃には、章介を意識し過ぎて苦しくて離れたくなってしまう。なのに章介は保護者だからと恵多を離そうとしません。恵多は辛いんだけれど嬉しいという矛盾した感情に振り回され続けて…もうそれ、恋ですね笑

それなりに無理矢理なシーンがあったり、エロも盛り込まれていて、全てが明らかになった後にボロアパートでの章介の思いを想像すると切ないです…。

ただ、二人が惹かれ合ってしまった宿命的な部分にもう一押し力を入れて欲しかったような、結末に向けてのラストスパートであわあわと泡食ってみたかったような気もしました。贅沢ですね笑

本作のプレイは意識があるのに体が動かせない状態での凌辱、でしょうか。

当時のBLらしさを作者が意図して残してくれているのか、ただわたしが一方的に汲み取っているだけなのかわからないけれど、全般的に少し前のBL感が拭えなかったかも…(記憶障害前の年齢設定が低めですし)。むしろ個人的にはそういうのが好きなんで、作者様のリメイク作品をもっと拝読してみたい欲望は滾っております。

2

切なくて苦しい、まさに夜明け系の一冊!

旧作からの加筆修正版。前作は未読。

全体的にミステリアスで謎の漂うストーリー展開。
小さな謎を散りばめつつ、
惠多くんの日常と章介おじさんとの
多少ぎこちないながらも
穏やかな日常生活展開の前半。

それが、
弁護士須藤さんの登場から怪しくなってきます。
後半は切なくて苦しい。
不安と疑いにぐらぐらする惠多くんにも、
はっきりしない章介おじさんにも
すっきりしない嫌な感じで物語が進みます。

しかし不思議なことに
ページを捲る手は止まらないのです!
この辺は沙野さんの筆力と言いましょうか、
言葉選びが美しい!

二人が想いあっているのは分かるのに、
素直になれない原因はなに⁉︎と、
常に引っかかりつつ苦しい展開!
(心情的にも肉体的にも!)

途中、多少大袈裟ではありますが、
この小説を読みながら、
マインドコントロールって、
きっとこんな風に疑心や不安の隙間に、
上手くするすると潜り込んでやられるのだなと、
ちょっと怖くなりました。

多くのレビュアーさんも書かれていらっしゃいますが、
きっと初読みと再読では違う楽しみ方が出来ると思います。

そして小山田さんの表紙が素晴らしいv
この表紙が全てを表している気がするほどです!
今風に言うなら『キュンですv』

途中苦しくて嫌な感じもするのですが、
終始二人の深い繋がりを感じつつ、
沙野さんの綺麗な言葉選びにも助けられ、
評価は「神」で!

5

読み終えた後に萌えが襲ってくる…。

幻想的な表紙に不思議なタイトル。
日常の風景から絶妙に顔を出してくる謎。
ドキドキしながら一気に読みました。

地雷がなければネタバレなしをオススメします。
初読と2週目、倍の萌えが得られますよー!!!


途中胸クソ悪くて、私は胸を掻きむしっちゃいました;
人の悪意が気持ち悪かった…。
が。それを上回る勢いで胸が熱くなります。
終始受け視点で、初読は受けのお話として読んだんですが
2周目に入り攻めの心情を慮ると切なくてパタリと倒れる。

叔父と甥の禁断の恋。
この恋に鍵をかけなくては…と必死に否定する様が
重苦しく、やるせなく、グッときます…!!!

(以下ネタバレあり感想ご注意)


冒頭は過保護な叔父にウンザリする甥…といった雰囲気。

甥:恵多は過去の一部に記憶がないけれど生活するには支障が無い感じです。しかし記憶を失った前後、父親の死のトラウマもあり、時折発作を起こすようになっていました。

叔父:章介はそれが心配の種で過保護っぷりを発揮しているという風に見えます。少々異常にも見えるけれど、それも致し方ない…と思うほど恵多の症状は酷い。

『過保護な叔父にウンザリする甥』がごく自然に描かれていて、ここからミスリードが始まっていたのか…!と感嘆しました。個人的に裏を読むのが苦手なので目に入ったままの解釈しちゃうからホンッット欺されたwここからしてすごく面白い。

そこから少しずつあぶり出される恵多の恋心。"ウンザリする甥"を演じながら自分の心に湧き上がる想いを押し止める健気さにギュンギュンします…!女の香水が匂って嫉妬したり、意地を張ってみたり。必死で必死で否定してなんとか『叔父と甥』の関係を安定させようとする。

けれど『叔父と甥』にしては時折空気が濃密で淫靡なんですよッ!バスルームで発作を起こして倒れた恵多を章介が介抱するシーン。濡れた身体をバスタオルで拭く描写があるんですが、頭の先からつま先まで丁寧に丁寧に描かれていてめちゃくちゃエロい…。なんじゃこりゃ。すごい。エロい…////

恵太の密かな片想いの行方は痛々しくしんどかったです。否定すればするほど悪い方に転がっていくような…。泥沼に足を取られて動けなくなり、思考停止させてしまうんですね。さすがに思考停止は少々イラッとしました。「ちゃんと考えて!頭動かせばわかるよ!」と願いながら読んだ。

変な方向に落ちてる恵多を友人が軽く窘めるのにちょっとホッとしたかな。章介の立場がどんどん悪くなって嫌な風に書かれ出したので、私は胸クソ悪くてしんどかったんですよ。恵多ですら章介を悪く言い出すから余計許せなくて。けれど恵多の友人だけは章介を信じてくれてて、なんかね。泣きそうになった。

悪循環が止まらない状況でようやく全てが明らかになった時は萌えで指先がビリビリ痛いし、泣けるし、切なくてギュンギュンくるしで最高でしたね…(∩´///`∩)あーー!そうだったのね!となってから、あれ?じゃあ冒頭のアレは…?と章介視点で想像を巡らすとシンドくて切なさに萌えた…。すごい。読み終えた後に更なる萌えが襲ってくるってどういうこと?すごい…。沙野さんすごい…。(五体投地)

途中趣味じゃない部分もありました。(特に恵多が章介を信じなかったのは解せない…!あんなに愛情かけられてたのに…。でも記憶がないってそういうことか。しょうがないとも思えるので気持ちを落ち着かせる)けれど読み終えた後にすぐ2周目に入る面白さがあり、読後に襲ってくる萌えは神…!月並みなことしか言えませんがすごく良かったです(;///;)

7

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