電子限定描き下ろし付き
大人になりきれない男達のエモーショナル・ラブ
高校の同級生だった高瀬と穂村は
23の夏、偶然再会し一緒に過ごすうち恋人になった。その後のふたりのお話。
ゲイを隠しそれまで生きてきた穂村にとって
高瀬からの告白は戸惑いより喜びより恐ろしさが勝り、
高瀬の気持ちを受け止めるより先に
自分の振る舞いが高瀬をその気にさせてしまったのではないかと考えてしまった穂村。
その一方で、気持ちが伴っていなくても
高瀬と、というよりは
男とするキスに喜びを感じてしまった自分もいて‥
「普通」に拘る穂村にとってそれはとても混乱する出来事だったのでしょう。
人それぞれの尺度で普通の定義は変わることを穂村はあまり信じていなかったのかな。
高瀬ほどのシンプル思考と一緒に暮らしていれば
先々まで考えすぎてしまう穂村も
頭が解れるかもしれませんね。
穂村のもだもだ感にイライラさせられつつ、なんだかそれもクセになりました(笑)
それも含めて愛してくれる高瀬ってすごく心がひろいな、と思いました。
単館上映の映画のようでした。
静かに始まり、徐々に熱を帯びていきます。
時系列の切り替わりなどもそれっぽかったです。
23歳で再会し、25歳で恋人になった高校の同級生た2人の物語。
穂村は、来年には30歳だし別れるにはいい機会だと思い別れを告げる前に高瀬を旅行に誘う。
旅の最後に別れるつもりだったが、様子が変だと高瀬に悟られます。
穂村はいわゆる''普通"にこだわっていて、高校生の時から男の先生が好きだったのに女子と付き合っていたり、旅行中のシーツの乱れ具合を隠す事にも抜かりがないようなヤツです。
旅行中に女性に逆ナンされてホテルにまで行っちゃうヤツです。
高瀬の事が大切になりすぎて怖いとか言っちゃうヤツです。
挙げれば挙げるほど面倒臭いし、割とヒドイ。
ホント面倒くさくて、振り回される穂村が可哀想になるくらいなのですが、こういう拗らせ嫌いじゃない。やっぱり同性同士の葛藤であれこれ考え過ぎちゃう展開はハマる時はハマります。
旅が終わりに近づくにつれて、別れが名残りおしくなる穂村。
終点の東京で愛の告白ですよ。
呆れられて振られてもおかしくないかもと思ってたので気が気ではありませんでした。
自分一人で別れを決めて、それでいて愛してるなどと言う。なんて自分勝手な…と思われても仕方ないと思います。
それでも高瀬は別れを選ばなかった。
高瀬の目に涙が浮かんでるところで不覚にももらい泣きでした。
穂村の事、好きなんだなぁって伝わってきました。
描き下ろしで高瀬の部屋に穂村が引っ越すのですが、ここでも穂村のめんどくささ炸裂でした。
この期に及んで引越し業者が来てる間は高瀬に外出させたり、女性と住んでるかのようにぬいぐるみでカモフラージュw
ここまでくるともう逆に面白い。
ごく普通の男性2人が普通のやりとりをしながら、別れ旅に行く話。
ま、穂村はゲイであることを隠したいから、普通であろうと、いろいろめんどくさいんですけどw
で、30歳を前にしてこのままじゃいけないと別れるために、彼氏を旅行に連れ出すわけですね。
穂村の言うことなすことめんどくさいw
結局、盛大な独り相撲というやつではないでしょうか。
高瀬はそんな穂村をちゃんと好きで、でも穂村が別れようと旅行に誘ったのもわかっていて。
さんざん、ああだこうだと言ったあげく、穂村はやっぱり高瀬を「愛してる」と告げてめでたしめでたし。
絵がね。
「あさはらたそかれ」の時は話に引き込まれて、そんなにだったけど、本作は気になってしまったw
エロシーンなんて、なんか生々しくて。
絵のせいか、キャラのせいかわかりませんが(両方かな)
通販で同人誌を購入したので再読。
はやりやまい先生の作品は大好きです。
拗れに拗れた大人の恋愛も大好物です。
今回の作品は『二人の関係を終わらせる旅」というのがテーマ。
ですが…どうあがいても好き同士の二人。
別れる事なんてできないんです。
愛してるのにすれ違うって大人の面倒くささとか素直になれない心情とか、ものすごく丁寧に心に迫る描写で描かれている秀作。
楽しいだけではないけど、こういうのも確かに恋愛で。
東京駅での「愛してる。いっしょにいたい」はもう…反則でしょう。
こんなん泣くしかない。
私はTwitterでこの作品を知り、なんとなく購入したのですが、今まで読んだことのない物語に引き込まれ、何度も読み返しました。
以下、ネタバレ含みます。
この物語は、穂村が高瀬を誘った長野・京都への3泊4日の旅行の旅程のみで構成された異色作。時間経過がたった4日間分しかないのに、その濃密な心理描写が1冊にまとめられています。(最後に後日談もありますが)それに、この旅行、受けである穂村が別れを決意して始まる旅行なんです。
まず、この斬新な設定がすごい。多くの作品では、カップルになるまでの過程が描かれますが、この作品はすでにカップルになっているところから始まります。さらに、受け側が別れを決意し、それを実行するための旅行だなんて、今までに見たことのない設定でした。
別れを決意した理由としては、とてもリアルな理由です。男を愛している自分を肯定的に受け入れられず、人生の過渡期の中のほんの一瞬の出来事であると思い込みたい穂村。実生活の中では、自分に男の恋人がいることがバレることを何よりも恐れ、普通でいることに拘っています。
穂村の恋人で攻めの高瀬は、ゲーマーで内向的な面があるものの、穂村のちょっとした感情の機敏にも焦らずおおらかに受け止められる度量の大きい人です。穂村が、ゲイであることが露見するのを何よりも恐れていることを知っている高瀬は、穂村が自分の存在をなかったかのように扱うことがあっても、絶対に責めたりしないし、否定しない。それほどまでに、穂村を愛しく思っている。
穂村の抱える葛藤はとてもリアル。最初、『普通(異性愛者)でありたい、そのためには、この高瀬との恋愛を終わらせなければいけない』という非常に自己中心的な考えや行動に、あんた自分さえよけりゃ、高瀬の気持ちはどーでもいいんかい!と、穂村を冷めた目で見てましたが、何度も読み返すうちに、そもそも恋愛なんて突き詰めれば自己中心的な欲望の塊だ、という自分なりの真理として理解したとき、穂村の行動も、人間だもんね…と、理解することができました。だからこそ、よりリアルに思えたのかもしれません。
穂村の普通でいることに対する切望は、穂村なりの苦悩の裏返しであり、また、切望すればするほど、自分にとって高瀬がいかに大切で、自分が愛されていて、自分も高瀬を愛しているのか、まざまざと気づいていきます。いや、気づいていたんだけど、旅程が進むにつれ、再認識していった、のほうが正しいのかもしれない。
穂村の普通でありたいことへの願望が描かれるのは、長野旅行中に知り合った女性とホテルへ行った場面です。でも、できなかった。その事にショックを受ける穂村。
さらにその後、京都のホテルで、旅程が進みいよいよ別れが間近に迫っていることに、耐えられなくなってきたところで、今までの高瀬とのことを思い出して感傷に苛まれ涙が止まらなくなる。
すでに様子がおかしいことを察知していた高瀬は、穂村が女性とのセックスができなかったことで、『浮気していない』自分を正当化し、かつ、できなかったことにショックを受けており、自分と別れたがっている理由まで、すべてを見通している。この京都の夜の高瀬が本当にめちゃめちゃ優しくてかっこいいんです。高瀬が穂村を本当に心から好きだという気持ちが伝わります。
この、長野から京都までの穂村と高瀬の心理描写が秀逸で圧巻。穂村の普通への切望と高瀬への未練、高瀬の洞察力と穂村に対する揺るがない愛について、セリフ一言一言にその心理描写が反映され、胸がズキズキ痛み、苦しいほどです。
京都2日目の朝、高瀬がスマホを取りに戻ってきたあと、一緒にシャワーを浴びる場面では、泣きはらした穂村と淡々と話す高瀬とのやり取り、高瀬が一瞬キスをするシーンに、胸がズキズキしっぱなし。苦しすぎます。
新幹線が東京駅に着き、いよいよ自分の目の前から遠ざかろうとしたその時。穂村はついに、高瀬を愛していることを自認し、普通じゃなくても、それを受け入れて行くことを決意し、その思いを高瀬に伝えます。それを涙して受け止める高瀬。高瀬、すごい。とにかく、高瀬の男気がめちゃめちゃかっこいいです。
後日談では、高瀬の家に引っ越し、同棲を始めた話なのですが、引っ越しの際にも同性同士の同居と引っ越し業者の人にバレないよう、引っ越し作業中、高瀬に外出するよう頼んだ穂村。高瀬への罪悪感はあるのだけど、穂村の抱える苦悩というのは一概に解消はできない。この描写、とってもリアルです。でも、高瀬はそんな小さなことは気にしていない。そのまんまの穂村を受け止めているし、高瀬にとっては二人でいられることが何より大切だから、そんなことは気にもならない。まるごと受け止める高瀬の男っぷりが、またまたかっこいい。
長々レビューしてしまいましたが、このたった4日間の心の機敏をここまで繊細に描いて1冊の物語としてまとめられた作者様の手腕に脱帽の一言です。