イラスト入り
惣一の大きな無理の綻びでもあり、努力の報酬でもあるラストだと思いました。
2人が思い描いていた未来ではなかったけれど、収まれるところに収まった。
読了後は、とにかく読み切った充実感がありました!
これでもか‼︎というくらい、事件が起こるので、ハラハラしどうしでした。
私は、メンタル弱い時にサンドバッグになるつもりで読みました。
まともに読んだら、しんどくはなると思います。
良い意味で木原先生らしい作品で、満足です。
読後じわじわ効ますねー。
読んでる時の脊髄反射の感情と、読み終わって振り返ってみると違う景色が見えてきたり。
ちょっと置いてまた再読したいです。
タイトル「灰の月」
個人の勝手な考察なんですが
燃え尽きた紙の月(ペーパームーン)
→燃え尽きた紙(灰)の月なのかなと。
ペーパームーンは張りぼての月が由来で、まやかしや偽物という意味がある反面、紛い物でも信じ続ければ本物になる。という意味もあるとか。
カトウが大切にしてたペーパームーンは、惣一を頂点にした組を自分が支える。という、青写真や未来予想図だったのかな
でも最終的に燃え尽きて灰になってしまった紙の月。
全く別物になってしまった月を、それでも抱えて生きていくってのがカトウの出した答えだったのかな?
先に「月に笑う」を読むのが個人的におすすめです。
惣一と嘉藤のことを知ってから、「灰の月」を読むと、より感情移入しやいと思います。
以下は、「灰の月 下」について個人的な感想です。
「月に笑う」の賢く腹黒い惣一は、まさか愛のために狂人となった。
愕然とした展開、衝撃な結末、すごい、すごすぎます!
嘉藤視点だが、
狂った行動を起こし、もがく惣一の苦しさ、空虚感、しっかりと痛々しく伝えてくれました。
愛されなくても、せめて愛する男が好きな肉体になれればと、
胸を作って、自分の体を異形にした惣一。
「もし死んだら、次に生まれ変わるのは女がいい」
「黙って立てるだけでお前がぶち込みたくなるような、女になりたい」
あんな狂おしい想いを淡々と穏やかな口調で告白した惣一。
心の虚しさを噛み込んで、持ち耐えない気持ちを裏に隠していたでしょう。
豊胸も女装も、女になりたいわけではない。
プライドまで捨てて、ただ愛する男を喜ばせる体を手に入れたかった。
必死なアピール、一生懸命な惣一を尊敬します。
嘉藤が撃たされた時、身を挺して彼を守った惣一。
このような全力で愛する男にした無意識の行動が心に痛切に感じられました。
旅館でのすべての出来事、
病みつきになるほど好き、どうしても欲しくてたまらない、でも、決して受け取ってもらわない嘉藤への気持ちに追い詰められた姿が痛すぎます!
ほろりとした結末。涙ボロボロでした。
漁師となった嘉藤と、クスリの後遺症で頭がおかしくなった惣一。
すべて忘れてしまっても、愛する嘉藤のことだけ忘れたりはしなかった。
きっとこの愛を魂まで刻んでいたでしょう。
共に生きている2人の間には、断ち切れない愛情が存在しています。
この愛情は、恋、傾慕、同情、欲望、劣情、信頼、いろいろな感情を混ぜてきた相手に注ぐ愛の気持ちだと思います。
恋:嘉藤への激しい恋心を抱いている惣一。
傾慕:強いボスに惚れ込んだ嘉藤。
同情:感情をコントロールできない、狂ったボスへの同情。凄惨な強姦、監禁、凌辱、クスリ漬け、さらに性器切断された男への同情。
欲望:性欲の強い惣一、嘉藤が欲しいという欲望。
劣情:惣一の「胸」に本能的な性欲を生じた嘉藤。
信頼:長年にわたって作り上げた絆。
組を捨てた2人は、きっとどんなことがあっても離れたりはしない、
2人だけの愛情をもっとより深く積み上げるでしょう。
今まで一番
本当に感極まる余韻が止まらない作品でした。
いや、これは。なんと言いますか。
私は上巻のレビューにおいて、どう落とすのか、描きたい何かがあるはずだ、と書きまして、ずっとそのことを探りながら下巻を読み進めておりました。
正直、最後の最後まで、「どうすんのこれ」と。312ページの「END」マークにものすごく絶望しました。
上巻と同様、下巻も同人誌として発行されたものを収録しており、数えると7冊(+ペーパー)にのぼります。最終章のみ書き下ろしです。
上巻は5冊分だったので、惣一を描いた同人誌は全部で10冊以上になるわけです。
描きたい何かがあるはず、という私の疑問は、本書の後書きにより、あっけなく答えが提示されました。
いわく、「惣一さんを幸せにすべく続きを書いていた」。「最終的に惣一さんの一途な思いが伝わった」との言葉に、愕然とした次第です。
私は、物書きの業をまざまざと見せつけられたような、そんな気持ちでいっぱいです。
作者が、この二人の長い物語をハッピーエンドだというのなら、そうなのでしょう。紆余曲折があり過ぎましたし、結果として最終章で嘉藤が出した答えがこれならばそうなるのでしょう。
長かった道のり。書きたかったのは惣一の幸せであって、嘉藤のではない。
なるほど、と納得しました。
終始嘉藤の視点で描かれていましたが、あの嘉藤がこれまでの生い立ちやらヤクザ同士の抗争やら、厳しい上下関係やら義理人情やら、その他諸々色々なしがらみ含めて、全部捨てて惣一だけの物になるためには、これほどの大きな事情がない限り無理でした。それは分かりました。
が、待ってください。
本橋組の皆さんのことは、ハチや井上さんや西や山平や、その他大勢の組員のことはもういいんですか。彼らが彼らなりに収益を上げる手段を講じることが出来て、惣一の資産運用その他に頼らなくても資金繰りに困らなくて、嘉藤がいなくても幹部がなんとか運営するだろ、みたいな目算が立てば、二人は二人の世界に埋没して逃避して、それでいいんですか。
私は、やっぱりそこは、仮に薬物中毒者が作り出した夢の世界のお話だったというオチがついたとしても(そんなオチではないですが)、飲み込めません。大勢の人が絡む、社会の一員として、この終わり方は、理解はできても納得できず、すっきり終われません。
そもそも、嘉藤も壊れていたのでは、と思ったりもします。
惣一が女性の乳房を作ったことを知った時、元に戻すのは可能そうだ、と言いながらも手術させなかった。そのそぶりも見せず、なんだかんだ愛撫するし、なんだかんだ胸ばっかり見るし、確かに嘉藤は女性が好きなんでしょうけど、胸があればいいのかと。相手が男でも、男の身体に不自然に胸だけ生えている状態でも、表向きさえ自身の理想とする組長然と振る舞ってさえくれれば、やりまくるのか。
破綻していると思います。ああ、だからこその逃避行エンドか……。
下巻で良かったところは、胸を作ったことを知った嘉藤が、冷たい言葉を吐きながら惣一を抱くシーンです。「月に笑う」を読んだときに、私は惣一が酷い目に遭ったと聞いて、ざまあみろと思いました。そこからここまでで初めて、惣一を可哀相だと思いました。
男の声は興ざめするから喘ぐなと言われて、これまであんなにうるさいくらい嬌声を上げていた惣一が、服を噛んで声を出さないように涙を流して堪えていた場面です。
本書に巻かれていた帯に大きく書かれた「純愛」の文字。上巻を読んだ時には違和感しか覚えませんでしたが、この場面を読んで、ああ、と腑に落ちました。
これまで惣一の負った苦しみの負債。
そして北海道に移り住んでからの2人の生活の静けさ。
負債に対し、なんて小さすぎる日常の穏やかさ。
もう、わたしの心臓は
持ち堪えることができなかった。
正負の法則というものがあるのなら
惣一の負債はどういうエンディングで
回収出来るのだろう。
物語のその先に、これ以上の幸せがあるのか…?
しかし惣一はもう、この負債を忘れている。
代わりに、嘉藤がその負債と記憶を負う。
嘉藤は負債を追うことで
はじめて愛を知ることになったのだ。
「……私の名前を知っていますか?」
「私を好きですか?」
「あなたが私を忘れても、傍にいますよ」
一度は風前の灯となった惣一の命に与えられた
残りの人生を、想う。
あんまりじゃないか!
勘定が合わないではないか!
もう、どれだけ愛しても、愛しても、
不憫で、悲しくて、苦しい。