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『君といたい明日もいたい』(2009年刊行)を加筆修正した物語です。
私は前作を読んでいないので違いは解りませんが、社会情勢等は全て現在の状況に書き換えられていて、所謂『古さ由来の違和感』は一切感じませんでした。
大変痛いお話です。
「この様なことが起きたらこうなってしまうしかないだろうな」という現実感に溢れています。
よく「BLはファンタジーだから」と言われますが、この『ファンタジー』の部分をかなり大きく削ぎ取っていると感じました。
だからとても痛く感じるのだと思います。
ただ、突き放す様な痛さではないので、絶望的にはなりません。
ミステリ仕立てなので、どこまで紹介したら良いのやら……ちょっと困ります。
大学生の恵多はお風呂の中で男性に抱きしめられ幸福な気持ちで満たされている夢を何度も見ます。それが誰なのかは解らないのですが、欠けてしまった自分の記憶なのではないかと思っています。
デザイン会社の社長だった恵多の父は飲酒運転による自動車事故で亡くなっているのですが、それをきっかけにして恵多は記憶障害を起こし18歳以前の記憶が斑で消えています。同時に湯船とかプールなど、溜められた水を前にすると激しい頭痛に襲われることや、普段はそうではないのですが、いざという時になると強い罪悪感を感じセックスが出来ないという状況を抱えています。
離婚によって父子家庭だった恵多は、父亡き後、叔父の章介と一緒に暮らしていますが、章介に対して感じる反発を恋の所為だと気づきます。しかし、頻繁に女性の香りを纏って帰宅する章介を見る度に、このままではいけないと感じる様になります。
そんな折、章介への想いを断ち切りたいと参加した合コンでたまたま出会った高校時代の同級生に、自分が茶髪の年上男性とキスをしていたのを見たと聞かされます。恵多は、思い当たった父の会社の顧問弁護士だった須藤を訪ねますが、須藤から自分たちは恋人関係にあったが、章介が父の会社欲しさに自分を解任し、恵多と会うことを禁じたと聞かされて……
『ミステリ仕立て』と書きましたが、謎解きの部分は割と早い段階で解る様になっています。むしろ、父の会社を巡る陰謀に巻き込まれた恵多に訪れる危機がハラハラドキドキもので、ここの部分がとても読みどころがあったんですね。
だって、章介と恵多、須藤と恵多の関係が強烈にシビアなんですよ。
どちらの男も恵多を追い詰める事しかしないの。
それぞれの動機は全く対局のものなのなんですけれど、記憶障害を抱える恵多にとっては、どちらの行動も「良く理解出来ない」という点で、同質のものと受け取らざるを得ないんです。
ここもねー、辛くて痛かった。
ただ、この物語は『痛さ』を感じさせるものだけではないと思うのです。
理不尽に落ちてしまう『恋というもの』についてのお話なんじゃないかと。
恋は善悪でぶった切れるものではないですよね。
でも、生きていく上でのモラルはそれぞれが持っています。
そこに矛盾が生じたら?
メリバではありません。
でも、幸せを感じる度に、同時に哀しみと後悔を感じざるを得ない形でお話は終結します。
ここに、沙野さんの優しさを見ました。
モラルを大切にしつつも善悪だけで人を裁かない……素敵な大人です。
甘いけれど苦い、極上の物語でした。
こちら、2009年に刊行された「君といたい明日もいたい」を大幅改稿、改題の上、新装版として出されたものです。
旧版は未読になります。
で、叔父と甥と言う許されない関係もですが、ここに記憶喪失と言う推理サスペンス要素も絡み、ストーリーとしてかなり面白いと言うか、好奇心を掻き立てられると言うか・・・。
いやもう、サスペンス映画を見てるように、手に汗握らせてもらえました。
あとですね、攻めの意外な健気さにも心を打たれるんですよね。
こうわりと、傲慢だったり酷いヤツだと思っていた攻めが、実は超健気でしたと言うパターンが多いと思うんですけど。沙野先生は。
これ、最初から健気なのに比べて、より意外性でグッと来たりするのでお上手ですよね。
実は沙野先生の既刊をまだ9冊しか読んでなくて、偉そうに語るなって感じなのですけど。
で、内容ですが、会社社長で超過保護な叔父・章介×記憶が一部欠損している大学生の甥・恵多による、推理サスペンス要素ありの両片思いものです。
過去に強く頭を打った経験から、記憶の一部が欠損している恵多。
夢で見る「過去の恋人」との記憶に安らぎを覚えるものの、それが誰かは思い出せないままです。
そんな彼が、現在恋してるのは、一緒に暮らす叔父の章介。
過保護過ぎる章介に憎まれ口を叩きながらも、幸せな日々を過ごしています。
そんな中、夢で見ていた過去の恋人と再会する恵多。
恋人の口から、章介の犯した酷い仕打ちを聞きー・・・と言うものです。
で、こちら、サスペンス要素がかなり面白いのです。
何故か、溜まった水やセックスに対して強い拒絶反応を示し、発作を起こして動けなくなってしまう恵多。
そんな彼の記憶から消えてしまった「同性の恋人」。
また、叔父として過保護な程に恵多を大切にしながらも、何か胸に隠している章介。
そして、自身が過去の恋人だと恵多に訴える、亡き父親の元顧問弁護士・須藤。
これらが複雑に絡み合い、もう誰が敵で誰が味方だかサッパリ分からん状態。
終始、恵多の視点で進みますが、彼と共に、読者も疑心暗鬼状態でストーリーを読み進める感じでしょうか。
と、サスペンス部分もとても面白いのですが、並行して進む恋愛部分がこれまた萌えるのです。
元々、普段は叔父と甥としての健全な距離を保ってるのに、何かの拍子で危うさを漂わせる二人の均衡なんかに、ゾクゾクすると言いますか・・・。
発作を起こして動けなくなっている恵多を、章介が介抱したりするのです。
これがもう、身体を拭いてるだけなのにエロいエロい。
こう、過保護な叔父と元気な甥から、なにかの拍子に、ふいに漂う性的な気配-。
この危うい気配の漂わせ方が大変お上手でして。
読みながら「来るぞ、来るぞ・・・!!」と読者がほくそ笑んじゃう感じがご理解頂けるでしょうか。
個人的にですね、こういう危うい関係がゾクゾクする程好きなのです。
そんな中、自身の恋人だったと主張する須藤から伝えられる、章介の意外な姿。
章介を信じられない気持ちと、彼への恋慕との間で追い詰められてゆく恵多。
そんな彼を甘やかし、自分で考えなくてもよいように取り計らってくれる須藤-。
と、ストーリーは更に混迷を極めて進んでゆきます。
こちら、結末は読んでのお楽しみで。
ただ一つ、とにかく章介が健気なんですよ。
彼がずっと胸に仕舞っていた真実ですが、恵多の事を心から大切に思ってるからこそ、黙ってるしか無かったんですよね。
いやもう、章介、かわいそう! 本当、ガチでかわいそう・・・!!
この三年間を思うと、何だか胸が締め付けられるよ( ノω-、)
まぁ、発作時の介抱なんかは、明らかにスケベ心を抑え切れてないと思うけど。
ところでこちら、もう10年近く前の作品ですが、全然古さを感じません。
大幅改稿されてるせいかもしれませんが。
強いて言えば、須藤のキャラが沙野先生にしては単純過ぎる気がしますけど。
あとですね、エロ濃厚です。
二人がくっつくまでも雰囲気だけでかなりエロいのですが、くっついた後のエッチが凄い事になってます。
恵多、エロ可愛いなぁて感じで。
表紙が美し過ぎて悶絶なんですけど、(エッチシーンの)挿絵もめっちゃ艶っぽいのでご堪能下さい。
作家買い。
『君といたい明日もいたい』を改稿しての新装版ですが、旧版は未読。沙野さんはがっつり痛い作品も書かれますが、これはなんていうんだろうな。切なく、そしてしっとり。大人の恋。そんな読後でした。
主人公は大学生の恵多。
父親を亡くしたショックで倒れ、その時に頭を打ったせいで記憶が一部欠落している。
そんな彼が時々見る夢。
お風呂に入り、リラックスした状態で、そして信頼できる相手に身を委ねている。
恵多は、父親の弟である章介を愛しているけれど、血の繋がった叔父、という事で自分の恋心に蓋をしている。だから、夢で見る相手は、叔父ではありえない。でも、じゃあ、彼は誰なのか。
「水」を見るとショックを起こしてしまう。
そして性行為にも。
何故、拒絶反応を起こすのか。
そして、夢の中に登場する「相手」は誰なのか―。
ミステリーの様相も盛り込みつつ、恵多が愛しているのは誰なのか、かつて恋人だったのは誰なのかを追うストーリーです。
とにかく伏線は盛りだくさん。
なのに、その一つ一つに意味があり、そしてそれが繋がってく展開はさすが沙野さんといったところか。
主人公は恵多で、視点も彼目線。
でも、この作品の主人公は紛れもなく恵多の叔父の章介だと思います。
恵多が起こす発作や、彼の父親の事故の真相、そして父亡きあと章介に引き継がれた会社の存在。それを恵多が追っていく展開ではあるのですが、そこに隠れた章介の健気な想いを描いた作品だったように思います。
どんなに拒絶されても、それでも恵多を一途に思う。
本当のことを恵多に言えずに苦しむ。
そして、恵多に恋人が出来たと知って苦しむ。
良い意味で、大人で、そして良い男なんです。彼に萌え心が掴まれて仕方なかった。
恵多が追う「謎」は二転三転しますが想像を超える結末ではなく、ある意味王道というか想定内の結末。でも、それらをはるかに上回る登場人物たちの魅力にどっぷりとはまってしまいました。
これ、章介視点で描けないという事は十分承知のうえで、でも、章介視点のストーリーも読みたかったな。
章介と恵多は、気持ち的に途中まですれ違ったままなので、甘々な濡れ場は少ないです。
なのですが、章介が恵多の身体を触るシーンが非常にエロティックです。
相手は自分を愛していない。それでも、体を触られば愛しているが故に反応してしまう。お互いに、そう思っている。
萌え…!
王道の両片想いですが、ここまで萌える作品もなかなかない。
で。
小山田さんの挿絵がめっちゃ素敵でした。
綺麗だし、カッコいいし、濡れ場はエロいし。
綺麗なだけではなく、大人ゆえの暴走。執着。そして深い愛情。
そういったものがしっとりと描かれた、非常に萌える神作品でした。
幻想的な表紙に不思議なタイトル。
日常の風景から絶妙に顔を出してくる謎。
ドキドキしながら一気に読みました。
地雷がなければネタバレなしをオススメします。
初読と2週目、倍の萌えが得られますよー!!!
途中胸クソ悪くて、私は胸を掻きむしっちゃいました;
人の悪意が気持ち悪かった…。
が。それを上回る勢いで胸が熱くなります。
終始受け視点で、初読は受けのお話として読んだんですが
2周目に入り攻めの心情を慮ると切なくてパタリと倒れる。
叔父と甥の禁断の恋。
この恋に鍵をかけなくては…と必死に否定する様が
重苦しく、やるせなく、グッときます…!!!
(以下ネタバレあり感想ご注意)
冒頭は過保護な叔父にウンザリする甥…といった雰囲気。
甥:恵多は過去の一部に記憶がないけれど生活するには支障が無い感じです。しかし記憶を失った前後、父親の死のトラウマもあり、時折発作を起こすようになっていました。
叔父:章介はそれが心配の種で過保護っぷりを発揮しているという風に見えます。少々異常にも見えるけれど、それも致し方ない…と思うほど恵多の症状は酷い。
『過保護な叔父にウンザリする甥』がごく自然に描かれていて、ここからミスリードが始まっていたのか…!と感嘆しました。個人的に裏を読むのが苦手なので目に入ったままの解釈しちゃうからホンッット欺されたwここからしてすごく面白い。
そこから少しずつあぶり出される恵多の恋心。"ウンザリする甥"を演じながら自分の心に湧き上がる想いを押し止める健気さにギュンギュンします…!女の香水が匂って嫉妬したり、意地を張ってみたり。必死で必死で否定してなんとか『叔父と甥』の関係を安定させようとする。
けれど『叔父と甥』にしては時折空気が濃密で淫靡なんですよッ!バスルームで発作を起こして倒れた恵多を章介が介抱するシーン。濡れた身体をバスタオルで拭く描写があるんですが、頭の先からつま先まで丁寧に丁寧に描かれていてめちゃくちゃエロい…。なんじゃこりゃ。すごい。エロい…////
恵太の密かな片想いの行方は痛々しくしんどかったです。否定すればするほど悪い方に転がっていくような…。泥沼に足を取られて動けなくなり、思考停止させてしまうんですね。さすがに思考停止は少々イラッとしました。「ちゃんと考えて!頭動かせばわかるよ!」と願いながら読んだ。
変な方向に落ちてる恵多を友人が軽く窘めるのにちょっとホッとしたかな。章介の立場がどんどん悪くなって嫌な風に書かれ出したので、私は胸クソ悪くてしんどかったんですよ。恵多ですら章介を悪く言い出すから余計許せなくて。けれど恵多の友人だけは章介を信じてくれてて、なんかね。泣きそうになった。
悪循環が止まらない状況でようやく全てが明らかになった時は萌えで指先がビリビリ痛いし、泣けるし、切なくてギュンギュンくるしで最高でしたね…(∩´///`∩)あーー!そうだったのね!となってから、あれ?じゃあ冒頭のアレは…?と章介視点で想像を巡らすとシンドくて切なさに萌えた…。すごい。読み終えた後に更なる萌えが襲ってくるってどういうこと?すごい…。沙野さんすごい…。(五体投地)
途中趣味じゃない部分もありました。(特に恵多が章介を信じなかったのは解せない…!あんなに愛情かけられてたのに…。でも記憶がないってそういうことか。しょうがないとも思えるので気持ちを落ち着かせる)けれど読み終えた後にすぐ2周目に入る面白さがあり、読後に襲ってくる萌えは神…!月並みなことしか言えませんがすごく良かったです(;///;)
旧作からの加筆修正版。前作は未読。
全体的にミステリアスで謎の漂うストーリー展開。
小さな謎を散りばめつつ、
惠多くんの日常と章介おじさんとの
多少ぎこちないながらも
穏やかな日常生活展開の前半。
それが、
弁護士須藤さんの登場から怪しくなってきます。
後半は切なくて苦しい。
不安と疑いにぐらぐらする惠多くんにも、
はっきりしない章介おじさんにも
すっきりしない嫌な感じで物語が進みます。
しかし不思議なことに
ページを捲る手は止まらないのです!
この辺は沙野さんの筆力と言いましょうか、
言葉選びが美しい!
二人が想いあっているのは分かるのに、
素直になれない原因はなに⁉︎と、
常に引っかかりつつ苦しい展開!
(心情的にも肉体的にも!)
途中、多少大袈裟ではありますが、
この小説を読みながら、
マインドコントロールって、
きっとこんな風に疑心や不安の隙間に、
上手くするすると潜り込んでやられるのだなと、
ちょっと怖くなりました。
多くのレビュアーさんも書かれていらっしゃいますが、
きっと初読みと再読では違う楽しみ方が出来ると思います。
そして小山田さんの表紙が素晴らしいv
この表紙が全てを表している気がするほどです!
今風に言うなら『キュンですv』
途中苦しくて嫌な感じもするのですが、
終始二人の深い繋がりを感じつつ、
沙野さんの綺麗な言葉選びにも助けられ、
評価は「神」で!