SS付き電子限定版
夢を操り現実にする力を持つ一族と、彼等を庇護し支配する事で富を生んで来た一族。
彼等の闇や愛、そして救いを描いた物語になります。
攻めと受けの両視点で進み、基本サスペンス調になると思うんですけど、とても切なくもあり哀しくもある。
そして、ひどく優しいお話でもある。
いや、終盤で明かされる真実が、驚愕なんですよね。
お話自体も二転三転して、その先に見えてくるものが、全く予想がつかない。
付かなかっただけに、ラストでのどんでん返しに、心を揺さぶられると言うか。
それぞれの愛の形があり、目に見えるものが真実とは限らない。
そして、何が本人にとっての幸せかも。
いや、すごいお話でした。
ザックリした内容です。
先祖代々夢を操り、現実にする事が出来る一族の末裔・暁。
そして、そんな彼等を庇護し支配する事で、富を得てきた九城家。
九城家の人間である伊織は、暁の能力を鍛練する為に、幼い頃から世話係として付き従ってきたんですね。
しかし、伊織の裏切りに気付いた暁が出奔した事で、二人は離ればなれに。
そして五年後ー。
「夢生み」をしていた兄が眠りから目覚めなくなった事で、連れ戻される暁。
そこで彼は、九城家に従うふりをしながら、一族を解放する為の計画を練り始めー・・・と言うものです。
この夢を操り現実にする能力ですが、「夢生み」と称されてます。
で、そんな彼等を支配する「調律師」である九城家。
また、夢生みとして能力を使い続けると、やがては夢を見ながら眠り続ける時間が長くなり、若くして亡くなってしまう・・・。
暁が出奔した事で、九城家当主で調律師である湊士の下で夢生みをし続けた兄が、深い眠りについたまま目覚めなくなってしまったんですね。
そこで、あらたな「夢生み」が必要となった九城家により、暁が連れ戻されると言うのが序盤。
繰り返しになりますが、こちらサスペンス調になります。
また、お話自体が二転三転して、かなり読者も混乱させられるんですよ。
そもそも、この「夢生み」の能力自体が、まさに夢か現かってなもんで、読んでるとどこか不思議な気分になってくると言いますか。
暁ですが、幼い頃から自分に付き従い、常に大事にしてくれた伊織に対してほのかな恋心を抱くようになるんですよね。
で、寝ていると、いつからか伊織による甘いキスや愛撫を受けるようになる。
これは夢なのか現実なのか。
そして、自分の願望により、操った結果なのかー。
また、伊織のこれまでが、自分を上手く利用する為だけの演技だと知ってしまうと、深く絶望する。
そして、彼に決して心を許さないようにしながら、九条家から一族を解放する事を決意する。
その為、現当主の湊士に従って「夢生み」をしながら、その能力を使って着々と計画を練ってゆく。
果たして、裏で政治を操り、巨大な力を手に入れようとしている湊士の真の狙いとは?
そして、暁に付き従い、見守り続けた伊織の真意とは?
更に、暁は九条家から、兄やまだ幼い弟と共に解放される事が出来るのか・・・。
このへんが見処になるんじゃないでしょうか。
ここまでの印象ですが、湊士がかなり酷いヤツなんですよね。
伊織はですね、両視点の為、早々に真意が分かります。
かなり健気です。そしてムッツリです。
いやまぁ、まだ無垢な暁にですね、夢だと言い聞かせて手を出しちゃうのはどうかと思うんですけど、とにかく一途に彼の幸せを願ってるんですよね。
その為だけに、動いてきた。
で、話が戻りますが、謎なのが湊士。
朔を酷使し、そのせいで彼は眠り続けたままになってしまったー。
これ、めっちゃ語りたいけど、どう書いても核心部分のネタバレになっちゃうので避けます。
ただ、真実が分かると驚愕しますよー!
いや、人間の心って、きれいなだけじゃないですよね。
思いもよらない闇を抱えていたりもする。
そして逆に、とても純粋だったりもする。
「夢生み」と「調律師」の関係と言うのは特殊なものでして、本人達にしか分からない、深い繋がりがあるんですよね。
今回、そこに一番グッと来ましたよ。
ついでに、愛と憎しみの間で揺れ動く暁の心情描写にも、すっごく萌えましたよ。
そして、「行為中の攻めに口枷」の斬新さにも、唸らされましたよ。←(深い意味があるんですよ~)
まぁそんな感じの、愛あり憎しみあり、エロスありの、読ませてくれる深いお話。
とにかく面白かったです。
ひとつだけ残念だったのが、なんか朔のビジュアルがイラストと本文で違うような?
個人的には違和感が大きかったです。
作家買い。
沙野さんの新刊はファンタジーもの。
沙野さんらしい、と言っていいでしょう。「リアル」「と「ファンタジー」の境目が非常に曖昧。実は現実でもこういうことがあるんじゃないのかな…?と思わせる設定、そして文章力。あっぱれとしか言いようがない。
主人公は伏見暁。
夢を見ることで、それを現実にすることができるという「夢生み」と呼ばれる特殊な能力を持っている青年。
彼の家系の伏見家は代々その能力を持ち、かつて自分を救ってくれた九条家のためにその能力を使い仕えてきた、という過去がある。
が、その能力も訓練が必要。
力を制御するために九条家から派遣されてくるのが「調律師」と呼ばれる人物で、伏見家の面々と信頼関係を築き、ともに夢を生み出しコントロールしてきた。
暁の調律師は伊織という青年。
父が亡くなり、兄も九条家にのぼり、孤独だった8歳の暁は一気に伊織に懐いていく。
それが、暁を意のままに動かすための罠だとも知らずに―。
伊織に裏切られてきたと知った暁は、伏見家の能力を捨て、九条家のために働くことを良しとせず家を出るが、再び家に戻される。伊織によって。
伊織を毛嫌いし、けれど伏見家を今の状況から救い出すために暁は闘うことを決心するが。
現九条家の当主は湊士。
湊士は暁の兄である朔を従えて九条家を繁栄させてきたが、朔は湊士に酷使されたことが原因で(と、暁は思っている)今は眠ったまま。
そして暁にはもう一人兄弟がいる。
異母弟の惺だ。
惺を「夢生み」にさせたくない。
暁は、誰を信じることもできないまま、孤独な闘いを始めるが―。
夢をコントロールし、その夢の通りに現実を動かす。
というSF要素も盛り込まれた内容ではあるのですが、この作品が描いているのは、紛れもなく「愛情」です。
暁が、伏見家の能力を九条家の繁栄のために良いように使わされ、そして使い捨てのように扱われてきたことに憤ったのは本当。けれど、彼の心が折れたのは、子どものころから信頼し、愛してきた伊織に裏切られたことなんですよね。
言い換えれば、それだけ深く伊織を愛していた、ということに他ならない。
作中、暁と伊織、二人の視点が入れ替わりながらストーリーは展開していきます。そのため、暁だけではなく伊織の心情も序盤からきっちり読者に理解できる。
伊織の、暁への深い愛情が。
暁を愛していたからこそ、伊織は暁を逃がすためにああいう行動をとったわけで。
二人のすれ違う愛情と想いにハラハラしつつ読み進めましたが、これって伊織の感情が最後まで読者にわからない方が面白いじゃね?と思ってたわけですよ。
が。
沙野さん作品なので、一筋縄ではいかない結末が待っています。
そう来たか…!
でも、それもこれも、やっぱり深い愛情ゆえんなんですよね。
彼らがしたことは道徳的に間違えていたかもしれない。けれど、お互いが相手を守るためにああいう行動をしていたのだと思うとなんとも切ない…。
暁は伊織に裏切られたと思い込んでいるために、二人の間に甘い空気感は皆無です。
が、なのに、めっちゃエロいの…!
夢生みと調律師は身体の関係も重要なファクターだそうで、何も知らない暁に14歳も年上の伊織あれやこれや致すシーンはエッロ!の一言です。
暁は夢か現実かの曖昧な状況でいるのが、これまた何ともエロい。
見方を変えると言いくるめ、良いように抱いてしまう伊織がなんとも外道なわけですが、伊織の暁に向ける愛情がきちんと読み取れるのでそれも切ない。
とにもかくにも、二転三転する展開で非常に読みごたえがありました。
これは全くもって個人的な好みなのですが、北沢さんの絵柄が今一つツボに入らなかったのが残念。
私のイメージする「暁」という青年は、もっとクールビューティなんだよな…。
とか思いつつ。
作品自体は沙野さんらしいストーリーで、非常に面白かった。
文句なく、神評価です。
SF要素入りのBL
「夢で願う事を現実化する」夢生み
夢生みが視る夢を支配する「調律師」
・・夢を見させて、夢生み者を支配する九条家の調律師。
冒頭から、暁が何かから逃げ続けている、転居するためにバイトを辞める。
バイクに乗り外出したところ、黒猫をよけて事故に遭い、目覚めると実家に戻っていた。
三人兄弟の夢生み。
兄の朔は、夢を見たまま目を醒まさない。
次男が家に戻る様に夢生みをさせられた三男のサト。
兄と弟を守る為に、家督を継ぐ決意をする暁。
・・・夢生みのために伊織と同衾する暁
家の因襲から逃れないなら、せめて楽にしてやりたいと思う気持ちからなんだろうと思うけど、残酷な見えない檻の中で生きている二人は、気の毒。
夢も見ない熟睡をする私には、理解できないホラーな物語。
先生買い。シリアス話はあんまり盛り上がれないかなと思ってたら最後の方で泣きそうになったので萌2にしました。受け兄が気になるので、スピンオフが出ると嬉しいです。本編260Pほど+あとがき。
5年間、短い期間での引越しを繰り返し何とか逃げてきた暁(あきら)。その日も朝に予兆があったので夜には引っ越さなければと思っていたのに、バイクで転倒。目覚めると8歳の頃から育ててくれた伊織が側に控えていて、5年前まで暮らしていた邸宅に連れ戻されたことに気付き・・と続きます。
攻め受け以外の登場人物は
伏見朔(はじめ、受け兄、現在昏睡状態)、惺(さとる、受け異母弟)、九条湊士(伏見家が仕えている九条家の当主、調律師)、葵衣(湊士の異母妹)ぐらい?
**良かったところ
夢を生むという力をずっと九条家に酷使させられて、今度こそ伏見家を解放するんだ!と暁が頑張るお話なのですが。
九条家、伏見家の関係の始まり通り、実は九条家が「伏見家を守ろう」と仕えてきたんじゃないの?!と思えて、「きゅう」としました。生まれてきた暁に会って「私の夢生みだ」と分かるなんて、なんと強い関係性か。
九条家ありきではなく、伏見家の能力、そしてその能力ゆえの魅力的な容姿?それらを守るために九条家は強くなったんじゃないのと個人的には思いたいです。
ずっと眠ってきた朔も、最後に目覚めて望んでいた関係を得られて満足したのではないかと思うのです。朔の視点から見たお話を読みたいなああああああああととっても思うのですが、他の方はどうなんだろうか?
もうちょっと言葉があれば、きっともう少し良い関係であったろう、朔たち。
これから少しは良い未来に迎えるよう、願っています。
色っぽいお話の方では、執事っぽい攻めさんが口枷なんかしちゃうシーンもあるので、そういうのがお好きな方にも良いのではと思いますが。
私の萌えポイントは、両家の強い関係、そしてそれ故に嫉妬から少し歪んだ道を進んでしまった兄です!ああでも、最後の受けのセリフ「俺を育てたのはお前だ・・」といったあたりのものもめっちゃ良かったなあ。兄はこれから頑張れ、弟は良く頑張った!ですね。
沙野さんの新作は『予知夢を操作して現実を変える能力を持つ一族』と『その能力を最大限引き出すことの出来る一族』が関わるお話。
この2つの家が日本の政財界を大きく動かして来たという設定なんですけれども、相変わらず虚構を現実に引き寄せるのがお上手。
例えばですね、155pに下記のような文章があるのです。
『雰囲気というものは曖昧なようでいて、時代を作っていく基盤でもある』
「まさに!」ですよ。
大げさな陰謀論を持ち出すのではなく、こういう「いかにもありなん」という文章を折り重ねてくださるので、こっちは物語に没入し易いのです。荒唐無稽な人たちが出ていてもリアルから逸脱しないこの感じ、好きだなぁ。
レビューが多いので感想のみを。
ここの所沙野さんが続けて書いていた『神の〇〇』や『○○は〇〇される』(別に伏字にしなければいけない文字ではないんですが、シリーズの名前を何と書いたら良いのかわかんないんです、ごめんなさい)のシリーズは『国と個人』に生まれる軋轢を書いたものだったと思っています。
今作は『家と個人』なのね。
家の思いどおりになることを拒み、その枷を断とうとしている主人公の暁。
でも、早くして親を亡くした自分を育ててくれて、思春期の頃から想いを寄せていた人が「実は家の使命のために自分をだましていたのではないか」と疑う。
でも、想いを捨てきれないのですよ。
強い気持ちを持とうとするのに「好き」が大きくなって揺らぐんですよ。
この『運命に抗い自分を貫こうとする人』を書かせたら、沙野さんの本は絶品だと思うのね。
いやー、暁の心の揺らぎが最高です。
『視淫に溺れる』『視姦に沈む』がお好きだった方は、絶対読んだ方が良いよ。
もうひとつ。
これ、ある意味『親子もの』じゃないかなぁ。『子弟もの』的な感じでもある。
攻めの伊織さんが暁に感じている愛情はかなり父親的なものが入っていると思うんですよねぇ。
それも、良い父親。理想的な父性を感じちゃったのね。
なので、親子BLに萌えるタイプの姐さまにも強くお勧めします。
そんな伊織なのに、暁といたす時には声を発せないように(その理由は読んで知って欲しい)蓋が付いたギャグを装着するのよ!(これが今作の『エロチャレンジ』でございます)
このギャップ!
二律背反ってこういう事を言うのねー……
カッチリと硬く、理性的な物語構成をなさる沙野さんですが、毎回何か新しいことをやってくださるこの『エロチャレンジ』を読む度に、私は沙野さんの茶目っ気を感じてしまいます。「うふっ」って思った後に「サービスありがとう」って言いたくなるんです。たとえ自分の好みから外れていたとしても。
私が沙野風結子さんという作家を好きな理由のひとつです。
もうひとつだけ。
前述の2シリーズに比べれば、量的にも内容的にも軽いお話だと思います(あっちは重さがガッツリだったからなぁ……)。
「沙野さんの本は辛い」とか「重い」とか「小難しい(失礼)」とか感じていらっしゃる方も、この本はイケルと思いますです。私の様に「本は内容でも、実際にも重いほど良い」と思っている姐さまは、ウィークディの夜にどうぞ。疲れていても読めるお話ですし『みんな幸せ、大団円』ではないのに、ラストは素敵な余韻が残ります。