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表題作初恋に堕ちる

密崎周,美容師,27歳
橘侑一,薬剤師,28歳

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

美容師の周は出張カットで訪れた病院で高校の先輩、侑一に10年ぶりに再会する。侑一が周を振ったのも趣味で撮り続ける映像も、すべては長期入院中の恋人・紗知のためだった。華やかな外見ではなく、いつも内面を見てくれる侑一に再び想いを募らせていく周。だが紗知への献身的な姿に耐えられず、距離を置こうとしていた矢先「紗知の恋人になってほしい」と理解できないお願いをされ――。

作品情報

作品名
初恋に堕ちる
著者
高遠琉加 
イラスト
北沢きょう 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784778129736
3.1

(19)

(3)

萌々

(5)

(5)

中立

(4)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
7
得点
54
評価数
19
平均
3.1 / 5
神率
15.8%

レビュー投稿数7

初恋に、堕ちる

非常に美しく流れるような文章で物語を紡がれる作家さんなので、夢中になってあっという間に読み進めてしまうんです。
こちらの作品を読みながら、何度も残りのページ数を確認しました。あとこれだけで本当に終わる?どう終わるの?大丈夫?と、そんなことを思いながら読み終えた次第です。

評価が割れるのも分かるというか、読む人を選ぶ作品かなと思いました。うーん、私はどうかなあ。
好きか嫌いか。お話としてはやはり好きです。三角関係が最後までどうなるのかがわからない、ストーリーを読ませる力がありますし、こういったあまりないアプローチで書かれたBLは新鮮でした。
しかしながら、萌えたのかどうか・高遠先生の過去作品と比べてどうか?となると微妙なところ。
けれど、胸が苦しくなる心理描写が好みでしたので、こちらの評価になりました。
地雷皆無で攻め視点のお話が読みたい方はぜひ。

綺麗なだけではない、一筋縄ではいかない恋を描くのが上手い作家さんだなと思います。
この作品で1番悪かったのは誰か?それはもう、受けの侑一で間違いないでしょう。
でも、この作品でずるかったのは?となると、3人全員がそれぞれずるかったような気もするのです。初恋に囚われて堕ちてしまったのは3人ともなのでしょうか。
相手を想っているようで誰もが利己的。恋は理性でするものではありませんから、こんな恋の形があっても不思議ではないかな。

そして、お話の着地点ですが、誰も救われない終わりだったら神評価になったかもしれません。ただ、これはこれで咎を背負っているようにも見えてありなのかも。
とはいえ、周には好感が持てたのですが、受けの侑一の良さと気持ちが最後までいまいち分からず…そこは今ひとつ盛り上がれずでした。

0

とらわれる

北沢きょう先生挿絵なのでマストバイ。堕ちるというか、囚われて身動き取れなかった方のお話ような印象でした。沁みるし泣いたのですが、人に薦めたいかというと、うーん・・という心地なので萌にしました。せつなすぎてダメなのかも。本編260Pほど+あとがき。

一人で美容院をやっている周(あまね)。上得意のお客様に頼まれて、休日返上で病院へ出張カットに来て、可愛い女の子の髪をカットしていたら、その子の彼氏と言われる男性がやってきます。それは周が高校時代に好きだった一つ上の先輩で・・と続きます。

攻め受け以外の登場人物は
紗知(さち、受けの幼馴染)、マキさん(メイクアップアーティスト、♂)、高校時代の映像部仲間少々、さっちゃんのお母さんぐらいかな。誰も悪くない。

++攻め受けについて

攻めさんは超イケメン。ただ人間が出来ている訳ではなく、かといってめっちゃ腹黒なわけでもなく、美容師という職業柄、笑顔は標準装備ですが、ごく普通に悩むんですよね、自分の恋心に。再会してしまった後、一生懸命、受けのことを忘れようとして、上手くいかなくて苛立ったりもして。イケメンでスパダリにもなれるのに、受けに対してはスパダリになれないで、足掻いている印象です。

受けの気持ちは良く見えなかったです。普通の方だと思うのですが、あまりに綺麗な攻めをずっと見ていたかったというのが恋心だったのでしょうか。幼い頃から守らなきゃと思っていたさっちゃんがいたから、自分の気持ちに全く気付かなかったのでしょうか。受けの気持ちにシンクロするのは、最後の最後になってようやくでした。

2人して良かれと思ってしたことが、本当に良かったんだと思いたいのですが、本当のところは永遠にさっちゃんの心の中にしまわれたまま。ただそれをちゃんと受けとめて、二人が前を向いて歩きだそうとしたので、救われた心地で終わる事ができました。よかった。

基本「せつない」一択です。せつなさ大好物の方でしたら、良いのかもと思うお話でした。

4

複雑なトライアングル

この話は女子が出てきます。一見、受け→女子→攻め→受けのBLトライアングルのように見えて、結局は攻めと受けは両思いで女子だけ攻めに片思いしていたような展開。女の子が病弱だったため彼女にとって残酷で受けと攻めにとっても後味の悪い事になってしまいました。最初は青春っぽく爽やかですが、徐々にドロドロしてきます。

誰が悪いかと言えばやはり受けが悪い。高校の時に自分に告白してきた攻めに向かって(その時は気持ちに応えられず逃げてしまった)病弱な幼馴染みの彼女と付き合ってほしいと頼む。年下だけど1人で美容院を切り盛りする真面目な攻めに。後で自分でも言っていますが、攻めもその彼女の気持ちも弄ぶようなとても傲慢で失礼な事です。攻めも惚れた弱みで受けの体をくれるなら言うことをきいてもいいと取引し…後戻りできなくなってきてしまいます。

結果的に彼女の気持ちをダシにして攻めと受けが心と体の距離を縮めていき、彼女もうっすらそれに感づいていたのが切なかったです。彼女に本当は受けを愛している事を指摘され、それからまもなく彼女が亡くなると攻めも罪悪感から精神を壊してしまう。1番年上の受けが大事な2人を自分の浅はかさで傷つけてしまうのです。

でも恋は惚れてしまった方が負けなので、悪気なく残酷な事をしてしまうような受けを好きになったのは攻めの方。高校時代の映像部の思い出や天国の梯子のシーンが美しかったので、少しドロドロしててもBLとして私は楽しめました。受けと攻めの2度の再会シーンも映画のようで素敵でした。

3

逃げられない、堕ちる恋

最初にお断りをしておきますが、この物語の感想を書くために私は『盛大なネタバレ』をいたします。お許しください。

私は高遠琉加さんの大ファンです。そもそも美しい文体が大好きで。特に『登場人物の心の内を風景描写にのせて書く』部分はゾクゾクするほど好きです。
最近は作品発表が減っているので、この本も心待ちにしていました。

だけど、最初の5行を読んで実に嫌な予感が……
「心をくれないから体だけでも手に入れて、初恋を汚して捨てる」
こんなことが書いてある。
続いて主人公の周が病院の入院患者への出張ヘアカットを行う場面が出て来ます。
彼は常連のお得意様のために病院へやって来たのですけれど、頼まれて他の入院患者さんのカットもやってあげています。長期入院しているらしき女の子の髪をカットし、ちょっぴりメイクもしてあげると、彼女の目に生き生きとした喜びの光が灯ります。その後登場した彼女の恋人らしき男性は、周が高校時代に告白してふられてしまった唯一の人『侑一先輩』でした……

たった30ページなんですが、ここまで読んで「あたしこれ、駄目かもしれない」と思いました。
だって『女の子→周→侑一→女の子(に戻る)』という双方向の矢印がひとつも存在しない三角関係の話だと推測できるんですもん!
そしてこの矢印関係でBLを書くとなると女の子は死んでしまうはず。
「えー、それは嫌だなぁ」と思ったんです。
「誰かの恋を成就させるためにそれ以外の人を死なせてしまうお話は嫌だな」と。

で、物語の骨格はまさしく私が最初の数十ページで予測した通りだったんです。
だけど、嫌な話ではありませんでした。
むしろ凄いと思った。
確かに、恋というものの本質はこういうものなのかもしれない。
理性によって制御出来ないもの。
何の咎もないのに、ある日、予告もなく堕ちてしまうもの。
『祝福』よりは『呪い』に近いもの。
驚き、慄き、抗い、振り回され、自らの弱さを見つめ続けさせられるもの。

だけど、と言うよりは『だからこそ』恋をした人たちは何かを得るのだと思うのです。228pの終わり付近で周が侑一に「みっともないくらい自分を欲して欲しい」と思う部分や、242pで紗知が周に「恋が出来て良かった」と告白するシーンは、本当に胸に迫ったのです。

『逃げられない恋』について書く高遠さんはピカ一です。
そこに運命なんて存在していなくとも、日常の地続きの中で、恋の残酷さを私たちに観させてくれます。

でもこれは悲しい話ではないと思うんですね。
って言うか、哀しみと喜びは分離したものではない。裏表でもない。
地続きのものだと思えたのです。綾織になっているものだと思えたのです。
そしてその綾織は、高遠さんが紡ぐ文章同様に、たとえ様もなく美しく感じられました。

7

本当の愛なんて

久しぶりに作家様のBLワールドを堪能させていただきました。甘いだけじゃないメイン二人の恋愛には、切なさプラス後引く苦味が。しっかりとラブを味わわせてくれる期待は裏切られませんでしたが、カバーイラストには予想を裏切られるかもしれません…。今回も作者のテイストを存分に感じられるシリアスめのストーリーでした。


再会もの。
高校時代、一学年先輩で映像部に所属していた橘に告白して、ふられてしまった密崎。

高校を卒業してから10年後、モデルをしている姉の影響で美容師となった密崎が、とある病院へ出張カットに赴いた時のこと。紗知という若い女性を担当した後で、彼女の様子を見にきた恋人の橘と偶然再会する。

後日、独立してサロンを経営している密崎の店に橘が訪れ、入院生活が長い紗知のために似合う服を見立てて欲しいと依頼を受ける。10年前の自分の無様な告白がまるでなかったかのように…。

橘が来店したタイミングは、ちょうど密崎が有名人メイクアップアーティストのマキさんを接客していたところ。過去のわだかまりから速攻で断ろうとしていた密崎だったけれど、二人の様子に興味津々なマキさんの提案で、橘からの依頼をしぶしぶ承諾することに。しかもマキさん本人まで紗知の服選びに同行してくれるという。橘への思いは断ち切ったはずの密崎だったが…。


このマキさんがものすごくポジティブで明るくていい人なんです。もし彼が好奇心を発揮しなければ、あんなに悲しい結末を迎えることはなかったかもしれないと思うのですが、そうでなければ物語は生まれないんですよね…。

二人がどんなふうに出会い、どんな時間を共有していたかを描いた高校時代のエピソードは、ノスタルジーに溢れていて甘酸っぱい。夏休み、海でおこなわれた映画撮影のシーンが、それこそ映画のワンシーンのようで、とても印象的でした。

橘が高校最終学年の夏休みに部活動で映画を撮ることになり、密崎をメインキャストにスカウトするんです。カメラマンの橘が純粋に密崎の姿を追い、撮影したものを楽しそうに見返して、無邪気に確認作業するシーンが繰り返されるんですが、後々その背後に隠れている橘の無自覚な思いを知ると、恋心ってなんて曖昧で儚くてうつろいやすい感情なんだろうと。

カメラレンズ越しの告白シーンがとっても切なくて、二回目はもう、じぃ~んときてしまいました。作者の『溺れる戀』で感じたことがあるんですが、誰かをずっと見ていたいという無意識の欲求って、すでに恋の始まりなんでしょうね。

好きな人に頼まれたら拒めない密崎も、無茶な交換条件を吞んだ橘も優しすぎたのかもしれません。でも二人は体を重ねた時点で互いを思い合っていたはず。紗知が自分の余命を含め、全てを察していたことがわかるシーンは、読んでいてつらくなりました。

女性を挟んで受け攻めが互いの恋愛感情を知るのって、昔はよくありがちだったパターンだけど、本作はもどかしさと後悔と悲しみに満ちていて、最近のBLとして後味はよくない方かもしれません。でも恋ってほんと、綺麗事じゃないんだよなと思い出させてくれました。

最後、橘が密崎を訪れるシーンがすごく好きです。二人で過去を引き受けようと選んだ決意の表れであり、自分たちの選択から逃げない強さを感じて。

あとがきによると、某アーティストの曲からこのお話を着想されたそうです。個人的に好きなアーティストの一人で、この曲で腐妄想したことがあり…(なんとなく嬉しいような、後ろめたいようなフクザツな心境笑)好きな作家様にBL作品にしてもらうとこんな感じなのか〜と目から鱗でした。多分歌詞を読んだら、さらに物語のイメージが補完されるかと思いますので、気になったらぜひ。声も歌い方も色気があって大人な恋の雰囲気です。

歌詞はどちらの心情かな?とイメージするのも楽しいですよね。わたしは橘の方が強そうだと感じましたが、きっと二人の気持ちなのかも。よく腐妄想していた同じアーティストの「夕凪の街」もイメージがピッタリで、そちらは読後、密崎の心情を投影して聴きながら余韻に浸っていました。

北沢きょう先生の最初のイラストに?となった気持ちは、わたしと同じ思い込みで読み始めた方には共感していただけるかと思います笑。それはさておき、お顔はかわいらしいのに脱いだらちゃんと男なところがめっちゃ好きです。

5

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