イラスト入り
優秀な外科医の谷脇と、新人医師の松本。谷脇視点。
三部作の2作目。
電子で購入したのを機に数年ぶりの再読。
松本の未来を知っているだけに気が重いし、谷脇の仕打ちは改めて酷いなと思った。
酩酊状態の相手を好き勝手犯した挙げ句、相手から誘ったと嘘八百…いや~~冒頭から最低だよ谷脇。
手に入れるまでも強引だったけど、松本と恋人関係になった後もなかなかの…。
自分の欲望、欲求を何よりも優先して、自分が楽しいと思うことのためなら相手の気持ちは顧みない谷脇。
刺激を求めて散々浮気をし、わざと松本にバレるようにする…その度優しい言葉や態度で取り繕う…の繰り返し。
表面上だけでも、松本が喜ぶ(と谷脇が思う)ような行動や態度がとれるのだから、何故夢だけを見せてやらないんだろう…とモヤモヤした。
で、挙げ句の果てに他の男に…ていう。
まぁ、これもわざわざプロを呼んでいるあたり、谷脇としては本当に余興のつもりで、松本が深く傷つくとは思っていないのだろうなとはわかるのだけど。
でも、松本としては到底許容できることではなくて、谷脇からの愛もないと感じて、彼の気持ちを考えるととても辛い。
この辺りから谷脇の思考が、相手の行動の意味や気持ちを想像する上で的外れなものばかりな気がしてきて、違う!そうじゃない!!と叫びたいような気持ちになった。
谷脇…。谷脇ってなんなのだろう。
最初は、嗜虐心の強い男なのかと思っていたのだけど、必ずしも相手を傷つけたいという意図でやっているのではないような。
谷脇にとっての「楽しいこと」がたまたま相手にとっての「辛いこと」だっただけ…みたいな。
それと相手の気持ちを顧みない点。
最初は、相手の気持ちなんかどうでもいいから見ようとしていないのかと思っていたけど、だんだんと「見ない」のではなく「見えない」…本当にわからないのではないかと思えてきた。
谷脇は、人の心がわからない。恋情とか、愛情とか、「情」というものが理解できない。
きっと谷脇自身の中にない感情だから、他人のそれもわからないのだろうなと思った。
松本が谷脇のことを「鬼」だと表現する場面があるけれど、これはとてもしっくりきた。
「鬼」、人間じゃないなにか。
「鬼」が、人間の皮を着て、頑張って恋愛の真似事をしている…その様はなんだか滑稽で、空回り具合に哀しくなってくる。
ラスト、松本への気持ちに気付く谷脇だけど、もう何もかもが遅すぎて、手遅れで、救いのなさに涙がでた。
松本への愛情は、谷脇の「思考」に上がることがなくて谷脇自身が気付かなかっただけで、その深層心理「心」の部分にはずっとあったのだろうなと思う。
でなければ、逃した魚惜しさとはいえあんなにずっと執着しないだろうし、見向きもされないのに声をかけ続けることもしないはず。
谷脇自身がこれに気付く前に松本が逝ってしまったのは本当に辛い。
これは、いち読者の願いに過ぎないけれど、
二人の最後の夜、谷脇の愛情がカケラでも松本に伝わっていたらいいなと思う。
本人に自覚はないし、相手は眠ってしまっていたけれど、「そっと」と表現された動作に私は愛情を見た気がしたから。
同時収録の「Green Green」は実の兄弟で弟×兄。
兄のトンデモな提案から始まり、明るくライトな雰囲気なので、一冊でバランスが
取れている感じがする。
ただ、シリーズの真ん中の巻なので、ここに別の作品が挟まってしまうのはもったいないようにも感じる。
WEED→FLOWER→POLLINATIONの3部作の2作目。
この話だけでもすごくきれいにまとまっていますが、やっぱり1作目のWEEDから読むと谷脇の変わりっぷりが分かるので1作目からがオススメです。
冷血医師の谷脇×気弱な医学生の松本。ゲスの谷脇がたまたま目を付けた医学生の松本に無理やり迫って始まる関係から、2人の心がずっとすれ違ったまま話が進んで、何度読み返しても切ないお話でした。
あと本編に関係ない短編が1作入っていて結構面白かったのですが、これが兄弟ものなので「木原先生勘弁して下さい」という気分でした。ほんと重たくてメンタル来る1冊ので翌日予定のない土曜とかに読むのが良いんじゃないでしょうか。
数々の最低男を輩出してきた木原さんの作品の中でも有名な谷脇を楽しみに読みましたが、人を嫌がらせる訳でもなく(無理やり連れ込んだり酒を飲ませたり浮気しまくったりはします)ベストゲスでは無かったです。表面は良いツラ被って悪態の限りを吐きますが、関係ない人には無害、それどころか外科医のトップです。人が心地よくなる言葉を心を通さずとも選んで囁く、目的の為なら魚(自分の獲物)にエサをやる…彼は時にある種の人間を自分の手で転がす様に操るのは、若干の小気味良さがあります。
そうして落ちてきた松本。流されやすく気弱そうな医大生を手籠にします。
頭脳もテクも囲い込みも上手の谷脇に松本は堕ちてしまいますが、ある行為から本気で谷脇が自分を愛していないと悟り、離れようとします。
どんなに松本が突っぱねても、谷脇は自分が好かれていると信じて疑いません。そのどポジティブさときたら感心するほど。嫌な例えをすると、「この人と付き合っていても彼は私の事がスキ」と勘違いしてしまっている少女のようです。
連絡がなくても自分を諦めたわけではない。
結婚式の知らせ(松本から)がくれば、不倫出来るかもしれない、それもいいかもと思う。
出来婚だと知ると、俺の子(妻も過去手付け済み)を育てたいのかと微笑む。
妻が先立てば、身辺すっきりして俺の元に来られるだろうと思う。
喫茶店に呼び出されれば、よりを戻そうと言われると思って向かう。
…もう、果てしなく夢見がちでポジティブッ!クズで見た目は出来る男の内容がこんな勘違い乙女で、なんだか笑えてきます。
谷脇にとってこのラストは自業自得です。松本には散々な思いをして大変なことばかりの人生だったのが不憫でなりませんが、このオチは短編映画のようなスッキリしつつ鈍い後味が残る絶妙さでした。むしろ監禁して首輪付けてドッグフード食べさせても、車に縛って海に捨てても、木原読者なら許すよ松本。
あとがきでは、このテーマにした曲が「one more time,one more chance」なのだそうです。言わずと知れた名曲で、後悔する資格すら無いような罪深すぎる谷脇。
次のPOLLINATIONに続きます。
見事に順番を間違えた感半端ないですがこのシリーズ初読みです。
『FLOWER』
表題作の攻め…谷脇は皆様の言う通り人間としてぶっ壊れた攻めでした。
フィクションだからこその大前提で言いますが、ほんと好きなんですよね。
玩具感覚で受けを弄ぶこの手のキャラ…。
顔も良く医師というスペックの高さ…仕事仲間として見せる姿は人当たり良く気遣いもでき…傍から見ればいい男。
でも恋人視点で見る姿は最低最悪。
平気で浮気してその証拠をわざと残し嫉妬する受けに気分を良くしつつも君が一番だと甘く残酷な嘘を吐き散らかす。
谷脇にとって松本(受け)は恋人でもセフレでもないただの魚。
エサを手に自分の気の向くまま泳がせる。
まだ使えるうちは表向き取り繕いつつも松本の大切な母親が死のうが知ったこっちゃない。
そんな谷脇の本性に気付き彼に溺れていた松本の態度は一変します。
松本の女性との結婚やら彼自身の病気…
まさかの連続にようやく目が覚め悔い改めるかと思いきや終盤まで彼の本質は変わらなかったところが彼らしく…甘い展開を一つも残さなかった木原先生にはさすがですとしか言い様がないです。
先生の書くドクズは根本からきちんと腐っているというか(笑)ドクズさが一貫していて好きなんですよね。
生半端な展開で心変わりして自分の間違いに気付き受けに許しを乞い再び結ばれ奇跡で受けの病気も治ってもう二度と離さないからと甘ったるい真実の愛を並び立て喜び震える受けとハッピーセックスエンド…なんてことにならないじゃないですか。
いやしかし松本くんに関してはもう…辛みしかない。
これ絶対彼視点きたら心潰れる…と思いきや書き下ろしでグサリときました。
捨てられそうになった飴…それに自分を重ねるそんな彼の幸せはもう永遠に戻らないんだ…。
『Green Green』
いやぁ、好きでしたねこの兄弟。
これまたお兄ちゃんが難ありなキャラしてますが快感に溺れ好きという言葉に酔いしれ弟を手放せなくなる…。
結婚して子どもができて…家庭をもつという理想的で完璧な未来予想図をぶち壊しても禁断ともいえる兄弟同士で愛を育む。
もう彼なしで生きていく自分のビジョンが見えなくなる…ってゾクゾクきますよね。
だからといってモノの見方や自己中さが一気に変わることもなく…
弟が一生懸命作る弁当を捨てていた事実には驚きました。
頼んでいないのにむこうが勝手にやってること。昼はお腹が空かないからこっちも勝手に捨てる…。
でも頑張りを伝え弁当の感想を聞く弟に心が軋み少しは食べるようになる…。
恋人になっても全体的に甘ったるくなることはまずない…それでも少しずつだが確実に変わってはいく。
弟のことを好きだと繰り返す兄にグッときました。
『WEED』も早く読みたいです。
「WEED」で登場した医師・谷脇が主人公です。性悪な鬼男が最後に見せる涙に、愛の不条理さと切なさを感じました。
外科医の谷脇は気弱そうな男子医学生・松本を弄びます。まんまと松本の体と心を手に入れますが、しょせんは遊び。傷ついた松本は谷脇の元を去りますが、谷脇は松本が心底自分に惚れていると疑わず、結婚して間もなく松本の妻が死んだときも、松本を挑発します。しかし、病に侵された松本は突然この世を去ります。すぐに忘れるだろう、そう思っていたのに、気づけば谷脇は雑踏の中に松本の面影を探すことをやめられず…。
「WEED」で、谷脇が悪友・若宮の恋人を揶揄したセリフを思い出しました。「お前にはあいつが綺麗な『お花』に見えるんだろう。俺にとっちゃただの雑草だけどな」。谷脇は、松本のことも雑草程度に思っていたふしがあるのですが、死後何か月もたって、愛していたと気づくのです。本当は大切な花だったと。なんという皮肉。タイトルの「FLOWER」は、松本のことなのでしょうね。作品中、花が出てくるのはただ一度。松本の家の荒れた庭に咲く薄紅色のコスモス。ありふれた可愛い花が、松本の人柄そのものを暗示しているようです。
松本がどれだけ自分にとって大切な存在だったか。死後、谷脇がそのことに気付き始める描写が、衝撃的です。谷脇が何気なく持ち歩いていた松本の小さな遺骨。看護師の「先生それ何、貝殻?」の言葉に、谷脇は、自分にとってのみ、そのかけらが意味を持つことに気付くのです。形見とは、そういうもの。そこにまつわる思いがあるから手元に置きたくなる。そんな当たり前のことに、松本の死後、何か月もたって気づくなんて。
松本の温かい体を抱いていたときは分からなかったことを、死後小さな骨のかけらが突きつけます。なぜ、生きているとき愛は伝わらなかったのか。不条理だと思いました。愛という形のないものを、たまらなく切なく感じました。
「WEED~one day~」は、初詣に行く若宮と岡田の話。わずか4頁の短編に、萌えがギュッと詰まっていました。谷脇にも岡田のような優しい恋人ができるといいなと願わずにはいられませんでした。
「Green Green」は、表題作とは関係のない、ツンデレ兄と体育会系弟の近親相姦もの。可笑しく甘いのですが、表題作とのギャップが大きくて戸惑ってしまいました。同時収録されたのは、お口直しの意味なのかな。
書下ろしの「Passed by~scene2」は、生前の松本の想いを描いた短編。谷脇に愛されていないのは分かっているけれど、いつか…。表題作は谷脇視点でしたので、松本の想いを知って表題作を読み直すと、さらに切なさが増します。作者様の追い打ちにやられた感があります。
前巻同様、書下ろしに登場する人物たちは、谷脇、若宮の恋人たちなのだそう。とすると、今回の自閉症の少年は…。次巻も谷脇のお話とのこと。優しい展開でないことは予想できますが、読まずにはいられません。