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表題作夏の子供

久留米充 サラリーマン
魚住真澄 大学院生

その他の収録作品

  • あの青の中にいた
  • 過敏症
  • マスカラの距離
  • スネイル ラヴ
  • リムレスの空
  • アイ ワナ ビー ア フィッシュ
  • 夏の子供
  • ハッピー バースデイ Ⅱ(書き下ろし)

あらすじ

大切な人を事故で失った魚住真澄は死を意識し、自分にとって久留米充がどれほど特別な存在かを知る。出逢いと別れを繰り返し、人は生きていく。自分の居場所を探しながら。誰かの幸福を願いながら。大切な人を得た時、世界が広がる──。
出版社より

作品情報

作品名
夏の子供
著者
榎田尤利 
イラスト
茶屋町勝呂 
媒体
小説
出版社
大洋図書
シリーズ
魚住くんシリーズⅠ 夏の塩
発売日
ISBN
9784813012023
4.6

(104)

(90)

萌々

(3)

(2)

中立

(3)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
13
得点
471
評価数
104
平均
4.6 / 5
神率
86.5%

レビュー投稿数13

子供のうちに

夏の終わりにふさわしい読書です。
10年ぶりぐらいに読んだかと。あの頃はこの登場人物に目線が近かったはずが、もはやあの人物の年齢を……うん、時が経つのは早い。

久留米みたいなタイプの攻めに弱い。「夏の塩」ではまだまだ大人しかった彼が、ひとたびそうなるともうずっぶずぶで。塩で久留米の「高校生ン時に好きだった女の子にねだられたんだよっ。」ていうセリフがあるんですけど、「好きだった」って言うところが魅力。付き合ってたとか、狙ってたとかじゃなくて「好きだった」という久留米。「夏の子供」では「自分の女が行きたがれば考えるさ」ってセリフもありますね。そんな感じで久留米の挙動全てに雄の色気を感じてしまう。

昔はこんな読み方はしなかったはずなのになぁ。あの頃はもっと泣いた気がしますが、今回は生死にかかわる描写にもかなり冷静になってしまった。若いうちに読んだ方が心に響く気がする一方、フロッピーとか出てくるのよねこの作品。

魚住がおやつを喜んだり、戸締りを確認している様に嬉しくなってしまいます。人間らしくなったもんだ。

そこまで激しい性描写はないのに、この作品は本当にキスシーンがうまい。ラストきっちり締めるようなベランダでのキスが最高でした。

0

この本に出会えた幸運

「夏の塩」に続き一気に読みました。
この「夏の子供」には8の話が収められています。
「夏の塩」同様、いやより多く周囲の人たちの姿が描かれる。
マリとあの女装少年・馨のエピソード、マリの過去、響子のエピソード、魚住が祖父母にきちんと愛されている事、魚住に恋する男と久留米とるみ子とバーのバーテンとの不思議な縁、魚住を犯した男…
そんな色とりどりの物語たちと並行して、または溶け込んで、久留米と魚住が遂に結ばれる事、また魚住がPTSDを発症する事、魚住に留学話が持ち上がる事が描かれます。
底流に流れるのは、「夏の塩」の死寄りの世界観とは異なって、それは久留米と魚住が恋愛関係になった事が大きく関係しているのか、もっと生に未来に向かった魚住の姿。
辛いPTSDも、今まで傍観していた自分の受けた心の傷が生きるために噴出してきたものに思えたし、そうやって現れてきた心の裂け目のようなものを覗き込む時、魚住は久留米の名を口の中で呼んだりもするけれどそこで久留米に縋り付いたりはしない。
留学も、久留米と離れるのはつらいと思いながらも、自分はずっと久留米が好きだろうとわかったからアメリカに行く事を自分で決めるのです。
そして「夏の子供」には、かつての魚住と同じく施設の子供・太一という子が登場します。10才の太一が、魚住の祖父母・岸田家で魚住や久留米、マリ、サリームと過ごす一夏。
この一編は子供の太一目線で大人に翻弄される子供の無力、反比例するような子供の心の強さが伝わってきます。
ラスト「ハッピー バースデイII」では、魚住の祖父の死、濱田の母の死、一方生まれ出でる新しい命の対比。
『死ぬ人もいるけど、生まれる人もいるんだ』
この「夏の塩」「夏の子供」には色んな死の影が横たわっていたけど、最後未来への光が見えるような終わり方で、それでいて今いる魚住たちがいつか陽炎になってしまう事すら暗示して、一層物語世界に深みがもたらされたと感じました。

2

心に刺さる作品

「夏の塩」を読み終わった直後に間髪入れずに読み始めて読了しました。
引き込まれる物語です。
小説は時間の流れをうまく切り取ってシーンとしてつないでいくことで、その世界の空気やキャラの思いや関係性を読者に見せていくと思うのですが、切り取られるシーン、会話、モノローグのどれも素晴らしくてどっぷりその世界に浸かった数日間でした。
読み終わった後も何度も気になる箇所を読み返しました。
バッドエンドが読後にあとを引くのはわかりますが、この作品はハッピーエンド(そう片付けてしまうのも少し抵抗があるのですが、一応ハッピーエンド)でありながら心の深い部分に刺さり、余韻を残します。
また、登場人物がストーリーの中で「友人」「悪役」「当て馬」と言った一面的で記号的な役割を担うのではなく、一人一人が多様な面を見せてくれるところに「人は様々な様相を持つ」という、当たり前のことに読者は気づくことができるのだと思います。登場人物が七転八倒し迷っても悩んでも最善を尽くし人生を進まざるを得ない様子から、物語全体が奥深く確かな質量をもって心に迫ってくる気がしました。
なんというか、作者さんのピュアでクールで熱い、ほとばしるような感性をぶつけられたような、そんな感動がありました。

4

名作でした

レビューでの高評価を見て、夏の塩と合わせていつか読まねばと思って購入。装丁とボリュームから、これはしっかり態勢を整えてじっくり正面から読むべきだろうと、準備ができるまでお預けにしてから一気に読みました。

夏の塩は色とりどりのざわめきという印象に対し、こちらは終始静かで透明な水の印象でした。夏の昼下がりに遠くに喧騒が聞こえる奥まった場所で、建物の壁に水の波紋がゆらゆらと光を反射している中にたたずんでいるような感覚でした。

皆さんの高評価に納得でした。
お祭りでもらう金魚の入れ物につめた水のように頼りなくきれいでした。

この作品は考察したくない。ただ感じていたかった。
考察もできるけれど、それをするべきではないなぁと。

名作でした。

1

ずっと大切にしたい本です。

文庫版でも全5冊持っているのですが、
改めてこの新装版2冊も購入しました。


文庫の方には入っていないのが
書き下ろしの2本。
【夏の塩】収録の「ハッピーバースデイⅠ」と
【夏の子供】収録の「ハッピーバースデイⅡ」。

特に「ハッピーバースデイⅡ」には、
このシリーズでずっと書かれている
生と死がどちらも描かれていて、
光あるラストに泣きました。
悲しい涙ではなくて嬉し涙に近い、
希望ある幸せの涙。
しかもこの話には主要キャラが全員登場していて、
それが恋愛だけじゃない人の絆を
感じさせてくれたから、
私はとても満たされた気分に
なったのだろうと思います。


私は本シリーズを読む以前、
本のあらすじだけ見て
生死が絡む重い話なんだろうなと思って
躊躇していた期間がありました。
しかし、実際に読んでみたところ、
生死の問題はガツンと絡むものの、
ずどーんと重く暗い痛い、
と言い切るような話ではなかったのです。

暗い部分はあるけれども、
魚住の飄々とした天然さは
その設定を重い印象にし過ぎないし、
周りの人物一人ひとりの性格や
彼らの魚住に対する接し方も、
物語をあたたかくしてるという感じ。
恋人・久留米だけではなく、
魚住をとりまく多くの人が
本当にとても魅力的なのです。

久留米の元カノ・Going my wayな美人マリ。
久留米の隣人・印系英国人留学生サリーム。
魚住の研究室の教授・色男濱田。
魚住の元カノ・響子ちゃん。
この人たちもこんな一言で
紹介できるような関係性でもなく、
上手く説明は出来ないから
ぜひ多くの方々に読んでほしいのが本音。

沢山の登場人物の内面に触れて、
「人間って一つのことに悩むんじゃなくて
 それぞれの状況や関係性の中で
 色んな事を思っては考えが変わったり
 変わらないものがあったり
 感謝したりできるんだよな」
と当たり前のことに気付いて
なんだかはっとしては
静かに感動したりするのです。 


だから、もし、以前の私のように
設定の重さゆえに
読むのを躊躇っているという方がいたら、
ぜひチャレンジしてみてほしい。
榎田さんの知的かつ軽快な文章も
とても読み易くて
物語の中に引き込まれると思います。


私はこの本に出逢えてよかった。
ずっと、大切にしたいと思います。

7

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