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表題作天国に手が届く

小田切敬介,27歳,有名な登山家を叔父に持つ
佐和俊幸,27歳,登山愛好家

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

登山が趣味の佐和は、憧れの登山愛好家・小田切に出向先で出会う。だが、彼はなぜか佐和に冷たくて――?
孤独な心に寄り添う、天上の恋。待望のデビュー!
(出版社より)

作品情報

作品名
天国に手が届く
著者
夕映月子 
イラスト
木下けい子 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
ISBN
9784403522628
3.8

(110)

(51)

萌々

(21)

(20)

中立

(3)

趣味じゃない

(15)

レビュー数
23
得点
402
評価数
110
平均
3.8 / 5
神率
46.4%

レビュー投稿数23

愛に溢れた作品

どうしようもなく、愛おしくて愛おしくて堪らない作品に出逢いました。

限りなく澄んだ絆と恋情を目の当たりにして、もはや脳が処理できません。

これほどまでに心打たれる作品なのは、やはり作者様の山に対する愛あってこそなのでしょうか。
作者様の愛が作品の隅々から感じられました。

自分も穂高連峰に魅せられた一人なので、こちらの作品を読んで、今年も絶対に行こうと思いました。
(上高地から眺めるだけですが...)

3作品あるようなので、2作品目以降もじっくり読ませていただきます。

2

山岳BLというジャンル

が、あるのかどうかはわかりませんが、何となく「岳」のイメージでその中で生きている山人の物語だと思うと、山の話も大事なエッセンスなんだなと。

尊敬し、山の師匠だった叔父を事故で亡くし、頑なに閉ざしてしまった心を持つ小田切と、大学生の頃に小田切と叔父の叶の登りをみて魅了された佐和。佐和は偶然出向先で小田切に出会います。一緒に登りたい佐和ですが、小田切には冷たくあしらわれます。たまたま一人で登りに行った壁で先に上にいた小田切が落としてしまった岩で怪我をした佐和でしたが、それをきっかけに小田切との距離が縮まっていきます。

山を好きな佐和ですが、最初は登る姿を技術的に尊敬し、素晴らしいという思いを抱きますが、だんだんそれが単なる山好きの友人の域を超えていく自覚の模様と、気持ちを押し殺さないとならない関係、小田切の方も同じように感じているっぽいのにそれは分かりやすく伝えられない感じ、と萌えるシチュエーションでした。
万事繰り合わせて行った穂高でお互いの思いが通じるところも萌。
小田切の言動が最初から変化していくところも良きでした。

ただただ少し残念なのは、さすがにテントの中で「初めての」二人が出来るのか?!しかも何回も!というところに疑問を抱いてしまい、、、現実にもどされてしまった事でしょうか。これがどちらかが元々ゲイ設定だったり、山小屋だったり、だとマシだったかなとも思いますが。まぁファンタジーですからね(苦笑)

3

夕映先生の書く男たちや山が美しい

先生の山の描写が美しくて、山を愛してらした気持ちが伝わる。
佐和が小田切への想いを自覚したのは遅いけど、人として登山家として強く惹かれてた。叶の言葉もあって、諦めきれなかったのかな。ケガしたのは残念だけど、きっかけができて山に登れたのは良かった。小田切は親代わりの叶の死に傷ついて頑なになってたけど、寂しかったんだよね。それを理解して一緒に居れるのが佐和だった。正に運命の人だと思いました。叶さんも安心してるんじゃないかな。小田切の心理描写には泣きました。強く優しく美しいお話

3

ご冥福をお祈りします。

とても好きな作品です。
山でしかうまく息ができない男とその男の隣にいることを選んだ男。
登山を全く知らなくても緊張や景色が感じられました。

偶然、SSを目にしてこの作品と先生に出会えたことをありがたく思います。

10

山男にゃ惚れるなよ

…とは有名な歌ですが、山男同士ならオールOKじゃん?
なんていう軽いお話ではなくて、とても切なくて良いお話でしたよ。

主人公はかなりガチな山の趣味を持つリーマン・佐和。
偶然会社の社食で、山仲間の間では昔から有名な小田切を見かけ…
…と始まります。
佐和は昔から小田切に憧れていたのでそこで山の話や登山の誘いをするのですが、小田切の態度は異常なほど冷たい。
小田切の叔父は著名な登山家。親代わりで山の師だった叔父を遭難で喪った後は、頑なにパートナーを持たない小田切なのです。
がっかりしたり、悲しくなったり、それでもやはり小田切に憧れる佐和。
突き放しながらも、佐和との山が癒しになっていく小田切。
そんな風に2人は近づいていきます。
視点は一貫して佐和なので、自分だけがこんな独占欲を抱いて、山のパートナーとしてやっと信頼し始めてくれた小田切の心を裏切ってしまっている、と1人悩む描写が多いです。
小田切にこの気持ちを言ってはいけない。
そんな揺れる心で集中力を欠き、小田切の目の前で岩壁で足を踏み外しそうになる佐和。
大切な人を失った経験を持つ小田切にとって、それはどれほどの恐怖だったのか。
『おまえじゃないとだめなんだ』…
2人の魂がつながり合った瞬間に萌え…。

私は本物の登山なんて超人のする事、みたいに思っています。だって絶壁にぶら下がったり。ムリでしょ。
そんな命懸けの極限状態なら、ノンケの男同士でも究極の信頼感や特別感が芽生えるものではないでしょうか。
山での特別感は当然として、ごく普通の日常で小田切が佐和に助けられ癒されて、というBLならではの部分も欲しかったかも。
また、タイトルに「天国」とつくのはこわい。
私の場合先に「あなたを好きになりたくない」を読んでしまっていたので、今も2人は恋人で勿論健在で、ってわかってたけど、終盤ちょっとドキドキしながら読んでました。

1

山の雄大さ

登山を軸に佐和のおおらかさで、頑なだった小田切の心を解してく。
命を預け合う、山の美しさや達成感を共有したい、そう思えるのは特別な相手だからこそ。山岳バディとしての信頼関係を築く過程、この気持ちの意味を考えちゃいけない、でも目を反らせない…と恋を自覚するとこ、しみる!

佐和の負けん気が強いけど素直で無自覚なこと言っちゃうとこ、時おり見せる無骨な小田切の穏やかさ、ストレートに煽っちゃう佐和、むっつりな小田切!!甘いわけじゃないのに二人のやり取りに魅せられる。山の雄大さも素晴らしくて素晴らしくて、爽やかな充足感!!木下けい子先生のイラストも雰囲気に合っててとっても素敵でした。

5

山を愛する男たち

これ、好きです!
こういう世界もあるんだなぁ、男同士の楽しみ方だなぁ……と、登山という未知の世界に引き込まれました。
景色やシチュエーションの描写が素敵。
ご来光や星空、明け方の空、夕焼けの空。
どの描写にも心躍りました。

男が男に惹かれる。
ノンケ同士なのに、それを当たり前のように感じさせてくれた所が素晴らしかった。
小田切と叔父の叶、佐和と小田切、叶と佐和。
それぞれの関係性にグッときてしまって、ラストの小田切と佐和の約束には涙が出ました。

小田切は、ずっと叶を探してたんですね。
そんな小田切が佐和に心動かされ、そんな自分を簡単には受け入れられない……といった、心の葛藤や変化が分かりやすくて共感しやすかったです。

しっかりと心に残る作品でした。
他の作品も読んでみようと思います。

3

すっごく良かった

登山?全然興味ないし……と思ってたんだけど、読んでみたら、ナニコレ!萌える!素敵!が続出でした。

考えてみたら危険と常に隣合わせの登山でパートナーを組むって命を預けるじゃないけど運命共同体みたいなもので、そこには予想もしてなかっためっちゃアツいものがあって目から鱗というか、登山いいわ〜!!山男同士いいわ〜!!と、新しい世界を開いた気分です。

幼い頃から父に連れられて山を歩いていた受けが、学生時代に山で見かけた攻めに憧れ、彼だけを目標にしてひたすら背中を追い続け、どうしたら一緒に登ってくれるか四六時中考えてるうちに恋に変わっていく……
そこに不自然さを感じませんでした。

ノンケが男を好きになるって現実は無理だろ……って思ってしまう自分がいるんだけど、彼の側に居たくて、登山のパートナーとして選んでほしくて寝ても覚めても考え続けているとか、もう恋と同じようなものでしょうと思えたし、その熱さが次第に恋に変わる過程がBLファンタジーではなく血肉の通った感じがして納得できちゃいました。

そして美しい風景描写がとても良かったです。
山に登らずして山の魅力を味わうことができました。

特に夜から朝へと刻々と変わっていく山の景色のシーンが好きです。
その天空のスペクタクルをただひたすら二人で見つめて、言葉を発したのはようやく30分も経ってから…というところが痺れた。
楽しくお喋りができることよりも、沈黙を共有できる存在って何よりだと思うので、この二人の関係性、尊い…と。

幼稚園生でも登れるという山くらいしか登ったことがないので、二人が歩く「奥穂高のジャンダルム」とやらをググってビビりました。
どひー!人間ってこんな所、歩けるんだぁ……みたいな目が点&尊敬の念。

一冊めちゃくちゃ楽しめたのですが、すんごく色気のない感想を一つだけ。
最後にようやく二人が体を重ねるシーン。
登山の途中で悪天候のためにテントを張った中で行われるんだけど、この人たち登山してから何日目?お風呂何日入ってないっけ??というのが気になって仕方なかったです……。
下山してお風呂に入ってからでも良かったと思う……。

6

山でも下界でもいつまでも

山々の神々しさ、美しさ厳しさ。登山家のパートナーの条件などなどとても興味深かったです。

佐和がひたすら小田切に憧れ尊敬し恋焦がれ、叶を失った小田切の心に寄り添いたい満たしてあげたい気持ちがずっと書かれていました。

やっと一緒に登山できて思いがけずいいパートナーでだんだん下界でも親しくなって。

佐和の葛藤が切なかったです。
自分の気持ちを知られたら、また小田切から大切な存在を奪うことになると。絶対に知られてはいけないと。

なのに!なんと小田切が佐和に告白。いや、嫉妬も一度だけ感じましたが。普通にお前に恋人ができても結婚してもお前を最優先するとか言ってたのに。

もうエッチはないかと思ったらテントでちゃんとありましたね。しかも何度も。歩けないほど致したみたいで。

デビュー作なのですね、作者さんの他にもある山のお話ほど萌えがなく。
ひたすら佐和の切なさと登山や山の描写が続きます。佐和の片想いで最高のパートナーとして終わるのかと思ったらやっと最後で告白がありました。

男なのにと苦しむのではなく男だから惹かれた、好きになった、求めた所が新鮮でした。

あとがきの後にも短編が。一生一緒にいてほしい感じが出てました。

1

俺たちゃ街には住めないからに

あれ?
全体の評価は高くて、レビューも多いのに『神評価』は私だけなのね……
確かにLOVELOVEしくはないお話だものなぁ。
でもね、心の全てを山に奪われている2人が、その心情を最も解り合える人に強く焦がれるのは、恋のひとつの形だと思うんですね。

小田切も佐和も、とことん山に魅せられている。
彼らの一番の恋人は、まず『山』なんだと思うのですよ。
でも、山はただ優しいだけの恋人ではないのです。
自分に力がなければその懐に入れない。優秀なアルピニストであったはずの小田切の叔父のエピソードに示される様に、非常に気むずかしくて無慈悲な一面を持っています。
だけど、って言うか、だからこそ彼らの山への熱愛は募ります。
彼らにとって、生きること=山に挑むことになっちゃっている様に思います。

そんな山に挑む時に誰とバディを組みたいか?
登頂した素晴らしい空気を誰と一緒に味わいたいか?
これって、何よりも大切な選択じゃないかと。
だって自分の一番大切なものを、自分の生きる意味を「シェアしたい」と思うことですから。
表だって見える訳ではなくても、実は、とても激しい恋だと私は思いました。

『激しい恋』なんて書いちゃったけど物語の中で2人がするのは、目指すものに対して同じ方向を向いて、お互いに尊敬し合って、相手の傷に気づいた時には大げさに手当をするのではなくそこにそっと手を当てる様な、静かな恋愛です。
そんな風だから、余計痺れちゃったのですよ!
目標を持って努力する人の、ストイックな恋愛模様がお好きな姐さま方に自信を持ってお薦めします。

13

風景描写が魅力的

木下けい子さんの挿絵に惹かれて初読みした作家さんでした。
とにかく風景描写が魅力的で、印象に残るフレーズは思わずメモしようかと思うほど。
恋愛に関しては低温?低調?友情というかバディというか、
無理矢理BLにしてしまったファンタジー感があり少々置いてけぼりにされます。
元々ノンケ設定のようですし、Hシーンも特に色っぽさなどはない文章です。
とはいえ他の山岳作品も読んでみたいと思わされる綺麗な風景描写でした。

3

友情でいいんじゃないだろうか。

イラスト買いして一年程積んでましたが、新刊発売をきっかけに読んでみました。作家さまのデビュー作ということですが、着実にキャリアを積んでいらっしゃるようなので、率直に感想をしたためたいと思います。

ちるちるさんの特集記事にもありましたが、山岳BL初体験。山に魅了された男達の姿がとてもリアルに描かれていましたし、素人のわたしにも山登りの魅力が伝わってきて、胸を躍らせながら読み進めました。

しかしながら、山岳要素が素晴らしいだけに、BL要素が全くそそられないという残念な結果に…。作家さまのBL観というか、萌えポインツが個人的に合わないのかもしれない(泣

男女間ならまだしもです。元々ノンケの二人が、非日常空間である神聖な山で致してしまったとして、下山後も恋情として続いていくものなのか?っていう引っかかりがあるんですよね。普段気の合う者同士が、山登りでも相性がよくて、さらに…♡っていうのならなんとなくわかるんですが、山登りのパートナーとしてかけがえのない人が、人生のパートナーになっていくまでの説得力がわたしには物足りなかったです。

おそらく、二人を繋いだ叶(小田切の叔父)の果たした役割が大きいはずだと思うのですが、描写が少な過ぎました。特に叶を「尊敬している」小田切が、実際のところ彼をどのように思っていたのかが匂わす程度にしか触れられていないので、佐和をフィジカル込みで求めるのが唐突に感じてしまうんですよね。小田切は潜在的なゲイだったのかな。

好みだったのは、小田切が少しずつ佐和の実力を認めていき、叶の存在を通して彼に心を開いていく様子が丁寧な段階を踏んでいるところ。対して、エッチの流れが速すぎです。

どうも小説においてはエロス重視なので、作家さまの萌えに共感できないとどうにも辛いものがありますが、心の深い交流を描いたストーリーはとても好きでした。個人的にはエッチシーンはない方がよかったです。

挿絵が素敵〜。

4

穂高連峰の雄大な景色が目に浮かぶ様です。

なにこの読後の達成感!!
私が山に登ったわけではないのに。

昔会った事のある憧れの存在、小田切を社員食堂で見かけた佐和は思わず声をかける。だが、小田切の反応は冷たいもので、取りつく島もない。一緒に登山をしたいと願うものの、小田切の方は顔を合わせるのも、迷惑だと言わんばかり。
二人の距離が近づくきっかけとなったのは、奥秩父の山。
たまたま同じ日、同じ場所に居合わせた二人。落石により怪我をした佐和を、小田切が手当てして車で病院へ連れて行く。
落石の原因が小田切だったこともあり、彼は漸く佐和と登山へ行くことを了承する。

次の約束を取り付けるたび、嬉しそうな佐和が健気で可愛いです。一歩一歩登るごとに自覚していく小田切への恋心。けれど、それを伝えてしまえば、登山に於けるパートナーではいられなくなる。重すぎるジレンマを抱えながらも、必死で小田切のとなりにいようとする佐和が切ない。

一方、敬愛する叶を失った哀しみをなかなか消化できないでいた小田切は、佐和と登山するうちに少しずつ傷を癒していく。近いうちに、二人でアラスカへ行って叶さんの弔い登山をするんだろうなぁ。

それにしても、酸素の薄い標高三千メートルの峰でよくもまぁ……。

6

デビュー作とは思えないクオリティ

まずこの作品がデビュー作という事実に驚きます。
本当に最近の新人さんは文章が熟れているというか、上手いなぁ……と唸りました。
普通、初読み作家さんはどうしても最初に躓くと、読みにくいという印象が先立ってしまって時間が掛かってしまうのですが、この方の文章は非常に癖が無く読みやすかった。
するするする~とトコロテンを押し出すようなスムーズさとリズムに読んでて心地よかったです。

内容は登山ものです。
BLで登山……まさに初体験(笑)
私個人は登山に全く興味のない引きこもりなんですが、これを読んでると、山の空気や景色などといった、登場人物を通して見る世界がまるで自分にも見えてるような瑞々しい描写でした。
そこに攻と受が出会い、パートナーとなるまでの過程が無理なく描かれていて、さながら恋の山登り(自分の文章センスのなさが恥ずかしい)
いや、本当に険しい山をコツコツと二人が登っていく様子が、まるで徐々に【恋人】という山頂に向かって歩んでいるような感じなのです。
途中で休憩を入れたり、滑落しそうになったりもしますが、そういったものを全て乗り越えた先に見えた景色に涙ぐみました。

私も登山したくなっちゃった! なんてことはやっぱりないですが、それでもこの二人の見る景色をほんの少しだけ分けて貰い、元気が出ました。
これといった大きな事件が起こるような話ではないですが、たまにはコツコツゆっくりと楽しめるようなものもいいと思います。

でもね、エッチの最中に今1合目だとか8合目だとか言われたら吹いちゃうから。小田切さん、すました顔でムッツリだわ……と確信。

6

男って可愛いと感じました

夕映さんのデビュー作だそうで。
うーん、あまりのレベルの高さに脱帽です。
木下けい子さんのふわっとしたイラストが、山というハードさを緩和させ身近に感じられました。


受けの佐和は学生時代から登山が趣味の、なかなかのイケメンさん。
昔から羨望の眼差しで見ていた攻めである小田切を出向先の会社で見かけ、ファン心理のような気持ちで対峙する。

攻めの小田切はというと、登山の、そして人生の師でもあった叔父の叶が消息を絶ち、そこから時間が止まってしまったような生活を続けている。
今では単独クライマー。

叔父を亡くした後の小田切は、ひとりでトレーニングして、ひとりで山も登る。
完全にシングル。
パートナーは叶以外いないと、心を閉ざしています。
そんな小田切へ食いついて行くのが佐和。
彼も言うなれば山男。
諦めは悪く、粘り強い。
コツコツトレーニングをつみ、小田切とともに行っても迷惑をかけたくないという一心で登る。

佐和のベクトルは叶に過去にかけられた言葉もあり、自分よりも遥かに力のある小田切に対する憧れもあり、そして想像していたよりも初対面の最悪さもあり、始めから向きは決まっていた感があります。
が、小田切の方はクライミング中のトラブルを佐和と切り抜けたことで、やっと存在を認めたようなものなのかも。
ただ、ふたりの相性や山の好みが驚くほどあい、そこから小田切のベクトルが徐々に佐和へと向き始めた感があります。

男の子って一緒の趣味で盛り上がってくると、女の子なんてどーでもよくなっちゃう生き物なんですよね。
佐和なんて課の女の子に誘われても小田切優先。
何度か一緒に山へ行き、片方が行けなくともその話しを聞かせ、また、次の相談。
後半は、はたから見たら完全にパートナーですよね。

なんといいますか、ハッキリとしたカップルになる前のふたりの登山の様子が本当にリアル。
経験なくても山肌の感じや匂いを感じるような文章はすごいですね。

母が登山(というか山登りという可愛いいていど)経験があります。
「キツイけど、最後達成感がある」と話していたことがありましたが、わたしは「お母さん、マゾだね」なんて心の中で思ったものです…
この本を読んで登山してみたい!とはナマケモノ代表のわたしは思わないのですが、自分までその場で佐和達と一緒に経験しているような景色が頭に浮かんできてたいへん満足でした!

10

美しい山の景色が見えるような、美しい作品。

まだ2作しか著作のない作者の夕映さん。
木下けい子さんの美しい挿絵に惹かれて手に取ったこの本は、文章も素直で読み易く
最初に読んだ時に「これがデビュー作?」とビックリしました。
山の蘊蓄もイヤミにならずに盛り込まれ、登山経験がなくてもその空気が伝わってくる。

すごく好き!と絶賛お勧めで、貸し出していたのが返って来て
この度再読したので、レビューを書く事に…w

            :

佐和が、憧れていた小田切と出会い、登山と人生のパートナーになっていく物語。
大自然を背景に、二人がゆっくりと近づいていく過程が、丁寧に描かれている。
小田切の不器用で頑固な心を、ゆっくりと解きほぐしていく佐和が柔らかく見えて男前でいい。

叔父であり登山の師匠である叶を失った小田切の傷。
叶を奪った山に他者と登る事で、小田切の心が再生していくのがこの物語のテーマだ。
「また山で笑える日がくるなんて思ってなかった」と言う小田切。
叶が消息を絶ってからの年月、孤独の中で苦行のように山に登り続けてきた小田切が
再び山で光を見いだす。

その透明な光の感じと、木下さんの挿絵がすごくよく合っていて、話を盛り上げる。

残念だったのは、山でのトラブルの後気持ちを伝えあってからの駆け足の展開。
はぁ?って思ったが、こういうのってBLのお約束でなくちゃダメだったのかな?
(あの、テントでってw いや、シャワーもないし、
布一枚ですぐ近くに別なテントもあるでしょうしーw 
山での疲労は命取りになるし、下山するまで待ちましょうよ〜っ?)

と、個人的にはそこがマイナス☆一つでしたが、「好きな作家さんをまた見つけた!」と
嬉しくもなった作品でした。



11

爽やかな読後感です

たぶん好きだろうなと思ってずっとお取置きしていた作品です。
やっぱりお気に入りになりました。
主人公の二人が出合ってから次第に心を通わせていき、
唯一無二の人生のザイルパートナーになるまでを丁寧に描いてくれています。
こちらが思わず引いちゃうような作り過ぎな設定もないし、
わずらわしいほどのあてうまや外野もいない。
淡々とエピソードを重ねていってくれて、
二人の気持ちがゆれながらも少しづつ寄り添っていく過程が自然でした。
まあ本当の山男の世界はもそっと汗臭い感じなのでしょうが(笑)、
ちょっぴり夢を見せてもらいました。
マークスの山とかクライマーズハイとか、
山がキーポイントのおはなしはそれだけでも切ない感じになりますが、
それだけに頼っていない作者さんの文章そのものにも好感がもてました。

6

2人であってもあたたかい孤独

むき出しの自然に相対する時、人は紛れもなくその身一つ。
畏怖と感嘆を覚えると同時に、自身が一個の生命であり
突き放され包み込まれるように孤独を感じるのでしょう。
それを誰かと共有できる僥倖を
四季折々の山々の情景と登山の描写に重ね、
まるで読者も共に登坂しているかのような心持ちにさせる程、
さり気なく感覚に訴えかける繊細な物語でした。

単独で臨む者、グループを組む者とスタイルは人それぞれですが、
登山においてパートナーを組むという事は
互いの命を預け合うことと等しいのです。
隠れる場所がない自然界で、生きる力と信頼が2人を結ぶ
唯一で強い絆。互いの力が釣り合ってこそのパートナー、
そんな相手に巡り会えるのは運命に近いもの。
始まりは登山という共通項でしたが、全幅の信頼を築いてきた
佐和と小田切が、恋愛においてもパートナーとなるのは
もはや必然だと思えるのです。

登山の師で育ての親同然の叔父を亡くした事で
頑に心を閉ざした小田切が、一人延々と山を登ってきた
年月には言いようも無い寂しさを覚えます。
側で見守る佐和がそれを感じ取り、愛おしさを抱き
寄り添いたいと願うのはとても自然なことに感じました。
山では無二のパートナーとなっても、それ以上を求めてしまう
葛藤と惹かれ合いの加速が心地よい。
自身の気持ちはあまり語らない小田切が、思い出を語り
掻き口説くように言葉を伝える場面が染み入ります。

最後の一文でタイトルに繋がった時は身震いしました。
それは空に吸い込まれそうな言葉。
誘われる様に天を仰ぐ2人の姿が目に浮かびます。

8

山の魅力にとりつかれた男二人

「一度、山の魅力にとりつかれた者は、
一生、山から離れることはできない。」
「山登りは他のスポーツと違って生死がかかっているので、
共に山に登った仲間同士には特別な絆が生まれる。」

先日までwowowで放送されていた
「マークスの山」というドラマに上のようなセリフがありまして、
「なんか、山ってエロいよなぁ~。」
と、思っていた矢先にこの本の存在を知りました。

そして、読了後の今、
「やっぱり、山ってエロいわ」と思っています(笑)。

内容は尊敬する登山家であり親代わりでもある
叔父の死のショックから心を閉ざしていた小田切が、
佐和と時間を共有することで少しずつ心を開き、
互いに思い合うようになっていく、というお話です。

小田切の「一人は気楽だが、お前と一緒のほうがいい」という
セリフがこの物語の全てを表しているように思います。

頂上に辿りついたときの達成感は、
一人でも感じることはできるけれども、
大切な人と一緒に感じたら、より大きな喜びになる。

その心は、、、
一人でイくのもいいけど、一緒にイくほうがいいよね?

違うとは言わせねぇ(笑)。

すみません。
すんごいエロエロなお話だと思われたらすみません。
エロ度はかなり低めですので、あしからず。

9

山に登ってみたくなった!

いや、現実的に考えたら今の私の環境では無理なんですが…ww
でも本当に登山がしてみたいと思えるくらい面白かったです!
実は最近某ソロアルピニストの影響でちょっと登山に興味があった所だったんで、今回の内容は私的にとてもタイムリーなお話でした^^

一瞬の油断が命取りにもなりかねない登山において、互いに信頼し合い自分の命を丸ごと預けられるパートナーと出会えるのは本当に稀で貴重な事なのだと思います。
最初は小田切の叔父・叶の事故死が原因でなかなか打ち解けられずにいた2人。しかし一緒に山へと登るようになり、数々の難所を共に乗り越え、その先に待ち受ける感動と達成感を共有することで互いに惹かれ合っていく姿はスゴく自然で当然のような気がしました。特に佐和の場合は元々小田切が自分よりも技量の上回る憧れの存在であっただけに、意外にも相性バッチリな彼に運命を感じてますます傾倒していくのは必然的だよな~と共感させられました。
まぁだからこそか…そのお陰で憧憬か恋情なのか自分でも区別できず恋だと自覚するのに時間を要したわけですがww
その点で言えば堅物設定の小田切の方がまだ分かりやすかったかも?(笑
不器用だけども、根は真面目で素直な人なんだと思います^^初めは叶に対する嫉妬心から佐和に辛くあたってた小田切ですが、少しずつ佐和を認め、閉ざした心を氷解させていく姿に胸がきゅうぅぅ~ん!
ただ2人が結ばれる際の彼の豹変ぶりには唖然とさせられました!(爆
何の躊躇もなく、積極的にリードしていく小田切はホント「べ、別人じゃね!!?」と疑いたくなるような変わり様でした…いや、もしかしたらこちらが本来の小田切の姿かもしれませんがww

正直、恋愛に発展するまで内容の大半以上を費やすのでラブストーリーとして読むなら少々焦れったい展開かもしれません。
ですが登山経験者の作品だけあって山に対する思い入れや愛情がたっぷり詰め込まれおり、恋愛部分を差し引いてもスゴく楽しめる作品になっていると思いました。
ちょっとした言い回しとかも何気に山関係に喩えたりしてて、新鮮で粋な感じww
個人的には限りなく神に近い萌えです!

私は小説の殆どが作家買いメインで滅多にジャケ買いしない方なんですが、今回は久々の大当たりでした!
今後、作家買いリストに加えられるのは間違いないかと思います^^
次回どんなお話をお話を書かれるのか今からスゴい楽しみですね!

8

あぁ……作家買いになるな

 雑誌「小説Dear+」で、一度掲載された作家さんですね。新人賞で、賞を取れなくてもその時トップだった作品が掲載されるのです。
 で、その作品がちょっぴり切なくて、Dear+っぽくて(いい意味で言ってます)、それなのに上位の賞を取れないんだ……デビューできないんだ、と残念に思った記憶があります。

 でも、今回単行本が出て、読んでみて、よかったーーーーと思いました。
 デビューしたんだ。これからも読めるんだ、と。

 しつこくないくらいのトラウマと、さわやかなイケメンと、山の美しい風景と、少しのすれ違いと、心が近づいていく様と……。
 ピュアで、嫌なところが全然なくて、とっても好みの作品でした。
 疲れたときに、さらっと読んで、癒される作品だと思います。

 作家買いしたくなる作品だったので、これからも期待です! 楽しみな作家さんが増えるとうれしいですね。

9

登山を知らなくてもおもしろいです

本格登山を舞台にした作品です。
これがデビュー作の作者さん、ご自分でも登山されるとのことで、山の描写が愛情持って生き生きと描かれているので、山のことを全然知らなくても,惹き込まれておもしろく読めました。

前半は、佐和が、最初は「憧れ」の存在だった小田切と何とか近づき、一緒に山に行けるようになり、登山のパートナーとしての相性の良さを感じ、同じ課のかなりレベルの高い女の子からのアプローチよりも小田切を優先して、、、
佐和の小田切へ向ける気持ちが、どんな感情から来るのか、佐和は、なかなか気付かない。
むしろ、無意識的に、気が付かないようにしている。

そんな佐和が、山上での小田切の言葉で、自分の中にあったのは、恋愛感情だと一気に気付くのです。

ここから、翌日の山行、雨の中のテントと進む、物語の山場がとってもいい。
前半がゆったり丁寧な、恋愛以前の話の展開だっただけに、なおさら。
山上で、テントの中で、初めてでいきなりは、BLファンタジーが過ぎる展開かも知れませんが、この二人の気持ちの盛り上がりとしては、すごく納得がいく。
いざとなれば背負って山を降りるっていう小田切。
まだ1日余裕があるから大丈夫っていう佐和。
この二人が結ばれるのが、この場所で、この状況だからこそって、共感する。

なかなか爽やかな、いい青春小説を読ませて頂きました。

8

登山経験のある人には共感を呼ぶかも?

作者さんの山好きが伝わってくるデビュー作品でした。
この題名、すごくよくわかるんです!
三千メートル級の山に登って夜空を見上げると、吸い込まれるように、夜空にまるで自分が墜ちていくような感覚にとらわれ、まさに天国に手が届く♪
子供の頃は、その星空を見て、星に手が届くんじゃないか、ひょっとしたらポケットに入れて持って帰れるんじゃないか?と手を伸ばした記憶が・・・
そんな自分の体験もあり、すごくこの世界観に同調することができました。

山のぼりは自分との戦いでもあるのだが、登頂したその気持ちを分かち合う相手がいるのは尚嬉しい。
ましてや難所の多い山をアタックするには、バーディはいたほうがいい。

唯一の登山パートナーだった登山家の叔父を亡くしてから、たった一人できた小田切に、
小田切にあこがれたことのあった佐和が、偶然出向先の会社で一緒になったことから声をかけたのが出会いのきっかけです。
叔父の話を出した途端不機嫌になり、佐和を避ける小田切。
でもある日、クライミング中の落石事故をきっかけに最初はしようがなく、
次第に次々と一緒に山へ登り出す二人。
互いのペースがあっていて、山への想いも一緒で、一緒にいることが自然で、心地よくて、だんだんともっと一緒にいたいとおもうようになる佐和。

小田切が叔父に執着し、いつまでも想いを残している姿が切ないです。
ものすごく偏った、愛情に不器用な人なんです。
たった一人で登山する、そのこだわりも、叔父の死を受け入れられないということから。
ひょっとすると小田切は、登山家として、親が代わりとして、片想いの相手として、叔父を愛していたのかも?と思うのです。
そんな心酔していた叔父が、偶然佐和と接点があり、小田切に佐和と一緒に登ることを勧めていた、という部分で佐和へ嫉妬を感じていたのかもしれませんね。
小田切目線の描写がないので、憶測ですが、それが感じ取れます。

佐和はそこそこ男前で、出向先の新入社員の女性に好意を持たれています。
この女性が、いつも休みの度に佐和と小田切が山へ登ってばかりいて、ちっとも自分の誘いを受けないので、佐和へ文句を垂れるのです。
そこで、うっすらと感じていた小田切への気持ちがひょっとして?と思い始めるのです。
たかが登山を一緒にする仲で、そこまで・・・とは思うかもしれませんが、一緒に時間を共有して、一緒に感じて、一緒に苦労して、その時間が濃密なほど、相手を意識してしまうのは自然な流れに思いました。

夏休みに彼等がチャレンジする穂高縦走は難所コースです。
気を抜くと事故に繋がります。
小田切への想いでモンモンとする為に、事故しそうになる佐和。
その晩、初めて小田切の無器用な告白がありました。
いやー、登山中のテントの中で初体験、、しかも挿入ありってか!?
そこは驚愕でした@@!
やばいよ、やばいよ、、せめて下山して温泉で・・・とかにして欲しかったデスww

しっかり、がっつりの山男物語、自分が経験あることだけに、楽しませてもらいましたv
一作目は好きなモノを舞台に描かれましたが、次回作はどんな風になるのか、次が本当の実力を見せる作品だなとはおもいました。

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