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リアルにいそうで、でもちゃんとフィクションな絶妙なキャラクターを描くのが上手な(個人的感想)の里つばめ先生の短編集でした。魅力的なキャラクターが本当にたくさん出てくるので、短編集という短い話でもどれももの足りない感じが一切なく楽しめました。
どのお話もラストまで描くのではなく、勝ち確にも見えるような2人がもしかしたらこの後またこじれるかもしれないし、恋愛には発展しないかもしれないし、ちゃんとラブラブになるかもしれない、そんな「この先は想像にお任せします」というラストで締めくくられているので、短いお話でも無理矢理起承転結を収めた感じもなければ、あーもっと先が読みたい!と思わせてくれるような魅力が詰まっているのではないかと思います。
本当にどのお話も1冊の単行本にしてほしいくらい面白かったし、本当に日常に潜んでいそうな描写が多くほっこりしました。
◆風待ち休暇(表題作)
都会暮らしで溜まった鬱憤を、まったく景色の異なる田舎で晴らす。誰しも一度はやってみたいと思ったことがあるのではないでしょうか。そうしてやって来た山岡を釣りやBBQに誘いつつ、強引に連れ回すわけでもなく来てくれたら一緒に楽しむ。そんな緩いスタンスで親しくなる年下のアキラの存在が、とても癒しに感じられました。感情の伝え方も素直で、山岡との環境の違いも意に介さず、かと言って不愉快な言動もなく、相手の懐にいつの間にかすっと入り込んでしまう、彼のキャラクターが素敵でした。
◆加賀英明の少し特殊な日常
一番お気に入りの作品です。とにかくお堅いリーマンの加賀が可愛い。仕事もできるし義理堅いし、恋愛スキルを除けばこんなにいい人はいないというレベル。一方で、恋愛に関しては好きという感情もまだよく分からない初心者。デートはきっちり予定を組んで、行くレストランや映画の情報は前もって調べておくべきという考えだった彼が、偶然出会った男子学生の宮坂と出かけることで、誰かと一緒に過ごす本当の楽しさを知っていく流れがとても素敵でした。結局こうしなきゃ、ああしなきゃと思っている内は、恋愛じゃなくて最早仕事なんですよね。会いたいから会う、一緒に過ごしたいから過ごす、簡単なようで実は得難い気持ち。やっぱり自然な出会いっていいなぁと思わせてくれました。
里先生初読み。
短編4本。
どのお話も爽やか〜✨
絵がきれい。
表題作はリーマンが無職になり流れを変えようと海へ行き爽やか君と出会う話。
「加賀英明の少し特殊な日常」が特におもしろかった。
リーマン加賀は潔癖症で超生真面目、恋愛経験なく婚活のため恋愛マニュアル本で研究しては失敗を繰り返す。
大学生の宮坂と出会い、好かれて、初めて人を好きになるという。
加賀が通勤電車の中でも恋愛マニュアル本を読む天然だし、宮坂はそんな加賀のいい所を純粋に好きになるまっすぐな奴で。ピュアピュア感がよかったです
◆何と言ってもお気に入りは「加賀英明の少し特殊な日常」
どうして彼みたいなピュアっピュアが精製されたのか。彼のこれまでの半生を是非とも知りたいものだと思う。この作品を丸っと表題作で読んでみたかった。それくらい好き。
加賀さんの様に、神経質な人を描く場合。どうしてもそれは他者を受け入れ難いキャラだったりして、キーキーギャーギャーうるさいツン過多のツンデレがステレオタイプだと思う。
ほんの少し枕が歪んでいるのも気になってしまうほど神経質なのに。
モヤっとしたりするものの。他者が自分と違うということにイラついたり自分の価値観を押し付けたりしない。先輩に紹介された女性にサッサと帰られてしまい、ガッカリするだけだ。そしてマニュアルに頼る。人の機微に疎い。そのくせ優しかったりする。
『人と会うというのは予定であって、それ以上でもそれ以下でもないと思うんだが…。』
そんな風に考えた事が無かったから。私はビックリしてしまう。
そんな風に生きられたなら。心波立つ事なく生きられたなら。
宮坂くんが加賀さんに「癒される」というのがしっくりくるのだ。何かと世話を焼く鈴木先輩もいい。「まぁお前の良さは女には伝わりにくそうだもんな。」と大らかに肩を叩く。
いやー、伝わってるよぉ。と、私は心の中で叫ぶ。
加賀さんの頭の中が宮坂くんで占められるとき。彼は初めて恋をする。
その時。私の心の中は加賀さんでいっぱいになる。うーん。この可愛い人のその後をとても見たかったのに。無情にも物語は終わる。
◆表題作の「風待ち休暇」は、それに比べて薄味だ。
32歳でリストラに遭い、鬱屈していた山岡さんは不意に思い立って海辺の町に行く。
やる事も無くぶらぶらしていた彼は、地元の青年・アキラに懐かれ、彼の人柄に絆されて行く。描き下ろし「晴れた休み明けに」では、いよいよ山岡さんがアキラの地元に引っ越す決意をしたみたい。けれど、ニートだった山岡さんが次に何をするのかは未定。
風を待つには長過ぎないか。
◆表題作と少しテーマは似ている「春を待たずに」
就活中の学生、佐野は焦っていた。内定を決めたら、先輩に告白しようと思っていたのに。
全く気配が無い。連敗中である。そんな佐野に葉山さんは変わらずカッコ良くて優しい。
入社が決まらないのは縁が無かっただけ。合うところはきっとある、そう励まし続ける優しい先輩の、言葉の意味を知るとき。佐野は自分の進むべき道を知る。
迷ったり、焦ったり。彼等もまた「風待ち」をしているのだ。
里先生のリーマンたちの、スーツの佇まいが好き。
◆「壁越しに住む人」
浪人中の横山は隣人の音に悩まされていた。しかも隣の部屋には色んな人が出入りしている。何者なんだろうかと興味から魅かれて行く。
彼は役者を目指す男だった。
人懐っこい彼と過ごす内に、これまで友人と呼べるほど懐に人を立ち入らせない、立ち入らない横山は、彼のことばかり考えていることに気付く。会いたい、寂しい。
彼もまた恋する前の「風待ち」をしているのだ。
短編で綴られるには惜しくて。彼等の「風待ち」後を見てみたい。
評価はもちろん全て加賀さんに「萌2」を捧げる。
里つばめ先生は短編もお上手ですね。
どの話も素晴らしかった…。
私は里つばめ先生の作品をほとんどコンプしたと思いますが、里先生の描く世界には最初からゲイって人が少ない(いない?)のでは…と記憶しています。
(GAPSの片桐はバイと言ってますが初めて好きになった男が長谷川さんでは?と予想しています。)
ただの男がたまたま巡り合わせた男と恋に落ちる。
腐女子の見果てぬ夢です。
一体いつ好きになったんだろう…性的にも!?とびっくりしますが
里先生の描きだす世界の男達(特に攻)は、たまたま好きになった人がたまたま男であっても
性の壁の前でウジウジと悩んだり立ち尽くしたりしない潔さを持っていて、すごく爽やかです。
私が特に好みだったのは、『加賀英明の少し特殊な日常』前後編です。
細部まで緻密に作り上げられた加賀さんの世界は清く正しく
読んでいて心が落ち着きます。
村上春樹の本に出てくる規則正しい主人公のルーティンワークのように、加賀さんの日常は計画的で愚直なほど。
加賀さんはともすれば面白みのない人物になりそうなのに、人が良くてどこかずれていて大胆なくらいの素直さを持っていてキュート。宮坂君が加賀さんを好きになっていく様子が読んでいるこちらにも伝わってくるところが上手いなぁとつくづく思います。
宮坂くんから告白されてキスされてパニックになった加賀さんが、職場の上司に相談するシーンは、彼の真骨頂というか…。女性を紹介してくれた上司に同性の恋愛について悩んでいる。なんて言えませんよ普通…。素直に言う加賀さんもすごいし、上司?の方のアドバイスがフェアですごく素敵でした。
恋愛はマニュアル通りにはならないことを思い知る加賀さん。
ラストシーンは大変ロマンチックでドキドキしました。
続きが読みたいです…!同人誌でも良い…!
繰り返しますが、短編全てがとても良いので、全力でおススメします。