• 紙書籍【PR】

表題作贖いの月

セキュリティ会社の社員 松田仁志 26歳
自分に罪を課す会社員 舘岡孝志 29歳

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

弟の死に囚われ罪悪感を抱く孝志は、満月の夜に偶然セックスをした松田に口説かれて恋人になった。愛欲に塗れ満たされた時を過ごすが、松田から死んだはずの弟は自分だと言われ……。

作品情報

作品名
贖いの月
著者
鹿能リコ 
イラスト
高橋悠 
媒体
小説
出版社
白泉社
レーベル
花丸文庫black
発売日
ISBN
9784592851042
3.2

(14)

(2)

萌々

(6)

(3)

中立

(0)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
4
得点
43
評価数
14
平均
3.2 / 5
神率
14.3%

レビュー投稿数4

愛と憎しみの復讐ホラー

まさかよもやの大ドンデンが待っておりました本作。
とっても怖いです。
そしてラストのエンドは、これが幸せというのか?果たして・・・ネタバレにチェックは入れてありますが肝心の大事な部分にはふれておりません。
それはとても重い重い足かせを付けてしまった因果応報ともいうべきか。
復讐が無意識の復讐を呼んだのか?
サイコサスペンスな風味があり、追い詰められる主人公が瞬時に壊れて行く様にゾーっとします。
これは萌えとはいわないのですが、そのゾクゾク感がたまりません。
幸せなハッピーエンドを望む方にはオススメしない作品ですのでご注意あれ。

土地成金の東北の家に生まれた兄弟の孝志と弟の仁志。
父親の暴力と浮気と、姑の苛めにより兄弟が小さい頃母親は首つり自殺してしまいます。
神経質でよく泣く仁志は祖母や父親からうっとうしがられ、兄の孝志はそんな仁志を母親代わりのようにして面倒を見てきました。
そして祖母がなくなり父親は愛人を嫁に迎え、兄弟とは折り合いは大変悪くなっていたのですが、孝志は大学進学のために上京。
弟は何度も親と衝突をし、不登校気味で荒れたりもしていましたが兄を慕っていました。
そんな夏休み、弟が兄の元にやってくるのですが、帰りたくないと言う仁志をたしなめると仁志は本当は兄が好きだったと押し倒してくるのです。
彼を拒絶したために仁志は、予定より半日早い前日の夜中に孝志の家を出て行き、そしてそのまま行方知れずになるのです。
そして3年後、偶然同郷の友人から知らされた弟の死。
親に問い合わせても、冷たい鬼のような言葉が・・・そして孝志は必死で仁志を探していた3年間、ひょっとして彼はゲイでは?という疑念から何度も訪れていたハッテンバで、自分を罰する為に男に身をゆだねるのでした。
それから7年。
弟殺しの罪を背負ったまま月に1度自分を罰する孝志の目の前に現れたチンピラから救ってくれた松田という男との出会い。
お礼にと関係を持つのですが、彼は孝志を気に入ったようでまた会おうというのです。
そして孝志の勤める会社に客として訪れる松田と再会してしまいます。
強引にデートに誘われた晩、同じ店に来た会社の上司と女性社員の不倫現場で鉢合わせし、松田の強気の発言が彼等を挑発してしまい、車で追われてしまう。
そこで松田の住むマンションへ行くことになるのだが、そこで大きく孝志の運命が変わるのです!

本の帯には「弟に抱かれるなんて許されるわけがない」とありますから禁忌モノなのは確かです。
なので、この謎の男松田の正体がキーポイントなのですが。
孝志の心の葛藤が手に取るように分かります。
他人ならいいのです。
ここまで頑なだからこその結末です。
そして孝志を追いこむ松田の飴と鞭が恐ろしいです。
懐柔して孝志の心を惹き寄せて置いて見せる手の内。いや、手のひらを返すような行動。
彼等の両親の姿がそのまま繰り返されているのかとも。
金曜日の夜から日曜日の昼までのたった2日間の出来事。初めての出会いからしてもトータル10日余りの出来事です。
サスペンス要素が強いので肝心のネタバレはしません。
とてもとても怖かったです。
冷めた目で見てしまうと陳腐なのですが、愛情と憎しみが混在する姿だからこその復讐は、罪を背負ってずっと生きてきた彼には衝撃すぎたのです。
禁忌であるがゆえの恐ろしく暗い深淵をのぞいたようです。
これもまた禁忌であるからこそ効果があるのだと思います。
萌えとは違う次元で、こんな思い切り暗い作品が出たのを少し喜んでこの評価です。

7

幸せで残酷なラスト

何でも「愛」で折り合いがつくものじゃない、ダメなものはダメというブレなさが小気味よいというか。
強引に甘いラストにせず、暗く重いテーマを最後まで貫く姿勢に好感がもてる作品でした。
サイコホラー/サスペンスな展開を経て、たどりつくラストにはゾクッと。
(ある意味幸せだが)残酷なエンディングで落とすことで、
捻じ曲がり、すれ違う愛の切なさが際立つ。そこにある種の萌えが感じられる・・・気がします。


主人公の孝志にとって、男と関係をもつこと=弟殺しの罪を贖うこと。
裕福だが愛情のない生家で、自分が母親のように可愛がってきた弟の仁志。
そんな仁志に好意を向けられ、拒絶してしまったのが10年前。
それ以来家を出た弟とは二度と会えず、死んだことを人伝に聞かされる。
弟の死への罪悪感から、男に抱かれるためハッテン場に通い続ける孝志。
ある夜、松田という男が自分をチンピラから救ってくれ、礼として身体の関係をもつことに。
セックスは罰でしかないのに、優しく抱いてくる松田にはどうしようもなく快楽を感じてしまう。その後も自分を口説いてくる松田に、恋心を抱くようになるが…。


孝志が愛せるのはあくまで「松田」。
タブーや過去の罪を感じさせない相手だからこそ、素直に愛情を認めることができた。
しかし、松田の正体と本性が明かされると…?
恐怖や罪悪感にも関わらず、虐げられるようなセックスに感じてしまう、
近しい血が混ざり合うような一体感を感じてしまうジレンマ。
孝志は、愛と罪悪感との間で追い詰められ、意外な行動に出ることで、
(偶然にせよ故意にせよ)その二つの感情にひとつの答えを出した。

見つけた瞬間永遠に消えてしまった愛情と、新たに生まれた罪。
痛み分けとも言えるエンディングには、怖さ以上に切なさを感じます。

孝志が松田に対して苦しんだように、
松田もまた、異様なまでの愛憎と執着を向けられる相手は孝志だけ。
そんな二人が迎えるラストには、
「相手じゃダメ」と「相手じゃなきゃダメ」という相反する感情に、それぞれが折り合いをつけた(つけざるをえなかった)ことが見てとれて悲しい。

代償つきではあるがハッピーエンドだし、バッドエンドだとしても安息は確かに生まれた。ホラー/サスペンスとしては月並みなラストかもしれませんが、BLでこんな結末が書かれるとは全く予想外でした。当初のプロットから大幅に変更し(byあとがき)愛と罪というテーマの両方を最後まで書ききったことを評価したいです。

6

かなり捻りのある作品

複雑なストーリーと、どうなるんだろうという期待のあるサスペンス風のお話でした。最初は弟攻めの兄弟ものなのかな・・・という出だしに、兄弟もの好きな自分は期待でドキドキしたのですが、兄弟ものというノリは最初だけ…

弟に押し倒され、でも気持ちを受け入れられず、突っぱねてしまった孝志。弟は部屋を飛び出していき、その後遺体で発見されます。
孝志は罪悪感から満月の夜になると男性に自分をめちゃくちゃにさせる日々。
そんなときに出会った松田というサラリーマンに惹かれていくものの、弟に対する罪悪感から、自分は男性の恋人を持つなんて許されないと思っています。

ストーリーだけ見ると、弟に対する罪悪感から解き放たれて、新しい男性の恋人に傷を癒されていくという再生の物語りなのかと思いますが、後半からは意外な展開に。
その、後半からが一番肝心な部分であると思うのですが、ちょっとトントン拍子過ぎるのが勿体ないと思います。
えーそうなの?!、とか、なんでこんなことに?とか、色々思うのですが、如何せんちょっと説明不足かな、とも思います。前置きが長すぎたのかも…。

ネタバレを極力避けますが、ラストは好みが別れそうです。
こういうラストは無難、とは言えなくてチャレンジなラストで面白いなーと思いますが、作者さんがあとがきに書いていた「もともとこうしよう」と思っていたという無難なラストのほうが後味は良かったかもしれません。
でも最後まで飽きずに読めたという点は良かったです。
もう少し起承転結がしっかりできたのではないかと思わなくもないのですが、孝志の思考の変化も作り込まれていて面白いと思いました。

果たして松田は残酷なのか、へたれなのか…キャラがイマイチぶれてきて自分の中でつかみにくかったのは残念かも。
軽いですがSM要素があります。愛があるので痛々しくはないですが、苦手な方はご注意な作品だと思います。

2

1度死んで生まれ変わる

今回の花丸blackは2作品とも兄弟がテーマで弟攻めな作品でしたが、こちらの方は
ガチ兄弟で、弟の方が父親や亡き祖母からの虐待に近い扱いを受けて育ち
更に兄弟の母親が夫のDVや姑の苛めに家の庭で自殺をしてしまった過去がある、
かなり重い設定なのですが、その後父親は再婚するが、一人先に大学進学で家を出ていた
兄で受けになる孝志のアパートに長期の休みの度に父親や義母と折り合いの悪い弟は
毎回やってくるが、同じ母親を持つ兄弟同士仲が良くて、弟が兄へ依存気味で
その思いが膨らんで兄に欲情込みの思いをいつしか抱き、ある日休みが終わる日に
些細な事で言い争いになった挙句、弟に抱かれそうになってしまうが、
拒絶し、そのまま弟はいなくなってしまい、3年後に遺体で見つかる。

弟を殺したのは自分だと思い込み、弟がいなくなった晩の月夜に見知らぬ男に
乱暴に犯され、痛めつけられる事で弟への懺悔の気持ちを消化しながら
半分生きる目的を失ったような状態で日々生きる兄。
そして月夜の日にまた、見知らぬ相手に痛めつけられる為にハッテン場へ赴く兄。
そこでゲイをバカにしているようなチンピラに絡まれ、危ういところを助けられ、
何故かその相手を一目見た時に今までに感じなかった思いを抱く。
後から考えればそれが姿形は変わってしまったけれど弟だとどこかで気が付いていた、
そんな風に感じてしまう感じでしたね。

別人として現れた弟、何も知らずに身を任せる兄、弟は兄へ異常なまで執着していて
更に過去に虐待の被害を受けた側なのに、自分の正体を兄へ告げた後の兄に対する
行為はその忌むべき親の血をまぎれも無く受継いでいる感じで、被害者が加害者になる
DVを受けて育った子供が大きくなって同じことをするようになる感じでした。
それでも、兄に対しての過ぎた思いが、愛していると同じくらい憎んでもいるような
過去に兄から拒絶された事を恨んでいるような感じでしょうか。

そして、兄は弟から憎まれていると苦しみ悲しみ、禁忌の関係に次第に心が麻痺していく。
追い詰められた兄は次第に亡き母親の自分を重ね、自分もこのまま死んでしまうのかと
恐怖するようになり、追い詰められ過ぎた兄は全てから逃れようと空へ舞う。
でもそこで思い出すのが、弟を本当に可愛いと愛していた事、そして欲情も確かに
覚えた事があると言う事。
生真面目で争い事が嫌いな日和見的でそれでも優しい兄、禁忌の関係を受け入れる事が
どうしても出来なかった兄のとった最後の行動。

とてもハッピーエンドとは言い難い結末で、今度は弟がその罪を一生背負う事になる
生まれ変わった見知らぬ者と共に、そんな風なラストを感じ、幸せを感じない終わり方。
きっと読み終えた後に感じるのは薄ら寒い恐怖の後悔かもと思える作品。
それでもどこか毒を舐めてみたいと思わせるストーリーかもと思います。

7

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(小説)一覧を見る>>

PAGE TOP