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表題作スローリズム

矢萩,高校からの親友
水森,矢萩と親友関係

あらすじ

水森に毎週2回必ず電話をかけてくる矢萩は、高校のときからの付き合いで一番身近に感じられる友人。だが、高校生の頃、ゲイである事を告白した矢萩はすました顔をして「安心しろよ、おまえだけは絶対好きにならないから」と、言い放った。あれから十二年、その言葉どおり水森と矢萩はずっと友達でいるが……。単行本未収録作品&書き下ろしで待望の文庫化!

作品情報

作品名
スローリズム
著者
杉原理生 
イラスト
木下けい子 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
発売日
ISBN
9784344812970
3.8

(108)

(43)

萌々

(21)

(35)

中立

(4)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
28
得点
408
評価数
108
平均
3.8 / 5
神率
39.8%

レビュー投稿数28

本当にスロー

何回も読み直すほど、大好きなお話です。
CDも聴いているので、本を読む時も前野さんと野島さんで脳内再生されるので、お得な本なのです。

ジリジリと中々進まない二人の関係。
そのジリジリを楽しむ本だと思って噛み締めながら読んでいます。

攻めの矢萩の長い片思い。
高校生の頃から社会人まで。
意地を張っての「お前だけは好きにならない」
と言い続けるのは、大変だ〜
受けの鈍さがしんどいと言えばしんどいのですが、それがまた良いんです。
電話でのやりとりが大好き。

0

もどかしくてえずきそうになりました

はぁ…余韻が凄いことになってます。
恋愛って、こんなにも不穏で不確かなものなんだなと、じわっと実感させてくれる作品でした。不器用な2人の長い長いもだもだに、ドキドキしてしまいました。

水森(受)という人は、言ってしまえば綺麗な顔以外はいいところがないんじゃ…というか、人の心の機微や空気を読むということができないタイプで、そもそも恋愛向きじゃない人なんですよね。ゆえに、そんな人を好きになってしまった矢萩が、一生報われなくても、水森を失いたくないという気持ちが切なすぎました。

ところが、晴れて(?)お付き合いをはじめた2人「スローリズム2」のほうが切なさが凄かったですね。正直、これ矢萩視点でも読んでみたいです。あまりに長い間片想いして、相手を尊重しすぎて、気持ちを正直に伝えることを無意識に躊躇している矢萩の心の痛みがめちゃくちゃ伝わってくるんです。あれこれ考えすぎて、相手の気持ちがわからなくなって、近くにいるのに遠くに感じてしまう心の距離、もっと、簡単にラブラブしてくれや!って叫びそうになりました。いくら会話を重ねても誤解を生じてしまう状況で、身体を重ねて得られる感覚のほうにお互いの気持ちを実感し、安心してしまう2人の関係性はもどかしすぎて、えずいてしまいますね。

抱き合っている瞬間の幸福が日常になかなか根付かないというのは、ある意味、恋愛関係の本質を描いているような気がして、”好き”とか”愛してる”とかいう甘い言葉よりも、水森が気づいた「幸せでも不幸せでも矢萩の隣にいたい」という気持ちの切実さに、恋愛を表現した杉原先生は素晴らしいなと思ったのでした。

1

焦れったいけど、良かった

タイトルからかなり焦れったいんだろなぁと覚悟してたけど、本当に焦れったかったです。

二人のやりとりを読んでて思い出したのは「表面張力」って言葉。
いつコップの水が溢れてもおかしくないギリギリのところにいるのに、極度のヘタレ攻めと鈍感受けという組み合わせなので、奇跡のような表面張力が働いていて溢れてこない。

焦ったさを期待して読んだくせに、友人から脱却しそうでしない二人にウガー!となりかけたけど、なんどもお預けをくらった末のご褒美ターンは非常に甘美で美味しかった。

中学時代からの付き合いで、攻めからゲイだと打ち明けられた時の「お前だけは好きにならない」という言葉が引っかかってる受け。
攻めの気持ちは友人達が気づくほどで判りにくいわけではないのに、受けには変化が見られず、攻めに同情する友人達がついつい嫌味を言いたくなるくらい。
受け自身もあえて目を瞑ってるけれど、何かとついつい考えてしまうのは攻めの事。
なのに「お前だけは好きにならない」という言葉を心のストッパー代りにしちゃってるという面倒くさい人です。

攻めは飄々としているかのように見えて、実は生半可ではない重い気持ちをポロリポロリと見せてくれるところがたまらなかった。
受けは「換えのきかないもの 失うわけにはいかないもの」だから、本音は言えず、つい冗談みたいな言葉でごまかしてしまうんです。
好きすぎて手も足も出せないというやつ。
だから受けから「俺に言う事があるだろ」「いいかげん俺が好きだって白状しろ」とまでけしかけられても言えないんです。

この「言えない」というところが、私は好きだった。
いつもの私なら、「このヘタレがっ!」と憤死確定なんだけど、この攻めは「言えない」というところに好きが詰まりすぎてるのがヒシヒシと伝わってきて、愛おしさすら感じました。
だからこそ、どこか高みの見物じゃないけどお綺麗なところにとどまっていたような受けが、言えない攻めに代わって自分から言うという展開が超絶良かったです。

それにしてもこの攻め、好きだなぁと思います。
これから初めてというときの「お前に嫌われるようなことはなにひとつしたくない」とかホントいい。
こんな気持ちを抱えながら12年間、遠くに離れていても週2の電話を掛けて繋がっていたかった攻めの気持ちを考えると、泣けてくる。

「スローリズム2」は転職で東京に戻ってくる攻めが新居を探す話なんだけど、受けの鈍感力が壮絶に発揮されていて攻めが不憫になりました……。

友人の新婚家庭にお邪魔した後に攻めが「うらやましくなかったか?」と受けに聞くんだけど、てっきり受けから「俺たちも同棲したくなっちゃった」という言葉を引き出すためかと思いきや……そっち……(涙)
攻めの「好き」という気持ちが、常に私の予想を超えた重いものを見せてくれるところがとても良かった。
受けのことがどんだけ好きなの?と何度思ったことか。

「スローリズム」という通り、この二人にはこの時間が必要だったのだなと思います。
そしてヘタレな攻めが自分からついに申し出ることができたというところも感慨深いです。

この受けのどこに男二人を引きつける魅力があるのか、いまいちわからなかったのが残念なのだけど、着地点がとても良くて読んで良かったなと思います。

3

低温低速なのにラブラブ

少し古い作品も電子書籍のおかげで手に取りやすくなりありがたいです。
今回はあらすじの「お前だけは絶対好きにならないから」という一文がとても良いフリだなあと思って購入してしまいました。ジャケ買いでも作家買いでもなく、あらすじ惚れです。

結果大当たり。大好きです。このテンポ。この日常感。男女問わず普通のカップルが抱えそうな葛藤もありながら、ちゃんと二人は大人の男なんです。そこに中学時代からの思い出が重なることで至極の物語になっているんです。…一見全く地味なんですが。

命の危機も、記憶喪失も、世界の滅亡も、悪魔も妖精も魔法使いも、何もなくても美しくドラマティックなBLはあるんですよね。なんてことのない日常は、二人がいることでこんなにも愛おしく、切なく、狂おしく、幸せになれると感じさせます。

やっぱりお互い他人ですから、ちょっとした考え方の癖は違うし、でもそこを噛み合わせていって、いつの間にか、お前じゃないとなんか変だ、落ち着かないってなる、そんな愛の形が見えます。低温低速なのにラブラブです。

付き合いだしてから、二人が些細なこと(二人にとっては大問題なんでしょうけど)で喧嘩っぽくなったときに矢萩くんが有耶無耶にベッドになだれ込むところが大好き。大好きと不安がぐちゃぐちゃになって葛藤している攻は良いですね。水森くんもベッドでは可愛いけど、芯は強いし、周りを振り回しちゃっているし、これはいつまでも矢萩くん苦労するわーって思います。でもお互い一番大好きな人と暮らしていけるっていいなあと思いました。ごちそうさまです。後輩の堀田くんもちょうどいい当て馬加減でとっても好印象です。元カノの今彼の暴走を冷静に分析している水森くんも好き。あと、やっぱり電話のシーンが良いです。冒頭から「え、これで付き合ってないとか嘘でしょ?」という自然な空気感。後半からは離れた距離が心を縮めるという現象を小説でここまで体現できるとはという感動もあります。

もっとこういう日常BL増えないかなー。

3

なぜかときどき読みたくなる

もだもだ焦れ焦れ大人の恋…みたいなものが読みたいときに取り出す一冊。
感動した!萌えた!神!って興奮する感じではないけど、ふと思い出して読みたくなる不思議な引力があります。

何度も読んでいると、片思いする攻め・矢萩の気持ちを分かりながら受け・水森視点を読むことになるので、読むたびに切なさが増します。水森の無自覚な矢萩への信頼がチラ見えするだけで萌えるので、たぶん矢萩に肩入れして読んでいるんだと思います。一途な矢萩がとても好き。
水森への言葉の節々に、優しさだったり怖さだったり矢萩の臆病さが見え隠れしている。読む回数を重ねるごとにそこがよく見えてくるので、何度も読んでしまうのかなあと。少なくとも初回だけでは分からない魅力がたくさん落ちている作品だと思います。

付き合うまでも付き合ってからも、小さな歯車がことごとく噛み合わないふたり。小さなことでこれだけ長くもだもだし続けるふたりなので、絶対的な安心感を持って読み終われるお話ではないです。たぶんこれからも小さなことで散々すれ違ってしまうんだろうなあと心配が残る。それでもちゃんと少しずつ近付いているのは確実で、はたから見ればずっともどかしいんだろうけれど、そんなことをずっと続けながら気が付けば還暦ぐらいまでいってそうな空気感があります。
すぱっと腹をくくれそうなのは水森の方ですが、残念ながらそこまでいかずに終わってしまいました。その先の想像というか妄想をかきたてられるのも魅力の一つなのかもしれません。

木下けい子さんの挿絵も淡い作品の雰囲気にぴったりで好き。これからもふと思い出してはときどき読んでいるんだろうなあという大好きな一冊です。

0

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