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表題作愛の巣へ還れ!

七雲翔
19歳→20歳、大学2年生(医学部)、ハイクラス種タランチュラ
藤見千翠
21歳、大学3年生、性モザイクでロウクラス種のフジミドリシジミチョウ

その他の収録作品

  • 俺と、母さんと、好きな人
  • 翔くんとしたいこと
  • あとがき

あらすじ

ロウクラスでフジミドリシジミチョウ出身の藤見千翠は、生まれたときに母を、17歳で父を亡くし天涯孤独になった。
生きる気力を失いながらも、自分を愛してくれた両親のために、人並みの寿命を生きねばともがいていたある日、大学でハイクラス中のハイクラス・七雲翔と出会う。
千翠は彼のことを以前から知っていた。
性モザイクという特殊な体質の千翠だったが、翔はその性モザイクのための薬を開発した医師の息子だったのだ。
翔とひょんなことから交流ができた千翠は彼に惹かれていくが、翔からは「シジミチョウ出身者とは仲良くしない主義」と線引きをされてしまい!?
タランチュラ×性モザイクのシジミチョウ。原点回帰のムシシリーズ最終巻!
2026年5月刊

作品情報

作品名
愛の巣へ還れ!
著者
樋口美沙緒 
イラスト
街子マドカ 
媒体
小説
出版社
白泉社
レーベル
花丸文庫
発売日
ISBN
9784592877516

ちるちる評価ランキング

1

4.8

(30)

(28)

萌々

(0)

(1)

中立

(0)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
8
得点
143
評価数
30
平均
4.8 / 5
神率
93.3%

レビュー投稿数8

集大成でもあり、新しくもある至高の一冊!

個人的にBL沼に入るきっかけとなったムシシリーズの最終巻ということで、久々にBL小説を開きました。
ずっと楽しみにしていたけれど、思い出のシリーズが終わってしまうのは心から寂しくて、1頁1頁大切に読みつつも二人の物語に目が離せず頁をめくる手が止まらず...!!

この巻からでももちろん楽しめるようにはなっていますが、攻めの翔くんが1作目の二人の子だったり、設定が1作目を踏襲していたりと、過去作を知っているとニマニマできる要素が多かったです✨
特に、1作目の二人と今作の二人の関係性の差を思いながら読み進められたことが印象的でした。長年作品を紡いでくださったからこそ、時の流れを直接感じながら楽しめました!!実際1作目が発売されてから、今作が発売されるまでの時間は、今作の主人公である翔くんと千翠くんが生まれてから作品世界にたどり着くまでの時間とそう変わらない訳で...。
そう思うと、親のような気持ちでも読むことができました!

ムシシリーズには珍しいくらいの真っ直ぐな優しさと信念に溢れた二人だなと感じました!すれ違うこともありますが、互いの過去もあり、理性的で誠実な対話によって困難を乗り越えていく二人が大好きでした。
だからこそ、「好き」を伝えるのに苦戦する姿も本当にかわいくて!!!!!!
感動的なシーンとキュンキュンが抑えられない部分がどちらもたくさんあって、最後の最後に最推しCPを更新しました!!!!!

私の人生で巡り会えて本当に良かったかけがえのない作品です。
完結を見届けられて嬉しかったし、このシリーズに出会えてなかったら私はBL沼にいませんでした!
凄く大切で一生大好きな素敵な縁です!

1

受け継がれていく想いと願い

本作は上位種の大学生と
性モザイクの大学生のお話です。

生きる事に望みを見いだせない受様が
攻様の出会いで生き方をかえるまでと
それぞれ視点での後日談2話を収録。

遥か昔地球に栄えた文明は滅亡し
人類は生き残るために節足昆虫と融合し
弱肉強食の起源種の特性から
ハイクラスとロウクラスに分かれています。

受様はハイクラスの父と
性モザイクのロウクラスの母の間に生まれ
フジミドリシジミチョウが起源種の
性モザイクとして生まれます。

雌雄混合の性モザイクは体が弱く短命でしたが
近年は根治治療できる薬が開発され
人並みの寿命が享受できるようになります。

受様の母の存命中にはそこまでの薬がなく
受様は誕生時に母を亡くしましたが
父は受様を大切に育てくれ
4才からの根治治療も順調でしたが

父が事故で亡くなった17才の時に
友人のオニヤンマによるアウティングと無視
という虐めで体調を崩してしまうのです。

大学生の今の体は生きるだけでやっとなのに
(受様感覚では)元同級生はハイクラスの自分なら
受様に許され受け入れられると思っているようで
大学でも何かと絡んできて受様の疲弊させます。

そんな時に偶然学内で元友人をも凌駕する
メキシカンレッドニー・タランチュラを
起源種とする攻様が友人との会話を
偶然耳にします。

攻様の父は性モザイクの治療薬開発に
人生をかけている内科医で
攻様も医学生です。

友人は攻様が父の研究を引き継いだら
性モザイクも普通に長く生きられるかもと
冗談めかした言葉に攻様はこういうのです。

長く生きたから幸せとは限らないだろう
幸せな人っていうのは
たとえ短い寿命だとしてもその寿命分
生きたって胸を張って言える人だ

父が亡くなってからずっと
明日が来なくても構わないと持ってきた受様は
胸を張れるような生き方をしていないと
思うのです。

受様はどうしたら胸を張って
生きられるようになるのかと考えますが
超有名人の攻様に問うことはできません。

そんな時に哲学科の教授が顧問を務め
受様も所属している学術書を読む読書会に
攻様が入会してきて・・・

「愛の巣へ落ちろ!」から始まるシリーズ最終巻で
タランチュラの攻様とシジミチョウの受様の
擬人化ファンタジーになります。

ムシシリーズ完結おめでとうございます♪
初刊から追いかけてきましたが

先生のXのシリーズ最終巻という告知と
原点回帰との設定で1巻カプの愛息の話だと知って
彼の母が死がうっすら想像してしまいまして

まずはあとがき、番外編2話
本作と逆順で読了したため心穏やかに
愛息君の恋を読せました ヾ(≧▽≦)ノ

起源種のカップリングだけでなく
受様が性モザイク故の苦しみを背負い
受様が攻様の言葉で生きたいと願い
攻様が受様との距離を測りかねるところなど
様々な点で1巻目カプと重なる点があり
読み応えるある1冊でした。

受視点で進むために受様にとって
攻様の言動は一貫していないよう見えます。

今回逆読みにより
攻様の言動の裏に攻様父の過去がチラホラ見え
受様に近づきたくないという
攻様の気持ちもわかりはしましたが

攻様の言葉で生きたいと思い始めた受様が
より気ずついてぐるぐるしていく様子に
胸が締め付けられました。

好きだからこそ傷つくのです。
嫌いな相手なら理解される事すら放棄できます。

それでもお互いを放す事ではなく
共にいる事で悲しみも苦しみも乗り越え
幸せな思い出を重ねていく未来を選んでくれて
本当に良かったです。

0

込み上げてくるもの

ファイナルの主人公が、1巻カプの息子というだけでもう泣けます…!
ところどころで翼の容態が思わしくないのかなと
感じ、まさか"最期"の描写があるのではと
かなりヒヤヒヤしました。
あとがきにもありましたが樋口先生が考え直してくださってよかった!ありがとうございます泣!
千翠には丁寧に話す翔の垣間見える口の悪さと
裕のぷんすかキャラに笑い、
千翠の"お誘い"には悶死しました。
後見人がマヤマヤ、買ってきてくれたケーキがオウタ・シラキといううれしすぎるゲスト出演もあり、
時代の流れを感じつつまた1巻から読み返したくなりました。

2

色んな意味で時代の変化を感じた

ムシシリーズの最新刊発売されるって知って喜んだのもつかの間、ファイナル?!
えーーーーっ。寂し過ぎる。。゚(゚´Д`゚)゚。
いろんなカップルでお話読みたかった…。テンちゃんの事も気になってたし。。。

ラストを飾るカップルはメキシカンレッドニー・タランチュラの七雲 翔とフジミドリシジミチョウの藤見 千翠。澄也と翼の息子じゃないですか!
そうかー、一周回って七雲家でフィナーレか…。
表紙がもうさー、澄也と翼かと勘違いしちゃいましたわ。

翔くんさ、澄也の遺伝子強すぎ!そんで、好みも父に似過ぎだって!

物語は、千翠視点で進みます。
2人は親世代の物語と同じ星北学園出身、現在は附属大学に進んでる。ひとつ違いの先輩後輩。翔くんのが年下の医学部所属。千翠は何学部かな?書いてたかな?

見た目が澄也と翼に似ていて通う学校も同じだったけど、時代が変わってて、澄也みたいな治安の悪いハイクラスは居ません。十代特有のイライラを持て余して相手取っ替え引っ替えしてそこいら中で盛りまくってたんよ、澄也って。今でこそ弱者の味方、短命なロークラス性モザイク治療のスペシャリストになってる愛ある人物だけどさ、翼と出逢わなければトンデモない悪人だったかもしれない。

でもね、翼と澄也に愛されて育った翔は見た目は澄也そっくりだけど全然違う。優し過ぎて悩みに悩んでる。(だいぶマザコン)病弱なシジミチョウの性モザイクの母がいつこの世から居なくなるか、その時自分は耐えられるのかをずっと気にして生きてる。
これ、10周年特典冊子にも書いてあったエピソード。

ぶっちゃけると、
・天涯孤独で病弱で生きる意味を悩んでた子に光が与えられ相手の為に強くなろうと思えたお話
・無くす事を恐れて手に入れない選択をしようとするけど、やっぱり手に入れる事にしたお話
です。

親世代のシリーズに比べると刺激はないけど、現代っぽい悩みでリアルさを感じました。
プライベートな事をみんなに暴露される(アウティング)や、弱者に優しくする(交際相手に選ぶ)強者である自分は善良な人間と周りから思われるべきだとか、一瞬そこまで悪い事じゃなくね?と思ってしまいそうになるけど、よくよく考えたらダメな行為やん、思いやりより自分軸でしか物事を考えてないやんってのを分かりやすく描いていました。

長いシリーズだとこんなに価値観が変わるんだなとびっくりします。(特にここ数年での変化は目まぐるしい)

でも、変わらないものもあります。それは伝えないと伝わらないって事。心に秘めて我慢してたらダメ。嫌な事も相手に伝わるように伝える。好きだと思う気持ちも伝える。キスより先に進みたい気持ちも伝える!です。口は災いの元でもありますが、言わなきゃ伝わりません。言ったら壊れてしまうならそれはそこまでの関係だったって事で。

286ページで思わず涙しました。

そして、書き下ろしの翔くん視点のお話
【俺と、母さんと、好きな人】
無口でクールに見せてた翔くん案外子どもっぽくて可愛くていい子でもっと好きになりました。

以前何かで樋口美沙緒先生が「オニヤンマの出てくる話書きたい」と言われていて今回オニヤンマの木戸が出てきましたが、あんまりムシの特性が出てなくて残念でした。今は人前でムシ特性を出すのはタブー視されてるって作中に書かれてましたもんね。

また先生気が向いたら木戸メインのお話どうですか?(人物には1ミリも興味持ってないですが、オニヤンマに興味アリアリです!)

3

幸せについて

実を言うと、画像や写真を見るのも無理なくらい、昆虫そのものがとても苦手だったのです。
あれはムシシリーズの第1作目が発売された頃。
「虫を擬人化したお話とはどういうものなのか?」と、言葉を選ばずに言えば、大変失礼ながら怖いもの見たさで手に取ったのが始まりでした。

ひとたび本を開けば、そこには自分が知らなかった世界がひろがっていて、虫ってこんなにもおもしろい生態を持っているのか!と興味津々に。
身近なチョウやアリ、画像を開くことに少し勇気がいるタランチュラやスズメバチ…挙げ始めればキリがありませんが、作品をきっかけにして虫の生態を調べ始め、あれほど苦手だった虫が今ではすっかり「ちょっと好きかも」に傾いています。
樋口先生が描く、それぞれの種の特徴を生かしながら、時に生きることの苦しみや愛とはなにかを問い、まだ知らずにいた新しい扉をトントンと叩いてくれるムシシリーズが大好きになりました。

そんなシリーズも最終巻。
澄也と翼で始まり、翔と千翠で終わる。
原点回帰の文字に納得というか、この組み合わせで物語を閉じることほどしっくりくるものはないなと思います。

マイノリティであること、なくならない世の中の偏見や、どうしたって相容れないなにか。
生きることや死ぬこと、幸せな人生とはなにか?
主人公である千翠の小さな肩には、常にずっしりと重たい生きづらさが纏わりついています。
けして最終巻だから幸せ、ではないんですよね。
千翠視点で読み進めるからか、この苦しい状況からなかなか脱することができないのです。ぐるぐると悩みます。
心理描写が丁寧だからこそ読んでいて苦しいです。
なので、萌えかそうじゃないかだけで考えると微妙なところだなと思ってしまった箇所もありました。

しかしながら、そこは樋口先生作品。
苦しんで悩みに悩んで、彼らがやっと見つけられたひとつの幸せの答えが本当に沁みたんですよ。
最後まで追いかけられて、読めて良かった。この一言に尽きます。

今作の攻めがあの翔だということも効いていて、翔と千翠の関係がすぐに上手くいくかというとそうではないんですね。
翔に恋をして一喜一憂する千翠の姿はかわいらしくも切なく、その一方で翔の両親の事情を知る読み手側としては、翔による千翠への一歩引いた態度も理解ができるわけで…上手いなあ。
千翠には愛し愛されて生きる幸せを感じてほしくなり、翔には愛することを怖がらないで生きてほしくなる。
どちらもどこか心に脆い部分を持った人物だったことがとても好ましかったです。
お互いの強いところも弱いところも見せ合いながら、大きな手と小さな手を取り合って末長く幸せに暮らしてほしい。
きっと彼らなら、彼らなりの幸せをその都度感じて生きていってくれるはず。

どこまでも誠実な翔が見せる、後半の怒涛の愛情深さに胸を打たれ、その後の翔視点の短編で見え隠れする等身大の彼の姿がなんだか愛おしくてたまりませんでした。
なにせ父親があの人ですから、これから千翠を愛してやまない溺愛攻めになるんだろうなあ。
これまでのシリーズを読んでいた人なら、あっとなるサプライズもあちこちに散りばめられていてうれしかったです。

生きることや幸せについて真剣に向き合った素敵な最終巻でした。
シリーズの終わりが寂しくないと言えば嘘になりますが、また彼らに会いたくなったら何度でも会いに本を開きたいと思います。
素晴らしい作品をありがとうございました!

3

ムシシリーズファイナル!原点に立ち戻る愛

性モザイクの千翠、タランチュラの翔との恋。シリーズファイナルとして素晴らしい物語でした。先生も仰ってたけど最初のムシシからは時代にあわせて色々とソフトになりましたよね。

ただ千翠に言い寄る木戸のひたすら話の通じないストーカーってこういうやつのことだろうなというキャラクターの気持ち悪さ。樋口先生さすがだなぁ。何を言っても通じない、周りは木戸のイメージに騙されて受け入れない千翠がおかしいと持っていくのがまた恐怖で!いわゆる性的な関係の強要ではなくて精神的に追い詰めていくタイプの登場人物を出したのがうまいなと思いました。

翔は両親の姿を見て育ち立派な青年だなと思いました。翔を苦しめたのが翼の状態なの切なかったですね。自分は千翠の人生を背負えるのか、母親のことで動揺もしているのにと考えるのは当然のこと。翼の状態を見てカイコガの郁は今どうしているのかそのことも気になりました。

愛する人には長く生きてほしい、でもいつか死を迎えるその日まで自分が生かしていく支えていくという覚悟をするのは並大抵のことじゃないですよね。でも恋をしてしまったら、やはり離れられないよね。色々と諦めていた千翠が生きていていいんだ、生きようと思えたことが何より嬉しかった。

虫には何の興味はなかった私、むしろ今も苦手だけど先生の書く物語に引き込まれ夢中になりました。特にファイナルは生と死を見つめた物語としてとても印象に残りました。なんだか、泣けてしまった。素晴らしかったです。

7

右手に愛を左手に孤独を、そして。

シリーズ最終巻と銘打たれた本作、正直「ついに」という思いで一報を受け止め、本を手に取りページをめくりました。
表紙や帯を見て察してはいましたが、目次が目に入り「ああ、翔のお話なのだな……」と改めて知り、覚悟を決めて読み進めました。

今私の中にあるのは、この物語「愛の巣へ還れ!」への気持ちと、この虫シリーズへの気持ち、そしてこの20年を経ての変化に対する寂寥感です。本作単独のレビューは他の方にお任せさせていただいて、今の正直な気持ちを綴らせていただきたいと思います。
※ネタバレになることも触れますので、シリーズ未読の方はご注意ください。






過去の作品にも何度か拙いレビューをさせていただいているのですが、私はこの虫シリーズは「孤独と愛の物語」だと思っています。
シリーズに登場するどの子も孤独を抱えています。
いろいろな子達がいました。
その多くが家庭的あるいは身体的事情を抱え、孤独の中に立ちすくんでいるロウクラス(時にハイクラス)の受の子たち。そして受の子達だけでなく、全能に見えるハイクラスの攻め達もまた、暗い孤独を抱えている。(もちろん、そんな簡単にカテゴライズできない子たちばかりですけど…あえてこう書かせていただきました。)
己の孤独を弱さと思い、またそれに無自覚ゆえに、受の孤独を通して己の弱さを感じさせられることに反発し、残酷な行いをする攻め達。そしてそんな攻め達の弱さを受け入れる強さを持つ受達を見てきたように思います。


誰にも分かってもらえない寂しさ、たった一人で荒野に放り出されているような寒さの中で生きている二つの魂の出会いとその化学反応。
人は孤独ゆえに愛を求めるのか、愛するから孤独を感じるのか。
でも愛する人を得ても孤独は消えない。愛する人を得るからこそ、孤独を深く感じる事もある。
だからこそ、右手に愛を、左手に孤独を抱え生きていくのだと教えていただいた気がします。
その孤独の共鳴に私自身の孤独も癒されるような気がして、何度もこのシリーズを読み返してきたのだと思います。



今作は先生が「原点回帰」と仰ったとおり、第一作の主人公である翼と澄也の息子・翔と、性モザイクの千翆の物語でした。
翔が大人になった世界なので、澄也が作ったロウクラスの子たちへの薬が普及し、千翆はかつての翼のように命の灯が今日明日消えるのではないかと怯えるような状態ではありません。
しかし、両親を失った孤独が千翆の魂を侵食している…。
それに加え、ある理由から治療が停滞し幸福に生きることを希求しながらも己の生に意味を見出せないでいる千翆は、父に深く愛された記憶ゆえに「ただ一人に愛されたらこの孤独は癒されるのではないか」と願う。
そんな彼の前に、性モザイク治療の第一人者である澄也の息子でありハイクラスの中でもトップクラスのタランチュラとして有名な翔が現れ、ある事情から「恋人の振り」をすることになる。
かつて、翼の事情を後から知り後悔と選択を重ねて進んだ父・澄也。それに対し、両親の姿を通じて愛する人を失う恐怖を嫌というほど知り尽くしながらもその上で千翆を受け止め傍にいることを選んだ翔。
その対照的な強さと弱さが印象的でした。

そんな翔の言葉に力をもらい、千翆は生きていくことに恐怖を抱くのをやめ前を向きます。
翔には「強くあろう、揺らがないでいよう」という意志の太さを感じつつも、両親を愛しているがゆえの揺らぎも見えます。
二人にはそれぞれの強さがあり、弱さがあり、それを互いに詳らかにでき、受け入れ支えることを決める。
「愛する人を得ても孤独は消えない。だからこそ、右手に愛を、左手に孤独を抱え生きていくのだと教えていただいた気がします。」と私は前述しましたが、二人の互いの魂の欠けた部分が埋まっていくような関係性にもう孤独が忍び寄ることはないと信じています。
二人はシリーズ最後にふさわしい関係を結んだと思います。



本作から読み始める方もいるでしょうが、多くの方はシリーズを追いかけてここに辿り着いたはずです。
きっと、物語の背後に流れる「もう一つの物語」を感じ、その陰に涙したのではないでしょうか。
少なくとも私はそうでした。
初読時はその気配が気になりすぎて、胸が一杯になりながら読みました。(個人的な事ですが私の最推しのキャラ郁ちゃんとその相手陶也の事に一言も触れてくださらなかったことにも感謝しております)
読み終えた今、先生のこの選択に心から感謝しています。
二度目に読んだときやっと二人に集中できた気がします。(その意味では、ごめんね翔、千翆)

シリーズ全てが私の宝物です。



最後に、今作を読みながらずっと心にあった言葉を。


「ああ、先生、先生は今、幸せでいらっしゃいますか?」

私は彼らに出会えて幸せでした。と。


9

愛の巣へ落ちて、愛の巣へ還る。最高のシリーズファイナルをありがとうございます

シリーズ1作目の『愛の巣へ落ちろ!』カプ、
澄也×翼の息子、翔(かける)の物語。

これ以上、ファイナルにふさわしい攻めはいないと思う…

「ファイナル」だと思うと寂しくてたまらず、じっくり時間をかけて拝読。
あとがき入れずに330ページ、分厚いですが体感は一瞬です。

あまりにも心に響きすぎて、何をどう書いたらいいのか途方に暮れている状態ですが、できる限り言語化できれば…!


先生が一貫して書かれている「愛とは何か」というテーマ。
今作では終盤の翔の言葉が胸に刺さって、響いて、
読み終えた今も反芻しています。

愛する人の中に、「死」の影が常に見えているとしたらー

翔の出した答え、千翠(ちあき・受)に告げた言葉が今もずっと頭の中にあって、
しばらく頭から離れてくれそうにありません。


今作の主人公は、ロウクラス種フジミドリリシジミチョウで性モザイク(男女の性別が定まっていない)の千翠。

生まれた時に母を亡くし、17歳で父を交通事故で亡くした天涯孤独の彼は、「生きる」ことの意義が分からないまま、それでも生きる気力を持たねば…と懸命に日々を過ごしていた。

そんなある日、大学でひょんなことからハイクラス種タランチュラの翔と知り合います。

なぜか性モザイクの体質等に理解の深い彼と交流するうち、次第に翔に惹かれていく千翠。
しかしそんな千翠に翔は「シジミチョウとは仲良くしない主義」だと言い放ちー

と続きます。

もう、まず、構成が巧みすぎる!見事すぎる。
千翠視点の本編後、「俺と、母さんと、好きな人」というタイトルの、翔視点のお話が挿入されているのです。

で、こちらがもう本当に「大学生の翔」そのものの目線で、
千翠への思いが綴られている。

本編では、読み手の自分も千翠と同じ視点で、
不安な気持ちで翔を見ていたのですが…
まさかまさかの、翔の一途な思いに完全にやられました。

ええっ、そうだったの?
そんなに前から千翠のことを意識していて、手を回していて、
惹かれる気持ちに抗おうとしていたの?
と、驚きとときめきで胸いっぱいになります。

ここを読み、もう一度本編に戻って読み返したら、
また違った景色が見えるはず…!
(週末、どっぷり浸る予定です)

ムシシリーズの攻めにも色々なタイプがいますが、
その中でもこちらの翔の性格や考え方は、異色だと思います。
彼の父親・澄也(初期)のような俺様・傲慢さは一切なし。
(ヤリチンでもなし!)

ロウクラスや性モザイクへの理解の深さ、同情ではない自然な気遣い、誠実な付き合い方…
そういったものはひとえに、彼の両親、特に千翠と同じ性モザイクである母親・翼と共に生活する中で築かれたものなのですよね。

なんというかもう、非の打ち所がなくて、こんな人好きになっちゃうよ…!と叫ばずにいられない。
千翠を狙う傲慢ハイクラス男撃退のため、二人は1ヶ月の期限付き恋人を演じることになるのですが。

常に自然に歩幅を合わせ、手を繋ぎ、なるべく一人にならないようまめに連絡をくれ、照れる千翠に優しい言葉を囁く。

千翠の頼れる親友・裕(たすく)の言う「もう好きになってるじゃん!」とのセリフに、なぜか自分も千翠と一緒にかああ…となりながら、もうこれは好きになって当たり前だよね、仕方ないよね!?とうんうん頷き…

”かりそめの恋人”として二人が初めて一緒に出かけた映画館・水族館デートには、胸高鳴り心躍りました。
(ここ、後に翔視点でこの時の心境が語られるのが最高です)

そんなスパダリ性滲み出る翔が心から惹かれ焦がれるのが、母親・翼と同じ性質を持つ千翠だというところ、父親・澄也に好みそっくり。
ニヤけてしまう…


と、”仮恋人”とはいえ心弾む描写の後に訪れる、
切なすぎるすれ違いに心抉られます。。

「性モザイク」の母を持ち、性モザイクへの理解が深いことー
このことが逆に、二人の恋路をままならないものにさせ、距離を生むことになる展開が辛くて切なくて( ; ; )

性モザイクの虚弱な体質、大切な人を失うかもしれない恐怖。
そういったものを身近な実体験から嫌というほど理解しているからこそ、一緒にいると”死”を意識せざるを得ない千翠を伴侶にすることはできない。

もし万が一愛する伴侶を亡くしてしまったら、自分はきっと打ちのめされ、立ち直れないだろうと分かっているから…

そんな翔の身を切られるような思い、悩んだ末の決断も、
初めて「生きる」ことに前向きな気持ちを持てるようになり、
勇気を振り絞って翔のもとへ告白しに行った千翠の気持ちも。

どちらの気持ちも理解・共感できるからこそ、
ままならない恋路にもどかしさが募ります。。

で!

「恋人にはならない」と突き放す決断をした翔の気持ちを
大きく変えることになる出来事が、また衝撃的でした。

自分の知らないところで、翔が危険に襲われるのは耐えられない。
皮肉にも千翠の身にいっとき”死の危険”が迫ったことで、
共に生きる決意を固めることができた翔。

覚悟を決めた翔の情熱的で一途な愛は揺るぎなく、
共に母親・翼のもとへ赴くシーンではもう、涙止まらず視界がぼやけました。。

(⚠︎以下、ラストに若干触れるため下げて書きます)






樋口先生の中で当初想定していたものとは
”違う”形になったというラスト(あとがきより)。

どんな結末でも受け止める覚悟でしたが、
やっぱりこのラストで本当に本当に嬉しかった。
見たかった人たちの、笑顔を見ることができました。

二人の恋の成就、夜明けの景色を見た後の、甘いご褒美も素晴らしかった!
タランチュラならでは!の糸と媚毒を使ったプレイに夢心地に・:*+

「愛の巣へ落ちろ!」から始まり、
「愛の巣へ還れ!」で迎えたシリーズファイナル。

澄也と翼の愛の行く末、次世代の物語まで見届けられたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。

樋口先生、素晴らしい愛の物語を届けて下さり、本当にありがとうございます…!

10

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