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作者さん麗人デビュー作だそうです。
地に足のついた人間関係を描かれるイメージなので、麗人でどんな?と思ったのですが、持ち味健在でした。
表紙から分かるように時代もののお話が多い短編集です。
どれもただハッピーエンドという単純な言葉では表せない人間劇になっていて、短いですがしっかりストーリーが作り込まれていて読み応えがあります。
器の大きい手習の先生と、恋愛不器用な歌舞伎役者のお話や、吉原を舞台に、将棋を介した真剣な恋の駆け引き、兄の死後訪ねてきた青年、婚約者と弟を見守る女性など、どれも読後余韻を残す物語でした。
時代物ばかりの短編集。
どの作品も言葉選びや使い方が素晴らしいです。
【このよのはじまり】【このよのおわり】 萌2
女形役者の佐根市と、幼馴染で手習い塾の先生をしている善介。
女性を演じるからには女性を知らなければならないと、さまざまな女性と睦み合っては、相手の感情を芸の肥やしにしてきた佐根市が、唯一、芸に変えられなかった心は…、という話で、何度も繰り返される「心を芸に変えてきた」というモノローグが、ものすごく効果的。
善介の10年の想いを体現した芝居、さぞかし素晴らしかったんだろうなあ。
【硝子哀歌】 萌2
清次郎と婚約者の敬子、それに敬子の双子の弟の寧(ねい)。
いくら隠しても、秘めても、お互いを見つめる視線に、言葉に、距離感に、滲み出てしまうのが恋。
表現がうっとりするほど素敵でした。
【いずみの如く、】 萌2
吉原で働く番頭の佐治(さじ)と、遊び慣れた「通人」の辻野屋。
「通人」を調べてみたら、流行りの着物に身を包み、教養に富んでいて、遊女たちを虜にする存在だったとか。単なる女好きの常連客とは全く格が違う人だったんですね。
恋だ愛だは信じない世界で添え物でしかない番頭に、女を知り尽くした辻野屋が惚れ込むという構図が良いです。
一歩踏み出す瞬間がすごく粋でした。
【カラスの名前】 神
19才で病床に臥したまま死んだ兄。
大声で泣き喚く兄の婚約者に、辛辣な言葉を投げかけた役者の唐沢は兄の恋人で…。
弟目線で語られる淡々とした寂しいモノローグと、回想シーンの楽しそうな兄と唐沢のコントラストが絶妙で、鳥肌が立ちました。
読み終わったあとに、しばらくページをめくれなくて、後からじわじわ泣けてきます。
【カムバック・スイートホーム】 萌2
幼馴染で、お互いに両親を亡くして天涯孤独。
お坊ちゃん育ちのテっちゃんと一緒に住み始めたものの、仕事が決まらないテっちゃんを養うべく、女装して立ちんぼで稼ぐ善。
切ない!!
こういう昭和枯れすすき的な、ダメなヒモ男に惚れちゃってる薄幸な子に弱い…。
途中、テっちゃん、どこまでだめなやつなんだ!!!っていう怒りが込み上げてくる一節があるので、文字から妄想の翼が広がる方はご注意を。ダメージ喰らいます。
【龍の引越し】 萌2
大火で妻を助けられず、背中に火傷を負った火消しの信。
それ以来、妻の月命日の14日に、毎月蔭間茶屋に来ては念者(年長者とあったけど、今で言う攻め?)を買うようになって…。
臥煙の青年が言う「死にたがり」に関する言葉が、信だけじゃなく、自分を置いて逝った兄にも言っているようで胸に刺さりました。深いです。
【おまえ百まで】 萌
表題作からさらに10年経った佐根市と善介。
痴話喧嘩も芸の肥やし?
全部の作品にそれぞれ1000字くらい書きたかった…。
それほどまでにどれも深くて、胸に残る作品ばかりでした。
未読の方はぜひ!
全部善かった、絵が綺麗。
ほくろや流し目など、歌舞伎の佐根市シリーズは、体の描写、全体のデッサンが正確で、演技の決ポーズが綺麗で楽しめます。
背景の描き込みは、ほぼ省略されていますけど、背景より人物の視線や仕草、さり気無い台詞に重点を置いたのだと思う。「カムバック・・」の東京タワーなんて、三分の一しか描かれてない。
他の短編も、筋書きが人情味豊かな内容で、胸が詰まります。
特に切なかったのは、死んだ兄の秘めた恋を描いた「カラスのなまえ」。
19才で亡くなった兄は、恋人がいることを弟にだけ少し話していた。
兄の葬儀に、舞台衣装のまま駆け付けた兄の恋人が訪れる。
弟が「小さなカラス」に気付いて短い挨拶を交わす。
その後どうなったか気になるけど、ここでオシマイだから、惹かれる。
次に印象深かったのは、「龍の引っ越し」
火消だった男の背中の入れ墨は、龍の姿にかぶさる火傷の跡がある。
火事で亡くした妻の最期の言葉が辛くて、火消の纏を持てなかった男が、生き直す話。
どれも綺麗すぎる展開で、遺される人が抱える悲しみが沁みて、泣けます。
思い切りよく余分を削り落とせる短編の良さを生かした構成で、結末を読んだ後の余韻が良いです。こういう造り込みを耽美風というのかな。
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内容:*は、善介と佐根市の話。
このよのはじまり*
このよのおわり*
硝子哀歌
いずみの如く
カラスの名前
カムバック・スイート・ホーム
龍の引っ越し
おまえ百まで 書下ろし*
あとがき
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江戸〜昭和戦後までの時代もの短編6本。
萌えが少し増えた気がします。
表題作。
十年間片思いしていた相手が実はそれを知っていて、相手も好きだったけど黙っていた理由が粋ですね。
善介の懐が深い。
一見にこにこした優男だけれど、男前だな〜と思いました。
硝子哀歌。
大正時代の華族?の2人が、姉のはからいで家族を捨てる話。
2人が愛し合っているさまを第三者が語るシーンがよかった。
あと、姉がいいですね。
いずみの如く。
江戸時代、吉原の遊び人が番頭に惚れる話。
全くその気がなかった番頭をどうやって落とすのか興味津々に読みました。
おもしろかった。
他作品も、それぞれ地味だけれど、じわじわくるいいお話です。
時代背景が江戸〜昭和のお話をまとめた短編集です。
どれもストーリーは大変面白いのですが、惜しむらくは絵でして。たうみまゆ先生の絵柄は決して嫌いではなく、むしろ好きなぐらいです!表紙も好き!
ただ、お話が艶っぽいものが多いので、これでストーリーにあった華のある絵柄だったら、おそらくもっと読まれることになったであろうと思うのが口惜しい。演出次第ではストーリーの深さが更に伝わってきたと思う。
そういう意味でも麗人っぽくないな。
ラスト描き下ろし、いつも、いつまでも上手な善介さんがいいですね!